気になる存在
それからなおきは、週に一回まおの花屋へ顔を出すようになった。
もちろん、毎回花を買う
最初は母親へのプレゼントのために。
次は部屋に飾るため。
その次はーー
「なおきくん、花買う理由なくなってない?」
まおが呆れたように言った。
なおきは小さな観葉植物を手に取る。
「ありますよ」
「ほんとに?」
「はい、会いにくる理由です」
「えっ」
まおの動きが止まる。
そして数秒後。
「そういうこと平気で言うのやめてよ!」
顔を真っ赤にしながら言った。
なおきは不思議そうに首を傾げる。
「本当のことですけど」
「だから困るの!」
店長が奥で笑いをこらえていた。
「若いっていいねぇ」
「店長!」
「はいはい」
まおは完全にからかわれていた。
なおきはまおの帰りを店の前の喫茶店で待っていた。
「おまたせ」
「まだ時間早いですし、このあとご飯でもどうですか?」
なおきが聞く。
まおは少し考えた。
「じゃあ、少しの時間だけなら」
その返事だけでなおきは嬉しくなった。
二人は近くのファミレスに行った。
向かい合わせの席に座る。
「大学って楽しい?」
まおが聞く。
「はい、楽しいですよ」
「いいなぁ」
「まおさんは大学って行かなかったんですか?」
「私は高校卒業してすぐに就職したから」
まおはお茶を飲みながら話した。
「花が好きだったから後悔はしてないけどね」
「そうなんですね」
なおきはそのとき気づいた。
まおは花の話をするとき、いつもより楽しそうに話すことに。
「まおさん頑張ってる人って素敵ですよね」
「ん、急になに?」
「なんとなくそう思っただけです」
まおは少しだけ照れていた。
その帰り道。
駅前の広場を歩いていると、突然後ろから声が聞こえた。
「まお、ひさしぶり!」
二人が振り返ると。
二十代後半ぐらいのスーツ姿の男性が近づいてきた。
爽やかな雰囲気の男性だった。
「あれ?みなとさん」
まおが笑顔になる。
「ひさしぶりだね。」
「ほんとひさしぶりですね。」
二人は親しそうに話している。
なおきはそれを黙ってみていた。
すると男性が
「もしかして、彼氏?」
「ちがいますよ!」
まおが慌てて否定した。
なぜかその言葉がなおきの胸に刺さる。
もちろん、彼氏じゃない。それは自分でも分かっている。でも少しだけ期待していた。
「大学生のなおきくん。」
「そうなんだ。」
男性は笑顔で手を差し出した。
「俺はみなと。なおとは昔からの知り合いなんだ。」
なおきも握手する。
「はじめまして、なおきです。」
その場は和やかに終わった。
しかし帰り道、なおきは少し元気がなかった。
「どうしたの?なおきくん。」
まおが聞く。
「別に、なんもないです。」
「嘘」
すぐに見抜かれてしまう。
なおきは苦笑した。
「仲良さそうだったので。」
「みなとさんと?」
「はい。」
まおは数秒ぽかんとした後、笑いだした。
「もしかして嫉妬?」
「……」
図星だった。
なおきは黙る。
まおはますます笑う。
「かわいい」
「かわいくないです。」
「ごめんごめん」
でも笑顔は消えない。
しばらくしてまおは優しく言った。
「みなとさんね。」
「はい。」
「私のお兄ちゃんみたいな人なんだ。」
なおきが顔をあげる。
「お兄ちゃん?」
「そう、小さい頃から家族ぐるみの付き合いだから」
なおきの心の中の重たいものが、一気に軽くなった。
それを見たまおがまた笑う。
「分かりやすいなぁ。」
「……」
「安心した?」
「少し」
「ふふっ」
その笑顔を見ていると自分まで笑ってしまう。
気づけば二人の距離は、肩が触れそうなくらい近くなっていた。
そしてなおは、なおきの横顔を見ながら思う。
(この子といると楽しいなぁ)
年下の弟みたいな存在だと思っていた。
だけど最近は違う。
なおきを見るたびにまおの胸が少しだけ騒いだ。




