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少しずつ近づく距離

夕暮れの街は、オレンジ色の光に包まれていた。


なおきとまおは、駅へ向かう道をゆっくり歩いていた。


最初は少しだけ気まずかった。


電車で出会った相手が、まさか母親の友達の娘だったなんて。


そんな偶然、普通ならありえない。


「なんか不思議ですね」


なおきが言う。


「うん?」


「また会えたらいいなって思ってたんですよ」


まおは足を止めそうになる。


「え?」


「あの電車で別れたあと」


なおきは少し照れながら笑った。


「本当に会えるとは思ってなかったですけど」


まおの頬がほんのりと赤くなる。


「そ、そうなんだ」


「はい」


真っ直ぐな返事だった。


なおきは誰とでも話せる性格だったが、嘘をつくのは苦手だった。


だから思ったことをそのまま言う。


まおは視線を逸らした。


(この子、ずるいなぁ……)


年下なのに。


変に格好つけない。


自然体で、真っ直ぐだ。


「まおさん」


「ん?」


「花屋さんって仕事大変ですか?」


話題を変えるように聞く。


「結構ね、大変よ」


まおは笑った。


「朝早いし、重い荷物も運ぶし」


「意外です」


「でしょ?」


「もっと優雅な仕事かと思ってました」


「そんなイメージあるよね」


二人は笑う。


気づけば、さっきまでの緊張はなくなっていた。


駅が見えてきた頃。


まおがふと立ち止まる。


「なおきくん」


「はい?」


「今度、お店来る?」


「え?」


「私が働いてる花屋」


なおきの心臓が大きく跳ねた。


「いいんですか?」


「もちろん」


まおは微笑む。


「お客さんが増えるのは嬉しいし」


少しだけ間を置いて。


「なおきくんなら大歓迎」


その言葉だけで十分だった。


「じゃあ行きます」


「うん」


「絶対行きます」


まおは思わず吹き出した。


「そんなに気合い入れなくても」


「いや、行きます」


「ふふっ」


楽しそうに笑うまおを見て、なおきも笑った。


そして翌週の日曜日。


なおきは駅前にある小さな花屋を訪れていた。


店先には色とりどりの花が並んでいる。


赤いバラ。


白いカスミソウ。


黄色いガーベラ。


その中で働くまおは、いつもよりずっと輝いて見えた。


「いらっしゃいませ……あっ!」


まおが気づく。


「本当に来た!」


「だから言ったじゃないですか」


「冗談かと思ったのに」


「そんなことしませんよ」


なおきが笑う。


まおも嬉しそうに笑った。


そのとき。


店の奥から一人の男性が出てきた。


「まおちゃん、お客さん?」


30歳前後の背の高い男性だった。


「店長です」


まおが紹介する。


「こちら、なおきくん」


店長は優しく微笑む。


「へぇ、君がなおきくんか」


「え?」


「まおちゃんが話してたよ」


なおきは思わずまおを見る。


「話してたんですか?」


「ちょ、店長!」


まおの顔が真っ赤になる。


「最近知り合った大学生がいるって」


「店長!」


「ははは、ごめんごめん」


なおきの胸の奥がじんわり温かくなる。


自分のことを話してくれていた。


それだけなのに嬉しかった。


まおは恥ずかしそうに俯く。


「もう……」


その表情を見ながら、なおきは思った。


この人のことをもっと知りたい。


笑顔も。


好きなものも。


悩みも。


全部。


そしてこの日から、なおきは花屋へ通うようになる。


まだ恋人じゃない。


だけど、ただの知り合いでもない。


二人の距離は、少しずつ、確実に近づいていくのだった――。

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