第6話 令和元年の記念日は最悪の日に
中折れ
それの本当の意味をみなさんは知っていますか?
それは
チンポゥの戦意喪失。
それは
男の力の根源を失う、最悪の結果。
ちがう
全然ちがう
女性の魅力を否定する、男からの否定だ。
「……飲みすぎちゃったみたいですね」
なのに翠ちゃんは
優しい声で
優しい大きな目に宿る瞳で
血だらけのチンポゥをそっと撫で下ろした。
ピロートークこそ男な真価を発揮するところだ、決して蔑ろにしてはいけない。
「目、おおきいね」
「かわいい」
「高校時代から可愛いと思ってた」
人生初めての中折れ直後の僕は、空っぽの脳みそから、ありきたりな言葉を絞り出すのがやっとだった。
153cm、43kgの小柄な翠ちゃんは、僕の胸の上で肘をつき。
その一言、一言に優しく応じ言った。
「不倫だよ」
あの瞬間は今も、これからも二度と忘れないだろう。
僕が、己の犯した罪を投げかけられた瞬間を。
でも一番怖かったのは
シャワーを浴びて、翠ちゃんとの思い出を洗い流すことや、彼女との別れでは無い。
タクシーに乗って実家に辿り着き、ベッドに入った時のことだった。
小さく丸まり眠る我が子の寝顔
それを見たのに
全く罪悪感が無かったことだ。
「えーいいなー俺も女とやりてー」
「どんなプレイだった?」
「写真無いの? 写真!!!」
僕は自分で言うのもなんだが、地元に友達が多い。
特に幼馴染たちとの繋がりは深く、僕が不在の家で、僕の家族と鍋パーティを開き、勝手に宿泊しているくらいだ。
男4人、全員妻子持ち、条件は同じ男が集まりゃそれは性の話だ。
「イケませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!」
心からの叫びが、腹からの笑い声を引き出す。
そんなくだらない話をする為に、残る休日を色んな友人たちと飲み、語り尽くす予定だった。
「旦那の祖母が亡くなって遊べそうになくなったごめん」
スマホが連絡を知らせる為に、体を震わせる。
3人で友人と飲む予定だったが、欠員が出たのだ。
残った1人とはほとんど面識がなく、その飲み会は開幕することなく、閉幕した。
パンッパンに詰め込みまくった予定に穴が空いたのだ。
「ねえ、もし予定空いてたら5月5日会わない?」
僕の指は、チンポゥの言いなりとなり、翠ちゃんへお誘いのLINEを送っていた。
「いいですよ! 行きたいとこありますかー???」
こうして僕の
僕が男として自分を許すための
敗者復活戦の日程が決まったのだった。
駅前に出来た大型ショッピングモールを見たいと、適当な理由をこじつけ、早めの時間に集まった。
「あっちょっとこっち!」
僕の腰に手を添え、翠ちゃんが動線を強制的に変え、ウィンドウショッピングを純粋な笑顔で楽しむ。
あれ
腰に手を当てたり、エスコートするのって男の役割じゃないっけ?
そんなこと聞かないでください。
僕も思ってました。
2日目のデートということもあり、緊張が解けたのか、居酒屋で前よりもアルコール摂取スピードの速い翠ちゃん。
「あっ、少しすいません。はい、もしもし、うんうん。友達コレクション? いいよ開けても、うん、楽しんでね」
僕の長女と同じ年齢の子供からの電話だった。
1日に再開した時から思っていた。
優しい口調。
子供にも優しく接する彼女に、僕は妻の姿を思い出し、比較してしまっていたのだ。
僕は子供を優しく、大切にする人を好きになる傾向がある。
妻を、妻にしたいと感じたのもそれが理由だったから。
彼女だった頃に妻と家へ帰る時のことだった。
「もし子供に障害があったらどうする?」
「そりゃあ心配だよ」
ありきたりな答えだと思ってた。
「私たちが死んだ後、その子がちゃんと生きていけるか、幸せになれるか心配だよ」
その言葉に
僕の心は完全に奪われ、法で縛り付ける事を決意したのだ。
令和になった瞬間
令和元年5月1日に僕らは籍を入れたのだ。
そう
僕が翠ちゃんと再会した5月1日は、僕と妻の結婚記念日だったのだ。
僕は最低だ。
そんな最低な僕が欲しかったもの。
優しい口調
子供に対しての柔らかな対応
それをくれた翠ちゃんという毒蜘蛛の巣に、僕は引っかかっていた。




