17 友達
石田はあのラノベの主人公と同じ勇者となり、チートというとんでもない能力を手に入れたようだ。
そしてこの俺はといえば、どうやら勇者ではないらしい。なにしろ、あのヤンキー女神に「オマエは勇者じゃない」とハッキリ言われたからな。
ということは、今のこの俺はなんの能力もない……体は女になっちまったが、それ以外はごく普通の男子高校生のままってことだ。
物語の主人公のような正義感があるかもわからない石田が、もし俺を気に入らなくなったとすれば、ただの一高校生のこの身はどうなることか。
今は懐いているコイツが、なにかのきっかけで俺が敵視されたり、憎悪の対象になってしまったら……。
まあ、さすがに殺される、なんて展開にはならないとは思うけど、俺がこの世界に連れてこられた理由が全くわからない。
ただ、ここまでの石田の様子を顧みても、俺を捨て駒のような扱いをするために連行したわけじゃないよね? とは思ってる。
あの時、石田は『俺が来ないと魔王は倒せない』と、確かに言っていた。しかも、ヤンキー女神から勇者に抜擢されたコイツは、『この俺、青山圭が同行するのが異世界に行く条件』のようなことを言っていたらしいからさ。最初から盾代わりに使う気満々でその条件を出したなら、ちょっと泣きたい……。
一日のうちに数十分にも満たない、雑談ですらない会話をするだけの仲の俺と石田。
なぜ、こいつは俺を異世界に連れてきたのか。目的があるとするならば、なぜそれを言わなかったのか。そしてこの世界に来た途端、別人のようにキャラが変わったのはなぜか。どうにもこうにも、それらの理由がわからない。なにもわからないのに呑気に飯なんか食ってる場合じゃないだろ、俺。
あのヤンキー女神がいない今、わからないことはそこにいる石田本人から聞き出すしかないだろうなあ、やっぱ。……まあ、あのヤンキー女神がいたとしても、結局はなんの話も聞けなさそうだけどさ。アイツはアテにならなすぎる。
はあ、まったく……。仕方ない、意を決して石田の目を見つめる。
「石田。どういうことか、キッチリ全部、話してもらおうか。なにもかもだ」
「ケイちゃん」
「ケイちゃんじゃねえ」
「じゃあ、けーちゃん。うーん、けーちゃんだと男の子っぽくない? 僕としてはケイちゃんがいいと思うだけど、ケイちゃん本人はどう思うかな?」
「どうもこうもねえよ!」
ヤバ! つい、カッとなってツッコんじまった。
石田がビクっと体を震わせて、涙目になって俺を見ている。
落ち着け、俺。そうだ、落ち着くんだ。
こいつを怒らせたらなにされるか、まだわかんないんだぞ!
「スマン、呼び方はどうでもいい。それより聞かせてくれ。なんで俺をこの世界に連れてきた?」
「え? だって、ケイちゃんは友達だから」
「友達? 俺とお前が?」
「うん、違ってた……のかな、もしかして」
石田が泣きそうな顔で俺を見ている。
捨てられる寸前の子犬を彷彿とさせるその仕草。
……泣きたいのは俺のほうで正しいはずだ。
俺はなに一つおかしなことは言っていないのに。
コイツに文句の一つでも言わなきゃ駄目な場面なのにさ。
口から出てきたのは意に反した言葉だけだった。
「……いや、違わねえよ?」
「あ……」
曇っていた石田の瞳が輝きだす。
「もう、ずっと前から友達だもんな」
「うん……そうだよね。……よかった」
ヤツは心の底からホッとしたように安堵の息を漏らすと、俺に向かって尻尾を振る代わりにニッコリと微笑む。捨てられる寸前の子犬から一転、拾われた子犬になりやがった。
こいつから借りた小説を返した時に、感想を求められた俺は言った。「面白かった」と。
その時、こいつが見せた嬉しそうな微笑み。
あの時と同じ微笑みを俺に見せている石田。
短いやり取りしかしない普段の俺たち。
特別に友情を育んだ覚えは一切ない俺たち。
そんな間柄の俺たちだけど、こいつの中では俺は友達枠だったのか。
そりゃ悪かったな、お前には言えないけど今まで知らなかったよ。
……でも、まあ、それはそれで良いと思う。
俺は人付き合いが好きだ。
だから、友達が増えるってことに悪い気はしない。むしろ増えることは大歓迎だ。
人間て色んなヤツがいる。同じヤツなんかどこにもいない。だから沢山のヤツと知り合いたい。知り合って仲良くなれたら楽しいから。
そうだ、うん、それは良いんだよ。俺と石田が友達なのはさ。
「友達だもんな」
「あの……ケイちゃん?」
ちょっとしたイタズラを思いつく。
なんだが気恥ずかしくなったから、石田のマッシュルームカットを優しくクシャクシャにしてやった。
思い知れ、この野郎。これまでの憂さ晴らしだからな。
「あの、髪がボサボサになるし、ちょっと恥ずかしいよ……」
「そっか、恥ずかしいか」
「う、うん。だからやめてね?」
「わかった。だったらやめない」
「なんでえ!? 意地悪しないでよお!」
うるさい、黙れ。意地悪するに決まってんだろ。
俺だって二人は友達だったなんて、お前から思われていたのなら正直嬉しい。ハッキリ言って最高に嬉しいよ。
「もおお! やめてってばあ!」
「うわ!?」
石田が仕返しとばかりに、しがみ付くように戯れてきた。これって子犬と遊んでいる感覚だよなあ。
「ちょちょ、危ね、ソファから落ちる! ったく、わかった、悪かったよ。降参降参」
「ふふ、あははは。……なら全部、僕の勝ちね?」
「はいはい、わかったよ。お前の勝ちな」
「ふふふふふ…………やった」
うん、友達なのは全然良いよ。そう、ある一点を除いては、全然良いんだよ?
俺が女になってる点以外はな!
そこを説明しろ! そこを!




