第七章 不思議な虚空の中の宴⑥
いよいよ忘年会が始まります。
料理に、乾杯に、賑やかな仲間達。
そして今回は、タリアへの少し遅れた誕生日祝いも。
年末らしい温かな時間をお楽しみください。
【登場人物】
・青星テツロウ
・赤井エアリ
・青星リオ
・紫雲タリア
・青星エミ
・青星ミニ
・銀水リウス
・桃野リブラ
・銀水ピスカ
■第七章 第六話
巨大なエアリの両腕に抱えられながら、
テツロウは忘年会会場へ向かっていた。
冬の平原を抜けた先。
そこに見えてきたのは、
見慣れたログハウスだった。
暖色の灯りが窓から漏れ、
冬の夕暮れの中で暖かく輝いている。
「もう始まってるみたいですね♪」
エアリが優しく微笑む。
「だな……なんか、いい匂いもするし」
「リウスちゃんとエミちゃん、
かなり張り切っていましたから♪」
やがてエアリは、
ログハウス前へゆっくり屈み込んだ。
ガチャリ、と扉が開く。
「兄さん、お疲れ様です!」
「テツ兄、お疲れ様~♪」
迎えに出てきたのは、
エプロン姿の巨大なエミとリウスだった。
エミはいつものように柔らかく微笑み、
リウスはどこか楽しそうに手を振っている。
二人の視線は、
エアリの胸元近くにいるテツロウへ向けられていた。
「お、お疲れ……」
少し照れながら返事をするテツロウ。
エアリはくすりと笑いながら、
そのままログハウスの中へ入っていく。
中へ入った瞬間、
暖かな空気がテツロウを包み込んだ。
広々とした大広間。
中央の大テーブルには、
すでに料理や飲み物が並び始めている。
鍋。
揚げ物。
サラダ。
ジュース類。
「お兄様、お疲れ様です」
「テツロウ氏、お疲れです」
テーブルの向こう側では、
リオとタリアも微笑みながら迎えてくれる。
タリアはまだ普段着姿だったが、
少し落ち着かない様子にも見えた。
柔らかな灯りの中。
青星家の忘年会が、
静かに始まろうとしていた。
エアリは、テーブルの一角に用意されていた
テツロウ用の席へ、そっと彼を降ろした。
するとリオが、
小さなグラスを両手で持ってやって来る。
「お兄様、こちらをどうぞ♪」
テツロウ用に用意された、
小さなビールグラスだった。
「お、ありがと」
受け取った瞬間。
エミがぱん、と手を合わせる。
「兄さん。
では、挨拶してくださいね♪」
「あー……はいはい」
テツロウは苦笑しながら立ち上がる。
周囲には、
巨大な皆の顔。
柔らかな灯り。
冬の料理の匂い。
どこか、少し不思議で。
でも心地よい空間だった。
テツロウは小さく息を吸い込む。
「みんな。
今年も一年、お疲れさま」
そしてグラスを掲げた。
「――乾杯!」
『かんぱーい!!』
次の瞬間。
テツロウにとっては巨大なグラス達が、
一斉に掲げられる。
ガチャン、と楽しげな音が響いた。
すると。
「兄ちゃん、これ覚えてるー?」
ミニが嬉しそうに差し出してきたのは、
透き通ったピンク色のソーダ。
その上には、
丸いバニラアイスが浮かんでいる。
「……嫌な予感しかしないんだけど」
テツロウが引き気味に呟く。
だがミニは、
楽しそうな笑顔のまま、
そのアイスをぐいぐい近づけてきた。
「ちょ、待っ――」
すると。
エミが素早くテツロウを抱きかかえる。
「ミニちゃん。
また兄さんをアイスまみれにする気ですか?」
「えへへー♪」
テツロウは、
エプロン姿のエミの腕の中で、
なんとも言えない表情になっていた。
その頃。
「こんばんはー!
遅くなりました~♪」
玄関側から、
明るい声が響いてくる。
「リブラさん!」
ログハウスへ入ってきたのは、
桃野リブラだった。
リオやタリアと同じ大学へ通いながら、
アイドル活動もしている少女だ。
冬用コート姿のリブラは、
どこか外の冷たい空気をまとったまま、
にこにこと手を振っている。
「ごめんなさい~。
少しお仕事押しちゃって」
「全然大丈夫ですよ♪」
エアリが笑顔で迎える。
リブラはふと、
エミのエプロンへ大事そうに抱えられている
テツロウへ視線を向けた。
そして、くすりと笑う。
「テツロウ様は、
いつも皆さんに包まれていますね♪」
「……まあ、否定はできない」
テツロウが苦笑する。
するとミニが、
楽しそうに割り込んできた。
「兄ちゃん、みんなのお気に入りだからねー♪」
すると。
「テツ兄。
こちらも食べて」
リウスが、小さな皿を持ってやって来た。
エプロン姿のリウスは、
少し得意げな表情をしている。
皿の上に乗っていたのは――
オムライス。
それも、文化祭で出されていたものと
よく似たデザインだった。
「おお……これ」
テツロウが少し目を丸くする。
黄色い卵の上には、
ケチャップで文字が書かれていた。
『テツ兄、今年もお疲れさま~』
「文化祭の時の、再現?」
「ん。
せっかくだから」
リウスは少し照れたように視線を逸らす。
「……料理担当だし」
「いや、かなり嬉しいんだけど」
テツロウが笑うと、
リウスも少し安心したように小さく笑った。
するとミニが、
横からひょこっと顔を出す。
「リウスちゃん、
また“もえもえキュン”したのー?」
「してない」
「絶対したよねー?」
「してない」
即答だった。
「もえもえキュン……?」
リブラが、不思議そうに首を傾げる。
「何ですかそれ?
かわいい響きですね♪」
するとエミが、
くすくす笑いながら説明した。
「料理を美味しくする、
おまじないみたいなものですよ♪」
「えー♪
楽しそうです~!」
リブラは目を輝かせる。
「せっかくだから、
一緒にやってみません?」
「えぇ……」
リウスが露骨に嫌そうな顔をする。
だがエミは、
完全に乗り気だった。
「忘年会ですし♪
みんなでやりましょうか♪」
「やろやろー!」
ミニまで元気よく便乗する。
リウスは助けを求めるように、
そっとテツロウを見る。
だが。
「……まあ、ちょっと見てみたいかも」
「テツ兄まで……」
完全に逃げ道を失ったらしい。
リウスは小さくため息をついた。
その様子に、
リブラが楽しそうに笑う。
「じゃあ、みんなでやりましょう~♪」
そして。
エミ、リウス、リブラの三人が、
テーブル越しに並ぶ。
巨大な三人が身を寄せ合う光景は、
なかなか迫力があった。
「それでは~♪」
エミが楽しそうに口を開く。
「お料理が美味しくなるように――」
リブラもすぐに合わせる。
「せーのっ♪」
リウスは、
ものすごく恥ずかしそうな顔をしながら――
「……も、もえもえ……」
そして三人一緒に、
『もえもえ、キュン♪』
ぱちん、と。
エミとリブラが楽しそうに指でハートを作る。
リウスも、
少し遅れて小さく同じ動きをした。
数秒の静寂。
そして。
「…………」
リウスは無言で顔を伏せた。
耳まで赤い。
「リウスちゃんかわいー♪」
「すっごくアイドルっぽかったです~♪」
「……忘れて」
テツロウは、
そんな三人を見上げながら苦笑する。
「いや……
なんだかんだ、平和だな……」
テツロウは苦笑しながら、
賑やかな皆を見上げる。
暖かな灯り。
楽しそうな笑い声。
鍋の湯気。
冬のログハウスには、
穏やかな時間が流れていた。
そして――
忘年会の夜は、
ゆっくりと進んでいく。
しばらくして。
料理も一通り並び終え、
皆が少し落ち着き始めた頃だった。
リオが、ふと思い出したように口を開く。
「そういえば――」
その声に、
タリアが首を傾げる。
「ん?」
リオは楽しそうに微笑みながら、
テツロウへ視線を向けた。
「お兄様。
そろそろ、よろしいのではありませんか?」
「……あー」
テツロウは苦笑する。
するとミニが、
すぐに目を輝かせた。
「えっ、なになにー!?」
「もしかして、サプライズですか~?」
リブラまで身を乗り出してくる。
そんな中。
タリアだけは、
少し不思議そうな顔をしていた。
「……?」
テツロウは、
その様子を見ながら小さく笑う。
そして。
リオへ軽く頷いた。
「リオ、頼む」
「はい♪」
リオは嬉しそうに立ち上がると、
部屋の隅へ置かれていた紙袋をそっと持ち上げた。
その瞬間。
タリアが目を丸くする。
「え……
それ、まさか――」
「タリアちゃん」
テツロウは、
少し照れながら口を開いた。
「誕生日、おめでとう」
ログハウスの中へ、
一瞬静かな空気が広がる。
次の瞬間――
『おおーっ!!』
ミニとリブラの声が、
同時に響いた。
「サプライズだったんですねー!」
「タリアちゃん、おめでとー!」
ぱちぱちと拍手が広がる。
だが当のタリアは、
まだ少し呆然としていた。
「え……
いや、ちょっ……」
珍しく言葉が追いついていない。
そんなタリアの前へ、
リオがそっと紙袋を差し出す。
「お兄様と一緒に選びました♪」
「……テツロウ氏と?」
「まあ、ほとんどリオ任せだったけどな」
「お兄様♪」
リオが少しだけ嬉しそうに笑う。
タリアは恐る恐る紙袋を受け取ると、
中を覗き込んだ。
そして――
「…………」
数秒、固まる。
黒系のニット。
紫色のスカート。
黒タイツ。
ショートブーツ。
さらに、
自分用に合わせられたゴーグルまで入っていた。
「えっ……
いや、これ……」
タリアが明らかに動揺する。
「めちゃくちゃオシャレじゃないですかこれ……!」
「似合いそうだったので♪」
リオが優しく微笑む。
するとミニが、
すぐに身を乗り出した。
「タリアちゃん!
着てみてよ着てみてよー!」
「見たいです~♪」
リブラも完全に乗り気だった。
「いやいやいや!
今ここで!?」
珍しく慌てるタリア。
だが。
「タリアさん。
絶対似合うと思いますよ♪」
エアリまで笑顔で追撃する。
さらにエミも、
くすくす笑いながら頷いた。
「兄さんも見たいですよね?」
「え、俺に振るの!?」
全員の視線が集まる。
テツロウは少し困りながらも、
苦笑した。
「……まあ。
似合うとは思う」
その言葉に、
タリアの顔が一気に赤くなる。
「~~っ……!」
「タリアさん、顔真っ赤ですわ♪」
「リ、リオ!?」
周囲から笑い声が広がる。
するとリオは、
手の中のテツロウを、
優しく掌へ乗せ直した。
まるで大事な宝物を扱うような手つき。
そして――
そのままタリアのすぐ近くへ、
そっと運んでいく。
「お兄様。
ちゃんと見て差し上げてくださいね♪」
「いや、だから近いって――」
だが。
タリアは、
少し照れた様子のまま、
新しいニットへ袖を通していく。
「……テツロウ氏。
せっかくですし、ちゃんと見てください」
「うっ……」
視線を逸らそうとするテツロウ。
しかしリオは、
そんなテツロウを逃がさない。
「お兄様♪」
くるり、と。
リオは掌の上のテツロウの身体を、
優しく反転させる。
再び視線の先には――
眼前へ広がる巨大なタリア。
冬用の柔らかなニット。
揺れる銀紫色の髪。
少し赤くなった頬。
そして、
照れながらもこちらを見ている視線。
タリアは、
どこかくすぐったそうに笑った。
「……どうです?
ちゃんと似合ってますか?」
「いや……
だから近いって……」
「ふふ♪
お兄様、ちゃんと見て差し上げないと♪」
リオは楽しそうに微笑みながら、
さらに少しだけタリアの近くへ寄せた。
「リオ!?」
周囲では、
エミやリブラ達の楽しそうな笑い声が響いていた。
暖かな灯りの中。
冬の宴は、
まだゆっくりと続いていく。
鍋を囲みながら、
皆で料理を取り分けたり。
リブラがアイドル活動の話をしたり。
ミニがリウスへちょっかいを出したり。
エアリが笑顔で場をまとめたり。
暖かなログハウスには、
穏やかな笑い声が絶えず響いている。
そして。
冬の夜は、
少しずつ深まっていった。
その時だった。
コンコン――
ログハウスの扉が軽くノックされる。
「こんばんは~♪
遅くなりましたわ~」
聞き覚えのある、
柔らかな声。
扉が開き――
そこへ現れたのは、
ロングコート姿の銀水ピスカだった。
外の冷たい空気をまといながら、
ピスカは優しく微笑んでいる。
「ピスカさん!」
「こんばんはですわ♪」
エミやリオ達が、
嬉しそうに迎える。
ピスカはそんな皆を見渡しながら、
くすりと笑った。
「ふふ♪
とても楽しそうですわね」
そして。
その視線は、
リオの手の中にいるテツロウへ向けられる。
「テツロウちゃんも、
楽しんでいますか?」
「まあ、かなり賑やかだけどな……」
その言葉に、
ピスカは優しく微笑んだ。
冬の忘年会は、
まだまだ続いていく――
鍋の湯気。
暖かな灯り。
楽しそうな笑い声。
ログハウスの中には、
穏やかな冬の時間が流れていた。
楽しい時間というものは、
過ぎるのが早い。
気づけば、時計の針はかなり進んでいた。
「……ん。
もうこんな時間か」
リウスが時計を見ながら、小さく呟く。
その言葉に、
ピスカも優しく頷いた。
「ふふ♪
高校生の方たちは、
そろそろここまでですかね♪」
「えーっ」
ミニが少し不満そうに声を漏らす。
「もっと兄ちゃんと一緒にいたかったなー……」
そんなミニへ、
エミがくすくす笑った。
「ミニちゃん。
明日も会えますよ♪」
そして――
エミは、
少しだけ寂しそうにテツロウへ視線を向けた。
エプロン姿のまま、
どこか名残惜しそうに微笑む。
「……本当は、
もう少し兄さんと一緒にいたいですけど」
そう言いながら、
エミは小さく笑う。
そして。
エアリとリオへ視線を向けた。
「エアリさん。
リオ姉さん」
エミは大事そうに、
小さなテツロウを見つめる。
「兄さん、お願いしますね♪」
「はい♪」
「お任せくださいませ♪」
エアリとリオが、
優しく微笑みながら頷いた。
するとミニも、
名残惜しそうに手を振る。
「兄ちゃん、またねー!」
「テツ兄。
飲みすぎないように」
リウスも、
少しだけ苦笑しながらそう言った。
こうして――
高校生の三人は、
少し後ろ髪を引かれながら、
一足先に忘年会を切り上げていく。
ログハウスの扉が静かに閉まり。
部屋の中には、
少しだけ落ち着いた空気が残された。
しばらくの間。
エミ達が使っていた食器を片づけたり、
鍋を少し整理したりと、
皆でゆったり後片づけを進めていく。
「タリアさん、それお願いします♪」
「了解です」
「リブラさん、そっちは大丈夫ですか?」
「はーい♪」
賑やかだった大広間も、
少しずつ静かな夜の空気へ変わっていった。
■第七章 第七話へ続く
第七章 第六話をお読みいただき、
ありがとうございました。
今回は忘年会 前半でした。
賑やかな料理の時間から始まり、
タリアへの誕生日プレゼント、
そしてピスカさんの合流まで。
年末らしい、温かく楽しい一夜になったのではないかなと思います。
忘年会はまだまだ続きます。
引き続き、冬の宴をお楽しみいただければ幸いです。
ご感想やご意見など、お待ちしております。
※挿絵はAIを用いて作成しています。
AIの仕様や制約により、
作者のイメージ通りに再現できていない部分もありますが、
あくまで参考イメージとして補完しながら
お楽しみいただければ幸いです。
次回は9月1日(火)公開予定です。
ご感想やご意見など、お待ちしております。




