第9話 主人公になったつもりでいた
お酒
みなさんはお酒で失敗したことはありますか?
僕は数え切れないくらいあります。
地元の誰もが知る大通りの車道で深夜の立ちション。
新宿の飲み屋でぼったくられた後、オッパ部で30万請求され初ボーナスが消えたあの日。
テーブル筐体という昔のアーケードゲームや、便器を買った。
妻の実家へ結婚の挨拶へ行った時、恐怖と緊張、永遠と進められるビールにより、気がつけば猫を犬と可愛がり、最終的に大号泣し、義理のおばさんに抱きしめられたものだ。
ああ
あとは泥酔した帰りのタクシーで寝てしまい、警察署で保護され、まだミルクを飲んでた頃の長女を連れた妻が身元引受人として、迎えにきてくれたな。
あの時のビンタは痛かったし
あの時に売り払われたジャパニーズウイスキーのレア物たちは、二度と帰ってこないんだろう。
もちろんあの時の妻もだ。
「いやーこの前の結婚式よかったな! 翠ちゃんもこれば良かったのに」
ビールを勢いよく飲み干したイモタが、おかわりを注文しながら、元カノに会いたいと願望を吐き出す。
「いや子供がいて遠方だったから誘われなかったんだってよ」
「はぁー俺が孕ませたかったー」
「さすがイモタさんキモいっすね」
聞かなくても出るは出る
イモタと翠ちゃんのプレイ内容、地元に帰る直前に他の男と浮気され会えずじまいで終わった詳細、そして過去の翠ちゃんのよくない噂というよりも実話。
盲目で優越感に浸っていた僕でさえ、いくらなんでもイモタに翠ちゃんとの関係を言えない。
だから、優越感に浸りながら若干、少しながら心に傷を負いながら全ての話を聞いた。
まあ恋に盲目な僕は、真摯に受け止めることは無かった。
「しもしも! もしもしー!!!」
僕と翠ちゃんとの、電話の始まりの合図だ。
僕しか言ってないが
「今日はいつもよりも酔ってるね」
そりゃあそうだ
アルコールが加速させるテンションと、回転する脳みそがつらつらと話題を引き出す。
そんな中で脳みそが開けてはならない引き出しを、勢いよく開けた。
僕の職場に不倫の先輩
大不倫下心丸という第二子を妻に身籠らせたのに、「遊びたい、会社の女性食うか」と最低発言の後、2人も彼女を作り遊び呆ける、歩く男性器がいる。
「彼女にしちまえ」
そんな彼の言葉を思い出した。
独占したい。
この子を、翠ちゃんを僕だけのものにしたい。
僕は言った。
「よければ付き合って欲しい」
「ごめんなさい」
返ってきた言葉は、ここ最近の熱い、熱すぎる関係とは裏腹に、暗く、冷たい返答だった。
「やっぱ慰謝料とか怖いから、このままがいい」
冷静なのか、世間知らずなのか
もうこの関係すら危ういというのに
「そうだよね仕方ない」
意外にも会話が沈むことなく、話は移り行く。
僕はその時
本当に翠ちゃんを幸せにしたいと思っていた。
なんであの言葉を言ったのか
知り合いではあったが、ちゃんと接して1ヶ月程度の子に何故
「翠ちゃんは頑張ってるよ。DVに負けず、実家とはいえ1人で子育てしてさ、親だからわかる。今まで本当に頑張ったと思う」
鼻をすする音がスマホ越しに聞こえる。
「ありがとう」
震える声が織りなす
ありきたりな感謝
きっと
そんな涙に
女性の涙という最大の武器に
簡単に踊らされたのだ。
物語の主人公にでもなったつもりの妻子持ちが
主演男優さえ恥じらう様な言葉を紡いだ
「もし、もしこの関係が1年続いたら、再婚を考えてる」
「うん。わかった」
短くもはっきりとした返答に
涙を拭う音に
僕の、胸は高鳴り
妻と購入した家に帰るのを遅らせる為、何度も何度も家の周りを周回した。
翠ちゃんとなら、この先どんな事があろうとも
2人で乗り越えていけると思った。




