第六章 不思議な夢と、その残像⑤
眠りの中で、テツロウは不思議な光景を見ていた。
【登場人物】
・青星テツロウ
・青星エミ
・青星リオ
・青星ミニ
・紫雲タリア
・銀水ピスカ
・???
・???
・???
■第六章 第五話
迷宮の奥へと進むにつれて――
空気が、わずかに変わっていった。
最初に感じたのは、ほんの少しの違和感。
ひんやりとしていたはずの空気が、
いつの間にか、重くなっている。
「……暑いね」
ミナミが、ぽつりと呟いた。
軽く額に手を当てる。
「さっきまで、こんなじゃなかったのに」
メテルも、ゆっくりと頷く。
「ええ……」
周囲を見渡す。
淡く光る結晶。
揺らめく空間。
「まるで……」
少しだけ言葉を選ぶ。
「外に出ているみたいですね」
迷宮の中。
それなのに――
空気は、確かに変わっていた。
胸元にいるギンガへ、視線が落ちる。
やさしく、気遣うように。
「ギンガさんも……」
やわらかな声。
「暑くありませんか?」
(……暑い……?)
ギンガ――テツロウの意識が、わずかに揺れる。
確かに。
じんわりとした熱が、伝わってくる。
けれど――
(……違う……)
ただの暑さじゃない。
(……なんだ……これ……)
胸の奥が、ざわつく。
空気。
光。
そして――
この場所そのものが、
どこか“変わり始めている”ような感覚。
「……ちょっと、待って」
ミナミが足を止める。
「ここ、少し滑る」
軽く床を踏み直しながら、周囲を見渡す。
その間に。
メテルは、ほんの少しだけ息をついた。
「……やはり、暑いですね」
やわらかな声。
「少しだけ、楽にしますね」
静かにそう言って――
胸元のリボンへ、そっと指をかける。
きゅっと結ばれていたそれを、
少しだけ、ゆるめた。
わずかに、空気が流れ込む。
(……っ)
ギンガの意識が、揺れる。
近い。
さっきよりも――さらに。
(……なにやってるんだ……)
思考が、少しだけ現実に戻る。
けれど。
目を逸らすこともできない。
メテルは、そんな様子をじっと見つめていた。
「……あら」
少しだけ、首をかしげる。
「そんなに……私、魅力がありませんか?」
やわらかい声。
けれど、どこか少しだけ寂しそうに。
「普段のギンガさんなら……」
ふっと微笑む。
「もっと、喜んでくださるのですけど……」
ミナミが、すぐに口を挟む。
「もう、ギンガ兄さん」
少し呆れたように。
「メテルさんに失礼だよ?」
軽く笑いながら。
「ちゃんと見てあげないと」
(……見ろって……)
ギンガは、戸惑う。
けれど。
ゆっくりと――
視線を上げる。
目の前に広がる、やわらかな曲線。
その先に――
光が、あった。
(……光……?)
一瞬、思考が止まる。
それは、まるで――
(……太陽……?)
二つ。
淡く、揺れる光。
(……なんだ……これ……)
見たことがある。
似たような光景。
つい最近――
(……あの時の……)
あの、異様な距離感。
現実とずれた、感覚。
(……同じ……?)
「……ミナミ」
メテルが、静かに声をかける。
ミナミは、少しだけ視線を細めたまま――
奥の光を見据えていた。
「……もし、次のスターライトが」
ゆっくりと、言葉を選ぶ。
「ID00001~00012だったら――」
そのまま、小さく息をつく。
「宇宙のもとも、切り取り部屋も」
「安定するはずだよね」
(……そういえば……)
(スターライトには……特別な個体があるって……)
(以前、聞いた気がする……)
(親父が……言っていたような……)
少し進んだ先――
通路が、わずかに開けていた。
そこにあったのは、
小さな空間。
その中央に――
台座があった。
石で組まれた、古い台座。
その上に、
ひとつの光が、静かに鎮座していた。
青い光。
それは、周囲の結晶とは明らかに違う。
脈打つように――
ゆっくりと、強く、輝いている。
その瞬間。
空気が、変わる。
熱が、そこから流れ出している。
(……これ……)
ギンガの意識が、強く引き寄せられる。
それは、
ギンガの視界から見て――
サッカーボールほどの大きさだった。
だが。
メテルやミナミにとっては、
豆粒ほどの大きさ。
それでも――
その存在感は、圧倒的だった。
「……これ」
ミナミの声が、わずかに低くなる。
「間違いないね」
メテルも、ゆっくりと頷いた。
「ええ……」
その光を、静かに見つめながら。
「これは――」
ギンガの視界に、
文字が浮かび上がる。
TYPE:α
ID:000009
STATUS:VALID
(……表示……?)
見慣れている。
はずなのに――
どこか、遠い。
「……これが」
ギンガの口から、言葉が漏れる。
「ナンバリングの……スターライトか……」
その光は、
テツロウがこれまで知っていたものよりも――
はるかに強く。
深い青を帯びていた。
ただの光ではない。
“核”そのもののような、存在感。
メテルは、そっと視線を落とした。
「……ギンガさん」
やわらかな声。
ゆっくりと、両手を地面へ近づける。
巨大な掌の上から――
ギンガは、静かに地面へ降ろされた。
柔らかな草の感触。
そのすぐ先では、
青いスターライトが脈打っている。
メテルとミナミもまた、
ゆっくりとかがみ込む。
巨大な二人の影が、
ギンガの左右へ落ちた。
「気をつけてくださいね」
メテルが、静かに微笑む。
ミナミも、優しく見守りながら頷いた。
「ギンガ兄さんなら、大丈夫だと思うけどね」
ギンガは、ゆっくりと手を伸ばした。
台座の上で脈打つ、青い光。
指先が、触れる。
その瞬間――
ぴし、と。
わずかな音が、空間に走った。
(……?)
空気が、張りつめる。
台座の縁に刻まれた紋様が、
うっすらと発光し始める。
「……ギンガさん?」
メテルの声。
わずかに、緊張が混じる。
ミナミも、すぐに気づく。
「……ちょっと待って、それ――」
その直後。
台座の中心から――
閃光。
「――っ!」
強烈な光の線が、一直線に放たれた。
レーザー。
空間を切り裂くように、
一直線に――ギンガへ向かう。
(……っ!!)
反応が、一瞬遅れる。
その光景を見た瞬間――
脳裏に、よぎる。
(……これ……)
(……見た……)
(……つい最近……)
意識の奥で、何かが繋がる。
(……あの時の……!)
記憶が、はっきりとした形を取る前に――
閃光が、すべてを飲み込んだ。
「――っ!」
「……ああっ……!」
弾かれるように、テツロウは目を覚ました。
ぼやけていた視界が、ゆっくりと戻っていく。
すぐ目の前に――
誰かの顔。
「……母さん……?」
思わず、口からこぼれる。
「……兄さん……?」
やさしく、少し不安そうな声。
覗き込んでいたのは――
エミだった。
「大丈夫……?」
顔を近づけたまま、様子をうかがう。
テツロウは、まだ状況がつかめないまま、
その顔を見つめていた。
「……母さんって……」
エミが、少しだけ首をかしげる。
「夢でも見てたのかしら……?」
その時――
もう一つの気配が、近づいてきた。
「……テツロウ氏?」
少しだけ心配そうな声。
エミの胸元に抱かれているテツロウを、
上から覗き込むように――
タリアの顔が近づく。
(……近い……)
「……おばさん……?」
ぽつりと、口からこぼれてしまう。
一瞬。
空気が止まった。
「……おばさん?」
タリアの眉が、ぴくりと動く。
「それは失礼ですよー、テツロウ氏」
いつもの調子。
けれど、どこか納得していないような声で。
ぐっと、距離を詰めてくる。
その巨大な体が、視界いっぱいに迫る。
背後には――
エミのぬくもり。
「兄さん、それは失礼ですよ」
エミが、くすっと微笑みながら言う。
そのまま、さらにそっと身を寄せてくる。
やわらかな感触が、重なる。
(……なんだ……これ……)
夢なのか。
現実なのか。
さっきまでの光景と、
今の状況が――
うまく、切り分けられない。
けれど。
確かに、感じている。
ぬくもり。
近さ。
やわらかな感触。
(……あったかい……)
その時――
ばたばたと、足音が近づいてきた。
「お兄様!」
「お兄ちゃん!」
声が重なる。
リオとミニが、駆け寄ってきた。
「大丈夫ですの……?」
リオが、すぐに顔を近づける。
「急に起きたって聞いて……」
ミニも、不安そうに覗き込む。
自然と、四方から囲まれる形になる。
背後にはエミ。
前にはタリア。
左右から、リオとミニ。
(……また……)
テツロウの意識が、わずかに揺れる。
見上げる。
頭上いっぱいに広がる、
四人の顔。
どこまでも近くて。
どこまでも大きい。
(……さっきと……)
夢の中で見た光景が、
ふと、重なる。
やさしく覗き込んでくる視線。
包み込むような距離。
その中に――
ふと、重なるものがあった。
(……母さん……)
メテルの面影。
あの時と同じ、
やわらかな視線。
ぬくもり。
(……似てる……)
思わず、息がゆっくりと漏れる。
その時――
もう一人の影が、ゆっくりと近づいてきた。
「少し、いいかしら?」
やわらかな声。
ピスカが、静かに膝をつく。
そのまま、テツロウの様子を確かめるように――
そっと顔を近づけた。
(……近い……)
視界いっぱいに広がる、
やさしい大人の顔。
そして――
額と額が、そっと触れた。
「……ん」
ほんの一瞬の静寂。
テツロウは、思わず息を止める。
ピスカは、そっと離れると、
やわらかく微笑んだ。
「……大丈夫そうね」
「熱は、ひいたみたい」
そして、やさしく続ける。
「テツロウちゃん」
「みんな、心配していたのよ」
その言葉に、
周囲の視線が、そっと集まる。
エミ。
タリア。
リオ。
ミニ。
それぞれが、
少し安心したような表情を浮かべていた。
テツロウは、その様子を見て――
少しだけ、照れたように視線を逸らす。
「……みんな」
「心配してくれて……ありがとう」
その言葉は、
どこか照れくさそうで。
けれど、まっすぐだった。
その場の空気が、
ふっと、やわらいでいく。
そして――
窓の向こうから、
やわらかな光が差し込んでいた。
あたたかく、
穏やかな朝の陽射し。
夜の気配は、すでに消えている。
その光が、
そっと部屋の中を照らしていた。
テツロウの頬にも、
やさしく触れる。
(……朝……)
ぼんやりと、そう思う。
夢の余韻は、まだ残っている。
けれど――
この光は、
確かに現実のものだった。
■第六章 第六話へ続く
テツロウが見た光景と、現実側に残った違和感。
少しずつ繋がり始めた“何か”を感じてもらえたら嬉しいです。
もしよろしければ、感想なども聞かせていただけると励みになります。
次回、第六章 第六話は7月21日公開予定です。




