外伝I 不思議なテツロウのRPG ③
※本話は、外伝Ⅰ「不思議なテツロウのRPG」第3話です。
巨大な僧侶エミ、弓使いタリアに続き、戦士リオも仲間に加わったテツロウ。
さらに、魔法使いとしてエアリも参加することになり――
勇者テツロウのパーティは、ますます規格外になっていきます。
【前回までのあらすじ】
テツロウは《シグマ・クエスト》の世界で、
巨大な僧侶エミと弓使いタリアを仲間に加え、
魔王の幹部討伐へ向かった。
戦闘では二人の規格外の力に圧倒されつつも、
テツロウ自身も勇者として魔法を覚え、
少しずつ前へ進んでいく。
そして幹部を倒した直後、テツロウのもとへ
新たなパーティ加入申請が届く。
その相手は――巨大な戦士・リオだった。
巨大なエミ、タリア――
そして新たに加わった、戦士リオ。
テツロウの周囲には、見上げるほどの
“仲間たち”が揃っていた。
その中で――リオが、ゆっくりと一歩前へ出る。
「お兄様……」
どこか楽しげに、微笑みながら。
「面白いことをなさっていますね……」
視線をやわらかく落とし、
小さなテツロウを見つめる。
「私も、一緒にサポートさせていただきますわ」
その仕草ひとつひとつが、
どこか艶やかで――見る者の視線を、
自然と引きつける。
さらに、リオはくすりと笑う。
「それに――」
「エアリさんも、まもなく来ますので」
「さらに楽しい冒険になりそうですね……」
その言葉に、テツロウは一瞬だけ、
きょとんとした表情を浮かべる。
「エアリちゃんも……?」
だが、その思考は――すぐに別の方向へと
引き戻される。
目の前には、圧倒的な存在感を放つリオの姿。
ビキニアーマーに包まれたその体は、
これまでの二人とはまた違う、大胆で、
どこか煽情的な魅力をまとっていた。
「……すごい……」
思わず、声が漏れる。
少しだけ、照れながら。
リオは、その反応を見て、くすりと微笑んだ。
「もう、お兄様……」
「もっと、リオを堪能しても
よろしいのですよ……?」
わずかに身をかがめ、
からかうような声音でそう囁く。
「……いや、それはちょっと……」
テツロウは、思わず視線をそらした。
一方で――
場面は変わり、切り取り部屋の制御室。
静かな空間の中、複数のモニターが
淡く光を放っている。
その一つに映し出されているのは――
シグマワールドでのテツロウたちの様子だった。
その前に立つのは、エアリ。
「なるほど……」
小さく呟く。
「リオちゃん……」
「あなたが登録した通りの設定で、
テツロウさんのもとへ行けるのね……」
視線を横へと移す。
そこには、切り取り部屋の片隅に置かれた――
『シグマクエスト・テスト用マニュアル』
そして、モニターに表示された設定画面。
エアリは、それらを見比べながら、
静かに頷いた。
「つまり……」
「このシステムは、“登録した内容”を
そのまま反映している……」
わずかに、興味深そうな色が浮かぶ。
「では――」
エアリは、操作パネルへと手を伸ばす。
ゆっくりと、入力していく。
――名前:エアリ
――職業:魔法使い
その指先が、最後の操作を終える。
「私も、参加させていただきましょうか」
静かに、微笑んだ。
ほどなくして――
テツロウのメガネに、再び光が走った。
《SYSTEM MESSAGE》
パーティ加入申請を受信しました
突如として表示されるメッセージ。
――――――――――――
魔法使い レベル5:エアリ
――――――――――――
→ パーティに加えますか?
「……やっぱり、エアリちゃんか」
テツロウは小さく呟きながら、
▶YES
を選択した。
その瞬間――空気が、ふっと揺らぐ。
次の瞬間。
静かに、しかし確かな存在感を伴って――
新たな影が、そこに現れた。
それは――巨大な魔法使い、エアリだった。
赤を基調とした装い。
流れるようなシルエットに、
魔法使いらしい意匠。
だが――そのスカートは、やや短く、
見上げる位置にいるテツロウからは、
否応なく、その美しい脚線が視界に入る。
(……うわ……)
思わず、言葉を失う。
視線を逸らそうとしても、
どうしても目に入ってしまう。
「…………」
完全に、思考が止まる。
一方で――
エアリは、その視線にすぐ気づいていた。
(あら……)
わずかに目を細める。
(ちゃんと、見えているのね)
ほんの少しだけ、楽しげな色が、
その表情に浮かぶ。
リオのように露骨ではない。
だが――自分の“見え方”を理解したうえで、
自然に立っている。
その仕草には、どこか余裕があった。
(こういう反応、するのね……テツロウさん)
興味深そうに、小さな彼を見下ろす。
そして――わずかに身を整える。
それだけで、より一層、
洗練された印象が際立つ。
「よろしくお願いしますね、テツロウさん」
穏やかで、落ち着いた声。
その声に、テツロウはハッと我に返る。
「……あ、うん。よろしく」
どこかぎこちない返事。
(いや、落ち着け俺……)
軽く咳払いをして、意識を切り替える。
「とりあえず……」
テツロウは、改めてメガネへと視線を向けた。
「ステータス、確認するか」
――――――――――
なまえ:テツロウ
職業:勇者
レベル:5
HP:100
MP:20
――――――――――
――――――――――
パーティメンバー
エミ/タリア/リオ/エアリ
レベル:5
HP:99999
MP:0
――――――――――
「……やっぱりか」
小さく呟く。
(エアリちゃんも魔法使いなのに、MP0……)
視線を上げる。
巨大な四人の仲間たち。
(もう、このサイズなら……)
(魔法とか、関係ないよな……)
そんな結論に、自然とたどり着いてしまう。
そして――
「……さて」
テツロウは、小さく息を吐いた。
「これで、全員揃ったわけか」
見上げる先には、
エミ、タリア、リオ、そしてエアリ。
規格外の仲間たち。
(……ほんと、どうなるんだこれ)
だが――その不安の中に、ほんの少しだけ、
期待も混じっていた。
そして――
テツロウは、村へと戻り、
人々から改めて情報を聞き出していた。
――ただし。
その光景は、
どう考えても“普通”ではなかった。
テツロウの背後には、
巨大なエミ、タリア、リオ、そしてエアリ。
見上げるどころではない。
空を覆うような四人の存在が、村のすぐそばに“立っている”。
だが――誰一人として、それを気にしていない。
「この先の森を抜けるとね……」
村人は、ごく自然な調子で話し続ける。
視線は、ただ目の前のテツロウへ。
そのすぐ上にある“圧倒的な存在”には、
一切、触れようともしない。
(……やっぱり、おかしいだろ)
テツロウは内心で呟く。
(見えてないのか……? それとも――)
そこまで考えて、小さく首を振る。
(……まあ、いいか)
今さら、この世界の違和感を
一つ一つ気にしても仕方がない。
いくつかの証言をつなぎ合わせるうちに、
やがて一つの結論へとたどり着く。
「魔王は――」
小さく呟く。
「この先にある“大森林”を抜けた先……」
「“悪魔の山”と呼ばれる
山の洞窟にいるらしい」
村人たちは、その名を口にするだけで、
わずかに表情を曇らせていた。
大森林――数多の魔物が徘徊し、
昼なお暗い、危険地帯。
そして、その先にある――悪魔の山。
常に不気味な霧に包まれ、近づいた者は、
ほとんど戻ってこないとされる場所。
(いかにも“ラストダンジョン前”って
感じだな……)
テツロウは、苦笑する。
だが――
(行くしかないか)
視線を上げる。
そこには、エミ、タリア、リオ、そしてエアリ。
規格外の仲間たちが揃っていた。
「……よし」
小さく息を吐く。
「大森林、抜けるぞ」
その一言で、次なる目的地は決まった。
テツロウたちは、大森林へと向かっていた。
道中――エミは、ふとエアリへと視線を向ける。
「エアリさん」
やさしく声をかける。
「私は回復の魔法は使えないのですけれど……」
「兄さんを回復することは、できますよね?」
少し考えるように続ける。
「でも……エアリさんは、魔法使いですし……」
「何か、できたりしますか?」
その問いに、エアリはわずかに目を細めた。
「……そうですね」
静かに考え込む。
(この世界の仕様……)
(“行動”がそのまま効果として
反映されている……?)
そして――
「もしかして……」
小さく呟くと、視線をテツロウへと向けた。
「テツロウさん、少し失礼しますね」
そう言って、エアリはゆっくりと手を伸ばす。
やさしく、丁寧に――テツロウの体を
すくい上げる。
「え、ちょ――」
抵抗する間もなく、
そのまま――エアリの胸元へと導かれる。
「――っ!」
やわらかな感触と、包み込まれるような安心感。
その瞬間――
《テツロウの攻撃力が上がった!》
無機質なメッセージが表示される。
「……え?」
テツロウは目を瞬かせる。
エアリは、静かに頷いた。
「……なるほど」
「これは“支援魔法”のようなものですね」
「直接的な魔法ではなく……」
「接触によって効果が発動するタイプ、
といったところでしょうか」
その声には、
わずかに納得したような響きがあった。
一方――テツロウはというと。
(攻撃力……上がった、のか?)
なんとなく、体が軽くなったような感覚。
だが――
(いや……)
視線を上げる。
巨大な仲間たち。
(この人たちに比べたら……)
その差は、あまりにも大きい。
(……誤差みたいなもんだろ)
そんなことを思いながらも――
「……」
顔が、じわりと熱くなる。
エアリの胸元に包まれたまま、
テツロウは、思わず視線を逸らした。
一方で――
その様子を見ていたリオが、
少しだけ頬を膨らませる。
「いいですわね……」
「エミも、エアリさんも……」
羨ましそうに、ぽつりと呟く。
「私も、そういう“役割”
があればいいのですけれど……」
ちらりとテツロウを見下ろす。
その視線には、ほんの少しだけ、
拗ねたような色が混じっていた。
やがて――
テツロウたちは、大森林へとたどり着いた。
目の前に広がるのは、
鬱蒼とした木々が生い茂る、深い森。
空を覆うほどの枝葉。
足元は薄暗く、奥は見通せない。
(……いかにも危険地帯って感じだな)
テツロウは、小さく息をつく。
だが――その背後では。
「……あら?」
リオが、きょとんとした様子で
首をかしげていた。
「お兄様、ここが“大森林”ですの?」
見渡す。
その視界に映るのは――
せいぜい“少し草が伸びている程度の草原”。
「ずいぶんと、かわいらしい場所ですわね」
その言葉に、テツロウは思わず振り返る。
「いやいやいや、全然かわいくないからな!?」
だが、スケールが違いすぎる。
そして――
リオは、にこりと微笑んだ。
「でしたら――」
「私が、少し整えて差し上げますわ」
そう言うと、背に背負った巨大な剣を――
ゆっくりと、振り抜いた。
――ブォンッ!!
空気が唸る。
その一振りで。
大森林は――まるで草を刈るかのように、
一瞬でなぎ払われていった。
「……は?」
テツロウは、呆然と立ち尽くす。
目の前に広がっていたはずの森が、
跡形もなく消えている。
(いや、もうダンジョンじゃないだろこれ……)
だが、その直後――地面が、ざわりと揺れた。
刈り取られた森の奥から、無数の影が現れる。
モンスターの群れ。
それは、先ほどまでの比ではない数だった。
「……来たな」
テツロウは、銅の剣を構える。
そのとき――
「テツロウさん、こちらへ」
落ち着いた声。
エアリの手が、やさしく伸びてくる。
「え、また――」
言い終える前に。
ふわりと、体が持ち上がる。
そのまま――エアリの胸元へと包み込まれる。
「――っ」
《テツロウの攻撃力が上がった!》
「支援、完了です」
エアリは、静かにそう告げた。
その声音は、どこまでも冷静で――
同時に、どこか頼もしい。
「さあ、どうぞ」
その一言に、リオとタリアが同時に動いた。
「では――参りますわ」
リオが、大きく踏み込む。
ドンッ!!
その一歩で、モンスターの群れが押し潰される。
さらに――剣を軽く振るうだけで、
数十体がまとめて吹き飛ぶ。
一方、タリアは――
「こちらも処理しておきますね」
淡々とした口調で、指を軽く弾く。
――ピンッ。
それだけで。
別方向から迫っていたモンスター群が、
一瞬で消し飛んだ。
「……すごいな、ほんと」
テツロウは思わず呟く。
だが――そのとき。
空から、影が落ちた。
飛行型のモンスター。
一直線に、テツロウへと突っ込んでくる。
「……っ!」
とっさに構える。
「ファイアーボール!」
小さな火球が放たれる。
命中。
だが――倒しきれない。
「……くそっ!」
その瞬間。
――パシッ。
まるで虫を払うように、
リオの手が軽く振られた。
それだけで、飛行モンスターは消し飛ぶ。
「ごめんなさいね、お兄様」
くすりと微笑む。
「つい、手が出てしまいましたわ」
一方、タリアも――
「空からの攻撃は危険ですね」
同じく軽く手を振り、残りを一掃する。
そして――
その様子を見ていたエミは、
じっとテツロウを見つめていた。
(兄さん……がんばってる……)
小さな体で、必死に魔法を放つ姿。
ファイアーボールも、ウォーターボールも、
ウインドカッターも――
そのすべてが、
(……かわいい)
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
「兄さん……」
やさしく手を差し出す。
戦闘が一段落した、その瞬間。
ふわりと、テツロウを持ち上げる。
そして――いつものように、
胸元へと引き寄せた。
《テツロウのHPが回復しました》
「……やっぱりそれか」
小さく呟くテツロウ。
だが、その表情は――どこか少しだけ、
安心していた。
(……まあ、悪くないか)
見上げれば、四人の巨大な仲間たち。
規格外で、少しおかしくて、でも――
「頼もしいな」
思わず、そう呟いていた。
――外伝Ⅰ 不思議なテツロウのRPG 第3話 完――
第4話へ続く。




