04-4.皇帝と過ごす夜
「陛下の予知夢通り、僕はこの世界ではない世界を知っています」
劉帆は認めることにした。
嘘をついてもいずれは気づかれる。それならば、信じてもらえなくとも真実を口にした方がよかった。
「でも、僕は僕です。宋 劉帆として生きた二十年間は間違いなく僕の人生です」
劉帆は信じてほしいと思っていた。
しかし、拒絶をされる恐怖から思わず目を閉じる。
(僕は僕だ)
二十年間という月日は劉帆として歩んできた日々で間違いはない。
それが偽物の日々だと思ったことはない。
「……予知夢は厄介だな」
哉藍は劉帆の頭を撫でながらそう言った。
「今回ばかりは外れてほしいと願っていた」
哉藍の言葉に劉帆はゆっくりと目を開ける。
(信じてもらえたのか?)
劉帆は確信がなかった。
しかし、期待を抱いてしまう。
哉藍の予知夢の精度を知らない。すべての予知夢が、必ず当たるわけではないのかもしれないが、予知夢の出来事は避けれないのが一般的な考えだ。予知夢通りの言動をしなくても罰が与えられないのは、しょせん、夢で見た出来事だからだ。
「宋 劉帆」
「はい、陛下」
「お前は俺のものだ。俺のものになった限りは反乱を引き起こすな。約束をしろ」
哉藍はどこまで予知夢で見ているのだろうか。
(僕が反乱を起こすのは、宋家にいるからだ)
宋家での扱いへの反発心が、反乱を引き起こすきっかけとなった。
しかし、今は違う。
劉帆は後宮で生きていかなければいけあい。
それならば、誰が反乱を引き起こすというのか。それを考え、すぐに答えを導き出した。
(可馨だ)
劉帆と可馨の立場は入れ替わった。
そう考えるのが自然だろう。
「はい。陛下。僕は陛下に忠誠を誓います」
劉帆は誓った。その言葉が破られることはない。
頭を撫でる優しい手を信じることにした。非道な皇帝であろうとも、信じたかった。
「宋 可馨にお気をつけてください」
「なぜだ?」
「彼女は本来ならば陛下の運命の相手。しかし、その立場を僕が奪ってしまいました。そのことを妹は恨んでいます」
劉帆の言葉に対し、哉藍は劉帆の頭から手を離した。
愛でながら片手間で聞く話ではないと判断したようだ。
「宋 可馨は無力だろう」
「呪術が存在します。彼女はいずれ呪術に手を染めることでしょう」
「それは予言か?」
劉帆の言葉に対し、哉藍は首を傾げた。
劉帆には予言の力はない。
「いいえ」
劉帆は否定をする。
確信はなかった。
しかし、後宮入りをする時の可馨の顔を忘れることはできない。酷い裏切りにあったような顔をしていた。同時に強い憎しみを感じた。
「兄としての勘でございます」
劉帆の言葉は勘でしかない。
しかし、忠告をしておくことは災いを回避するために必要なことだ。
「それならば、呪われるのは劉帆ではないか?」
哉藍の言葉は当然のものだった。
可馨が恨んでいるのは哉藍ではなく、劉帆だ。なにより、可馨を宋家のお荷物として扱い続け、Subとして生まれた可馨をDomのストレスを発散するためだけの道具として、扱い続けている宋家を恨んでいる。サブドロップを引き起こし、気を失ったこともある。
宋家を滅ぼすためならば、自らの命を賭けるだろう。
小説の中の劉帆がそうであったように、可馨は悪役として立ちふさがる。
そんな予感がした。
「僕は呪われた子です」
劉帆は笑ってみせた。
その痛々しい笑顔に対し、哉藍は胸を痛めた。
「妹に呪われたところで跳ね返してみせますよ」
「しかし……。それなりに気にかけていた妹だろう?」
「はい。ですが、彼女が僕のことを疎んでいたことも知っています」
劉帆の言葉を聞き、哉藍は目を見開いた。
哉藍は事前の情報収集によって知っていたが、劉帆がそれを知っているとは思わなかったのだろう。
劉帆は疎まれていると知りながら、かわいがっていたのだ。
それがあまりにも痛々しい光景だった。
「呪術師に堕ちるのならば、妹として扱えません」
劉帆は断言した。
そして、悲しそうな顔をする。
(妹は呪術師に堕ちる)
確信があった。
内功を扱うことができないSubが憎しみを晴らそうとするのならば、知識さえ手に入れてしまえば、法術よりも簡単に扱うことができる呪術に手を出すはずだ。
「道士は気高いからな」
「はい。呪術師とは違います」
「その気高ささえも美しい。劉帆。貴妃として、道士として、後宮を闇から救い出してくれ」
哉藍は懇願するように言った。
後宮では悪霊が彷徨っている。その元凶を恨むかのように見つめている姿を目撃している。
「はい、陛下。陛下の願いを叶えてみせます」
劉帆は誓った。
そして、油断をしていた。
「おいで」
哉藍はDomとして命令の言葉を口にする。
(しまった)
劉帆は命令に従うように哉藍の両腕が広げられた胸に飛び込むように、抱き着いてしまう。初めてDomの命令に屈してしまった。
頭がふわふわとする。
めまいを引き起こしているわけではない。ただ、感じたことのない心地よさを抱く。
それがSubの習性によるものだとすぐに理解をした。
「いい子だ、劉帆。よくできた」
哉藍に褒められただけで脳みそが蕩けだしそうなほど感覚に陥った。
蕩けた目をしてしまう。
簡単にサブスペースに入ってしまった。今までDomの命令に背いてきた反動だろう。
「劉帆。俺の劉帆。愛している」
哉藍はそう言うと劉帆を抱きしめた。
その日の夜、二人は抱きしめ合うように眠りについた。
互いの存在を確かめ合うかのようだった。
これが劉帆が寵妃となった初めての夜だった。




