不遇職を探そう
今回もウィルチェ視点
「……遅い。」
宿の受付から角を失ってぐうたら生活を満喫していた兎を回収した私は、宿の入り口でカンナちゃんの帰りを待っていた。のだが、中々帰ってこないので思わずこんな言葉が口から漏れてしまった。
「ギルドに寄り道してる…にしては時間掛かり過ぎだしなぁ。こんな遅くにアイテム補充とか…?」
カンナちゃんが街に戻ってきたのが大体今から一時間前。ついでに現在時刻は夜11時。我ながらよく待ってると思うよ。
それで、仮に寄り道してるとしても大抵のお店は閉店してるし、ギルドだって利用者が少ない時間だから報告に時間取られてるってことも考えにくい。
それに、
「メッセージに対しても返信が来ないってのは流石の私も気になるよ、カンナちゃんや。」
ここで待ち始めたくらいに送っておいたのだ。入り口で待ってるよー的なメッセージを。そしてそれに対して返信が来てないってことだ。
メッセージは相手がどこにいようと送れる便利な機能ではあるけれど、相手がそれを読んだかどうかはわからないのだ。曰くメッセージを強制したく無いとかなんとかだった気がする。
「ふぅむ、あの子の性格的に多分読んで放置は無い…と思うしな。メッセージ返信も出来ないくらいの何かに巻き込まれたとか?」
よくある突発的に発生するイベント的なやつだ。それなら確かにメッセージを読んで返信するなんて暇は無いだろう。
そうではなく単純に無視されてたとかならちょっと傷つくな、うん。いやそういうタイプなのかもしれないし決めつけはよくないね。
「もうちょっと待って来なかったら動いてみよっか。ほらあんたも起きた起きた。」
眠いのか私の膝の上でうつらうつらしている兎を揺すり起こす。兎は目をパチクリさせた後に小さく欠伸?をして立ち上がった。
いや本当に野生味が無いなこいつ。大丈夫なのか少し不安になるわ。
そんな事を口には出さないが考えつつ、私はもうしばらく兎と帰りを待つ事にした。
───
「……よし、探しに行きますかね。」
あれから更にボケーッと兎を弄りつつ待った訳だが、結局カンナちゃんは現れなかった。
ということで入れ違いの危険はあるものの、どうせ待っていても暇なので思い当たる場所を巡って探してみる事にする。
「つっても、ギルドと聖堂くらいしか無いんだよねぇ。後は…今日行ったはずの北の方か…。」
なにせ時間は日が変わるちょっと前。この世界ではコンビニ並に24時間年中無休なんて店は無い、はずなので選択肢からは除外しておく。
とりあえず最初はギルドから行こうか。可能性としては一番高い気がするしさ。
もしかしたら夜間に出発か帰還する人が多くて手間取ってる…なんて事かもしれない。
私は膝上の兎を剥がし、座っていた入り口のベンチから立ち上がって伸びを一つする。
「よっしゃー。待ってろカンナちゃーん。」
大声で気合い入れて行く感じにしたい気持ちは山々だけど、夜なので抑えめに…。
そんなこんなで私と眠たげな兎はカンナちゃん探しを始めるのであった。
「はて…すっかすかですな。」
きょろきょろと探しながらギルドへと歩いて来た私は、目の前の様子と日中の様子の違いに驚いていた。
そもそもあれだけ人だらけの中央広場が、まともに歩けるどころか走り回って遊べるくらい閑散としていた時点である程度察してはいたが、ギルドも案の定閑散としていた。
利用者…つまるところプレイヤーなんて数パーティしかいない。見たところ今から出発って感じだ。
夜は危険度が上がるって話しだった気がするが、よくやりますわな。と心の中で言っておく。
後はギルドの職員や清掃員しか見えない。夜間のお仕事ご苦労様です。というかこの世界でも夜間清掃員っているんだね。それに驚いたよ。
しかし目的であるカンナちゃんはどうやらいないようだった。
なんでわかるかって?前に二人で来た時に別空間への移動をやったじゃない。フレンドリストから対象のギルド空間へ移動が出来なかったって事はギルドにはいないって事になる訳よ。
勿論同じ空間にいるかもって事も考えて探したし職員とかに聞いたりもしたよ。もしかしたら秘匿義務があるのかもしれないけどさ。
まあ居ないとわかれば次に行きましょう。ほらあんたは腕の中で眠ろうとしないの。
私は最早遠慮無しと腕の中で眠ろうとしていた兎を起こしながら、次の目標である聖堂へと移動した。
「あ、夜は入れない…そうですか。すいません夜遅くに…。」
「いえいえ、お気になさらず。夜間は立ち入り禁止なのを知らせていなかった我々のせいでもありますしね。」
とまぁ、結論から言いますと見ての通りだ。聖堂は関係者以外の夜間立ち入りは禁止だという。
聖堂内には持ち出し不可の貴重な書物やら、神聖な武具や宝物もあるのでって事らしい。うむ、当然のことだ。
入り口で警備しているガッシリとした騎士のおじさんにそう説明された私は大人しく引き返す。
別れ際に、「明日ギルドに立ち入り可能時間を伝えておきます」とご丁寧に頭を下げられてしまったので無性に気不味くなったのもある。
まあ各施設の営業時間とかそこらは確かに案内が欲しいなとは思った。この世界の人達にとっては周知の事なのだろうけど、私達は来たばっかだしまだ把握しきれていないからね。
でも無理に仕事を増やしてまではやらなくていいのですよ。出来たらでいいんです。
「さってぇ…一番居そうな場所には居ないと。むぅー困ったぞ…。」
何分この街オスロンは広い…広すぎる。あてもなく探すのは無謀に近いだろう。
一応まだ北門の辺りがあるのだが、その範囲だけでもかなりのものなのだ。意気揚々と探したると出てきたけれど、少し不安にもなるものである。
「ま、居なかったら居なかったで戻って待てばいいか…。気楽に行こう。」
ほんと、どこに寄り道してるのやらってとこですわ。割と私の勝手ではあるけどさ。そこは気にしちゃ駄目。
さて、そんなこんなで私は北門広場へと飛んで来た。ウェイポイント的な意味だよ。
「なんなのこの人集りは…もう日が変わるってのに…。」
やって来た北門広場はどういうことか、人が沢山いた。しかも恐らくその全てが格好からしてプレイヤーの皆様である。
夜間にクエスト消化しにいく…にしては随分雰囲気が物々しいし、そんな大人数でやるコンテンツなんてまだ見つかっていないはずなのだ。
「いや、見つかった?それの攻略のためにこの人数が集まったってとこかな…。」
そうなるとここにいる連中は前線で活動していると思われる。
確かあった筈だ。つい先日プレイヤーが作成した初のユニオンが。前線攻略をメインにするガッチガチのが。
「何だったかなぁ。何かイタイ名前だった気がするんだよな…。」
あまり他所のネーミングにケチつける事はしてはいけないのだが、何かそんな雰囲気の名前だったと掲示板眺めてた時に思ったんだよ。思い出せないけど。
……いやさ、別に私もセンスいいとは言えないんだけどね。むしろ壊滅的だよ。全然馬鹿に出来ないよ。
「ユニオンかー。そういうのも考えたほうがいいのかなぁ。」
ユニオンは基本的にメリットが多いので作成、若しくは加入しといた方がいいのだけど、正直あまり気が進まない。
コミュニケーション苦手族には結構大変な事なんだよこれがまた。上に立つとユニオン運営は勿論、人間関係の管理もしないといけないしね。私は経験ないけど、見てるだけで面倒くさそうとしか思えない。
かといって下の立場だと自分に関係無いトラブルで崩壊に巻き込まれたり、適当にやってたら孤立してたとかでやっぱり面倒なのだ。
特に人が多いとそうなる。当然っちゃ当然だけどさ。私は気楽に楽しみたいんだよ。
「ふぅ…どうであれ私一人で決めるのはあれだし、今度カンナちゃんに聞いとこ。」
それよりも今はそのカンナちゃん捜索だよ。と、思ったけど…まさかカンナちゃんやい。あの集団に紛れ込んでたりしていないかね。ありそうで怖いよ。
「えぇーあれに話し掛けるのは無理だよー。ないない。」
まったりのんびり思考の私にゃガチな人の集まりに首突っ込む勇気は無いのです。こういうとこでコミュニケーション能力の差が現れる訳だ。誰にでも話し掛けられる人って凄いと思う。
ということであそこには居ないと決めつけましょう。頼むよカンナさん。
「かといって…他に見た感じいなさそうなんだよねー。」
時間も時間だ。あの人集り以外広場には誰もいない。
「他にあてもないしなぁ。戻るかー?」
そんな諦めという考えが私の中で浮かんできた時、今まで私の腕の中でベストポジションを探していた兎が急に腕の中から飛び降りた。
「え、どしたの急に。居心地悪すぎた?」
まあ当然の如く私の問いかけは無視されたが、兎は人集りとは真逆の方をじっと見た後、私を置いて走りだしてしまった。
「ちょっと!脱走するつもり!?」
深夜の逃走なんて勘弁してほしい。いやいつだって逃げ出すのはやめてほしいな。なにせあの兎は私のペットとかではないのだ。カンナちゃんのペット?なのだ。
正直立ち位置が不明な兎だけど、逃げられたりしたらあの子が悲しむはず。なので私は意外と速い兎を追いかけるために走り出した。
───
「はぁ…はぁ…ふぅ~。危ない危ない。全く、何でいきなり逃げ出すんだかあんたは。」
兎との小さな追いかけっこは結構すぐに終わった。というのも広場の端っこにある小さな路地の前で兎が止まったからである。
「やれやれ、路地が暗くて怖気づいたの?兎だもんね。」
実際の兎がそうなのかは知らないけどね。
「まあいいや。ほら戻ろう。もしかしたら帰ってきてるかもしれな…い…って…。」
言いかけて私は気が付く。兎の様子がおかしいと。あれ程眠そうにぐうたらしていたのに、今はそわそわと忙しなく路地と私を交互に見て、路地に入れと言わんばかりに頭を動かしているではないか。
「ねぇ、あんた…わかるの?」
この兎はカンナちゃんと一応関係を持っている…はずの存在だ。もしかしたら、わかるのかもしれない。
今まで何の反応もしなかったのは遠かったからで、近くに来たから反応したってとこか。
「…わかった。あんたを信じよう。他にあてもなかったしね。」
自分でもよくこんな考えを思いついて、それを信じたと呆れるレベルだけど、私もあの子の事が心配で堪らなかったのだろう。
すんなりと兎の意図を受け取り、私は暗くてしんとした路地へと足を踏み入れた。
連続して出番無しのカンナさんです。
先にお伝えしますと次回もウィルチェ視点です。
その次くらいからカンナさんに戻る…はず。
あとここ最近ゲーム的な要素が少なめなのは作者も重々承知していますが、こういうやつなんです。すいません。
お空が忙しくなりそうなので、のんびり更新は続きそうです。気長にお待ち頂けると幸いです。




