好きです
なおきはあの日から落ち着きがなかった。
海辺で聞けなかったまおの返事。
「私もなおきくんの事がーー」
その続きが頭から離れない。
講義中も、友達と会話してるときも。
ずっと同じことを考えていた。
そして三日後。
花屋へ向かう足取りは、いつも以上に速かった。
「いらっしゃいませ」
店の奥からまおが顔を出す。
すると目が合い、二人とも少し照れた。
海辺の日以来、お互いに少し意識してしまっている。
「こんにちは」
「こんにちは」
沈黙。
そして同時に笑ってしまう。
「もしかして今、同じこと考えてた?」
「はい、多分」
また二人で笑った。
その日の閉店後。
「じゃあまおちゃん、あとはよろしくー!」
店長が気を利かせたのか、いつもより早く帰っていった。
「え?」
まおとなおきが同時に声を出す。
店長はニヤリと笑う。
「若者同士、ゆっくり話しなさい」
そして去っていった。
「……」
静かな店内、聞こえてくるのは時計の音だけ。
まおは観念したように笑った。
「店長、絶対わざとだよね」
「ですね」
片付けが終わる頃には、外は夕暮れになっていた。
あの日と同じような空、あの日と違う距離感。
まおが小さく息を吸った。
「なおきくんこの前の続き、話してもいい?」
なおきの鼓動が速くなる。
「はい、もちろんです」
まおは少し俯いた。
そして勇気を出すように顔を上げる。
「私ね、年齢差とか仕事とかいっぱい考えた」
なおきは黙って聞く。
「だから返事が遅くなったんだよね」
まおは申し訳なさそうに笑った。
「ごめんね」
「謝らなくて、いいですよ、待つって決めてたので」
その言葉に、まおの胸が暖かくなった。
やっぱり優しい、本当に優しい。
だから好きになった。
夕日が二人を照らす。
まおはなおきを見つめた。
初めて電車で会った日のこと、酔っ払って絡んだこと、花屋で一緒に過ごした時間。
全部が思い出。
そして……
「なおきくん」
「はい」
「私もあなたの事が好きです」
世界が静かになった気がした。
なおきは一瞬、言葉を失う。
聞き間違いじゃないかと思った。
でも、まおは笑っていた。
少し恥ずかしそうに、照れながら。
「……本当ですか?」
なおきが聞く。
「本当だよ」
「夢じゃないですよね?」
「失礼だなぁ」
まおが笑う。
その瞬間なおきは思わず顔を覆った。
「嬉しすぎます」
まおは笑った。
「なおきくんは本当に素直だね」
少しして、なおきは真面目な顔になる。
そしてまおの前に立った。
「まおさん」
「はい」
「改めて言います。」
まおの胸が高鳴る。
「まおさんの事が好きです」
なおきは最初からずっと真っ直ぐだった。
「俺と付き合ってください」
まおは笑った、そして小さく頷く。
「はい、よろしくお願いします」
その瞬間、二人は恋人になった。
いつもの駅までの帰り道。
でも今日は何か違った。
それは、まおが恋人として、となりにいること。
「なんか不思議だね」
まおが言う。
「何がですか?」
「ついこの前まで他人だったのにね」
なおきは笑った。
「確か、電車で絡んできたんですよね」
「そのこと忘れてよ!」
「無理です」
「やだぁ、恥ずかしい!」
二人で夕暮れの街を歩きながら笑う。
同じ歩幅で、同じ未来に向かって。
なおきとまおの恋はようやく始まったばかりだった。




