外伝Ⅱ 不思議なテツロウの対戦格闘ゲーム ④
“ULTRA EASY”な格闘ゲームも、いよいよ終盤戦。
残る対戦は、ピスカ、そしてリオとの二戦です。
■外伝II④
【前回のあらすじ】
・シグマワールドの格闘ゲームは続き、
ミニ、リウス、エミ、エアリ、タリアとの
対戦が行われた
・“やさしい攻撃”の中で、
テツロウは複数の必殺技を習得していく
・残る対戦はあと二戦、
ゲームは終盤へと差し掛かっていた
その瞬間――
空間が、再び光を帯びる。
STAGE6
白銀世界(雪景色)
次の瞬間。
視界が、白に包まれた。
「……っ」
思わず目を細める。
どこまでも続く、白い世界。
雪が、静かに降り続いている。
「……さぶっ……」
テツロウは肩をすくめた。
吐く息が、白くなる。
足元の雪が、きしりと音を立てた。
そのまま、顔を上げる。
巨大な彼女たちを見上げる。
「タリアちゃん達は……寒くないの?」
思わず気遣うように言う。
タリアは、少しだけ首をかしげた。
「テツロウ氏」
淡々とした声。
「私は……何故か大丈夫ですよ」
自分の手元を軽く見て。
「この見た目でも」
そして、視線を横へ向ける。
「みんなは?」
エアリが、やわらかく応じた。
「テツロウさん」
落ち着いた声。
「私も大丈夫ですよ……」
少しだけ考えるように間を置いて。
「ここの世界では」
静かに続ける。
「私たちとテツロウさんでは、
温度の感じ方も違うのかしら?」
「……なるほどな」
テツロウは小さく息を吐く。
白い息が、すぐに空気に溶けていく。
「ほんとに、なんでもありだなこのゲーム……」
タリアは、テツロウの様子を見て小さく頷いた。
「テツロウ氏」
落ち着いた声で呼びかける。
「寒いとは思いますが――」
わずかに間を置く。
「まもなく、対戦が始まりますので」
そのまま、やさしく続ける。
「こちらへ」
そっと手を下ろす。
雪原の上へ――
テツロウを丁寧に降ろした。
きゅっ、と雪が軽く沈む。
足元から、ひんやりとした感覚が伝わる。
「うわ……やっぱり冷たいな」
テツロウは思わず肩をすくめる。
その瞬間――
静まり返っていた白銀の世界に、
わずかな光が、揺れた。
空気が、少しだけ変わる。
「……?」
テツロウは顔を上げる。
雪の中に――
淡い青白い光が、ゆっくりと広がっていく。
空気が、少しだけ変わる。
冷たさの中に――
やわらかな温もりが混ざる。
「この感じ……」
次の瞬間。
その光の中心から――
ゆっくりと、一人の影が現れた。
「お待たせしました」
穏やかな声。
どこか、包み込むような響き。
「次は、私ですね」
「ピスカ……!」
テツロウが呟く。
そこに立っていたのは――
白銀の世界に溶け込むような、
長い銀の髪を揺らす、巨大なピスカの姿。
その周囲には、
淡い光の粒が、静かに舞っている。
エアリが、少し微笑む。
「順番通りですね」
タリアも小さく頷く。
「はい。次はピスカさんです」
ミニは嬉しそうに声を上げる。
「ピスカお姉ちゃんだー!」
リウスも静かに視線を向ける。
「……来たね」
ピスカは、ゆっくりとテツロウの方へ近づく。
雪を踏む音は、ほとんどしない。
そして――
そっと身をかがめた。
視線の高さが、テツロウに近づく。
「寒かったでしょう?」
やさしい声。
そのまま、手を差し出す。
ふわり、と。
テツロウの体が持ち上げられる。
「え……?」
そのまま、ゆっくりと引き寄せられる。
冷えた体が、
じんわりと温もりに包まれていく。
「少しだけ……」
穏やかに続ける。
「温めてあげますね」
「……あったかい」
テツロウは思わず呟く。
さっきまでの冷気が、嘘のように消えていく。
ピスカは、やさしく微笑んだ。
「それでは――」
ほんの少しだけ、表情を引き締める。
「始めましょうか」
FIGHT START
ピスカは、やさしく微笑んだまま――
ほんの少しだけ、距離を近づける。
「もう少し、強めにいきますね」
その声は変わらず穏やかだが、
周囲の光が、わずかに強まった。
次の瞬間。
魔法陣が、ゆっくりと回転し始める。
「……っ」
テツロウは思わず身構える。
だが――
逃げる必要は、なかった。
ふわり、と。
さらに深い温もりが、体を包み込む。
先ほどよりも、明らかに強い。
だが――
苦しくない。
むしろ、心地よい。
「……なんだ、これ」
思わず呟く。
体の奥から、じんわりと満たされていく感覚。
力が、抜ける。
そして同時に――
軽くなる。
「これが……」
ピスカは静かに言う。
「私の攻撃です」
「攻撃……?」
テツロウは戸惑う。
「これ、どう見ても……回復だろ……」
ピスカは、くすっと微笑んだ。
「そうですね」
やさしく頷く。
「でも、戦闘としては――成立しています」
その言葉と同時に。
魔法陣の光が、ふっと弾けた。
雪が、静かに舞い上がる。
「……!」
テツロウは、ふわりと宙に浮いた。
まるで、軽く押し出されたように。
「うわっ!?」
バランスを崩す。
だが、落ちる前に――
ピスカが、そっと受け止めた。
「大丈夫ですよ」
やさしい声。
そのまま、静かに支える。
「……いや、だから」
テツロウは苦笑する。
「これ、本当に戦いなのか……?」
ピスカは、少しだけ首をかしげた。
「どうでしょう」
柔らかく答える。
そして。
ほんの少しだけ、表情を引き締める。
「でも――」
その視線が、まっすぐに向けられる。
「テツロウちゃんの番、ですね」
やさしく、促す。
「反撃、してみてください」
「……またか」
テツロウは小さく息をつく。
だが――
やるしかない。
「えーと……」
頭の中に浮かぶ、新しい技。
「ロケット……なんだっけ」
少しだけ考えて。
そして――
「ロケットブーム!」
叫ぶ。
その瞬間。
体が、一気に前へと押し出された。
「うおっ!?」
まるで弾かれたように――
一直線に突っ込む。
ドン。
軽い衝撃。
ピスカに当たる。
だが――
やさしく受け止められる。
「……」
ピスカは、そのまま動きを止めた。
少しだけ目を閉じる。
そして。
ゆっくりと、目を開いた。
「……なるほど」
小さく頷く。
「推進力を利用した、直線的な技ですね」
そして――
ふっと、微笑んだ。
「降参です」
そのまま、やさしくテツロウを支える。
「とても良い技でした、テツロウちゃん」
「……そうか?」
テツロウは戸惑う。
だが――
確かに、勝ったらしい。
ミニが、すぐに声を上げる。
「すごーい!」
「今のも面白かった!」
リウスも静かに頷く。
「直線型の技……か」
「分かりやすいね」
エミは、少し嬉しそうに微笑んだ。
「兄さん、どんどん強くなってますね」
タリアも小さく呟く。
「成長速度、想定以上です」
ピスカは、やさしく頷いた。
「次で、最後ですね」
ピスカの温もりの中で――
テツロウは、小さく息をついた。
「……あったかいな」
その時。
黒縁のメガネに、再び淡い光が走る。
視界の端に、新たな表示が浮かび上がった。
特殊技:スペシャルコンボ を覚えた
「……またか」
テツロウは苦笑する。
だが、これまでとは少し違う。
「特殊技……?」
思わず呟く。
「必殺技じゃないのか……」
ピスカは、その表示を見てやさしく頷いた。
「いよいよですね」
穏やかな声。
タリアも小さく反応する。
「複合動作……なるほど」
エアリは少し楽しそうに笑う。
「面白くなってきましたね」
その時――
ミニがぱっと顔を輝かせた。
「スペシャルコンボかあ!」
ぐっと身を乗り出す。
「それ絶対、面白いやつの詰め合わせじゃん!」
「……詰め合わせって」
テツロウは思わずツッコむ。
リウスも小さく笑った。
「ミニ君らしい言い方だね」
そして、静かに続ける。
「でも……たぶん合ってる」
テツロウは、小さく息を吐いた。
「……ほんとに、最後なんだな」
その瞬間――
再び、空間が光を帯びる。
白銀の世界が、ゆっくりと消えていく。
「……来るか」
テツロウは、小さく呟いた。
FINAL STAGE
特大マット
「……は?」
テツロウは思わず固まる。
「最後に……特大マットって、なんだよ……?」
これまでのステージとは、あまりにも違う。
山岳、雪原と来て――
いきなり、日常的すぎる単語。
「いや、待て……」
眉をひそめる。
「これ、絶対ろくなことにならないだろ……」
ミニが、ぱっと反応する。
「えー、楽しそうじゃん!」
リウスも小さく笑う。
「確かに……気になるね」
エミは少しだけ首をかしげる。
「兄さん、最後のステージ……です」
エアリはくすっと笑った。
「どうなるのかしらね」
タリアも冷静に呟く。
「環境の意図……不明です」
ピスカは、やさしく微笑む。
「でも――きっと、大丈夫ですよ」
「……その“きっと”が一番怖いんだが」
テツロウは小さくため息をついた。
ピスカは、そっと身をかがめる。
そのまま――
テツロウを、やさしく持ち上げたまま移動する。
そして。
白く広がる空間の中央へと手を運ぶ。
「ここで、大丈夫ですね」
穏やかな声。
ゆっくりと手を下ろす。
特大マットの真ん中へ――
テツロウを丁寧に降ろした。
ふわり、と。
足元が沈む。
やわらかい。
だが、しっかりと受け止められている感触。
「……なんだこれ」
テツロウは思わず呟く。
そのまま、周囲を見渡す。
広い。
あまりにも、広い。
テツロウの目から見れば――
そのマットは、
まるで一面に広がる大地のようだった。
どこまで行っても、同じ白。
境界すら、見えない。
「……特大って、そういう意味かよ」
小さく息をつく。
その時――
マットの奥で、ゆっくりと空気が揺れた。
「……?」
テツロウは顔を上げる。
広大な白の中に――
ひとつの影が、静かに現れる。
ゆっくりと。
まるで舞うように、歩いてくる。
「……来たか」
テツロウは小さく呟く。
そして。
その姿が、はっきりと見えた。
「お待ちしておりましたわ」
やわらかく、気品のある声。
「お兄様」
リオが、優雅に微笑む。
そのまま、ゆっくりと歩み寄る。
特大マットの上を、軽やかに。
「この素敵な舞台で――」
ほんの少し、間を置く。
視線が、まっすぐに向けられる。
「お兄様と……」
その言葉は、途中でふっと消えた。
だが。
その続きを、想像させるには十分だった。
テツロウは、思わず苦笑する。
「……最後まで、それかよ」
リオはくすっと笑う。
「ええ」
やわらかく頷く。
「最後ですもの」
その瞬間――
空気が、わずかに張りつめた。
リオは、ふわりと微笑む。
「お兄様。いきますわよ」
待ちに待った――
そんな響きを含んだ声。
そのまま、ゆっくりと歩き出す。
大きな体が、静かに近づいてくる。
特大マットが、わずかに沈む。
「……来る」
テツロウは小さく呟く。
そして――
リオは、そのままテツロウの真上で足を止めた。
影が、落ちる。
ゆっくりと見下ろす視線。
「お兄様?」
やわらかな声。
「どうです?」
ほんの少しだけ間を置く。
「私の最初の攻撃は……」
テツロウは、思わず見上げる。
視界いっぱいに広がる――
リオの姿。
足元から。
そのまま、空へと伸びていくような巨大な体。
見上げても、見上げても、
その全体は、収まりきらない。
「……でかすぎだろ……」
思わず漏れる声。
リオは、そのまま静かにテツロウを見下ろした。
「お兄様、続けていきますわよ」
静かに告げる。
次の瞬間。
その大きな体が、ゆっくりと沈み始めた。
「……っ」
テツロウは息をのむ。
視界が――暗くなる。
巨大な影が、さらに広がっていく。
そして。
リオは、そのまま両膝をついた。
どん、と。
やわらかなはずのマットが、わずかに揺れる。
目の前に迫る、圧倒的な存在感。
逃げ場は、ない。
「どうですか?」
やわらかな声が、上から降りてくる。
「お兄様」
テツロウは、思わず見上げた。
近い。
あまりにも、近い。
「これが……攻撃なのか……?」
リオは、そのまま優雅に両手を広げた。
「お兄様、ファイナルステージですもの」
静かに言葉を重ねる。
「もう少し、攻撃しますわね」
そのまま、ゆっくりと両手を動かした。
テツロウの周囲を、
そっと囲むように。
「……っ」
テツロウは思わず息をのむ。
まだ触れていない。
だが――
逃げ場が、消えていく。
「安心してくださいませ」
穏やかな声。
「逃げ場は、ありませんけれど」
ふわり、と。
空気が変わる。
やわらかいのに、
確かな圧が、周囲を満たす。
包まれている。
触れられていないのに――
完全に、捕まっている感覚。
「……なんだこれ」
テツロウは小さく呟く。
「全部、受け止められてるみたいな……」
リオは、静かに頷いた。
「ええ」
やさしく微笑む。
「お兄様のすべて――」
ほんの少しだけ、目を細める。
「受け止めて差し上げますわ」
リオは、やさしく微笑む。
「では――お兄様」
ほんの少しだけ間を置く。
「反撃を」
そのまま、静かに視線を向ける。
テツロウは、小さく息を吐いた。
「……だったら!」
「スペシャルコンボでいく!」
踏み込む。
その瞬間――
体が、自然に動いた。
「星竜拳!」
下から突き上げるように飛び上がり、
リオの体をかすめて、
そのまま――止まらない。
空中で回転する。
「……っ!?」
流れが、つながる。
「竜座旋風脚!」
回転する足が、二度。
リオの体に、やさしく触れる。
だが――終わらない。
「まだ……!」
一直線に加速する。
「ロケットブーム!」
ドン、と軽く触れる。
その瞬間――
動きが、さらに繋がった。
光が、ふわりと広がる。
「なんだこれ……!」
テツロウは驚く。
「止まらない……!」
流れのままに、
最後の動きへと導かれる。
そして――
両手を、そっと重ねる。
「彗星合掌波!」
「……!」
小さな掌が、
リオの体へと触れる。
ふわり、と。
一度。
やさしく、押し込む。
遅れて――
もう一度。
重ねるように、
静かに、押し込んだ。
その瞬間。
光が、内側から弾けた。
「……っ」
リオの体が、わずかに震える。
逃げない。
だが――
確かに、届いた。
ほんの一瞬、
目を見開く。
そして――
ふっと力を抜いた。
「……お兄様」
やわらかな声。
少しだけ、困ったように微笑む。
「ずるいですわ……」
ほんの少しだけ間を置く。
「それは……耐えられません」
そのまま、ゆっくりと目を閉じる。
そして。
やさしく頷いた。
「……降参です」
リオは、ゆっくりと息を整えた。
そして――
やさしく微笑む。
「お兄様……」
そのまま、そっと手を伸ばす。
ふわり、と。
テツロウの体を包み込むように持ち上げる。
「可愛い連続技……たまりませんわ」
頬を少しだけ緩めながら、
そのままやさしく抱き寄せる。
包み込むような温もり。
「ちょ、ちょっと待て……!」
テツロウは思わず声を上げる。
だが――
その手つきは、どこまでも優しかった。
ミニが、ぱっと声を上げる。
「兄ちゃん、やっぱり面白い!」
嬉しそうにぴょんと跳ねる。
「その連続技、最高だよ!」
エミも、少しだけ頬を染めながら微笑む。
「リオ姉さん、いいなあ……」
視線はテツロウへ。
「兄さんの連続技、とても……」
ほんの少しだけ言葉を選ぶ。
「とても、可愛らしくて」
リウスも静かに頷く。
「流れるように繋がってたね」
「すごく、綺麗だった」
タリアは腕を組み、小さく分析する。
「複合動作の完成形……」
「実用性も高そうです」
エアリはくすっと笑った。
「見ていて楽しかったです」
「最後にぴったりですね」
ピスカは、やさしく微笑む。
「とても素敵でしたよ、テツロウちゃん」
テツロウは、リオに抱えられたまま――
小さくため息をついた。
「……なんなんだ、このゲーム」
だが。
その顔には、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。
その時――
ふわり、と。
特大マットの中央に、小さな光が集まった。
やがて、それは形を成す。
宝箱だった。
「……お約束かよ」
テツロウは苦笑する。
だが――
どこか納得している自分もいた。
ゆっくりと近づく。
そして、そっと手をかけた。
開く。
淡い光があふれ出す。
その中に――
ひとつの輝き。
手に取る。
――――――――――
TYPE:Σ
ID:310612
STATUS:VALID
――――――――――
「スターライト……」
テツロウは小さく呟く。
その瞬間――
視界が、白に染まった。
次の瞬間。
テツロウは、見慣れた場所に立っていた。
青星家・地下二階。
静かな空間。
何事もなかったかのように、
いつもの装置がそこにある。
「……戻ったのか」
小さく息をつく。
ふと、手元を見る。
そこには――
ひとつのパッケージ。
「シグクエファイター2X」
「……これか」
テツロウは、それを軽く持ち上げる。
少しだけ考えて。
そして――
小さく笑った。
「まあ……」
肩の力を抜く。
「皆で格闘ゲームするのも、悪くないな」
外伝II 終わり
外伝II④をお読みいただき、ありがとうございました。
シグマワールドでの“不思議な格闘ゲーム”も、これにて終了です。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
次回からは、本編・第七章が始まり
8月11日(火)公開予定です。
これからも『不思議な宇宙のもとで』を、よろしくお願いいたします。




