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約束の花

翌日、なおきは講義が終わると、すぐに花屋へ向かった。


昨日、自分は勢いで告白してしまった。


返事はもらっていないから、正直少し怖かった。


そんなことを考えながら店の扉を開ける。


「いらっしゃいませ!」


聞き慣れた声だった。


顔を上げると、そこにはいつものまおがいた。


「あ……」


思わず安心した顔になる。


それを見たまおが笑う。


「そんな顔しなくても大丈夫だよ」


「いや、ちょっと緊張してました」


昨日のことを、お互い忘れてはいない。


でも、無理に触れようとはしなかった。


その空気がお互いに心地よかった。


閉店後。


「なおきくんちょっと付き合ってよ」


まおが言った。


「いいですよ」


二人は店を出て、駅とは反対方向へ歩き始めた。


しばらくして歩いて、着いたのは、小さな公園だった。


花壇には色とりどりの花が咲いている。


夕日が柔らかく照らしていた。


まおが花壇を見つめて話す。


「ここね、私が花屋を目指したきっかけの場所なんだ」


なおきは黙って聞いた。


「子どもの頃、嫌なことがあった日にここへ来てたの」


まおは笑う。


「そのとき見た花が、すごく綺麗でなんか救われた気がしたんだよね」


風が吹き、花びらが揺れた。


「だから私も、誰かを少しだけ元気にできる人になりたかった」


なおきはまおを見た。


いつもの笑顔な理由、花が好きな理由。


その全部が少しわかった気がした。


「まおさんらしいですね」


「そうかなぁ?」


「はい」


心からそう思った。


少し沈黙が流れる。


やがてまおが小さく息を吐いた。


「昨日のことなんだけど」


なおきの心臓が跳ねる。


「はい」


「好きって言ってくれたでしょ」


「……言いました」


「びっくりした」


まおは正直に言った.


「全然気づいてなかったわけじゃない」


「え?」


「でも本当に言われると思わなくて」


まおは花壇を見つめたまま話す。


「なおきくんといると楽しいんだよね」


「安心するし、会うと元気になれるんだよ」


なおきの胸が高鳴る。


「だけどね、私、少し怖いの」


「怖い?」


「年齢差とか」


なおきは黙る。


「なおきくんは大学生で、私は社会人」


「はい」


「だから簡単に返事できなかった、ごめんね」


なおきは首を横に振った。


「謝らないでください」


「え?」


「ちゃんと考えてくれてるってことですよね、それだけで嬉しいです」


その言葉に、まおの胸がぎゅっと締め付けられた。


優しい、優しすぎる。


だから余計に惹かれていく。


帰り道。


駅の前で立ち止まる、別れの時間になっていた。


「なおきくん」


「はい」


まおは花屋の袋を差し出した。


「はい、これ」


「え?」


中には淡いピンク色のガーベラが一輪、入っていた。


「プレゼント」


「ありがとうございます」


なおきは嬉しそうに受け取る。


「この花の意味、知ってる?」


まおが聞く。


「知らないです」


まおは少しだけ微笑んだ。


「意味はね、希望」


そう答えた。


なおきは花とまおを見る。


意味を理解するには十分だった。


今すぐの答えじゃない、でも拒絶でもない。


希望はある。


そのことが嬉しかった。


「大事にします」


なおきが言う。


「うん」


まおは頷いた。


そして二人は別れた。


しかしその夜。


家に帰ったまおは、ベットの上で天井を見つめていた。


頭の中に浮かぶのは、なおきのことばかり。


笑顔、真っ直ぐな言葉、心配そうな表情。


そして、『好きだからです』


あの言葉。


まおは枕に顔を埋めた。


「……もうだめかも」


小さく呟く。


気づいてしまった。


自分もなおきを好きになり初めていることに。


だけど、その思いを伝える日は、もう少し先になりそうだ。

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