外伝Ⅱ 不思議なテツロウの対戦格闘ゲーム ②
シグマワールドで始まった、
“ULTRA EASY”な格闘ゲーム。
第一ステージを終えたテツロウの前に、
次々と新たなステージが現れます。
【前回のあらすじ】
・タリアのもとに届いた対戦格闘ゲームを起動
・シグマワールドへ転送されたテツロウ
・巨大なミニとの初戦は、
“ULTRA EASY”らしい不思議な決着となった
ジャングルの地面に、仰向けに倒れたまま。
ミニは満足そうに笑っていた。
「えへへ……」
そのまま、そっと。
テツロウの体を優しく持ち上げる。
「兄ちゃん!」
ぱっと顔を近づける。
すり、すり。
頬に押し当てながら、嬉しそうに言う。
「次いこう!次!」
完全に楽しんでいる様子だ。
「ち、ちかい……!」
テツロウは顔をしかめる。
柔らかさと温もりに包まれながら、必死に声を出す。
「このまま……次いくのか……?」
その時――
空間が、再び光り出した。
STAGE2
江戸
文字が浮かび上がる。
次の瞬間。
景色が、ゆっくりと書き換わっていく。
木々が消え。
土の匂いが薄れ。
代わりに――
木造の建物が立ち並ぶ街並み。
瓦屋根。
砂の道。
遠くに見える、城の影。
「……江戸?」
テツロウは呆然と呟く。
だが。
その頬には、まだミニの温もりが残っていた。
「えへへー」
ミニは満足そうに笑う。
そして、優しく。
テツロウを地面へと下ろした。
「はい、兄ちゃん」
「次はリウスちゃんと遊ぶんだね」
そのまま、しゃがみ込む。
嬉しそうに、テツロウを見つめる。
「がんばってね!」
NEXT FIGHTER APPROACH
江戸の街並み。
静かな空気が、一瞬だけ張りつめる。
その時――
影が、差した。
「……?」
テツロウは顔を上げる。
次の瞬間。
江戸の街並みを見下ろすように――
巨大なリウスが、静かに立っていた。
その視線が、すっと落ちる。
テツロウを捉える。
「テツ兄、いくよっ!」
次の瞬間。
しなやかな動きで、一気に距離を詰めてくる。
「っ!?」
速い。
ミニとはまったく違う。
だが――
振り下ろされるはずの刀は、動かない。
その代わりに。
そっと。
テツロウの体を、やさしく持ち上げた。
「……え?」
ふわりと浮く。
そのまま。
ぐっと、顔が近づく。
大きな瞳が、すぐ目の前にあった。
「テツ兄……」
じっと見つめる。
「ち、近い……」
テツロウは思わず顔をそらす。
リウスは少し首をかしげた。
「どうかな、私の攻撃」
「これが攻撃??」
テツロウは戸惑う。
「どういうことなんだ……」
リウスは小さく考え込む。
「……これじゃだめなのかな」
そして。
そっとテツロウを――
五重塔の屋根へと置いた。
「うわ……」
足元がぐらつく。
下を見れば、遥か下に広がる江戸の街。
「た、高い……」
思わず足がすくむ。
その様子を見て。
リウスは、少しだけ躊躇いながら――
小さく息を吸った。
「……忍法」
一瞬、間を置く。
そして。
「もえもえキュン」
ほんの少しだけ、恥ずかしそうに。
両手でハートを作る。
「もえもえキュンキュン……」
そのまま、テツロウへと迫る。
「テツ兄……どう?」
期待するような目。
「これも攻撃なのか……?」
テツロウは完全に混乱していた。
リウスは、さらに興味深そうに言う。
「テツ兄も、反撃してよ」
「いや、この状況でどうしろって……」
五重塔の上。
逃げ場はない。
だが――
「……やるしかないか」
テツロウは覚悟を決めた。
そして。
屋根の端から、一気に踏み出す。
「うおおっ!」
飛び蹴り。
そのまま――
リウスへと突っ込む。
トン。
軽い衝撃。
リウスの肩に当たる。
「……テツ兄」
小さく呟く。
その直後。
落下するテツロウを――
優しく掌で受け止めた。
ふわりと。
包み込むように。
「テツ兄の攻撃……」
静かに言う。
「効きました」
そのまま、柔らかく笑った。
「降参します」
「……え?」
テツロウは、状況が理解できない。
掌の上に乗せられたまま。
江戸の街を見下ろしながら――
「……これ、本当に格闘ゲームなのか?」
その時。
「兄ちゃんもリウスちゃんも、面白い!」
ミニが嬉しそうに声を上げる。
そのまま、すっと身を乗り出し――
またテツロウへと顔を近づけてくる。
「えへへ、もう一回――」
頬ずりしようと迫る、その直前。
「……ミニ君」
リウスの声が、静かに割って入った。
「その、少し過激なのが心配だったので」
すっと手を伸ばし――
テツロウを優しく持ち上げる。
そのまま、掌の上で支えた。
大きな瞳が、じっとテツロウを見つめる。
「大丈夫?」
「……ああ、まあ」
テツロウは苦笑する。
そのやり取りを見て。
ミニは少しだけ頬を膨らませた。
「むー……」
だがすぐに、表情を緩める。
「でも、これも面白いからいいかな」
あっさり納得する。
そして。
ぱっと顔を上げた。
「それより!」
ぐっと身を乗り出す。
「次いこうよ、兄ちゃん!」
完全に次のステージへ意識が向いている。
「え、もうか……?」
テツロウは戸惑いながらも呟く。
そして――
空間が、光り出した。
STAGE3
水鏡
次の瞬間。
景色が、静かに書き換わっていく。
江戸の街並みが消え――
視界が、一面の青に包まれた。
「……?」
そのまま。
テツロウは、リウスの掌の上に抱えられたまま――
新たな空間へと立っていた。
見下ろす。
そこに広がっていたのは、水面。
青空と雲が、そのまま映り込んでいる。
だが――
ただの水ではない。
ちゃぷん、と音がした。
リウスの足元。
その足首のあたりまで、水がわずかに揺れている。
「……浅い?」
そう思った瞬間。
視線を落としたテツロウの背に、
ひやりとした感覚が走る。
その水の下は――
ずっと、深く続いているように見えた。
思わず息をのむ。
「これ……落ちたら……」
言いかけて、言葉が止まる。
その時。
「つめたーい!」
ミニの楽しそうな声が響いた。
しゃがみ込み、水をすくう。
ぱしゃっ、と手のひらで弾く。
「えへへ、これ――」
そのまま。
リウスとテツロウへ向かって、水をかけようとする。
「……ミニ君!」
リウスがすぐに制止する。
「つめたい、待って」
そして、少しだけ慌てた声で続ける。
「テツ兄が――」
その言葉に、ミニはぴたりと止まる。
「あ……」
一瞬きょとんとして。
すぐに、申し訳なさそうな顔になる。
「ごめんね、兄ちゃん」
小さく謝る。
だが――
次の瞬間には、もう笑顔に戻っていた。
「でもさ!」
ぱっと顔を上げる。
「これから、まだ遊ばないとだよね!」
完全に次へ進む気満々だ。
リウスは小さく息をつきながらも、頷いた。
「……そうだね」
そして、ゆっくりと手を下ろす。
その先――
水面の上に、小さな筏が浮かんでいた。
木で組まれた、簡素な足場。
リウスはそこへ、そっとテツロウを下ろす。
「ここなら大丈夫」
優しい声。
テツロウは、筏の上に立つ。
「……助かった」
小さく息をつく。
水面を見下ろす。
すぐそこにあるのに――
どこか、底知れない深さを感じる。
だが。
筏の上だけが、確かな足場だった。
その時――
水面が、静かに揺れた。
広がる波紋。
その奥から。
新たな気配が、ゆっくりと近づいてくる。
水面が、静かに揺れた。
広がる波紋。
その奥から――
やわらかな光が、滲むように現れる。
「……?」
テツロウは思わず目を細める。
ゆっくりと。
その光の中から、ひとつの影が浮かび上がる。
足元の水を、そっと踏みしめるように。
静かに、こちらへ歩いてくる。
波紋が、やさしく広がる。
「……兄さん」
やわらかな声。
聞き慣れた響き。
「エミ……!」
思わず声が漏れる。
そこにいたのは――
青い長い髪を揺らす、エミの姿。
その体は、やはり巨大だった。
水面に立つその姿は、まるで――
空の中に浮かんでいるようにも見える。
優しく微笑みながら、こちらを見下ろしている。
「大丈夫でしたか?」
ゆっくりと近づいてくる。
その一歩ごとに、足元の水が静かに揺れる。
だが、沈むことはない。
「……まあ、なんとか」
テツロウは苦笑する。
ミニが横から元気よく声を上げた。
「エミお姉ちゃん!次だよ次!」
「兄ちゃんと遊ぶんでしょ!」
リウスは小さく息をつく。
「ミニ君……少し落ち着いて」
エミはくすっと笑った。
「うふふ」
そして。
そっと、手を差し出す。
水面すれすれをなぞるように。
筏のすぐそばへ。
「では……」
優しく言う。
「兄さん」
その大きな瞳が、まっすぐにテツロウを見つめる。
「私と、遊んでいただけますか?」
その声は、やわらかい。
だが――
確かに、“対戦相手”のものだった。
FIGHT START
エミは、そっと一歩踏み出した。
足元の水が、やさしく揺れる。
次の瞬間。
その波が――
筏へと届いた。
「うわっ……!」
ぐらり、と。
テツロウの足元が揺れる。
思わず体勢を崩す。
「ちょっ……!」
その時。
「兄さん……!」
エミの声。
すぐに両膝をつく。
水が静かに広がる。
そして――
そっと手を差し出し、
テツロウをやさしく掌に乗せた。
「大丈夫ですか?」
近い。
だが、その距離には安心感があった。
「……ああ、なんとか」
テツロウは苦笑する。
掌の上は、不思議と安定している。
エミは、ほっとしたように微笑む。
「よかった……」
そのまま、そっと視線を合わせる。
そして。
少しだけ、表情を引き締めた。
「では――」
静かに言う。
「ここからが、対戦です」
「……ここで?」
テツロウは足元を見る。
エミの掌。
そこが、そのまま“フィールド”になっていた。
「はい」
エミはやさしく頷く。
そのまま、もう片方の手を差し出す。
掌の前に、淡い光が集まり始める。
円を描くように、ゆっくりと。
「……?」
テツロウは身構える。
「これ、攻撃……なのか?」
エミは微笑む。
「はい」
やわらかく答える。
「優しい攻撃、です」
エミは、少し照れたように笑った。
そして、優しく言う。
「兄さんも、反撃してください」
「いや、この状態で……?」
テツロウは完全に困っていた。
だが――
「……やるしかないか」
小さく息をつく。
そして。
そっと拳を握る。
コツン。
軽く、エミの頬に触れる。
その瞬間。
エミの表情が、ふわっと緩んだ。
「あ……」
ほんの少しだけ、目を細める。
「兄さんの攻撃……」
小さく呟く。
「……あたたかいです」
そのまま。
やさしく微笑んだ。
そして――
そっと、手を緩める。
テツロウの体が、ゆっくりと離れる。
「……降参です」
静かな声。
「え?」
テツロウは戸惑う。
エミは、少し照れたように笑った。
「兄さんには、勝てません」
そう言うと――
やわらかく続ける。
「疲れたでしょう……」
「回復してあげますね」
そのまま。
そっと手を寄せる。
テツロウの体が、やさしく引き寄せられる。
「え……?」
気づいた時には――
温もりの中に包まれていた。
やわらかく、あたたかい。
安心する感覚が、じんわりと広がる。
「これは……」
テツロウは思わず呟く。
力が抜けていくような、不思議な感覚。
エミは、優しく微笑んだ。
「兄さん……」
そっと語りかける。
「回復したでしょう……?」
その声は、どこまでもやさしい。
テツロウは、しばらく言葉が出なかった。
ただ――
そのまま、包まれていた。
そして――
テツロウの黒縁メガネに、淡い光が走る。
視界の端に、見慣れない表示が浮かび上がった。
必殺技 星竜拳を覚えました!
「……え?」
思わず声が漏れる。
「必殺技って……なんだろうか……」
状況が追いつかない。
ただ、回復していたはずなのに。
なぜか、新しい“何か”を覚えたらしい。
エミはその様子を見て、
少し驚いたように瞬きをする。
「必殺技……?」
そして、やわらかく微笑んだ。
「兄さん」
そっと語りかける。
「この後も、皆さん待ってますから……」
少しだけ楽しそうに続ける。
「さらに、楽しくなりそうですね」
「……そういう問題か?」
「……まだ続くのか」
テツロウは小さくため息をつく。
だが――
このゲームは、止まらない。
外伝II③へ続く
外伝II②をお読みいただき、ありがとうございました。
江戸、水鏡と続き、
少しずつ“優しい格闘ゲーム?”
らしくなってきました。
次回は、第四・第五ステージになります。
外伝II③は、8月4日公開予定です。




