第五章 不思議な大森林の大迷宮⑦
第五章・第七話です。
今回は、大迷宮探索の一区切りとなるお話です。
スターライトの回収、そして迷宮内部の異変が描かれます。
【登場人物】
・青星テツロウ
“宇宙のもと”を研究する青年。
・赤井エアリ
テツロウの幼馴染で研究仲間。
・青星リオ
テツロウの妹で、三姉妹の長女。
・紫雲タリア
ヴァルゴを開発する技術者。
・青星エミ
テツロウを慕う、双子の姉。
・青星ミニ
元気いっぱいな双子の妹。
・銀水リウス
クールな雰囲気の中性的な少女。
■ 第五章 第七話
テツロウは、薄暗い坑道を慎重に進んでいく。
足音が、わずかに反響する。
壁面はひんやりとしており、
外の草原とはまるで別の空間のようだった。
やがて――
その先に、淡い光が見えた。
「……あれか」
テツロウは歩みを進める。
光の正体が、徐々に形を持つ。
そして。
台座の上に、それはあった。
淡く輝く結晶体――スターライト。
テツロウは、ゆっくりとそれに手を伸ばす。
触れた瞬間。
視界の端に、情報が浮かび上がった。
TYPE:α
ID:881050
STATUS:VALID
「……やっぱり、これか」
小さく呟く。
そのままスターライトを取り上げ、
リュックへと収めた。
――その瞬間。
台座が、わずかに発光する。
「……?」
次の瞬間。
細い光が、テツロウの眼鏡へと照射された。
一直線に、正確に。
「なんだこれ……」
一瞬、身構える。
だが――
痛みも、衝撃もない。
特に変化も感じられなかった。
「……気のせいか?」
そう思った、その時だった。
――ゴゴゴゴ……ッ
低い振動音が響く。
「……っ!?」
振り返る。
テツロウが入ってきた横穴が――
ゆっくりと、閉じていく。
「おい、ちょっと待て!」
駆け寄るが、間に合わない。
完全に、塞がれた。
「……マジかよ」
思わず呟く。
そして、ふと記憶がよぎる。
「……なんか前も似たようなことあったな……」
その時――
『テツロウさん』
通信が入る。
エアリの声だった。
『今、確認しました』
『テツロウさんが入っていた横穴が閉じています』
「ああ、こっちから見ても完全に塞がれてる」
『その上に、もう一本横穴があります』
『そこから脱出できそうですか?』
テツロウは周囲を見上げた。
確かに――
少し上に、平行するようにもう一本の横穴がある。
「……あれか」
問題は高さだった。
ヴァルゴで届くかどうか。
「やってみる」
軽く操作する。
ジャンプ。
――届かない。
「……やっぱ無理か」
その時、別の声が入る。
『テツロウ氏』
タリアだった。
『Bボタンを押しながらジャンプしてください』
「……は?」
一瞬、止まる。
ゲームのような操作。
だが――
この世界では、それが“現実”でもある。
「……信じるぞ?」
小さく呟く。
そして――
Bボタンを押しながら、ジャンプ。
次の瞬間。
「――っ!?」
テツロウの体が、コクピットから押し出された。
勢いよく、上へ。
そのまま――
横穴の縁へと届く。
「……っ、いけた!」
なんとか体勢を整え、その場にしがみつく。
――しばらく、そのまま動けなかった。
心臓が、やけに早い。
「……なんだ今の……」
体に残る、妙な浮遊感。
押し出された瞬間の感覚が、まだ消えない。
「……いや、助かったけど……」
息を整えながら、小さく呟く。
下を見る。
ヴァルゴは、元の台座の近くに落ちていた。
「……あとで回収だな」
小さく呟く。
そのまま横穴を進む。
やがて――
出口が見えた。
光が差し込む。
そして、その先。
仲間たちの姿があった。
「テツロウさん!」
エアリの声。
だが――
そこで気づく。
「……高っ」
思わず声が漏れる。
出口は、かなりの高さにあった。
下では、巨大な彼女たちが見上げている。
「大丈夫ですわ」
リオが微笑む。
「私たちで受け止めます」
タリアも静かに頷いた。
「落下衝撃は問題ありません」
ミニが元気よく手を振る。
「お兄ちゃん、飛んでー!」
「簡単に言うな……」
テツロウは小さく息を吐く。
もう一度、下を見る。
距離が、妙に現実感を伴って迫ってくる。
「……っ」
足が、ほんの一瞬だけ止まる。
視線を下げると――
巨大な仲間たちがこちらを見ていた。
「……信じるぞ」
小さく呟く。
そして――
「……いくぞ」
覚悟を決める。
飛び降りた。
風を切る。
一気に距離が縮まる。
その瞬間。
ふわりと――
やわらかな感触に包まれた。
「……っ」
タリアの腕の中だった。
しっかりと、確実に受け止められている。
「テツロウ氏、問題ありませんか」
静かな声。
「……ああ、大丈夫」
少しだけ照れながら答える。
タリアは、その様子を確認すると――
わずかに視線を落とした。
「……射出補助機構、正常に作動しています」
小さく呟く。
ヴァルゴに組み込まれた緊急射出機構。
ジャンプと同時に作動し、
搭乗者を安全な軌道へと押し出す仕様。
その結果を確認し、
静かに安堵していた。
「……射出?」
テツロウが小さく呟く。
どこかで聞いたような気もするが――
はっきりとは思い出せない。
「……まあ、助かったならいいか」
深く考えるのをやめた。
――その時だった。
――ゴゴゴゴ……ッ
再び、低い振動音が響く。
「……っ!?」
エアリがすぐに顔を上げた。
「みんな、急いでください!」
声が鋭くなる。
「迷宮が……崩壊を始めています!」
周囲の岩肌が軋む。
小さな石が、ぱらぱらと落ちてきた。
「ここはまずいですわね……!」
リオが周囲を見渡す。
「撤退します」
タリアが短く告げる。
そして――
視線がテツロウへ向く。
「テツロウ氏、その位置では危険です」
次の瞬間。
ふわりと体が持ち上げられる。
「な……っ!?」
視界が一気に近づく。
距離が、急に変わる。
柔らかな感触と、わずかな温もり。
思考が一瞬だけ止まった。
「ここなら安心です」
タリアの落ち着いた声がすぐ近くで響く。
「今は一刻も早く脱出を」
そのまま、走り出す。
足元が揺れる。
岩の欠片が落ちる。
だが――
揺れとは別に、もうひとつの感覚があった。
規則的な動きに合わせて、
体がふわりと上下する。
距離が、一定じゃない。
意識しないようにしても、
どうしても気になってしまう。
「……っ」
思わず息を詰める。
状況が状況なのに、
意識がそちらへ引っ張られそうになる。
「……い、いまはそれどころじゃないだろ……」
自分に言い聞かせるように、小さく呟く。
視線を逸らす。
「ミニ、しっかりつかまっていてください!」
リオがミニを抱えたまま駆ける。
「うん!」
ミニも元気よく応える。
エアリとリウスも、それぞれの位置で動いていた。
出口へ向かって、一斉に走る。
崩落の音が迫る。
地面が揺れる。
視界が揺れる。
それでも――
テツロウは、必死に意識を保っていた。
「……とにかく、出るぞ……!」
揺れの中、小さく呟く。
鼓動が、いつもより少し早かった。
崩落の音が、すぐ後ろまで迫っていた。
やがて――
光が、視界いっぱいに広がった。
「外だ……!」
そのまま、一気に飛び出す。
次の瞬間。
背後で、大きな音が響いた。
――ドォンッ!!
振り返る。
坑道の入口が、崩れ落ちていく。
岩が崩れ、砂煙が舞い上がる。
さっきまで自分がいた場所が、
完全に閉ざされていく。
「……間一髪でしたね」
エアリが静かに言う。
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
テツロウは、その光景を見つめる。
胸の奥に、わずかな違和感が残っていた。
「……これ」
小さく呟く。
「……ただの迷宮じゃないな」
その時だった。
「あ、ヴァルゴが……」
ミニが、ふと声を上げる。
全員の視線が、崩れ落ちた坑道へ向いた。
土煙の向こう――
さっきまであったはずの機体の姿は、
もう見えなかった。
「……埋まったか」
テツロウが小さく呟く。
わずかに、肩の力が抜ける。
タリアは、その様子を見て――
静かに言った。
「テツロウ氏、大丈夫ですよ」
落ち着いた声。
「今度は、mk2を製作します」
迷いのない口調だった。
「……おい、もう次かよ」
テツロウが苦笑する。
そのやり取りを聞いて――
ミニが、ぱっと顔を輝かせた。
「やったー!」
「お兄ちゃん、次のおもちゃも楽しみだね!」
無邪気な声。
「おもちゃじゃない」
即座に否定する。
だが、その声にはどこか力がなかった。
エアリが小さく息をつく。
「……でも、必要になりますね」
視線は、崩れた坑道の方へ。
「今回の件、かなり危険です」
リオも静かに頷く。
「ええ……次は、
もう少し万全の準備が必要ですわね」
その場に、わずかな静寂が落ちた。
崩れた迷宮。
消えたヴァルゴ。
そして――
まだ解けていない謎。
ただ、静かに――
その崩れた入口を見つめていた。
――その後。
テツロウは、どこかで意識を手放していた。
張り詰めていた緊張が、ふっと途切れるように。
気が抜けた瞬間だった。
……どれくらい経ったのかは、分からない。
次に目を覚ました時。
頬に、風を感じた。
「……ん……?」
ゆっくりと目を開ける。
揺れがある。
一定のリズムで、体が上下している。
視界の端に映ったのは――
バイクのハンドル。
そして、その向こうに広がる見慣れた道。
「……あれ……?」
状況を理解するのに、少し時間がかかる。
自分は、誰かに支えられていた。
「起きましたか、テツロウ氏」
落ち着いた声。
タリアだった。
「……タリア?」
「帰路です」
短く答える。
バイクは、静かに走り続けていた。
「……帰り……?」
テツロウはぼんやりと呟く。
頭の中が、まだはっきりしない。
何かをしていたはずなのに。
思い出そうとすると、ぼやける。
「……なんだっけ……」
少し考えて――
「……みんなで、カレー食べて……」
「……キャンプ、してたんだっけ……?」
断片的な記憶だけが、残っていた。
ふと、同じように風を受けていた記憶がよぎる。
バイクに乗っていたような――
だが、その先は思い出せない。
タリアは、何も否定しない。
ただ静かに、バイクを走らせている。
風が、二人の間を通り抜ける。
「……楽しかったですか」
ぽつりと、タリアが言った。
「……ああ」
テツロウは小さく笑う。
「……なんか、よく分かんないけど」
「……楽しかった、気がする」
その答えに、タリアはわずかに頷いた。
バイクは、11月終わりの澄んだ午後の道を走り続ける
やがて――
その光景が、ゆっくりと遠ざかっていく。
――視点が、引いていく。
その上では。
巨大な彼女たちが、静かに見守っていた。
ミニが、くすっと笑う。
「今日のお兄ちゃんも、面白かったね」
無邪気な声。
エアリは、やわらかく微笑む。
「テツロウさん、無理しないでくださいね」
静かな気遣い。
エミは嬉しそうに頷いた。
「兄さん、今日も可愛くて……でも、
りりしかったです」
素直な想いが、そのまま言葉になっていた。
リオは優雅に微笑み、
リウスは静かに目を細め、
タリアは変わらぬ表情でその様子を見つめていた。
11月終わりの澄んだ空の下。
すべてを包み込むように――
その光景は、静かに続いていた。
■ 第五章 第七話 終
第五章・第七話を読んでいただき、ありがとうございました。
第五章『不思議な大森林の大迷宮』は、今回で一区切りとなります。
湖畔でのキャンプや、
大迷宮内部の探索、
そしてスターライト回収まで、
少しずつ“不思議”が深まっていく章となりました。
また今回、後書き側では
スケール比較図も掲載しております。
テツロウはヴァルゴの肩にのっています。
挿絵はAIで作成していますが。思う通り作成出来ず・・・
巨大な彼女たちとテツロウのサイズ感を、
あくまで参考程度に
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
そして次章では、
また新たな“不思議”が始まります。
次章は
7月3日(金)公開予定です。
また、感想など聞かせていただけると励みになります。
今後とも『不思議な宇宙のもとで』をよろしくお願いいたします。




