母の一言
数日後の夜。
なおきはテーブルの上に置かれた、ガーベラを眺めていた。
花瓶の中で咲く花を見るたび、まおの笑顔が浮かぶ。
「その花、大事にしてるのね」
母が言った。
「……うん」
「まおちゃんにもらったんでしょ」
なおきは驚く。
「なんで知ってるの?」
「この前、まおちゃんのお母さんと電話したのよ」
なおきは思わず身を乗り出した。
「まおさんのお母さんと?」
「そうそう。昔から仲がいいからね」
母は懐かしそうに笑う。
「まおちゃん、小さい頃から本当に優しい子だったのよ。でもね、何でも一人で抱え込む癖があるのよね」
その言葉は、店長が言ってたことと同じだった。
「やっぱり……昔から変わらないのね」
母はなおきを見つめる。
「なおき」
「ん?」
「もし、まおちゃんを本気で好きなら、焦っちゃだめよ」
なおきは思わず姿勢を正した。
「まおちゃんは、人を大切にする子だからこそ、恋愛にも慎重なのよ」
母は優しく微笑む。
「急がなくても、まおちゃんはちゃんと向き合ってくれると思うわ」
なおきは静かにうなずいた。
「うん」
その返事に迷いはなかった。
翌週の日曜日。
なおきは花屋に向かった。
店に入ると、まおは店内で花束を作っていた。
「こんにちは」
「あ、なおきくん」
いつもの笑顔。その笑顔を見るだけで自然と顔がほころぶ。
「少し待ってね」
「はい」
なおきは店内を見て回る。
すると、一人の小さな女の子が入ってきた。
「えーと」
女の子が店の中をきょろきょろと見まわしてる。
まおはしゃがみ込んで、目線を合わせた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
「誰にあげるお花買いにきたの?」
「えーっとね、お母さん!もう少しで誕生日なんだ。」
女の子が笑顔になって言った。
「お母さん何色が好き?」
「んとね、ピンク!」
まおは笑顔で女の子とピンク色の花を何本か選び始めた。
「これとか、どう?」
「かわいい、これとこれにする!」
「わかった、ちょっと待っててね」
「うん!」
まおは花束を作り始めた。
「はい、お母さん、きっと喜ぶね」
「うん、お姉ちゃんありがとう」
女の子は満面の笑みだった。
その様子を見ていたなおきは胸が暖かくなる。
(やっぱり、まおさんは素敵なひとだな~)
花を売っているだけじゃない、相手の気持ちを大切にしている。
だから、お客さんも自然と笑顔になるんだ。
閉店後。
「今日はありがとうね、なおきくん」
まおが店のシャッターを下ろしながら言う。
「俺、何もしてないです」
「いてくれただけで嬉しい」
なおきは少し照れ笑いを浮かべた。
そのとき、店長が二人に声をかける。
「おーい、まおちゃん」
「はい、どうしました、店長?」
「来週の日曜日に、商店街の花祭りがあるの覚えてる?」
「あ!すっかり忘れてました」
店長となおきは笑う。
「あ、そうだ、なおきくん、その日、時間ある?」
「ありますけど、どうしました?」
「人手が足りないんだ。手伝ってもらてたら助かるんだけど、どうかな?」
「大丈夫ですよ、お手伝いさせてください」
「ほんと、ありがとう」
まおが嬉しそうに言う。
「じゃあ決まりだな」
店長が満足そうにうなずいていた。
その帰り道。
「なおきくん、さっき手伝うって言ってくれてありがとうね」
「いえ、むしろ嬉しいです。」
「え?」
「まおさんと一緒にいられる時間が増えるので」
また真っ直ぐな言葉だった。
「ほんと、そういうこと、さらっと言うよね」
「本音ですから」
「もう!」
まおが笑った。
でもその笑顔は、どこか幸せそうにみえた。




