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不思議な宇宙(そら)のもとで  作者: まほ。かんた。
不思議な大森林の大迷宮
35/49

第五章 不思議な大森林の大迷宮③

第五章・第三話です。


 今回は、ヴァルゴと共に

 “大迷宮”内部へ突入します。

 本格的な探索が、少しずつ始まっていきます。


【登場人物】


・青星テツロウ

 “宇宙のもと”を研究する青年。


・赤井エアリ

 テツロウの幼馴染で研究仲間。


・青星リオ

 テツロウの妹で、三姉妹の長女。


・紫雲タリア

 ヴァルゴを開発する技術者。

■第五章 第三話


 昼下がりの青星家、地下二階――


 “宇宙のもと”の転送装置の前に、

 四人の姿があった。


 青星テツロウ。

 赤井エアリ。

 紫雲タリア。

 そして、青星リオ。


 それぞれが、

 探索に備えた装いへと身を包んでいる。


 エアリは迷彩ジャケットに赤いインナー、

 動きやすいショートパンツ姿。

 黄色い縁の眼鏡越しに、

 操作盤の表示を冷静に確認していた。


 タリアは黒いタンクトップの上に迷彩ベスト。

 腰には工具ベルト、

 頭には見慣れたゴーグル。

 今にも整備作業へ入れそうな格好である。


 リオは黒のインナーに迷彩ベスト、

 短パンとブーツ姿。

 華やかな雰囲気はそのままに、

 今日はどこか頼れる探索隊の先導役にも見えた。


 そしてテツロウ自身も、探検帽に探検服、

 大きなリュックを背負っている。


 中には測定器、ライト、予備電池、

 記録用品、非常食――

 必要そうな物を詰め込んだ。


 エアリが端末から顔を上げる。


 「……準備、できましたね」


 タリアが小さく頷く。


 「探索ルート接続、問題ありません」


 リオは穏やかに微笑んだ。


 「いつでも出発できますわ、お兄様」


 そう呼ばれ、

 テツロウは少し照れくさそうに咳払いした。


 「今日も、みんなよろしく!」


 三人はそれぞれ頷く。


 「もちろんですわ」


 「ええ、任せてください」


 「問題ありません」


 テツロウも笑みを返した。


 「……ああ。じゃあ、行こうか」


 “宇宙のもと”が淡く発光する。


 球体とも結晶ともつかぬ装置の内部を、

 静かな光の流れが巡っていた。


 エアリが操作盤へ手を伸ばす。


 「転送先、青星家内部座標。

  接続開始します」


 床に光の輪が広がり、

 テツロウの足元を包み込む。


 その背後では、リオ、エアリ、

 タリアが地下三階――

 “切り取り部屋”側へ向かっていた。


 次の瞬間。


 テツロウは、自室の床に立っていた。


 見慣れた自分の部屋。

 机。ベッド。本棚。窓。


 「……ああ、そうだった」


 今日はみんなで、

 大森林の方へ出かける予定だったか。


 なぜか、それだけは自然に思い出せた。


 その時――部屋いっぱいに影が差した。


 見上げる。


 屋根が持ち上げられていた。


 開かれた上空から午後の陽光が差し込み、

 その縁に巨大な三つの顔が並んでいる。


 リオ。

 エアリ。

 タリア。


 リオが優雅に微笑んだ。


 「お兄様、行楽日和ですわ」


 エアリが静かに声をかける。


 「準備できていますか、テツロウさん」


 タリアも頷いた。


 「問題なければ、出発します」


 巨大な手のひらが、

 テツロウの前へ差し出される。


 リオだった。


 「まずはこちらへ」


 「……ああ」


 ためらいながらも乗り込むと、

 柔らかな掌がゆっくりと持ち上がる。


 床が遠ざかり、視界が一気に開けた。


 家の窓。庭。通り。

 そのすべてが、

 小さな模型のように広がっていく。


 そして何より――


 目の前には、リオの顔があった。


 澄んだ瞳。

 揺れる青い髪。


 近すぎる距離に、思わず息をのむ。


 「落としませんわ。安心してくださいませ」


 その声も、いつもよりずっと近い。


 テツロウは視線の置き場に困り、

 小さく咳払いした。


 やがて家の外へ出ると、

 そこには紫の装甲を纏った機体が待機していた。


 ヴァルゴ。


 盾を備えた試作機が、

 午後の光を受けて静かに立っている。


 タリアがどこか嬉しそうに胸を張った。


 「こちらに置いておきましたので、

  テツロウ氏」


 「ぜひ乗ってください」


 テツロウは掌の上から見上げ、しばし黙る。


 巨大な機体。

 開かれた腹部コクピット。

 高すぎる位置。


 「……いや」


 「これ、どうやって乗るんだ?」


 その瞬間、リオの表情がぱっと明るくなった。


 「そこでまた――」


 彼女は嬉しそうに微笑む。


 「このまま載せて差し上げますわ」


 再び、巨大な顔が近づいた。


 リオの掌に乗せられたまま、

 テツロウはヴァルゴの

 腹部コクピット前まで運ばれる。


 開かれた装甲の奥へ乗り込むと、

 内部は思っていた以上に整えられていた。


 簡易計器、操作レバー、固定ベルト。


 試作機とはいえ、

 タリアらしい細やかな調整が行き届いている。


 「どうぞ、テツロウ氏」


 機体の外からタリアの声がした。


 「少し揺れるかもしれませんが、

  安全性は確保しています」


 「少し、で済むんだろうな……?」


 返事はなかった。


 代わりに、腹部装甲が閉じる音が響く。


 次の瞬間。


 機体全体が、ふわりと浮いた。


 ヴァルゴごと、タリアに抱え上げられたのだ。


 コクピット越しの視界が開ける。


 巨大な両腕に包まれるようにして、

 ヴァルゴはタリアの胸元近くで

 大事そうに抱えられていた。


 「ちょ、近いな……」


 思わず漏れた声に、

 外から淡々と返事が来る。


 「落とさないためです」


 「そういう意味じゃなくて……」


 言い終える前に、地面が遠ざかっていく。


 タリアが歩き出したのだ。


 外へ出ると、

 そこには紅葉した大森林が広がっていた。

挿絵(By みてみん)

 赤。橙。黄金。


 色づいた広葉樹の海が、

 地平線まで続いている。


 巨大な彼女たちの視点では、

 木々は膝下ほどの高さに並び、

 森というより秋色の絨毯のように見えた。


 だがテツロウから見れば、

 その一本一本が塔のように高い。


 視界いっぱいに広がる紅葉の波へ、

 思わず息をのむ。


 「……綺麗だな」


 ぽつりと漏れた声。


 その瞬間、横から影が差した。


 リオだった。


 歩調を合わせながら、

 タリアの抱えるヴァルゴへ顔を寄せてくる。


 澄んだ瞳が、

 コクピット越しにまっすぐテツロウを見つめた。


 「お兄様」


 嬉しそうに微笑む。


 「わたくしと、どちらが綺麗ですの?」


 「なっ――」


 至近距離だった。


 柔らかな髪が風に揺れ、

 その香りまで届きそうなほど近い。


 テツロウは慌てて視線を逸らす。


 「い、いや、

  その……比較するものじゃないだろ」


 「まあ」


 リオはくすりと笑った。


 「では、引き分けにしておいて差し上げますわ」


 「なんでそっちが決めるんだ……」


 そのやり取りを前方で聞いていたエアリが、

 肩越しに呆れた声を飛ばした。


 「まだ入口にも着いていないんですから、

  浮かれて転ばないでくださいね」


 「転びません」


 タリアが即答する。


 その声だけは妙に自信満々だった。


 やがて、紅葉の海の先に異様な影が見えてきた。


 森が、そこで途切れている。


 近づくにつれ、その正体が明らかになった。


 地面そのものが裂けたような巨大な亀裂。


 その縁には、古い石造りの門がそびえ立っていた。


 奥へ続くのは、暗く深い下り階段。


 大迷宮の入口だった。


 リオが感心したように見下ろす。


 「まあ……わたくしたちでも入れますわね」


 エアリが眼鏡を押し上げる。


 「想定以上の規模です」


 タリアはヴァルゴを抱え直し、小さく頷いた。


 「探索開始です」


 大迷宮の入口をくぐると、空気が変わった。


 外の紅葉に包まれた穏やかな風景とは、

 まるで別世界だった。


 ひんやりとした冷気。

 石壁に染みついた湿った匂い。

 そして、先の見えない闇。


 巨大な三人の足音が、低く反響する。


 タリアに抱えられたヴァルゴの

 コクピット内で、

 テツロウは小さく息を吐いた。


 「……思ったより、本格的だな」


 「迷宮ですので」


 タリアは真顔で答えた。


 そのまま慎重に奥へ進んでいくが、

 内部は想像以上に暗かった。


 入口から差し込む光も、

 すぐに背後へ遠ざかっていく。


 エアリが懐中電灯を取り出し、

 前方を照らした。


 白い光が石壁をなぞり、

 床の凹凸を浮かび上がらせる。


 「足元、気をつけてください」


 「わたくしも必要ですわね」


 リオも別のライトを点ける。


 その光に照らされながら、

 四人はゆっくり進んだ。


 テツロウは計器を見下ろし、

 ふと思い立つ。


 「ヴァルゴのライトも

  使えるんじゃないか?」


 操作盤へ手を伸ばしかけた、

 その時だった。


 「テツロウ氏、すいません」


 タリアが少し言いにくそうに口を開く。


 「ライトは……」


 その瞬間。


 ヴァルゴ内部の表示灯が、ふっと消えた。


 「……え?」


 駆動音も止まる。


 機体全体が静まり返った。


 「また電池切れです」


 「また!?」


 タリアは慣れた様子でヴァルゴを胸元へ引き寄せ、

 そのまま片腕で支えながら工具ポーチを開いた。


 近い。


 コクピット越しにも分かるほど、

 彼女の身体がすぐ傍にある。


 「ちょ、近――」


 「作業中です」


 即答だった。


 タリアは腹部の整備パネルを開き、

 手際よく電池ケースを取り外す。


 そこへ、新しい単四電池を差し込んでいく。


 「まだ、燃費改善には至ってなくて」


 「そのサイズで単四なのか……」


 「そのため、替えはある程度持ってきています」


 腰のポーチには、

 ずっしりと予備電池が入っていた。


 やがてヴァルゴの計器が再点灯する。


 「復旧しました」


 「いや、そこ改善最優先だろ……」


 その時だった。


 先頭を歩いていたエアリが、ふと足を止める。


 懐中電灯の光が、高い壁面の一点を照らしていた。


 「……あそこ」


 三人が見上げる。


 地上から遥か上――百メートル以上は

 ありそうな位置に、

 小さな横穴が口を開けていた。


 その奥、わずかに何かが見える。


 エアリが眼鏡を押し上げる。


 「……スイッチ、でしょうか」


 タリアが即座に頷いた。


 「ヴァルゴなら入れます」


 リオが微笑む。


 「お兄様の出番ですわね」


 「え、俺?」


 タリアはヴァルゴをそっと差し出した。


 リオが両手で優しく受け取り、

 そのまま軽々と持ち上げる。


 巨大な指先に支えられながら、

 テツロウの視界が一気に上昇した。


 床が遠ざかり、仲間たちが小さく見える。


 やがて横穴の前まで来ると、

 リオは慎重にヴァルゴを中へ置いた。


 「お気をつけて、お兄様」


 「いや、毎回高さがすごいんだよ……」


 細い通路の先。


 確かに、

 壁面に古びたスイッチが埋め込まれていた。


 テツロウはヴァルゴをゆっくり進ませる。


 そして腕を伸ばし、押し込んだ。


 重い音が響く。


 次の瞬間――


 迷宮全体の奥で、

 何かが目覚めるような振動が走った。


 壁の溝に沿って光が走り、

 次々と照明が点灯していく。


 そして。


 奥へ続く通路群が、

 一斉に浮かび上がった。


 「……なんだ、これ」


 エアリが息をのむ。


 「人工施設……?」


 タリアも珍しく目を見開いていた。


 その直後。


 横穴の床が傾いた。


 「え?」


 ヴァルゴごと前方へ滑り出す。


 「うわああっ!」

挿絵(By みてみん)

 押し出されるように穴の外へ飛び出した機体を、

 リオがとっさに受け止めた。


 柔らかな衝撃。


 ヴァルゴは彼女の胸元へ

 優しく抱き留められていた。


 「ご無事ですわ、お兄様」


 「……毎回、心臓に悪い……」


 テツロウがぐったりと呟くと、

 リオはくすりと笑った。


 「慣れていただくしかありませんわね」


 「慣れたくない……」


 そのやり取りを横で見ていたエアリが、

 懐中電灯を壁面へ向け直した。


 「二人とも、続きです」


 照明の灯った通路は、 

 先へ向かって緩やかな下り坂になっていた。


 先ほどまで暗闇に沈んでいた石の道が、

 淡い光に照らされ、地下深くへ続いている。


 タリアがヴァルゴを抱え直す。


 「進めます」


 四人はそのまま坂道を下っていった。


 長い下り坂だった。


 壁面には古い模様のような溝が刻まれ、

 照明の光がそこを流れている。


 人工物なのか、自然の洞窟なのか――

 その境界が曖昧な、不思議な空間だった。


 やがて坂を下りきる。


 その先は、巨大な石壁によって塞がれていた。


 「……行き止まり?」


 テツロウが首を傾げる。


 エアリは周囲を見回し、

 すぐにある一点へ光を向けた。


 「いえ――下です」


 壁の根元近く。


 地面すれすれの位置に、

 小さな横穴が口を開けていた。


 ヴァルゴでも入れないほど細い穴だった。


 タリアが静かに頷く。


 「テツロウ氏、お願いします」


 「俺か……やっぱりそうなるよな」


 タリアはしゃがみ込み、

 ヴァルゴの腹部装甲を開く。


 そして機体の中からテツロウをそっと取り出し、

 地面へ優しく降ろした。


 背後では、

 三人が覗き込むようにそろって身を低くする。

挿絵(By みてみん)

 見上げれば、三人の顔がすぐそこに並ぶ。


 リオ。

 エアリ。

 タリア。


 圧倒的な近さだった。


 「……近いって」


 思わずテツロウが赤くなる。


 エアリが涼しい顔で言った。


 「テツロウさん。

  あとでちゃんと見せてあげますから、

  お願いしますね」


 「な、何を!?」


 すぐ横でリオが身を乗り出す。


 「まあ、エアリさんだけずるいですわ」


 「お兄様、

  わたくしもちゃんと見せて差し上げますから」


 「だから何をだ!?」


 タリアも真顔で続けた。


 「テツロウ氏。

  私もちゃんと見せます。大事な事なので」


 「お前まで乗るな!」


 三人はどこか楽しそうだった。


 テツロウは耳まで赤くしながら、

 小さな横穴へ向き直る。


 「……もういい! 行ってくる!」


 這うようにして、細い穴の奥へ進んだ。


 石の通路は狭く、薄暗い。


 だが少し進んだ先で、

 壁面に金属質の突起が見えた。


 「……またスイッチか」


 手を伸ばし、押し込む。


 鈍い駆動音が迷宮全体へ響いた。


 次の瞬間。


 正面の巨大な石壁が、

 ゆっくりと左右へ開いていく。


 「おおっ……!」


 だが同時に、

 開いた先から猛烈な風が吹き込んだ。


 「うわっ!?」


 テツロウの身体が軽々と弾き飛ばされる。

挿絵(By みてみん)

 横穴から放り出されたその体を、

 今度はエアリが素早く受け止めた。


 柔らかな衝撃。


 気づけば、彼女の胸元に優しく抱えられている。


 「無茶しないでください」


 至近距離で見下ろす黄色縁の眼鏡。

 揺れる赤い髪。

 落ち着いた声。


 テツロウは一瞬、言葉を失った。


 「……あ、ああ」


 エアリは小さく微笑み、

 そのままテツロウをヴァルゴの

 コクピットへ丁寧に戻してやった。


 「はい。続き、お願いします」


 「……はい」


 まだ少し顔の熱いまま、

 テツロウは前方を見た。


 開いた巨大な壁の向こう。


 そこには――


 空が広がっていた。


 広大な草原。


 遠くまで続く緑の波。


 そして地平の先には、

 傾き始めた夕陽が覗いている。


 地下深くにいるはずなのに。


 誰も、すぐには言葉を発せなかった。


第五章 第四話へ続く

第五章・第三話を読んでいただき、ありがとうございました。


 今回は、大迷宮内部の探索開始回となりました。

 ヴァルゴも本格的に投入され、少しずつ迷宮の全貌が見え始めています。


 そして最後には、地下深部とは思えない不思議な空間も登場しました。


 次回、第五章・第四話は

 6月19日(金)公開予定です。


 また、感想など聞かせていただけると

 励みになります。

 今後とも『不思議な宇宙そらのもとで』を

 よろしくお願いいたします。

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