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18 ジャージくれ

「そうだな、俺ら友達だよな」


「うん! だから一緒に来てもらいたかったの」


「そっかそっか。友達だからの話と、一緒にこの世界に来てもらいたいって話が、俺的には全然繋がらねえんだけど」



 石田は最初にキョトンとして、次に「なんでわかんないかな?」みたいな顔をした。いや、普通はわかんねえだろ。



「なんでわかんないかな?」


「態度だけじゃなくて、実際に口に出しやがったよ!」


「考えてみて? 異世界だよ? 非現実だよ? ファンタジーだよ?」


「お、おう? まあ、だからなんだってのが、俺の感想なんだけどさ」


「高二なのに乾ききった中年のような感受性で可哀想……。ウェイ系なのに中年って」


「そのネタまだ引っ張るのかよ!? 俺はウェイ系じゃねえし中年でもねえわ!」


「ふふ、それはどうでもいいんだけどね。そんな非日常を味わえるんだよ? 誰だって思うはずだよ、そんな素敵な場所には大切な友達と一緒に来たいって」


「誰でも思うか? ……えっと、大切な友達?」


「そうだよ、ケイちゃんは僕にとってかけがえのない、一番大切な……うん、友達なんだから」


「…………一番」



 俺と石田は一日のうちに、ほんのわずかな触れあいしかしていなかった。

 それでも、こいつが俺のことを友達だと思っていたってのは、さっきわかった。


 わかったのはいいんだけど、こいつの中で俺は『一番大切な友達』に昇華するほどの相手になってしまっているらしい。なにがキッカケで、どんな過程でそうなったのかは全然理解出来ない。


 その思考回路はまるで理解出来ないけれど、悪意で俺を連れてきたのではないというのだけは、なんとなく理解できた。


 そこの理解はできたが、そこ以外はサッパリわからない。わかったヤツがいたら凄い。ご褒美に飴ちゃんをあげたいくらい凄い。



「そっか、一番大切な友達か」


「うん! 僕ね、いま、すっごく幸せなの」


「あー、幸せなのはいいけどさ。大切な友達だと思うなら、なんで俺の了承を得ないんだよ?」


「なにが?」



 不本意なことを不意に言われて戸惑ったふうに、石田の表情が固まる。



「解せぬ、みたいな顔して「なにが?」とか言うな。同意したわけでもないのに、こんなとこに連れられてきて喜ぶヤツなんて、仲が良くてもいやしねえぞ? それと一最重要なことをお前に聞きたい」


「なあに?」


「俺を女に変えたいって、あのヤンキーに頼もうとしたのはなんでだ?」



 その質問にヤツは、今度こそ本物の解せぬの顔をした。

 理解不能の文字を顔中に貼り付けた石田が言う。


「なんでって……この世界に来る前に言ったよね? 「女の子に変えたい、変えてほしい」って、神様に言ったって。驚くと思うとも言ったし、内緒にしとくわけにいかないとも言ったよね。予め包み隠さず、全部をちゃんと伝えたよ?」


「ああ、確かに聞いたな……けど、その話で、女に変わるのが俺のほうだって理解できると思うのが、お前の凄え所だよ! 凄すぎて怖いくらいだわ」


「ケイちゃんなら理解はバッチリだと思ってたよ?」


「思うな! あともっかい言うけど、俺は一切、承諾してねえんですけど!」


「うーん、そうだね。なんて説明すればいいのかな……」



 石田は思索に耽るように顎に手を掛けると俯いた。

 そんなポーズはしなくていいから早く言え。このドレス着てるのって、凄げえ落ち着かないんだよ。タイトだから体のラインがモロわかりだし、ミニだから足ガッツリ見えちゃうしさあ。

 出来ればジャージをくれ。ていうか、とっとと男に戻してくれ。


 唯一の救いは、この姿を見られているのが女っぽい容姿で草食系男子と思われる、この石田だってことだ。

 これが友人のうちの一人、仲間内一番のモテ男子こと横嶋だったら、俺の危機感はマックスを振り切りすぎて胃痙攣を起こしていただろう。

 アイツ超女好きで超エロいヤツだから、中身が男でも体だけは百パーセント女の俺のことなら、絶対躊躇しないでスグ手え出してくるだろうな、っていう嫌な確信がある。イヤ過ぎて寒気がする。


 とは言え、草食石田が相手でもやっぱり視線が僅かに動くと、かなり緊張するし恥ずかしい。そんなの気にするコトなんかないハズなんだけどね? 俺、一応男なんだから、男からの視線が体に向けられたくらいで、動じる必要はないのはわかってるんだけどね?

 でも、実際なんか緊張するし相当恥ずかしいんだよ。うん、そこはわかってほしいかな。


「俺がお前の立場だったら絶対緊張しないし、恥ずかしくなんかならないぜ!」という男子がいたら、今すぐタイトドレスに着替えて、女物のパンツをガッツリ履いてほしい。そしてそのまま、友達や家族の面前で、胸を強調したり大股開きをレッツエンジョイしてもらいたいな。

 俺みたいに女になってからなんて言わないよ? 男の姿のままで構わないからさ?


 え、恥ずかしくない? むしろテンション上がる? そうですか、ああ、そうですか。チクショウ。



「ごめんね。ケイちゃん。僕、口下手っていうか説明下手だから、箇条で言ってもいいかな?」


「ああ、俺が理解出来て納得いくならなんでもいいよ」


「ありがと、やっぱりケイちゃんは優しいね」



 意味がわからない。

 こんなことで優しいと言われるなら、俺は世界一の優男になってるはずだ。


 ……優男、か。

 あ、そうだよ。なにかにつけて、こうやって『男』って意識すればいいんじゃない?

 下手に「今は女なんだけどさ」とか、セルフ心中ツッコミは避けたほうが無難なんじゃないかな? そんなことばっか言ってると、逆に益々女に近づいちゃう気がしてきた。

 あは、俺、賢いじゃん! うん、そういう思考は大事にしなきゃね。それなら絶対大丈夫だと思う。


 よし、ガンバっちゃおっかな。うふふふーだぜ。

 だからご褒美にジャージくれ。





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