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不思議な宇宙(そら)のもとで  作者: まほ。かんた。
不思議な大森林の大迷宮
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第五章 不思議な大森林の大迷宮⑤

 第五章・第五話です。


 今回は、大迷宮内部での拠点設営と、

 湖畔でのひとときが描かれます。


 探索の合間の、少し穏やかな回となります。


【登場人物】


・青星テツロウ

 “宇宙のもと”を研究する青年。


・赤井エアリ

 テツロウの幼馴染で研究仲間。


・青星リオ

 テツロウの妹で、三姉妹の長女。


・紫雲タリア

 ヴァルゴを開発する技術者。


・青星エミ

 テツロウを慕う、双子の姉。


・青星ミニ

 元気いっぱいな双子の妹。


・銀水リウス

 クールな雰囲気の中性的な少年。

■ 第五章 第五話

 

 エアリの言葉を合図に、空気が切り替わった。


 夕焼けはすでに地平の向こうへ沈みかけ、

 草原はゆっくりと夜の色へと移り始めている。

 

 タリアがすぐに動いた。


「まずは設営です。ここを拠点にします」

 

 湖を背にした、わずかに高い位置。

 風の通りも穏やかで、見通しもいい。

 

 リオも頷く。


 「ええ、いい場所ですわね」


 荷車がその場に止められ、

 資材が次々と運び出されていく。


 折りたたまれたテント、支柱、ロープ、ランタン。


 「リオ、こちらを」


 「任せてくださいな」


 リオは軽々と支柱を持ち上げ、

 指定された位置へと運ぶ。

 タリアは地面の状態を確かめながら、

 角度と配置を細かく指示していく。


 エアリは少し離れた位置から周囲を見渡していた。


 「風向きは安定しています。

  この位置で問題ありません」 


 「了解です」


 作業は、無駄なく進んでいく。


 一方で――


 テツロウは、その足元で立ち尽くしていた。


 「……俺、やることないな……」


 ぽつりと呟いた、その瞬間。


 「みーつけた!」


 元気な声とともに、体がふわりと浮き上がる。


 「うわっ!?」


 気がつけば、ミニの手のひらの上だった。


 「ねーねー、ちょっとだけいいでしょ?」 


 悪びれる様子もなく、にやりと笑う。


 そのままぐいっと持ち上げられ、

 視界いっぱいにミニの顔が迫る。


 「近い近い!」 


 くすぐったい距離で、頬へ軽くすり寄られる。


 「や、やめろって……!」


 「えー、いいじゃん。面白いし」


 くすくす笑いながら、

 今度はそのままリオの方へ向かう。


 「リオお姉ちゃん、見てこれ!」


 「まあ……そんなに近づけたら、

  驚いてしまいますわよ?」


 「もう驚いてるって……!」


 その反応に、ミニはさらに楽しそうに笑った。


 「ほらねー!」


 ――その時だった。


 「ミニちゃん、そこまでです」


 落ち着いた声が、横から差し込む。


 エアリはテツロウをそっと引き寄せ、

 自分の腕の中へと収めた。


 「作業の邪魔になりますからね」


 「……す、すまん」


 そう言いかけて――


 言葉が、少しだけ止まる。


 近い。


 水浴びのあとだからか、

 ほんのりとした温もりと、

 かすかな香りが伝わってくる。


 思わず、顔が熱くなる。


 「どうかしましたか?」


 「い、いや……なんでもない……」


 ――その様子を。


 ミニが、じっと見ていた。


 「……あ、顔赤い」


 くすっと笑う。 


 そして、もう一度。


 指でつつこうとする。

挿絵(By みてみん)

 「やっぱり面白いね、それ」


 「だからやめろって――!」


 ――その瞬間。


 「ミニちゃん」


 今度は、少しだけ間を置いて。


 エアリの声が、静かに重なる。


 エアリはテツロウをさらに引き寄せ、

 今度は胸元へとしっかりと抱き寄せた。


 逃がさないように、守るように。


 「テツロウさんが可愛いのはわかりますけど……」


 「こういう場では、

  優しく守ってあげてくださいね」


 「……うん」


 ミニは素直に頷いた。


 「わかった。お兄ちゃん、ちゃんと守るね」


 「それがよろしいですわ」


 エアリは軽く頷き、テツロウをそっと差し出す。


 ミニは、今度は慎重に――

 両手で優しく受け取った。


 「ごめんね、お兄ちゃん。

  今度はちゃんと優しくするから」


 「……最初からそうしてくれ」


 そのやり取りに、くすりと笑いが漏れる。


 ミニはそのまま、テツロウを抱えたまま

 少し離れた安全な位置へと移動した。


 その様子を一通り眺めたあと――


 ミニはその場に、ぽすんと寝転がった。

挿絵(By みてみん)

 頬杖をつき、足をぱたぱたと揺らしながら、

 目の前のテツロウをじっと見つめる。


 「……」


 視線が、近い。


 「……な、なんだよ」


 「別にー」


 楽しそうに、にやっと笑う。


 その時だった。


 「――あっ」


 ミニの視線が、別の方向へ向く。


 少し離れた場所に置かれていた、ヴァルゴ。


 「お兄ちゃん、それ!」


 ぱっと顔を輝かせる。


 「またヴァルゴで遊んでよ~!」


 無邪気な笑顔で、そう言った。


 「遊ぶって……」


 テツロウは少しだけ言葉に詰まる。


 確かに、あれは自分の機体だが――

 “遊ぶもの”という認識ではない。


 だが。


 目の前には――


 頬杖をついたまま、

 期待に満ちた目でこちらを見つめるミニがいる。


 足をぱたぱたと揺らしながら、

 まるで続きを待つ子供のように。


 「……見守られてるのか、これ……?」


 思わず小さく呟く。


 「うん、見てるよ?」


 即答だった。


 「ちゃんと見てるからねー」


 楽しそうに言いながら、

 ミニはさらに身を乗り出した。


 「……それ、見守るって言うのか?」


 「言う言う」


 まったく迷いのない返答に、

 テツロウは小さくため息をついた。


 ――その間にも、設営は着実に進んでいた。


 「支柱、固定します」


 タリアの声に応じて、

 リオが力強く支柱を押し込む。


 地面にしっかりと打ち込まれ、

 骨組みが安定していく。


 やがて、円形のテントが形を成した。


 ランタンが吊られ、

 草原の中にひとつの拠点が出来上がる。


 一方で――


「じゃあ、こっちは準備始めよっか」


 エミがエプロンの紐を結び直す。


 リウスはすでに手際よく荷物を広げていた。


 「火の位置はここで問題ありません」 


 「オッケー!」


 小さな焚き火が起こされる。 


 やがて、鍋がその上に据えられた。


 ぐつぐつと、小さく煮える音。


 やがて、香ばしく食欲を刺激する匂いが

 ゆっくりと草原へ広がっていく。


 「……いい匂い」


 思わず、テツロウが呟く。


 ミニも顔を近づけるようにして、

 くんくんと鼻を動かした。 


 「ほんとだー! すっごいいい匂い!」


 エミが満足そうに頷く。


 「うん、いい感じ。そろそろかな」


 鍋の中を軽くかき混ぜる。


 大きな具材がゆっくりと動き、

 とろみのあるルーが全体に絡んでいく。


 スパイスの香りが、ふわりと広がった。


 「うん……カレー、いい感じ!」


 リウスが火の様子を確認する。


 「火力、安定しています。

  仕上げて問題ありません」


 「ありがと、リウス」


 エミはにこっと笑い、最後に軽く味を整える。


 「……よし、できた!」


 その一言で、空気が少しだけ弾んだ。


 「待ってましたわ」


 リオが楽しそうに微笑む。


 タリアも、手を止めてこちらを見た。


 「いいタイミングです。設営も完了しました」


 「じゃあ、外で食べよう!」


 湖のそばに、自然と食事の場が整えられていく。


 鍋は中央に。 


 その周囲に、皆が集まる。


 ミニはテツロウをそっと地面へ降ろした。


 「はい、お兄ちゃんの席」


 「席っていうか……」


 苦笑しながらも、

 テツロウはその場に腰を下ろす。


 目の前には――


 巨大な鍋。


 そして、それを囲む巨大な仲間たち。


 「……なんか、すごい光景だな」


 「でしょ? でも、楽しいよね」 


 「……ああ」


 素直に、頷く。


 リウスは手際よく配膳を補助していた。


 「熱いので気をつけてください」


 その時――


 「ねえ、リウス」 


 エミが、少し楽しそうな声で近づいてくる。


 「せっかくだから……

  また一緒に“アレ”、やりましょうよ」


 「また……ですか……?」


 リウスがわずかに目を見開く。


 「文化祭の時の、あれ」 


 その一言で、少しだけ頬が赤くなる。


 「いいじゃない。今日は特別なんだし」


 エミはくすっと笑う。


 「じゃあ、いきますよー?」


 二人が軽く息を合わせる。


 そして――


 「もえもえ……」


 「きゅん……」


 ぴたりと揃った、柔らかな声。

挿絵(By みてみん)

 エミがふわりと手を振り、

 リウスも少しだけぎこちなく、それに続く。


 「……はい、完成です」 


 リウスは小さく咳払いをした。


 ミニはくすっと笑う。


 「また~」


 そのまま、視線はテツロウへ。


 反応を確かめるように、じっと見つめる。


 「……なんか、

  前にもこんなことあったような……」


 テツロウが首をかしげると、


 ミニはにやりと笑った。


 「でしょ?」


 エミが微笑む。


 「うふふ。兄さんのために、

  今日もたっぷり愛情を注ぎ込みました」


 リウスも、少しだけ視線を戻して。


 「……テツ兄は特別ですから」


 照れたように、静かに言った。


 ふわりと、カレーの香りが改めて広がる。


 「……ほら、冷めちゃうよ?」


 エミが軽く声をかけた。


 ミニは嬉しそうに受け取り、

 早くも待ちきれない様子でスプーンを握る。


 「いただきまーす!」


 「いただきます」


 それぞれが手を合わせる。


 器によそわれたカレーから、

 湯気が立ち上る。


 最初の一口。


 「……美味しい」


 テツロウが、思わず呟いた。


 テツロウにとっては、

 米粒ひとつですら大きく感じる。


 それでも――


 「……ちゃんと、美味しいな」


 思わず、もう一口。


 ――その時だった。


 「ほら、こっちもどう?」


 不意に、影が差した。


 顔を上げると――


 エミの顔が、すぐ近くにあった。


 手にしたスプーンを、

 こちらへ差し出している。


 「もう一口、味見してみて」


 「いや、自分で――」


 言いかけて、止まる。


 距離が、近い。


 さっきまでとは違う、

 意識してしまう近さ。


 「……ほら」


 少しだけ身を乗り出してくる。


 逃げ場がない。


 「……っ」 


 思わず、受け取るしかなかった。


 「……どう?」


 「……うまい」


 短く答えると、

 エミは満足そうに笑った。


 「でしょ?」


 「ほんと!? よかったー!」 


 そんなやり取りに、自然と笑いが広がる。


 ミニは夢中になって食べている。


 「これおいしい! もっとちょうだい!」


 「まだあるから、落ち着いて」


 湖の水面が、静かに揺れる。


 夜は、ゆっくりと深まり始めていた。



 やがて――


 食事がひと段落する。


 器を置き、ふう、と小さく息をつく。


 誰からともなく、言葉が途切れた。


 静かな時間が流れる。


 風は、確かに吹いている。


 草も、わずかに揺れている。


 ――それなのに。


 「……あれ?」


 テツロウが、小さく呟いた。


 「どうかしましたか?」


 エアリが視線を向ける。


 「いや……なんか……」


 言いかけて、少し考える。


 そして、ぽつりと。


 「……静かすぎないか?」


 その一言に、空気がわずかに変わった。


 エアリが周囲を見渡す。


 リウスも、意識を向ける。


 確かに――


 風はある。


 草も揺れている。


 湖の水面も、わずかに波打っている。


 だが。


 音が、ない。


 虫の声がしない。


 羽音も、気配もない。


 まるで、この草原には

 “生き物”が存在していないかのように。


 「……確かに」


 エアリが静かに言う。


 「自然環境としては、不自然ですね」


 リウスも、小さく頷いた。


 「気配がありません」


 ミニは少し首をかしげる。


 「そうかな?」


 だが、それ以上は深く気にしていない様子だった。


 リオがゆっくりと空を見上げる。


 「……ですが」


 やわらかく、微笑む。 


 「綺麗ですわね」


 その言葉に、テツロウもつられて空を見る。


 広がっていたのは――


 満天の星空だった。


 地下とは思えないほど、澄み切った夜空。


 思わず息をのむほどの美しさ。


 「……すごいな」


 自然と、言葉が漏れる。


 だが――


 しばらく見上げているうちに、


 違和感が、胸の奥に引っかかった。


 「……あれ?」


 星は、確かに並んでいる。


 意味を持っていそうな配置で。


 けれど――


 どこをどう結んでも、


 “形”にならない。 


 星座として、成立しない。


 似た並びはある。


 だが、必ずどこかでズレる。


 最後の一点が、噛み合わない。


「……星座、作れそうで……作れないな」


 その言葉に、エアリが視線を上げる。


 「……規則性がありませんね」


 リウスも、わずかに眉を寄せた。


 「自然配置とは思えません」


 

 それでも――


 空は、美しかった。


 あまりにも整っていて、


 あまりにも、違和感があるほどに。


 湖の水面に、星が映る。


 揺らめきながら、広がっていく光。 


 その光景もまた――


 どこか、現実とは違って見えた。


 ただ、静かにその空を見上げていた。


 やがて――


 「……冷えてきましたね」


 エアリが、ぽつりと呟く。


 「確かに。戻りましょうか」


 タリアも頷いた。


 リオが軽く手を叩く。


 「では、今夜はここで休みましょう」


 その言葉で、皆がゆっくりと動き出す。


 食器が片付けられ、火が整えられ、

 湖畔の光が少しずつ落ち着いていく。


 テツロウも立ち上がろうとした――その瞬間。


 「はい、お兄ちゃん」


 ふわりと体が浮いた。


 「うわっ!?」


 気がつけば、ミニの手の中だった。


 「ちゃんと守るって言ったでしょ?」


 今度は丁寧な手つきで、テツロウを包み込む。


 そのままテントの方へと運ばれていった。


 ミニはテツロウを抱えたまま、

 円形のテントの中へ入る。


 ランタンが中央に吊られ、

 内側を優しく照らしている。


 外とは違う、落ち着いた空間。


 「……あれ?」


 テツロウは足元を見て、目を瞬かせた。


 そこには、小さな寝袋が用意されていた。


 テツロウの体に合わせた、大きさ。


 「これ……」


 「テツロウ氏用です」


 タリアが淡々と答える。


 「このサイズでないと、休めないと思いましたので」


 「……いつの間に」


 「荷車に積んでいました」


 当然のように言う。


 テツロウは苦笑しながら、

 寝袋の中へと体を滑り込ませた。


 ぴったりと収まる感覚。


 「……これはこれで、落ち着くな」


 タリアはその様子を確認し、

 周囲へと視線を巡らせる。


 そして――


 「リオ」


 「はい?」


 「その位置、安定していますか」


 「ええ、問題ありませんわ」


 「では、こちらへ」


 タリアはテツロウの入った寝袋をそっと持ち上げ、

 リオの胸元へと差し出した。


 「お任せください」


 リオは自然な動作で受け取る。


 やわらかく、包み込むように。


 「ちょっ――」


 テツロウの視界が持ち上がる。


 そして、そのまま――


 落ち着いた位置へと収まった。

挿絵(By みてみん)

 「……ここ、特等席ですわよ?」 


 リオが優しく微笑む。


 「安心してお休みくださいな」


 「いや、安心っていうか……」


 言いかけて、止まる。


 距離が、近い。


 ほんのりとした温もりが、

 寝袋越しにも伝わってくる。


 その様子を見て、エミがくすっと笑った。


 「でも、リオ姉さんなら――」


 やわらかな声で続ける。


 「兄さんも安心できますよね」


 「……まあ、そうかもしれないけど」


 ぼそりと答えると、


 リオは上品に微笑んだ。


 「ふふ、ありがとうございます」


 タリアは小さく頷く。


 「問題ありませんね」


 テツロウは、

 包み込まれるような位置で体を預けながら――


 ふと、上を見上げる。


 左右に、やわらかな気配が聳えているように感じる。


 その間に、すっぽりと収まっている自分。


 規則正しく響く、リオの鼓動。


 「……これ、寝れるのか……?」


 思わず小さく呟く。


 落ち着かないはずなのに。 


 どこか、安心している自分がいた。


 テントの中は、静かだった。


 ――外よりも、なおさら。


 風の音も、虫の声もない。


 完全に遮断されたような静けさ。


 「……やっぱり」


 「静かだな……」


 誰も否定しなかった。


 違和感は、消えていない。


 それでも――


 「……おやすみ」


 「おやすみなさい」


 やがて、会話は途切れ――


 静かな夜が、訪れた。

 


第五章 第六話へ続く

 第五章・第五話を読んでいただき、

 ありがとうございました。


 今回は、湖畔でのキャンプや食事シーンを中心に、

 少し日常寄りの空気感を描いてみました。


 その一方で、

 “静かすぎる世界”や、

 どこか噛み合わない星空など、

 少しずつ違和感も見え始めています。


 次回、第五章・第六話は

 6月26日(金)公開予定です。


 また、感想など聞かせていただけると

 励みになります。

 今後とも『不思議な宇宙そらのもとで』を

 よろしくお願いいたします。

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