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不思議な宇宙(そら)のもとで  作者: まほ。かんた。
不思議なメイドの文化祭
27/33

第四章 不思議なメイドの文化祭②

文化祭編・第二話です。


【今回の主な登場人物】


・青星テツロウ

 本作主人公。不思議な文化祭へ招かれた青年。


・青星エミ

 テツロウの双子の妹の一人。兄さん大好きな優しい妹。


・青星ミニ

 テツロウの双子の妹の一人。元気いっぱいで明るい性格。


・銀水リウス

 銀髪ショートのクールな少女。少し照れ屋な一面も。


 ご主人様だけの特別メニューを、どうぞお楽しみください。

■第四章 第二話


 巨大なメイドたち。


 不思議な空間。


 そして――この距離感。


 テツロウの知っている文化祭とは、

 もはやまったく別のものだった。


 ――不思議な文化祭は、ここから始まる。


 エミが、満足そうに微笑む。


 「兄さん、びっくりした?」


 「……いや、まあ……かなりな」


 テツロウは周囲を見回しながら答えた。


 木のテーブル。


 並べられた椅子。


 壁際には飾り付けられたメニュー表。


 どれも見た目は普通の喫茶店だ。


 だが――


 自分にとっては、すべてが大きい。


 テーブルの天板だけでも広場のようで、

 椅子の脚は柱のように太い。


 カップ一つ取っても、

 小さな風呂桶ほどの大きさに見える。


 「兄さん専用に、ちゃんと調整してあるのよ?」


 エミが少し誇らしげに言う。


 「調整?」


 「うん。食べ物も、椅子も、食器も」


 「兄さんが困らないように、みんなで準備したの」


 その言葉に、テツロウは思わず三人を見る。


 エミは嬉しそうに胸を張り、ミニはえへへ、と笑い、

 リウスは少しだけ視線を逸らした。


 「……別に、大したことじゃないよ」


 「いや、十分すごいだろ……」


 思わず本音が漏れる。


 その反応に、リウスの口元がわずかに緩んだ。


 「それじゃ、ご主人様」


 エミが両手を前で揃え、丁寧に一礼する。


 「お席へご案内します」


 「いや、その“ご主人様”っての、

  まだ慣れないんだけど……」


 「兄さんは兄さんだけど、

  今日はご主人様でもあるの」


 「どういう理屈なんだ……」


 ミニがぴょこんと前に出る。


 「お兄ちゃん、こっちこっち!」


 巨大な手が差し出される。


 テツロウは少し迷ったあと、その掌へ乗った。


 ふわり、と身体が持ち上がる。


 「うわっ」


 「だいじょーぶ!」


 ミニは嬉しそうに笑いながら、

 テーブル中央の特製席へとテツロウを運ぶ。


 そこには、テツロウサイズの

 小さな椅子とテーブルが用意されていた。


 「……本当に専用席だ」


 「でしょー!」


 「ミニくん、少し揺らしすぎ」


 後ろからリウスが静かに言う。


 「えー? ちゃんと運んだよ?」


 「テツ兄、落ちそうだったよ」


 「落ちてない!」


 二人のやり取りに、

 エミが苦笑しながら肩をすくめる。


 「ふふ……相変わらずね」


 テツロウが席に座ると、三人は自然とその周囲に並んだ。


 巨大なメイド服姿の三人に囲まれ、

 視線を向けられる。


 なんとも落ち着かない。


 「……近いな」


 思わず呟くと、エミが楽しそうに首をかしげた。


 「兄さん、まだ緊張してる?」


 「そりゃするだろ……」


 「大丈夫だよ、お兄ちゃん」


 ミニが笑う。


 「すぐ慣れるって!」


 「慣れたくはない気もする……」


 その時、リウスが静かに一歩前へ出た。


 「……最初の注文、聞いていい?」


 「注文?」


 「うん。今日は特別メニューだから」


 そう言って、

 小さなメニュー表をテツロウの前へそっと置く。


 そこには――


 ・銀のオムライス

 ・星見ショートケーキ

 ・ミニ特製きらきらソーダ


 と、手書きで丁寧に書かれていた。


 「……なんだこれ」


 「僕たちのおすすめ」


 リウスは短くそう言って、少しだけ視線を逸らす。


 その横で、エミが身を乗り出した。


 「兄さん、ケーキは私が朝から作ったのよ?」


 「お兄ちゃん! ソーダは光るんだよ!」


 「……光るのか」


 情報量の多さに、テツロウは思わず額へ手を当てた。


 だが――


 なぜだろう。


 少しだけ、楽しい。


 その様子を見て、リウスがぽつりと呟く。


 「……じゃあ、最初はオムライスにする?」


 その声は静かだったが、

 どこか少しだけ期待しているようにも聞こえた。


 奥の厨房から運ばれてきた皿には、白い皿いっぱいに、

 ふわとろのオムライスが盛られていた。


 香りだけでも食欲をそそる。


 「すごいな……」


 思わずテツロウが呟く。


 リウスは何も言わず、

 小さな銀色のペンシル型ケチャップ容器を手に取った。


 「……ちょっと待って」


 そう言って、器用な指先で先端をつまみ、

 オムライスの上へ赤い文字を描いていく。


 すらすらと、迷いのない手つきで。

挿絵(By みてみん)

 やがて書き終えると、リウスは皿を少し横へ向けた。


 そこには――


 テツ兄 Love


 「……っ」


 テツロウの動きが止まる。


 リウスも同時に、耳まで赤くなっていた。


 「……その、メイド喫茶って、

  こういうのするんでしょ」


 ぶっきらぼうに言いながら、

 視線だけは逸らしている。


 「いや、でもそれ……」


 「……うるさい」


 さらに赤くなるリウス。


 その様子を見て、エミがくすっと笑った。


 「リウス、あれはしないの?」


 「……あれ?」


 「おいしくなる、おまじない」


 リウスは一瞬固まった。


 「……やるの?」


 「もちろん」


 エミはにっこりと微笑む。


 「私も一緒にしてあげるから」


 「……えぇ……」


 露骨に困った顔をするリウス。


 だが、逃げ場はなかった。


 エミはリウスの手をそっと引き、

 テツロウの席の前へ並ぶ。


 二人の巨大なメイド服姿が、眼前まで近づいた。


 近い。


 近すぎる。


 テツロウの視界いっぱいに、

 ふわりと広がるスカートの裾と、

 柔らかな布地の揺れが映る。


 視線の置き場に困り、思わず顔をそらす。


 だが、そらした先にも、また別の巨大な影。


 「兄さん?」


 エミが楽しそうにのぞき込む。


 「顔、赤いわよ?」


 「……そ、そういう距離なんだから仕方ないだろ」


 「ふふ」


 エミはどこか嬉しそうだった。


 その横で、リウスはまだ照れたまま小声で言う。


 「……ほんとにやるの?」


 「やるの」


 エミは即答した。


 そして二人は、

 テツロウの前で指先をハートの形に合わせる。


 「せーの♪」


 「……せーの」


 「おいしくな~れ♪」


 「……おいしくなれ」


 「もえもえ、きゅん♥」


 「……きゅ、きゅん」

挿絵(By みてみん)

 最後だけ、リウスの声が小さく裏返った。


 ミニは横で腹を抱えて笑っている。


 「リウスちゃん、顔まっかー!」


 「ミニくん、うるさい」


 「兄さん、これで絶対おいしくなったわ」


 エミが満足そうに言う。


 テツロウはまだ赤い顔のまま、

 オムライスを見下ろした。


 味より先に、心臓の方が落ち着きそうになかった。


 「……じゃあ、食べる?」


 リウスが小さくそう言うと、

 エミはにっこりと微笑んだ。


 「兄さん、少しだけ失礼しますね」


 そう言って、

 エミは銀色の小さなトレーを両手で差し出す。


 テツロウがその上へ乗ると、

 エミは壊れ物でも扱うように、

 ゆっくりと持ち上げた。


 ふわり、と身体が浮く。


 「お、おお……」


 視界が高くなる。


 眼下には広いテーブル。


 そして目の前には、

 巨大なメイド服姿のエミとリウス。


 「揺らさないから、安心してね」


 エミの声はやさしい。


 そのままトレーは、

 リウスの前へと静かに運ばれていく。


 「……ありがと、エミ」


 「どういたしまして」


 エミは嬉しそうに笑い、

 トレーを胸の高さでそっと支えた。


 その位置は、

 テツロウにとって少し落ち着かない高さだった。


 近い。


 視線を上げれば二人の顔。


 下げれば揺れるスカートの裾。


 どうしていいかわからず、

 テツロウは正面だけを見ることにした。


 その様子に気づいたエミが、くすっと笑う。


 「兄さん、緊張してる?」


 「してない」


 「顔、赤いよ?」


 「……うるさい」


 さらに赤くなる。


 その横で、リウスはオムライスを前に、

 小さなスプーンを指先でつまみ上げた。


 巨大な手。


 けれど動きは驚くほど繊細だった。


 綿棒でも扱うような慎重さで、一口分をすくう。


 「……熱くないから」


 そう言って、

 トレーの上のテツロウへとスプーンを近づける。


 「ほら」


 目の前まで迫る一口。


 「……あ、ああ」


 思わず口を開くと、リウスは静かに食べさせた。


 ふわりと卵がほどけ、

 ケチャップライスの香りが広がる。


 「……うまい」


 素直な感想が漏れる。


 その瞬間、リウスの耳がわずかに赤くなった。


 「……そう」


 そっけない返事。


 けれど口元は少しだけ緩んでいた。


 「よかったわね、リウス」


 エミが楽しそうに言う。


 「兄さん、もう一口いく?」


 「……食べさせるのは僕だから」


 小さく牽制するように言うリウス。


 「ふふ、ごめんごめん」


 エミは笑いながら、

 トレーをさらに安定するよう持ち直した。


 そのたびに、

 テツロウの身体へやわらかな揺れが伝わる。


 落ち着かない。


 だが――


 嫌ではなかった。


 「……テツ兄」


 リウスが二口目をすくいながら、

 少しだけ視線を逸らして言う。


 「まだ、食べる?」


 「……もちろん」


 その返事に、リウスは今度こそ、

 はっきりと微笑んだ。


 リウスのオムライスを食べ終えると、

 エミが待っていましたと言わんばかりに、

 一歩前へ出た。


 「兄さん、次は私の番です」


 そう言って、

 エミは両手で大事そうに皿を運んでくる。


 白い丸皿の上には、

 小ぶりながら丁寧に作られたショートケーキ。


 ふわふわのスポンジに、たっぷりの生クリーム。


 上には赤い苺がちょこんと乗っていた。


 甘い香りが、ふわりと周囲へ広がる。


 「おお……」


 思わずテツロウが声を漏らす。


 エミはその反応が嬉しかったのか、

 ぱっと表情を明るくした。


 「兄さんのために、朝から作ったのよ?」


 「朝から?」


 「うん。スポンジ焼くところから」


 「……すごいな」


 素直な感想だった。


 その一言だけで、エミの頬が少し赤くなる。


 「えへへ……」


 そして、皿をテツロウの目の前へそっと置いた。


 そこには、チョコペンで丁寧に文字が書かれていた。


 テツロウ兄さん。大好き♥


 「……っ」


 テツロウの動きが止まる。


 「エ、エミ……これ……」


 「だめ?」


 少しだけ上目遣いで聞いてくる。


 「いや、だめじゃないけど……その……」


 言葉が続かない。


 顔が熱い。


 エミはそんな反応を見て、くすっと笑った。


 「兄さん、かわいい」


 「かわいくはない」


 「かわいいです」


 即答だった。


 横ではミニがにやにやしている。


 「お兄ちゃん、真っ赤ー」


 「うるさい」


 リウスは静かに視線を逸らしていた。


 「……直球すぎる」


 小さく呟く。


 「リウス?」


 「……なんでもない」


 だが耳だけは、少し赤くなっていた。


 その時、

 リウスが無言で銀色の小さなトレーを持ち上げる。


 「……テツ兄、乗って」


 「え?」


 「今度はエミが食べさせる番だから」


 ぶっきらぼうに言いながらも、その手つきは丁寧だった。


 テツロウがトレーへ乗ると、

 リウスはしっかりと両手で支え、

 エミの前まで静かに運ぶ。


 「……揺らさないから」


 「お、おう」


 視界が持ち上がる。


 目の前には、巨大なエミの笑顔。


 「ありがとう、リウス」


 「……別に」


 そう言いながら、耳がまた少し赤い。


 エミはテツロウの前へ身をかがめる。


 その巨大なメイド服姿が、眼前いっぱいに広がった。


 ふわり、と揺れるスカートの裾。


 やわらかな布地の影。


 近い。


 近すぎる。


 テツロウは思わず視線を泳がせる。


 「兄さん?」


 エミが楽しそうに覗き込む。


 「また赤くなってる」


 「……近いんだよ」


 「ふふ」


 その答えが嬉しかったのか、

 エミはさらに笑みを深めた。


 「じゃあ、

  こっちもちゃんとおいしくしてあげるね?」


 「……こっちも?」


 「うん」


 エミは両手を胸の前へ持っていき、

 指先で大きなハートを作る。


 その巨大なハートが、

 テツロウの視界いっぱいに広がった。


 「せーの♪」


 ミニまで横でポーズを取る。


 「なんでミニまで……」


 「ノリです!」


 「兄さん、いくわよ?」


 エミはにっこりと笑い、とびきり甘い声で唱えた。


 「おいしくな~れ♪」


 「もえもえ、きゅん♥」


 至近距離だった。


 笑顔も、声も、仕草も、すべてが近い。


 トレーを持つリウスは、横で小さくため息をつく。


 「……強いな、エミ」


 その頬は、まだ少し赤かった。


 「はい、兄さん」

挿絵(By みてみん)

 エミは小さなフォークで、ケーキを一口分すくう。


 巨大な指先で、

 壊れ物でも扱うように慎重に持ち上げる。


 その動きは、優しく、丁寧だった。


 「……あーん」


 「……っ」


 少しだけためらったあと、テツロウは口を開く。


 ふわり、とスポンジがほどける。


 甘すぎず、やさしい味。


 生クリームも軽く、苺の酸味がちょうどいい。


 「……うまい」


 思わず漏れた本音。


 エミの顔が、ぱっと花が咲いたように明るくなる。


 「ほんと?」


 「ほんとだ」


 「やった……!」


 嬉しそうに胸の前で手を合わせる。


 その仕草があまりにも素直で、

 テツロウは自然と笑ってしまった。


 リウスはトレーを支えながら、

 静かにその様子を見ていた。


 「……よかったね、エミ」


 「うん!」


 その返事は、とても嬉しそうだった。


 そしてテツロウは思う。


 この文化祭は、やはり普通ではない。


 けれど――


 悪くない。


 むしろ、かなり楽しい。


 その時、背後でミニが何やら

 大きなグラスを抱えていたことに、

 まだ誰も気づいていなかった。


 第四章 第三話へ続く

 お読みいただきありがとうございます。

 まだまだ文化祭は終わりません。

 次回、第四章 第三話は 5月22日(金)公開予定 です。

 大きなグラスを抱えたミニにもご注目ください。

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