07
「許可できませーん」
声音は優しいが、リヒャルトは全く折れる様子がない。
兵団員たちから第一部隊と特殊部隊の合同練習の噂を聞きつけたアリアはさっそく見学に行こうと、一度リヒャルトに断りに戻ったのだが、話をし終えるのすら待たずにリヒャルトはアリアを捕まえて離さなくなった。
「なんでですか?」
確かに掃除をサボって遊びに行くようでアリアにも罪悪感はあったが、なにもせずに紅茶を楽しむ給料泥棒のリヒャルトに反対されるのはすっきりしない。
「そんな可愛い顔をしても駄目なものは駄目だよ。あまり城内をうろついてほしくないんだ。お昼の息抜きくらいは大目に見るけど、他の隊の人たちと騒ぐのはやっぱり駄目。万が一にも目立ってしまって、内緒にしていることが暴かれたら困るだろう?」
アリアの頬をぷにぷにと押しながら、リヒャルトがアリアの疑問に答えた。
言われてみれば確かにリヒャルトの言い分は正しい。
そろそろ始まるだろう合同練習を想像すると悔しいが、アリアは大人しく地下のこの部屋で掃除を再開することにした。
なんの助けにもならないが、手伝うよと申し出てくれるリヒャルトに礼をしながら、暇つぶしにと先ほど耳にしたばかりの特例部隊の噂話を報告する。
存在感がほぼゼロに近く、さらに帝国兵団のお荷物同然の扱いだという話だ。
リヒャルトは自分ではたいた埃に咳き込みながらも実際噂のとおりだとのんびりと笑う。
その様子にアリアは釈然としないものを感じた。
(こんな気持ちになるのは、私だけ……?)
お荷物。
現状は実際そのとおりだと自覚があるものの、明らかに悪い意味で使われているその言葉は、アリアの心を重くした。
それは同じ帝国兵団の人たちが仲間ではないと感じさせられたからだ。
「……私、このままじゃ嫌です」
いくら給金が良くても、やりがいというものがない。
それに給金はよりにもよって税金から捻出されている。
このまま何もせずに、しかも本来は仲間であるはずの帝国兵団の人たちからも笑われながらくすぶるなんて、アリアの望んでいる姿ではなかった。
「そう。やっぱりアルは働き者だね」
リヒャルトはアリアが飲み込んだ先の言葉をどこまで理解しているのかいないのか、変わらない表情でアリアの頭をなでる。
その手つきが優しいのでアリアはリヒャルトの気持ちが動いているのではと少しだけ期待するが、感情がそのまま顔に出ていたのか、「でも今は外で好き勝手しちゃ駄目だよ」とすかさず釘をさされた。