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待つ者と契約

おわらなかった

 「どうして…私はここにいるんだろう…。」


 真っ暗という訳ではないが、道の突き当りも見えない程には暗く道幅も狭い路地の中で、私は何をするでも無くただぼんやりと下を向いて座っていた。


 何故、あの人が待っているはずなのに、私はここにいるのだろうか。正確な時間は把握してないが、数十分前に届いたメッセージにも返信をしていない。

 何故、どうして、そんな事をしているのかは私にもよくわからない。


 ただ漠然とわかる事、それは多分怖いのだろうという事。

 何をと、そう言われるとわからない。だけど恐れているのだろう。


 ボーッと、ここに座ってからひたすら頭の中で同じ思考を繰り返していた。それこそ、街に帰ってきてからずっとだ。


 暗い路地の中、一人孤独に小さく座り、解決する訳でも無いのに時が経つのを待ち続ける。

 一人は嫌いだ。自分が虚しい存在に思える。何にもなれず、何も出来ず、必要とされていないと、そう思えてくる。


 それがわかっていても、誰かに縋るのも苦手だ。自分なんかが、わざわざ付き合って貰ってる、嫌なんじゃないか。そう思ってしまう。


 自分で考えても、他人から言われても、最終的にはこれに辿り着く。悪い方向に辿り着く。

 仕方ないのだ。これが私なんだから。面倒くさくて我儘な私。いつまで経っても子供のまま。幼い精神。幼稚な心。


 一人では何も解決出来ない。貧弱な心。



 「カンナちゃん…?」

 突然聞こえてきたその声に、ビクリと大きく体が反応した。

 そんな馬鹿な。どうしてここに。こんな所に来る筈が無いと、ゆっくりと視線をその方向に動かす。


 「何かに巻き込まれたのかって心配したよ。はぁ…なーにやってるの、こんな所で。」


 あぁ、紛れも無くあの人だ。とても優しくて、とても落ち着いて、とても会いたかった人。





 ……そして、今はとても会いたくなかった人。



───


 「何してるの?」

 兎に指し示された暗い路地。そこで見つけた探し人は、一人で小さく座っていた。

 暗くて詳しい表情や様子はわからないが、一先ず何かイベントに巻き込まれている訳では無さそうだった。

 …ならば尚更どうしたのだろうと気になるのだけど。


 「あっ…やっ…」

 掻き消えるような小さな声で、彼女は何かを呟いた。

 「ん、大丈夫?」

 私はそんな彼女に声を掛ける。大丈夫、そんなはずは無いだろう。大丈夫ならばこんな所で座っていたりなどしていない。

 あ、こんな所…と言ったらここに住んでる人に申し訳無いが、今は許してほしいな。


 それで何があったのか。気になるのはそこだ。一番怖いのは対人での問題だ。老若男女、誰しもが簡単に折れてしまう。人の中身を壊すのはいつだって人なのだ。


 だがそれを馬鹿正直に聞いていいものかが私にはわからない。なにせ専門家じゃないのだから。どうすればいいのか、それがわからない。

 下手に動けばかえって傷付ける事にもなり得るのだ。思わず苦い顔になってしまうよ。


 とは言え、私は何か良い方法を知っている訳でも無いというのも事実。他人を助ける術なんて、これまでに学んだ事など無い。そんな事私はしてこなかった……ずっと、ずっと私はされてきた側の人間なのだ。


 こんな状況なのに、頭の中を過る回想。忌々しい記憶。

 私の事を憐れんでくれた人達…憐れむことしかしなかった人達。それしか出来ないのだから責めるのは間違いだとわかっていても、当時気が立っていた私は噛み付くように吠えていた。

 人ってのは、急に転落するとどうしようもなく変わるのだ。そんな馬鹿なと思うだろうが、変わってしまうのだ。


 って、危ない危ない。今はそれどころではない。下らない私の話なんざ必要ない。

 今までされてきた側ならば、今こそ私が助ける側になればいい。それだけだ。やり方なんてわからない。不器用だって何だっていい。それで目の前にいる彼女を支えられるのなら、それでいい。


 とにかく、もう少し近くに寄らないと…。この位置じゃ声しか掛けられない。

 そう考え、私が一歩、彼女に近寄ろうとすると。


 「…あ、あの?カンナちゃん何で下がる、の?」


 何故か、彼女は私から離れるように…逃げるように距離を置いてしまう。はて、少し…すこーしだけショックであるが、彼女の様子を見ればその感情も消え去った。


 怯えていた。この暗さでもわかる程に、彼女は体を震わせて怯えていた。


 何に怯えているのか。私にだろうか。それとも、私を何かと錯覚しているのか。そうだとしたら、余程恐ろしい何かを見たのだろう。


 だが、私はそれでも彼女へともう一歩近寄る。すると彼女は「ヒッ」と短い悲鳴を上げ私から離れる。


 これじゃ埒が明かない。あまり良い行動では無いだろうが、私は一気に歩みを進めた。



 「ひっ…い……うああああああああああ!」


 「あ、ちょっとカンナちゃん!待ってよ!」

 やはり、悪手だったかな。彼女は私が近くまで来た瞬間、路地の奥へと逃げてしまった。例のスキルまで使ってね。


 間をおかずに奥の方から何かにぶつかったのであろう鈍い音がしたが、あの様子だと自分の事など何ふり構わず移動するだろう。


 まずい、非常にまずい。何せ私はここら辺の地形なんて把握していない。速度だって普通の人並しかない。この広く複雑な街をがむしゃらに移動されたら見つけようがないのだ。


 どうしようかと途方に暮れそうな私。そんな私の目の前に、いきなり白い線が宙を走っていった。

 「はい?」と不思議に思ったが、すぐにそれが何かわかった。


 兎だ。空になった腕の中を見て、私はそれを確信する。

 彼女のスキル…えっと、魔力推進だっけ?あれは元はあの兎のもの、らしい。何だっけ、ロケットラビットっていう魔物なんだよね…一応。最近の様子は完全に飼い兎だったけど。


 ……確かにあいつなら追い付けるかもしれない。だがそれだと一つ問題があるのだ。



 「私はわからないままじゃないかああああ!どうするのほんと!」


 思わず夜中なのに大きな声を出してしまった。周辺の民家の皆様ごめんなさい。


 もう勘で探すかなんて駄目な事を思い始めた私であったが、これまた急にそこそこ見慣れたシステム画面が現れた。

 「ん?何なのこんな時に…。」


 私は現れたそれに目をやる。薄い青の透明なボードに表示されていた文字は…

 「スキル…『従魔契約』か。誰がって、あいつしかいないよねぇ。」

 しかし今これが現れたという事は何か意味があるはずだ。私はそのままスキルの詳細へと視線を動かす。


『従魔契約』:必要SP4

対象の魔物と従魔の契約を行う。交わした契約の解除は不可能。契約毎にSPを消費。

従魔とは主従の関係になり、命令を下す事が可能となる。但し、内容によって拒否される可能性もある。レベル上昇で緩和。

従魔が死亡した場合は一定時間後に復活する。レベル上昇で復活時間短縮。

※習得条件:対象の魔物が契約を望む

※一定時間のみ習得可能。残り00:58:32



 ふむ、特に変わった内容ではない。消費も重たく、契約毎のSP消費は痛いが、そんな頻繁に契約するものでも無いはずだし気にする事ではない。私は街の外へ冒険に行くタイプじゃないからね。

 そして習得可能な時間。これはいつまでも契約先延ばしにはさせないって事なのだろう。いつか決めるを繰り返していたら魔物側も嫌になるとかそんなとこか。


 だが…それは私には関係無い。

 「悩む理由も無い…今の私にはこれが必要なんだ。あいつが友達の為に頑張っているのなら、私はそれを信じるだけだ!」

 私は迷わず『従魔契約』を習得する。


 直後現れるは従魔の命名という画面。本来なら生活から戦闘まで、ずっと付き従ってくれる相棒のようなものだ。故に命名というのは大切なものになる。


 しかし私には時間が無い。この契約は今すぐに必要なんだ。あいつには申し訳無いが、パッと思いついたものにさせてもらう。


 【ロット】


 これがあの兎に対して私が命名した名前だ。【ロケットラビット】だから【ロット】。捻りも何も無い単純なものだ。許せ。


 [契約が完了しました]

 表示された文を見て、すかさず私は何か変化があったかを確認する。


 まず目に入ったものはメニュー欄に新しく現れた[従魔]のアイコンだ。選択すると[従魔一覧]になり、【ロット】と一つだけ存在していた。

 更に進むとステータスなどの詳細が現れたが、今はいいだろう。

 色々ごちゃごちゃしている中、私が気になったのは、詳細画面に小さく存在している[位置表示]というチェックボックスだ。文字からして従魔の位置をマップなりに表示するやつだろう。違ったらチェックを外せばいいのでこれを選択。


 そして試しにマップを確認する。

 「よし!予想通り、あいつの位置が出てる!」

 大雑把な私のマップであるが、そこにロットを示す緑の点が動いているのが見えた。


 …恐らくだが、これの為にロットは私に従魔契約をさせたのだろう。私が追い付けないのをわかっていたから自分が追い、位置を教えようと。


 「行こう。あの子の為…いや、違うか。私の為に…。」

 私は地図上を高速で移動する緑点を視界に入れながら、来た道を戻る方向へと足を進めた。


 だって…もう中央に近い位置まで動いていたから…。幾ら何でも速過ぎであった。





───


 時間は日が周り深夜、この世界の住民は既に寝静まっている頃だ。出歩いているのは極少数。外から来たプレイヤー、巡回の兵士、どこの世界にもいる浮浪者…そんなものだろう。

 あれだけ人がいた通りも、今は嘘みたいに誰もいない。まるで別の世界みたいだと、初めて夜に出歩く子供のような気持ちを抱く。


 私は再度、位置を確認する。あれだけ動き回っていた緑の点は、ピタリと動きを止めていた。

 「はぁ、やっと着いた…。」

 詳細ではない私のマップではかなり苦労したが、何とか辿り着けたようだ。

 とは言ってもまだ現地ではない。恐らくそこに通じているであろう路地の入り口といった所だ。


 「この先に…。」

 どうして彼女はそこで止まっているのか、私にはわからない。だがどんな所であれ、私はそこに向かうだけだ。


 「何だかボスと戦う前みたいだなぁ。私ただの鍛冶職人なのに。」

 やれやれと、自分で自分の気を解すためにそんなことを口にする。緊張しているのだろう。うまく彼女を助けられるのか、慣れない上に、一度逃げられたから。


 「何だっていいさ。拒絶されようと、押し付けてやる。」

 キッと、気持ちを引き締め直し、私は再び暗い路地へと歩みを進めた。

今回で一段落、とさせたかったのですがやはり駄目でした。気がつくと文字数が大変な事になってしまいます…。


ここ最近似たような話ばかりになって一体何のジャンルだったっけ?と疑問になり始めた作者でございます。すいません。


次回、この流れで新キャラ。そして多分その次も新キャラ。ラッシュですかね?


作者的にもそろそろゲーム感出した事を書かないと忘れてしまうのでペース頑張って上げます、多分。気長にお付き合い頂けたら幸いです。

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