不遇職と腕達
遅くなってしまいました
「おら起きろウィルチェ。もう五分は寝ただろ。作業入るからさっさと動けこら。」
「ちょちょちょちょ!?け、蹴らないでよ!ウィルチェは繊細に扱って!」
物理的にね。心は強靭だと思われますので多分大丈夫です。はい。
「ちっ、しゃあねぇな。ならあたしは準備に入るからよ。起きたらこっち来いってか連れてこい。」
「はーい。」
「……なんかよぉ、嬢ちゃん随分と生意気な口聞くようになったじゃねぇか。」
「さーて?気のせいじゃないかなぁ。私は元々こういう人間だよ。」
おててふりふり。
「…………そうかいそうかい。そうですかい。たくっ……。」
とまぁ、イニシエスタさんは特に何か言ってくる訳でも無く、そうとだけ言うと工房の各設備の準備に取り掛かった。
…当然、絵面は無数の腕が縦横無尽に蠢いて何かやってるというものである。気持ち悪いを超えて普通に怖い。そしてめちゃくちゃ伸びるんだねその腕。
てか聞き忘れてたねそれ。後でちゃんと聞きましょう。
さてさて、こちらもなるべく早く起こしてあげねば。だけどどうやって…ぺちぺち叩けばいいかしらな。ぺちぺち。
「………ふむ。」
ほっぺたムニーッ。うっへへへ柔らかい。こういう事やる機会なんて、生まれてこのかたさっぱり無かったからね。新鮮でございます。年上の成人女性に対してやる事かと言われればあれかもしれないけど気にしない気にしない。
「ふへへへへへ」
と、子供みたいにウィルチェの顔を好き勝手弄っていたら、何やら視線が……
「…カンナさぁん?なーにしていらっしゃいますかねぇ。」
「あっあっ…別に変な事はしてないでございますですはい。」
いつの間にか起きていらっしゃった。物凄いジトーっとした目をしておられる。
「てかどんな状況なのこれ…。何でカンナちゃんに膝枕されてるの私は。気絶している間に何が…。」
ひざまくら。言われてみると、確かに…いや、言われなくても膝枕だこれ。なんてこった。私の気持ち的には片手で体を支えたまま、もう片手で弄り回してる感じだったけど、私は片手しか無いから自然とこの状態に…なにやってんだ私は。
「やー、まぁカンナちゃんも辛かったろうし、いいんだけどさ。実際やられると中々複雑な気持ちになるねこれ。」
苦笑といった表情を浮かべたウィルチェは、「よっと」と膝枕状態を解除して起き上がる。
「んで。あの石っころ野朗は何だった訳?やっぱスッゴイやつだった?」
「あー…うん、まぁ…スッゴイってレベルが可愛く思えるくらいには…ね。」
「ん?どゆこと?」
とりあえずさっき話してた内容をウィルチェに説明する。いやーもう凄い貴重で高くて高性能なんですよー今の私達が持てるもんじゃないっすよー的な感じで。
どうせ詳しくはイニシエスタさんからまた聞けると思うし、私からはざっくりとだ。
「………そりゃ疑われますわ。」
私から話を聞いたウィルチェは、げんなりとした顔で納得した。
「渡してくれた子の口振りとか表情とかからして、何かしらあるんだろうなーなんて思ってはいたけどさ。それほどの物だとは思わんよー。」
うん、仕方ないよ…ほんと。元々そういう貴重な素材の性能や価値を知っているその道のプロならいざしらず、素人の私達には普通わからないよ。
私が貰ったとしても同じくらいにしか思わないし、他のプレイヤーでも同じであろう。
なんて言うか…半ば事故に近い。貰えたのは超豪運だけど、代償が不運過ぎた。無言の通報とかじゃなかっただけまだマシ…だったりするのかな。
「ま、そんなに凄いやつなら、出来る物も凄いやつって事だよねー。」
「そう…かもね。だけどさウィルチェ…それでいいの?」
「んー、何が?」
「そんな貴重な物を、私の装備なんかに使ってちゃっていいのかなって…。自分のお金とかにも……」
「何言うと思ったら…そんなのいいに決まってるじゃん。私はもう心に決めたの。カンナちゃんを全力で支えていくって…技術も資産も全てカンナちゃんの為に、面倒くさいとか思われようがやめないし、拒絶されても押し付けてやる。だからカンナちゃんが気にしたり気に病んだりする事は無いよ。」
「………」
「ありゃ?カンナちゃーん?」
「……いや…その…嬉しくて…ね?あ、ありがと…ね?ほんと…。」
お顔があついでございます。真っ赤になってませんかこれ。いやね、あまりにも真っ直ぐ言われちゃってこんなの初めてで嬉しくてですね。なんかもうすごい。しゅごい。
「うん、なら今から出来る物を楽しみにしててよ。あの人はほんとに凄い人だからさ。っとと…気付かれたなこりゃ…ごめんカンナちゃん、行ってくるわ。」
「あ!?うんうん、頑張ってね。楽しみにしてるよ。」
そうしてそそくさとイニシエスタさんの方へと向かうウィルチェ。そして未だに体勢も変えずにいる私。
「……だぁーもう。慣れないなぁ。」
振り回しているのか、振り回されているのか。迷惑掛けているのか、迷惑掛けられているのか。
お互いがお互いにそうし合っているのだろうけど、不慣れな私には、どうしたらいいのかがよくわからないや。
「楽しいけどさ…。」
あー顔アッツイわほんと。冷房無いかな。
───
まぁ色々思う事はありますが、お二人共作業場に移動してしまったが故、私は一人でごちゃごちゃ置かれている装備の皆様でも眺めておきましょうかね。
というか私さんの諸々のサイズを測られていない気がするんだけど、それと何作るんっていう話もどこにいかれたのか。勢いに飲まれたって感じがする…大丈夫なのだろうか。
「そいつぁ心配ねぇよ。なにせ今からやるからな。」
「っひょわぁい!?」
なになにいつの間にこっちに戻ってきてたのっていうか私の心を読まないで。また顔に出てたやつですか…そうですか、はい。
なんて思いつつ、後ろへ振り向く私。そして固まる私。
「あの……普通に怖いんだけど…。」
「あん?そうでもないだろこんなん。」
「いやいやいやいや怖いわ!腕だけ伸ばして、しかも掌に口があってそこから喋ってるとか怖いわ!」
振り向いた私の目に入ってきたのは、十本以上の白い腕の皆様。そして今話したように、その中の一つに口があるって感じだ。
本体は未だに作業場の方でウィルチェに向かって何か言っているみたい。これがマルチタスクっていうやつですか?いやだな。
まあいいや。どうせだし今聞いてしまおう。
「そもそもその腕って何なの?何で人の背中からブワーッて出てんの、何で伸びんの、何で喋ってるのこれ。」
「おうおう落ち着け。焦る事ねぇだろ。」
「フヒーッフヒーッ…」
おちつきました。もうだいじょうぶです。
「んじゃ、とりあえずそこから動くな。まずは測っからよ。質問はその後だ。」
「んー…はーい。」
気になるなぁ。とはいえ作業が進まないだろうから仕方ないのはある。後で答えるみたいだし…今はまだ我慢。
そして動くなと言われたため、直立したまま止まる私。ピシーっ。
……待ってくれ。そもそもどうやって測るんだこいつら。メジャー的なやつを持っているようには見えないし…そもそもこの世界では定規なのか?まぁどうにせよ持ってないのに変わりない。
え、弄られるってパターンだったりします?そのための物量なの?うへぇ鳥肌立ちそう。ぶるっちゃう。
「…なんか変な事考えてねぇか嬢ちゃん。」
「ソンナコトナイヨー。」
「…………ならいいが。」
どうかお手柔らかにお願い致します。
とまぁ私が一人で思考していると、腕達は私を取り囲む様に動き、それぞれの掌から青白い光を出し始め、それらは私の体を包み込むと十秒程で消えてしまった。
「ふむ、見たまんまってとこか。」
「え、ちょっと待って。今何したの?」
一人で納得されても困るんだけどもあのあの。割とすぐ終わっちゃったしさ。
「何って、嬢ちゃんの体を測っただけだが?さっき言ったろ。」
「え、あれで終わりなの?」
なんてこった。メジャーとかそういうレベルじゃなかったって事か。思ってたよりもハイテク…いやファンタジック?なやつだった。
「まー、本来は専用の設備が必要なんだがな?あたしは魔力の放出口を増やす事で生身で使えるようにしたって訳さ。」
…なんかそれもサラッと言ってのけてるけどさ…やっぱ変わった事してるよね。何者だこの人。
ま、まあ無事済んだのならいいんだよ、うん。結果的に設備があろうがなかろうが、変わらないならこっちのがいいだろうしね。いやーべんりですわ。
───
「さぁて、んじゃ嬢ちゃんの質問にもそろそろ答えてやるかねぇ。」
相変わらず口が生えてる腕が私に対して話している。本体の方は作業に入ったようで、ウィルチェがワタワタと動き回っているのが見えた。
……今更だけど、作業場は見えはするけど聞こえはしないんだよ。よくよく見ると薄っすらと魔法の壁…というか膜みたいな物がこちらとを隔てているんだよね。
まぁそれはよくてだ。
やっとだよ。さも当たり前かのように私と話しているこの腕について、やっと聞けますよ。なんでこれが普通みたいな感じでここまできたんだ私達。
「だけどまぁ…答えるっても面倒だからよ。質問先に全部投げろ。それで不満ならその後にまた聞け。」
はあ。了解でございます。では早速といかせてもらおう。
「それじゃあ初めに聞くけど…あなたは人間じゃない…でいいのかな?」
「人間だ。紛れもなくあたしはただの人間だ。魔物や亜人でも無い。」
何か一問一答みたいな感じ?なんでもいっか。
さて、しかしいきなり否定されてしまった。でも人間って言われても、私の知ってるただの人間とはだいぶ違うのですがどうなのでしょうかね。
「じゃあその腕は何で背中から生えてるの?」
「他の所から出したら気持ち悪いだろが。」
背中から出ても気持ち悪いし怖いと思うよ、うん。
「まあ聞きたいのがそうじゃないってのはわかってる。……簡単に言うと作業の効率を上げるためだ。一人で武具製作をするには腕が二本じゃ足りねぇ…なら増やせばいいって事だよ。」
いやいや待ってくれどういう事だ。どうなったらその発想になるんだ。素直に人手を増やすとかでいいんじゃないの、何で物理的に手を増やす方向になったのさ。
「自分で思うように動かせた方が楽だろ?」
ごもっともですねーって違うわ!楽だからじゃないわ。
増えたらむしろ動かしにくいと思うよ私は。しかもあっちとこっち両方で同時に会話してるしさこの人。頭の中どうなってるのさ。
落ち着けーひとまず深呼吸を挟んでぇ…
「ふぅーっ……どうしてそこまで効率良くしようと…?」
「んなの決まってんだろ。客を待たせない為、それだけだ。」
わぁお素晴らしい日本人精神みたいですね。黒いお偉いさんが聞いたら泣いて喜びそう。
「武具を作ってくれなんて言う奴は殆どが街の外に出て魔物を狩るって連中だ。何時だって危険とは隣り合わせ、ひょんな事で簡単に死んじまう。
武器がもう少し強ければ、鎧が頑丈なら…そして依頼していた武具の完成を待っていたら……なんて、そんな後悔を死に際にしたって意味無いだろ?」
まぁ、わからないでもない…かな?
「大抵の奴は完成まで待つんだがな。奴らも緊急で招集されたり、生活のために待てないってのがあるんだよ。
それでいざこっちが作ったってのに、肝心の依頼者が死んじまってたらどうだ。一度も振るわれぬまま…一度も主を護れぬままこいつらは眠りにつくしかないんだよ。」
「……こいつら、ですか。」
私は周りにある新品にしか見えない装備達に目をやる。
剣、槍、斧など形も種類も違う武器。攻撃を受け止める為であろう重鎧、軽快に動ける軽装…よくよく見れば、それらを見ているだけで使用者がどんな体型だったのかわかりそうなくらいサイズがバラバラであった。
「武具ってのは己の体の一部…相棒、家族なんて言う奴もいる。だが使われなければ何も意味はねえんだよ。故にあたしはひたすらに求めた。速度を…正確無比な作業を、結果がこれだ。」
そう言ってイニシエスタさん…の腕は見せつけるように大きく広がる。
「同時に動かせる腕は増やせた。使えそうな技術は片っ端から取り込んだ。おかげで今じゃ攻城兵器だろうが即日で作れるようになったさ。」
「ほへー…なんかよくわかんないけど凄いってのはわかったよ。」
「かぁーっ反応が思ってたよりも薄い!あたしゃ悲しいぜ嬢ちゃんよぉ。」
そんな事を言ってるけど、声音は弾んでおりますよ。
「…はぁ、それで私の腕はわかったけど、武器の方はどうなるの?」
うむ、この人について掘り下げるのは諦めよう。多分何聞いてもぶっ飛んだ回答が来る気しかしない。ある意味狂人なまでに鍛冶の道を歩んでる…というか突っ走ってるってのがわかったからいいや。
「さっき見せたろ?あの中から作る…正直あたしの頭ん中じゃもう決めてんだが、嬢ちゃんがこれだってんのがあるならそっちでもいいぞ。」
さっき見せた…あぁ図面の事ね。出来事が詰め込まれすぎて頭の中から飛んでたよ。
「それでいいよ。今まで何人も見てきたあなたが、私に合うだろうって思ったんでしょ?何を目指すかさえ決められない私が選ぶより、よっぽどいいって信じてる。」
「ほぅ、言ってくれるねぇ。…それとあたしは人に言える程、聖人な生き方をしてこなかったがよ。他人が提示した道だけ歩むのはいずれ身を滅ぼす…気を付けろよ。」
肝に銘じておくよ…。
「んじゃ、後はもうこっちを眺めて完成を待つよ。勿論、一つ一つお話をしてくれるんだよね。職人さん?」
どれだけ時間が掛かるのかは知らないが、ここに並んでいる武具達を全て見て回ればかなりの時間が経つだろう。正直どれがどういう性能をしているとか、何から出来ているとか気になるしね。
時間が余ったら…その時は掲示版でも眺めようかな。
何はともあれ、もうすぐ新しい武器が使えると思うとわくわくするよ。まさか即日製作されるなんて思ってなかったけどさ…。
バーチャル世界を眺めてたら二週間経ってました。怖いですね。
何話使ったか最早覚えておりませんが、次回で工房は終わりの予定です。
その後にサブキャラの会話回挟んで久々のカンナさんお外へ…になるはず
更新はいつもの通り未定。やりたい事が多すぎます、一日の時間を増やしてほしいです




