外伝Ⅱ 不思議なテツロウの対戦格闘ゲーム ③
“ULTRA EASY”な格闘ゲームは、まだまだ続行中。
テツロウは新たな必殺技を覚えながら、次々とステージを進んでいきます。
■外伝II③
【前回のあらすじ】
・テツロウは「シグクエファイター2x」で
シグマワールドへ転送された
・ミニ、リウス、エミと対戦するも、
どれも“やさしい攻撃”で勝敗が決まる
・なぜか必殺技「星竜拳」を習得し、
ゲームはまだ続くと知る
エミは、やさしく微笑んだ。
「さあ、兄さん」
掌の上にいるテツロウへと視線を向ける。
「皆さん待っていますので……次のステージへ」
その声は、どこまでも穏やかだった。
ミニはすぐに身を乗り出す。
「兄ちゃん!」
楽しそうに笑う。
「まだまだ楽しめるって、このゲーム!」
「次はどんなのかなー!」
リウスも静かに視線を向ける。
「テツ兄」
落ち着いた声。
だが、その瞳にはわずかな期待があった。
「この先、どんな感じになるんだろうね」
テツロウを見つめながら、そっと言う。
テツロウは、小さく息をつく。
そして――
「……次いくか」
その一言をきっかけに。
空間が、再び光り出した。
STAGE4
砂丘(夕景)
次の瞬間。
景色が、大きく書き換わる。
水鏡の静寂が消え――
視界いっぱいに、橙色の光が広がった。
「……まぶし」
思わず目を細める。
どこまでも続く砂の波。
沈みかけた太陽が、空を赤く染めている。
その時。
エミが、そっと手を下ろした。
「兄さん」
やさしく呼びかける。
掌の上にいたテツロウを――
砂の上へと、静かに降ろす。
さらり、と足元の砂が流れる。
「ここなら、戦いやすいと思います」
柔らかい声。
そして、にこっと微笑む。
「兄さん、がんばってくださいね」
「……ああ」
テツロウは苦笑しながら頷く。
その直後――
長く伸びた影が、砂の上に差した。
「……?」
顔を上げる。
熱を帯びた風が、ゆっくりと流れた。
「来ましたね」
落ち着いた声。
砂丘の向こう。
夕日に照らされて――
赤い髪が、大きく揺れていた。
「エアリ……!」
テツロウが呟く。
そこに立っていたのは、
紅い装束に身を包んだ、巨大なエアリの姿。
エアリは、くすっと笑った。
「テツロウさん達」
やわらかく呼びかける。
「また面白いゲームをしてて」
少し楽しそうに続ける。
「みんな待ってて、くじ引きで順番決めてるのよ」
「……くじ引き?」
テツロウは思わず聞き返す。
「ゲームってそういうものなのか……?」
ミニが元気よく口を挟む。
「そうだよー!」
「順番決めないとケンカになるし!」
リウスは小さくため息をつく。
「ミニ君だけでしょ、それ」
エアリはくすっと笑った。
「うふふ」
そして、ゆっくりと一歩踏み出す。
その足元の砂が、さらりと崩れる。
テツロウは、足を踏み出した。
だが――
ずぶり、と。
砂に足を取られる。
「うわっ……!」
踏ん張るが、うまく力が入らない。
「……動きにくいな、これ」
その様子を見て。
エアリは、ゆっくりと近づいてくる。
「足場が違うだけで、こんなに変わるんですね」
楽しそうに言う。
距離は、確実に縮まる。
「ちょっ……待て……!」
だが――止まらない。
エアリは、ゆっくりと腰をかがめた。
視線の高さが、テツロウに近づく。
「では……」
やわらかな声。
「魔法、使いますね……テツロウさん」
そのまま、そっと手を差し出す。
ふわり、と。
テツロウの体が持ち上げられる。
「え……?」
気づいた時には――
エアリの掌の上。
そのまま、引き寄せられていく。
「ファイアー」
小さく呟く。
ふわり、と。
やさしい熱が広がる。
「あれ……?」
熱い、というより。
あたたかい。
「温もりマシマシ、です」
エアリは微笑む。
「どうです? 熱くなりました?」
「いや、これは……」
テツロウは戸惑う。
エアリは、さらに続ける。
「もう少し……魔法、使いますね」
もう片方の手も添える。
「ダブルファイアー」
左右から、温もりが重なる。
「うわっ……!」
「これ……さっきより……!」
エアリは楽しそうに覗き込む。
「さらに熱くなりました?」
「いや、ただあったかいだけじゃ……」
エアリは、くすっと笑った。
「うふふ」
「では……次は」
やさしく言う。
「テツロウさん、反撃してください」
「必殺技、使ってみせてください」
「え……」
テツロウは戸惑う。
「……なんだそれ」
だが――
「せいりゅーけん!」
叫ぶ。
体が回転し、跳び上がる。
「うおっ!?」
そのまま拳を突き出す。
トン。
エアリに当たる。
「……あ」
エアリは微笑む。
「強すぎです、その技……」
「降参です」
落ちるテツロウを、やさしく受け止める。
そのまま胸元へと引き寄せる。
「テツロウさん」
「強化魔法です」
「どうぞ……」
じんわりと温もりが広がる。
「……またこれか」
テツロウは苦笑する。
その時――
黒縁のメガネに、再び淡い光が走った。
視界の端に、新たな表示が浮かび上がる。
必殺技:竜座旋風脚 を覚えました
「……また、必殺技……」
思わず呟く。
覚えた実感は、まったくない。
だが確かに、何かが増えている。
エアリは、楽しそうに目を細めた。
「今度は……どんな必殺技なのかしら」
くすっと笑う。
「楽しみね」
その横で。
エミが、少しだけ頬を膨らませた。
「私も……」
ぽつりと呟く。
「兄さんに、必殺技使ってもらいたかったな……」
どこか、名残惜しそうな表情。
テツロウはその様子を見て、小さく息をつく。
「……順番、あるんだろ?」
「くじ引きで決めてるんだし」
ミニがすぐに反応する。
「そうだよー!」
「ちゃんと順番だからね!」
リウスも軽く頷く。
「次があるってことだね」
テツロウは、少しだけ肩をすくめた。
「……ほんとに、終わらないなこれ」
テツロウが小さく呟く。
その時。
エアリが、くすっと笑った。
「では――」
やわらかく声をかける。
「次も控えてることですし」
そのまま、そっとテツロウを胸元へと添えながら。
「次も、行きましょうか」
穏やかな声。
だが、その言葉には迷いがない。
テツロウは、少しだけ苦笑する。
「……はいはい」
軽く肩をすくめる。
もう流れには逆らえない。
ミニはすぐに反応する。
「やったー!次だね!」
リウスも静かに頷く。
「まだまだ続くみたいだね」
エミは、どこか嬉しそうに微笑んでいた。
「うふふ……」
その瞬間――
再び、空間が光を帯びる。
STAGE5
山岳(雲海)
次の瞬間。
景色が、一変した。
「……っ」
思わず息をのむ。
エアリに添えられたままのテツロウは――
そのまま、山岳地帯へと転送されていた。
足元には、切り立った岩肌。
そして――
眼下には、白い雲が広がっている。
「雲……?」
違う。
見下ろしている。
遥か下に、雲海が広がっているのだ。
まるで、空の上に立っているような感覚。
「た、高っ……!」
思わず声が漏れる。
その視線を、ゆっくりと上げる。
巨大な彼女たちにとっても、
この場所はそれなりの標高らしい。
流れる雲海が――
彼女たちの腰のあたりに、ゆるやかにかかっている。
その中に立つ姿は、
まるで雲を纏っているかのようだった。
「……すごいな、これ」
テツロウは呆然と呟く。
風が強く吹き抜ける。
だが、エアリのそばにいることで、
不思議と恐怖は薄れていた。
エアリは、そっと手を下ろした。
切り立った岩の中でも、少しだけ平らになった小高い場所へ――
テツロウを優しく降ろす。
「ここなら、大丈夫ですね」
やわらかな声。
テツロウの足元はしっかりしているが、
その先には、すぐ雲海が広がっている。
「……っ」
思わず息をのむ。
そして、顔を上げる。
そこにあるのは――
エアリの姿。
その距離は、あまりにも近い。
視線の高さは、ちょうど腹部のあたり。
見上げる形になる。
「……近い……」
思わず呟く。
エアリは、その様子を見て、くすっと笑った。
「テツロウさん」
やさしく呼びかける。
「もっと見ていてもいいのですけど――」
少しだけ間を置いて。
そのまま、穏やかに続ける。
「次の対戦、始まりますので」
その言葉と同時に――
風が、強く吹き抜けた。
雲海が、ゆっくりと流れる。
その中に――
細く、鋭い影が走った。
「……っ?」
テツロウは思わず目を凝らす。
次の瞬間。
――ヒュンッ!
風を切る音。
視界の端を、何かが横切った。
「なっ……!?」
その正体を捉える前に。
すでに――
目の前に、立っていた。
「……到着、かな」
落ち着いた声。
少しだけ、間の抜けたような調子。
だが。
その立ち姿には、隙がない。
「タリア……!」
テツロウが呟く。
そこにいたのは――
紫の髪を揺らす、巨大なタリアの姿。
軽装の装備。
手には、大きな弓。
そのまま、軽く肩に担いでいる。
「うん」
小さく頷く。
「次、私の番」
さらりと言う。
まるで作業の続きのように。
ミニが嬉しそうに声を上げる。
「タリアちゃんだー!」
「やったー!」
リウスは少しだけ目を細める。
「タリアさんか……」
静かに観察するような視線。
エアリは、くすっと笑った。
「順番通り、ですね」
タリアは、ゆっくりと弓を構えた。
そして――
その巨大な弓を、天へと向ける。
「ライトニングアロー」
放たれた矢は、空高く舞い上がる。
次の瞬間。
――閃光。
空が、ぱっと明るく照らし出された。
「うわっ……!」
テツロウは思わず目を細める。
雲海も、山肌も。
すべてがくっきりと浮かび上がる。
「どうです、テツロウ氏」
淡々とした声。
「ちゃんと見えていますか?」
「……っ」
テツロウは思わず顔をそらしかける。
距離が近い。
明るすぎる。
「直視できない……」
タリアは、わずかに頷いた。
「では――」
「もう少し、攻撃を続けますね」
そのまま。
テツロウをそっと脇に下ろす。
足場の安定した場所へ、丁寧に。
そして――
再び弓を構えた。
天へ向けて、静かに引き絞る。
「天使の矢」
放たれた矢は、まっすぐ空へと昇る。
次の瞬間。
空が、やわらかく光った。
淡い光が、ゆっくりと降り注ぐ。
まるで――
雲の上から、優しく包まれているような光。
「……なんだ、これ」
テツロウは見上げる。
まぶしくはない。
だが、どこか安心する光。
その時。
タリアが、すっと身を寄せた。
再び、やさしく手を伸ばす。
テツロウを持ち上げ――
ゆっくりと、自分のそばへと引き寄せる。
「どうです、テツロウ氏」
「温もり、感じますか?」
降り注ぐ光と。
近くにある体温。
ふたつの感覚が、重なる。
「……ああ」
テツロウは思わず呟く。
「なんか……あったかいな」
タリアは小さく頷く。
「そうですか」
「私にも……」
タリアは、わずかに目を細めた。
「では――」
「テツロウ氏の番ですぞ」
「反撃、してください」
「必殺技で」
「竜座旋風脚!」
テツロウは叫ぶ。
体が、ふわりと浮いた。
「うおっ!?」
回転する。
そのまま、風をまとったように動く。
ぐるり、と。
大きく円を描きながら――
足を振り抜く。
ヒュンッ!
軽い風切り音。
トン。
回転する足が、二度。
タリアの体にやさしく触れる。
「……」
タリアは、ぴたりと動きを止めた。
そのまま、目を閉じる。
ほんの数秒。
そして。
ゆっくりと、目を開いた。
「なるほど」
小さく頷く。
「面白い挙動です」
そして――
ふっと、表情を緩めた。
「降参です」
ミニが、目を輝かせる。
「いいなあ、タリアちゃん」
楽しそうに身を乗り出す。
「その技、面白そう……」
くるっと振り向く。
「ねえ、エミお姉ちゃん!」
エミは、少しだけ頬を緩めた。
「兄さんの足……」
視線を向ける。
くるくると回転していた動きを思い出しながら。
「可愛く回転していて……うらやましいです」
そして、少しだけ照れたように続ける。
「今度は、私にも……」
タリアは、そっとテツロウを受け止めたまま――
そのまま胸元へとやさしく添える。
「テツロウ氏」
落ち着いた声。
だが、どこか少しだけ楽しそうだ。
「あと二戦ですぞ」
そのまま、軽く視線を向ける。
「次の戦いも……きっと楽しめますよ」
「……まだあるのか」
テツロウは小さく息をつく。
その時――
黒縁のメガネに、再び淡い光が走った。
視界の端に、新たな表示が浮かび上がる。
必殺技:ロケットブーム を覚えました
「……またかよ」
思わず呟く。
もはや驚きはない。
だが、増えていく。
確実に。
タリアはその様子を見て、小さく頷いた。
「なるほど」
淡々とした口調。
「戦闘ごとに、新しい技を習得する仕様のようですね」
少しだけ目を細める。
「面白いシステムです」
テツロウは苦笑する。
「いや……使い方わからないんだが」
ミニはすぐに反応する。
「いいなあ!」
「次はそれ使うんでしょ?」
リウスも静かに続ける。
「まだ見てない動きだね」
エミは、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
「兄さんの新しい技……楽しみです」
テツロウは、軽く肩をすくめる。
「……もう流れに乗るしかないな」
その瞬間――
再び、空間が光を帯びる。
外伝II④へ
外伝II③をお読みいただき、ありがとうございました。
エアリ、タリアとの対戦を経て、
テツロウの必殺技も少しずつ増えてきました。
次回はいよいよ終盤戦――。
外伝II④は、8月7日公開予定です。




