第四章 不思議なメイドの文化祭③
文化祭編・第三話です。
【今回の主な登場人物】
・青星エミ
テツロウの双子の妹の一人。兄さん大好きな優しい妹。
・青星ミニ
テツロウの双子の妹の一人。元気いっぱいで明るい性格。
・銀水リウス
銀髪ショートのクールな少女。少し照れ屋な一面も。
・銀水ピスカ(NEW)
リウスの姉で看護師。包み込むような優しさを持つ女性。
・紫雲タリア
機械や開発を得意とする少女。今回は特別展示の案内役。
きらきらソーダと、少し不思議な再会のひととき。
どうぞお楽しみください。
■第四章 第三話
リウスのオムライス。
エミのショートケーキ。
どちらも食べ終えたテツロウは、
特製席の上で小さく息をついた。
「……なんというか、普通の文化祭じゃないな」
「いまさら?」
リウスが淡々と返す。
「兄さん専用の文化祭だもの」
エミは誇らしげに胸を張った。
「お兄ちゃん、まだまだこれからだよ!」
ミニだけは最初から最後まで全力だった。
そのミニが、
背後で何やら大きなグラスを抱えている。
「はいはーいっ!」
元気いっぱいの声とともに、
ミニが勢いよく前へ飛び出した。
「次は私の番だよ、お兄ちゃん!」
ミニは片手でひょいっと大きなグラスを持ち上げ、
そのままテツロウの前へ差し出した。
中には透き通ったピンク色のソーダ。
その上には丸いバニラアイスがふわりと浮かび、
星形の飾りまで乗っている。
底の方からは、きらきらと細かな光が揺れていた。
「……それが、光るソーダか」
テツロウは思わず見上げる。
「そう!」
ミニは得意げに胸を張った。
「ミニ特製! きらきらスターソーダフロート!」
「名前までついてるのか……」
「今つけた!」
即答だった。
エミが額に手を当てる。
「もう少し落ち着いて運びなさい、ミニ」
「だいじょーぶだって!」
リウスは静かに眉をひそめた。
「……それ、だいぶ揺れてる」
「え?」
ミニが手元を見る。
その瞬間――
ぐらっ。
巨大なグラスが傾いた。
「わっ!」
「ミニ!」
「ミニくん!」
青いソーダが大きく波打つ。
だが、ぎりぎりのところで
ミニはなんとか持ち直した。
「……せ、セーフ!」
胸をなで下ろすミニ。
エミは深いため息をついた。
「もう……見てる方が危ないわ」
「でもこぼしてないもん!」
「たまたまです」
リウスの一言が鋭い。
ミニは口を尖らせた。
「リウスちゃん冷たーい!」
そんなやり取りのあと、
エミがテツロウへ優しく声をかける。
「兄さん、今度は私が支えるわね」
そう言って、
銀色の小さなトレーを両手で差し出した。
テツロウが乗ると、
エミは揺らさぬよう慎重に持ち上げる。
ふわり、と身体が浮く。
「今日は乗り物が多いな……」
「特等席です」
エミは嬉しそうに笑った。
そのままトレーは、
ミニの目の前までゆっくり運ばれる。
リウスも横から、
巨大なグラスが倒れないよう静かに手を添えた。
結果として――
テツロウの左右には身を乗り出したエミとリウス。
正面には元気いっぱいのミニ。
なんとも落ち着かない構図だった。
「いくよ、お兄ちゃん!」
ミニは満面の笑みで、両手を胸の前へ持っていく。
「おいしくな~れ!」
「もえもえ、きゅーん♪」
「なんで伸ばすんだ……」
「気分!」
即答だった。
その勢いのまま、
ミニはアイスを乗せた小さなスプーンを差し出す。
だが――
小さなスプーンとはいえ、
テツロウから見れば巨大な雪玉のようだった。
白く冷たい塊が、真正面から迫ってくる。
「まって、まって!」
「遠慮しないで、お兄ちゃん!」
「ミニのアイスも~♪」
「いや、そういう問題じゃ――」
次の瞬間。
むにっ。
巨大アイスが、そのままテツロウへ押しつけられた。
「ぶっ――!」
白い冷気と甘い香り。
視界が真っ白になる。
テツロウの姿は、
ふわふわのアイスに半分埋もれていた。
「お兄ちゃん! アイスおいしい?」
ミニは無邪気に目を輝かせる。
「……つべたい……べちょべちょだ……」
かろうじて聞こえる声だった。
エミは慌ててトレーを支え直した。
「もう、ミニ!」
リウスも呆れたようにため息をつく。
「……だから言ったのに」
その時だった。
すっと横から、やわらかなタオルが差し出される。
「ミニちゃん、テツロウちゃんが大変よ」
落ち着いた優しい声。
全員が振り向く。
そこに立っていたのは――
銀色の長い髪。
穏やかな微笑み。
包み込むような空気をまとった、ナース姿の女性。
ピスカだった。
「ピスカ姉さん!」
エミがぱっと表情を明るくする。
「来てくれたのね!」
「少し遅れてしまいました」
ピスカは柔らかく微笑みながら、
トレーごとテツロウをそっと抱き上げた。
そして胸元へやさしく引き寄せると、
やわらかなタオルで丁寧に
アイスを拭っていく。
「もう……こんなに冷たくなって」
その声音は、
叱るというより心配するような優しさだった。
「だ、大丈夫です……」
「ふふ、本当に?」
至近距離で覗き込まれ、
テツロウは思わず視線を逸らす。
近い。
やわらかな香りも近い。
落ち着いた大人の余裕まで近かった。
「もう少し、じっとしていてくださいね」
そう言って、ピスカは頬や髪についた
アイスまで丁寧に拭き取っていく。
「昔も、こうして遊んでいたのに」
ふいに、懐かしむような声が落ちた。
「昔って……」
テツロウは少し眉を上げる。
「まだ幼稚園とか、そのくらいの頃か……」
「ええ」
ピスカは優しく目を細めた。
「転んで泣いたり、泥だらけになったり」
「私が拭いてあげると、すぐ笑ってくれました」
「……そんなことも、あったかな」
記憶の奥に、ぼんやりとした景色が浮かぶ。
だが、はっきりとは思い出せない。
ピスカはそんなテツロウを見つめ、ふっと微笑んだ。
「でも、今のテツロウちゃんは――」
「とても、とても可愛くて……」
そう言って、
さらに自分のもとへ抱き寄せようとする。
「ぴ、ピスカさん……近いですって」
「ふふ、嫌でしたか?」
「嫌では……ないですけど……」
その返事に、ピスカは嬉しそうに笑った。
その様子を、
少し離れたところでエミが見つめていた。
どこか羨ましそうな、
けれど嬉しそうな複雑な顔である。
ピスカはすぐに気づいた。
「もう、エミちゃんもテツロウちゃんに
優しくしてあげたいのね?」
「えっ……」
「ち、違……」
言い切る前に、ピスカはくすっと笑う。
「はい、どうぞ」
そっとテツロウを、エミの両手へ預けた。
「わっ……」
エミは慌てながらも、しっかり受け止める。
そして、大事そうに胸元へそっと抱き寄せた。
「兄さん……」
その声は、さっきまでとは少し違っていた。
近くて、やわらかくて、あたたかい。
テツロウはまた、どうしていいかわからなくなる。
「……エミ?」
エミは少し頬を赤くしながら、小さく呟いた。
「……兄さん、大好き」
「……っ」
テツロウの顔まで赤くなる。
その反応を見て、ミニはけらけらと笑った。
「お兄ちゃん、また真っ赤ー!」
「ミニのせいでもあるだろ!」
「えへへー」
リウスはそのやり取りを見ながら、小さく息をつく。
「……にぎやかすぎる」
そう言いながらも、どこか口元はやわらいでいた。
その時、入口の方から足音が近づいてくる。
全員がそちらを見ると、
そこには紫雲タリアが立っていた。
紫を基調としたメイド服。
白いフリルと大きなリボン。
だが頭には見慣れたゴーグル。
腰には工具差し、手には作業用グローブ。
文化祭用の腕章も巻いており、
どこから見てもタリアらしい姿だった。
落ち着いた表情のまま、タリアは静かに口を開いた。
「皆さん、ずいぶん楽しそうですね」
「タリアちゃん!」
ミニが元気よく手を振る。
エミも嬉しそうに笑う。
「ちょうど次、呼びに行こうと思ってたんだよ!」
タリアは小さく頷くと、テツロウへ視線を向けた。
「テツロウ氏」
「特別に展示しているものがあります」
「ぜひ、皆さんで見に来てください」
その言葉に、リウスがわずかに目を細めた。
「……タリアさんの展示なら、少し興味あるかも」
ピスカも柔らかく微笑む。
「ふふ。これは楽しみねぇ」
テツロウは、嫌な予感と
期待が半分ずつ混じった顔になる。
「……特別って、
ろくでもない予感しかしないんだが」
タリアは無表情のまま答えた。
「安心してください」
「たぶん安全です」
「たぶん!?」
その場に笑い声が広がる。
こうして一行は、文化祭の次なる会場――
展示棟へ向かうことになった。
第四章 第四話へ続く
お読みいただきありがとうございます。
にぎやかな文化祭は、まだ終わりません。
次回、第四章 第四話は 5月26日(火)公開予定 です。
タリアの“特別展示”が動き出します。




