外伝I 不思議なテツロウのRPG ②
※本話は、外伝Ⅰ「不思議なテツロウのRPG」第2話です。
シグマワールドで勇者となったテツロウ。
仲間として現れたのは、僧侶エミと弓使いタリア――ただし、二人とも規格外の大きさでした。
今回は、そんな少しおかしなパーティでの初戦闘となります。
【前回のあらすじ】
テツロウは、タリアの父が作ったゲーム《シグマ・クエスト》を試すため、シグマワールドへ転送された。
王国で勇者として迎えられ、秘宝スターライト・シグマの奪還と魔王討伐を託される。
仲間を求めてギルドを訪れた彼を待っていたのは、僧侶エミと弓使いタリア――そして、巨大な姿で現れた二人だった。
こうして、少し不思議な冒険が幕を開ける――。
テツロウの目の前には――巨大な僧侶エミと、弓使いタリアの姿があった。
見上げるほどのスケール差。
それでも二人は、当たり前のようにこちらを見下ろしている。
(とりあえず……ステータス、確認するか)
テツロウは、メガネに表示された情報へと視線を向けた。
――――――――――
パーティーメンバー
なまえ:エミ
職業:僧侶
レベル:1
HP:99999
MP:0
なまえ:タリア
職業:弓使い
レベル:1
HP:99999
MP:0
――――――――――
「……は?」
思わず声が漏れる。
「レベル1でHP99999って、どういうことだよ……」
さらに視線を動かす。
「……って、エミ。僧侶なのにMP0?」
(回復魔法とか、使えないんじゃないのか……?)
そのとき――
エミが、少し困ったように首をかしげた。
「……あれ?」
「兄さんを回復させるのって、どうすればいいのかしら……」
少し考え込むようにしてから、
「――そうだわ」
小さく微笑む。
次の瞬間。
巨大な手が、ゆっくりとテツロウへと近づいてきた。
「ちょ、ちょっと――」
抗議する間もなく、テツロウの体はやさしくすくい上げられる。
包み込むように持ち上げられ――そのまま胸元へ。
「――っ!?」
やわらかな感触と、圧倒的なスケール差。
思考が一瞬、真っ白になる。
そのとき。
《HPが回復しました》
と、無機質なメッセージが表示された。
「……は?」
テツロウの思考が、数秒遅れて現実に戻る。
(いや……今の、回復……なのか?)
エミは、満足そうに微笑んだ。
「兄さん、回復したでしょ?」
テツロウは思わず、
「何をだ――」
と、言いかけて言葉を飲み込む。
「……いや、なんでもない」
小さく息をつきながら、どこか釈然としない表情を浮かべた。
(……これ、絶対おかしいだろ)
だが――“回復した”という事実だけは、否定できなかった。
「まずは、情報収集だな」
テツロウはそう呟き、街中の人々へと声をかけて回った。
だが――
(……やっぱり、おかしいな)
何人かに話を聞くうちに、違和感は確信へと変わっていく。
誰もが、当たり前のように受け答えをする。
そのすぐ上に――巨大なエミとタリアがいるというのに。
見上げる者も、驚く者もいない。
まるで“最初からそういう世界”であるかのように。
(気にしてるの、俺だけかよ……)
やがてテツロウは、一つの情報を得る。
魔王の幹部の一人が、街はずれの塔にいるらしい――と。
「街はずれの塔に、魔王の幹部か~」
タリアが楽しげに微笑む。
「RPGしてますな~、テツロウ氏」
「ああ……まあな」
テツロウは曖昧に頷く。
(いや、してるのは確かなんだけど……)
こうして三人は、街はずれの塔へと向かうことになった。
街を出て、しばらく進んだ、そのとき――
草むらが、不自然に揺れた。
次の瞬間。
――ゴブリンが現れた。
「……来たか」
テツロウは、銅の剣を構える。
小さな体で、正面に立つ。
(とりあえず、普通に戦うしかないよな……)
踏み込む。
剣を振る。
――ザシュッ。
ゴブリンAに、5のダメージ。
「……やっぱり弱いな、俺」
直後――
ゴブリンAが反撃に出る。
「兄さん、危ない!」
その声と同時に――影が落ちた。
ドンッ!!
巨大な足が、ゴブリンを踏みつける。
ゴブリンAに、99999のダメージ。
ゴブリンAを倒した。
「……は?」
テツロウの動きが止まる。
(いや、今の……踏んだだけだよな?)
一方、エミは――
「大丈夫ですか、兄さん?」
まるで何事もなかったかのように、やさしく声をかける。
(これが……回復役?)
――続けて。
もう一体のゴブリンが、タリアへと向かう。
ゴブリンBの攻撃。
だが。
タリアは、まったく動じない。
「……ん?」
軽く首をかしげる。
攻撃は、まるで意味をなしていなかった。
(当たってるよな……?)
テツロウの疑問をよそに、タリアは軽く指を弾く。
――ピンッ。
それだけで。
ゴブリンBは、遥か彼方へと吹き飛んだ。
ゴブリンBに、99999のダメージ。
ゴブリンBを倒した。
静寂。
「……えっと」
テツロウは、ゆっくりと口を開く。
「弓……どこいった?」
タリアは、にこりと笑う。
「いえ、近かったので」
(そういう問題か……?)
《経験値:10を獲得しました》
「……少な」
そして――
「兄さん、こちらへ」
エミがやさしく手を差し出す。
「いや、またそれか――」
言い終える前に、ふわりと体が持ち上がる。
やさしく包み込まれ、そのまま胸元へと引き寄せられる。
「――っ!」
《テツロウのHPが回復しました》
「……またかよ」
顔を背けながら、テツロウは小さく呟く。
エミは満足そうに微笑んだ。
「はい、ちゃんと回復できていますね」
(これ、絶対おかしいだろ……)
だが、“回復している”という事実だけは、どうやっても否定できなかった。
こうして――
テツロウたちの“少しおかしな戦闘”は、幕を開けたのだった。
そして――
テツロウたちは、魔王の幹部がいるとされる塔の前へとたどり着いた。
テツロウは、その塔を見上げる。
石造りの、重厚な建造物。
いかにも“ダンジョン”といった佇まいだ。
――だが。
そのすぐ傍には、塔よりも遥かに高く、巨大なエミとタリアがそびえ立っていた。
塔は――彼女たちの膝ほどの高さしかない。
「……いや、ちょっと待て」
テツロウは、ゆっくりと口を開く。
「エミやタリア、どうやって塔に入るんだ……?」
エミとタリアは、しばし沈黙する。
「…………」
「…………」
そして――
タリアが、ふっと微笑んだ。
「テツロウ氏。こうすればいいんですよ」
次の瞬間。
巨大な手が、塔を包み込む。
――ゴゴゴゴゴ……
そのまま、地面ごと引き抜いた。
「えっ」
テツロウの声が漏れる。
タリアは、軽く手首をひねる。
――ブンッ。
塔を、振った。
すると――
中にいたモンスターたちが、次々と外へと放り出される。
ゴブリン、オーク、スケルトン、ワーウルフ――
その数は、十……いや、二十はいる。
「うわ、出てきた!?」
テツロウは反射的に、銅の剣を構える。
(さすがに、この数は――)
モンスターたちは、一斉にテツロウへと向かってくる。
そのとき――
「兄さん、危ないです!」
エミの声が、空から降りてきた。
次の瞬間。
ドンッ!!
巨大な足が、地面を踏みしめる。
――いや。
それは、踏みしめるなどという生易しいものではなかった。
モンスターの群れが、まとめて押し潰された。
――――――――――
敵全体に99999のダメージ
――――――――――
モンスターを全て倒した。
静寂。
「……えっと」
テツロウは、ゆっくりと周囲を見渡す。
「今の……戦闘、終わったのか?」
《経験値:200を獲得しました》
《テツロウはレベルが上がった》
《新たな魔法を覚えた》
《エミはレベルが上がった》
《タリアはレベルが上がった》
「おお……?」
(なんか、一気に進んだな……)
そして――
塔の残骸が崩れ落ちた、その奥から。
ゆっくりと、一つの影が姿を現した。
「……なるほど」
低く、響く声。
黒い鎧に身を包んだ男――魔王の幹部が、そこに立っていた。
「我が配下を一瞬で片付けるとはな」
その視線が、ゆっくりとテツロウへと向けられる。
「貴様が……勇者か」
(……来たな)
テツロウは、銅の剣を握り直す。
背後には、巨大なエミとタリア。
だが――
(さすがに、全部任せるのもな……)
小さく息を吐き、前へ出る。
「俺がやる」
その一言に、エミは少し驚いたように目を瞬かせた。
一方、タリアはじっとその姿を見つめる。
「無理はなさらないでくださいね、テツロウ氏……」
幹部が、ゆっくりと剣を構える。
「来い、勇者」
その瞬間――
テツロウは、魔法を発動した。
「ファイアーボール!」
小さな火球が生まれ、まっすぐに放たれる。
――ドンッ。
幹部の鎧に直撃する。
だが――
「……ぬるい」
煙の中から、無傷のまま現れる。
(やっぱり、効かないか……!)
「ウォーターボール! ウインドカッター!」
水の弾と風の刃が連続して飛ぶ。
だが、それでも決定打にはならない。
一方で――
エミはじっとその様子を見つめていた。
(兄さん……がんばってる……)
小さな体で、必死に戦う姿。
(……かわいい)
思わず、そんな感想が浮かんでしまう。
そのとき――
幹部が、一気に距離を詰める。
「終わりだ」
大きく振り下ろされる剣。
「――っ!」
テツロウは、とっさに後ろへ跳ぶ。
だが――
(避けきれない……!)
その瞬間。
――ピンッ。
何かが弾ける音。
次の瞬間、幹部の体が横へと吹き飛んだ。
「……え?」
テツロウは目を見開く。
タリアが、軽く指を弾いたのだ。
「さすがに、これは危険ですね」
「テツロウ氏が心配だったので、つい……手が出てしまいました」
吹き飛ばされた幹部は、なんとか体勢を立て直す。
だが、その瞬間――
ドンッ!!
エミの足が、静かに地面へと降りる。
それだけで、幹部の動きが完全に止まった。
――――――――――
99999のダメージ
――――――――――
魔王の幹部を倒した。
静寂。
「……えっと」
テツロウは、ゆっくりと呟く。
「俺の戦闘、必要だったか?」
エミは、やさしい声で言った。
「兄さん、危なかったです」
そっと手を差し出す。
「こちらへ」
「あ、いや待て、今は――」
言い終える前に、ふわりと持ち上げられる。
今度は、より優しく。
包み込むように。
そのまま、胸元へ。
《テツロウのHPが回復しました》
「……やっぱりそれか」
小さく呟くテツロウ。
エミは満足そうに微笑む。
「回復は、私にお任せくださいね」
一方、タリアは小さく息をついた。
「本当に、無理をなさいますね……テツロウ氏」
どこか困ったように微笑む。
「ですが……」
視線をやわらかく落とす。
「ちゃんと、前に進んでいらっしゃいますね」
その言葉には、ほんの少しだけ安心したような響きがあった。
テツロウは、ため息をついた。
だが――
(まあ……)
小さく、視線を上げる。
巨大な二人が、そこにいる。
(悪くないかもな)
そんな気持ちも、少しだけ芽生えていた。
――そのとき。
テツロウのメガネに、再び光が走った。
《SYSTEM MESSAGE》
パーティ加入申請を受信しました
――――――――――
戦士 レベル5:リオ
――――――――――
→ パーティに加えますか?
「リオ……?」
思わず、その名前を口にする。
(まさか……)
一瞬、迷う。
だが――ここまで来て、断る理由もなかった。
▶YES NO
そして――
▶YES
その瞬間。
空気が、わずかに震えた。
次の瞬間――
ズンッ……!!
重々しい音とともに、新たな“影”が地面へと現れる。
そこにいたのは――
ビキニアーマーをまとった、巨大な戦士・リオの姿だった。
「……やっぱり、そうなるのかよ」
テツロウは、小さく呟く。
見上げる先には、
エミ、タリア、そしてリオ。
さらに増えた、“規格外の仲間たち”。
(これ、どうなるんだ……)
その答えを知る前に――
物語は、次の局面へと進む。
――外伝Ⅰ 不思議なテツロウのRPG 第2話 完――
第3話へ続く。




