あの時の返事
花祭りから数日が経った。
なおきは相変わらず花屋へ通っていた。
しかし最近、まおの様子が少しだけ違っていた。
以前より、なおきを見つめる時間が長くなった。
「なおきくん」
「はい?」
「今週の土曜日って空いてる?」
まおが何気なく聞いた。
なおきは少し驚く。
「空いてますけど」
「ほんとに?」
「はい」
まおは少し緊張した顔をした。
そして。
「じゃあ、その日、一緒にお出かけしない?」
なおきは固まった。
「え?いいんですか?」
なおきは人生で一番嬉しそうな顔をしていた。
それを見たまおが吹き出す。
「そんなに嬉しい?」
「めちゃくちゃ嬉しいです」
即答だった。
まおは顔を赤くしながら笑った。
「じゃあ、決まりね」
土曜日になった。
なおきは約束の三十分前に待ち合わせ場所へ着いていた。
落ち着かない様子でスマホを見る。
まだ十分しか経っていない。
「早く着きすぎた……」
そんな独り言を言った瞬間。
「なおきくん」
聞き慣れた声がした。
振り返り、息を吞んだ。
そこにいたのは、いつもと違う雰囲気のまおだった。
白いワンピースに薄いガーディアン、そして髪も少しだけ巻いている。
花屋で働く姿とはまるで違う。
「どうしたの?」
まおが首を傾げる。
「いや……奇麗だなって」
なおきは正直に言った。
まおは一瞬固まる。
そして耳まで真っ赤になった。
「もう!そういうの反則」
「本当です、噓じゃないですから」
まおは顔を隠したくなった。
二人が向かったのは、海の見える公園だった。
ベンチに座りながらアイスを食べる。
まおが話し始めた。
「なおきくん」
「はい」
「私ね」
まおは海を見つめる。
「少し前まで恋愛する気なかったの」
「仕事が楽しかったし」
「はい」
「恋愛って面倒そうだなって思って」
思わず笑ってしまう。
「正直ですね」
「でしょ?」
二人で笑う。
しかしまおは真面目な表情になった。
「でもね、なおきくんと会ってから、少しずつ考え方が変わったの」
なおきの胸が高鳴る。
「会うのが楽しみに思えたり、今日はどんな話をしようかなって考えるようになったんだよね」
まおは小さく笑う。
「気づいたら、なおきくんのことばかり考えてた」
なおきは何も言えなかった。
言葉が出てこない。
ただ心臓がうるさく感じた。
夕暮れになり、空がオレンジ色に染まっていた。
二人は海辺の遊歩道を歩いていた。
人通りは少なく、波の音だけが聞こえてくる。
まおが立ち止まった。
「なおきくん」
「はい」
まおは深呼吸をする。
少し緊張しているようだった。
「この前の返事なんだけど」
なおきの心臓が大きく跳ねた。
ついに、この時が来た。
まおはなおきを見つめる。
真っ直ぐに、優しく、そして少し照れながら。
「私もなおきくんの事がーー」
その瞬間、なおきのスマホが鳴った。
二人とも固まる。
なおきはポケットからスマホを取り出した。
母親からだった。
まおが吹き出した。
「タイミング悪すぎるでしょ!」
なおきも思わず笑ってしまう。
大事な瞬間だったのに、でも不思議と嫌な気持ちはしなかった。
まおも、なおきも笑っている。
そして二人とも分かっていた。
もう答えはすぐそこまで来ていることに。
まおは少しだけ、なおきの袖をつまんだ。
「続きはまた今度ね」
そう言って微笑む。
その笑顔は、以前よりずっと近くで感じられた。
二人の恋が動き出す瞬間は、もうすぐそこだ。




