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魔核戦機アストレイア  作者: 秋紅葉リュウ
第一章 始動

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第8話 竜鱗を断つ

 何やら難しい文字列を表示した後、コックピットのモニターが外の映像を映し出す。そして、映った映像にはさっきのクリーチャーが目の前にいることが見える。


 クリーチャーは目の前に現れたCOAに俺が乗っていると感じ取ったのか、そのままこちらへ向かって突進してきた。




「ちょ、ちょっと待って!俺はデモンズじゃないからCOAなんて動かせないって!」




 しかし、そんなこともお構いなしに、クリーチャーは一歩、また一歩とこちらへと向かって近づいてくる。




「お、おい!こっちに来るな!こっちに来るんじゃない!」




 だが、俺のそんな声も虚しく、クリーチャーの身体が機体へと激突し、まるで交通事故でも起きたかのような衝撃が俺を襲った。




「うわあああああああっ!!」




 突進で後方に強く吹っ飛ばされた機体は、そのまま背から地に倒れる。




「ぐっ......クソッ!せめて手足でもなんでも動いてくれよ!」




COAはデモンズでなければ動かせないのが、この世界の常識だ。だが、頭の中では分かっているものの、今は自分の命がかかっている状況だ。たとえ、あり得えないことだとしても、自分の命を守るために動いてほしいと俺は願った。




――ウィィィン......




 その時、突然機体の腕部が動き出した。そんな予想外の出来事に俺は驚愕した。




「う、動いた........?」




 本来、普通の人間はCOAを動かすことはできないはず。それなのに今、この瞬間、確かに自分の乗っているCOAは動き出した。なぜ俺に動かすことができたのか分からない。それに、俺は目の前にある操縦用のレバーやペダルを動かしてもいない。まるで、俺の思考がそのまま機体の操作に反映されているようだった。そんなことを思い立った俺は、仰向けの状態から起き上がるための身体の動きを想像してみる。すると――




――ギギギッ......




 自分が思い浮かべた通りの動きがそのまま機体の動きに反映され、機体各部の駆動系から機械が軋む音が鳴りながら、少し動きに違和感があるが、機体が仰向けから起き上がり始めた。




「こいつ........少し動きがぎこちないけど、俺が思った動きを再現してるのか........!?」




 だが、そんなことが分かったのはいいものの、簡単に思ったように動いてくれず、なかなか仰向けの状態から起き上がれない。どうやら思った動きがそのまま完璧に再現されるわけじゃないらしい。そして、そうしているうちに、クリーチャーは再び攻撃しようと身構える。




「俺の思った動きが反映されるにしても、こんなに動きが硬いとどうにもならないじゃねぇか!クソッ!なんとか動かし方が分かれば.........!」




 操縦の仕方が分からず、焦りからそんな愚痴をこぼした時、モニターに【Operational Manual Memory Feedback Starting】と表示され、身体に何かが流れ込んでくるような感覚がした。その感覚は手足を通じて、やがて頭まで辿りつく。




「な、なんだ......?俺の頭に何か情報のような物が流れ込んでくる......」




 今も頭の中に流れ込んでくる情報を通じて、俺はそれが何なのかを理解した。




「これは......COAの操縦方法か......?」




 直後、情報の流入が終了する。そして、俺の頭の中にはCOAの操縦方法がまるで最初から知っていたかのように書き込まれていた。一体何がどうしてこうなってるんだと、突然の不可解な現象に戸惑っていると、攻撃態勢を取っていたクリーチャーが、その場から跳躍し、翼と一体化した腕を振りかぶり、鋭い爪で俺を機体もろとも引き裂こうと襲い掛かる。




「おわっ!?ちょっと待て、少しは考える時間はくれって!!?」




 無論、クリーチャーはそんなこと知ったこっちゃないと言わんばかりに攻撃の手を緩めず、容赦なくその爪を振り下ろす。




「ちょっ危な――ってうお!?」




 早く避けなければと思った時、俺は無意識のうちに操縦レバーを握り、足元のペダルを踏み込んでいた。その直後、機体が回避行動を取り始めた。回避時の遠心力で身体がシートから浮きそうになりつつも、自分でも驚くくらい慣れた手つきで機体を操る。機体はそのまま受け身を取り、地面を滑りながら膝立ちの体勢で停止する。




「......俺、さっきまで操縦なんて分からなかったはずだよな......?」




 俺はデモンズでもなければ戦闘経験者でもなんでもない。だが、さっきの回避行動はまるでCOAに乗った状態での戦闘を何度も経験し続けた熟練者のような動きだった。それに加えて、あの思考を反映して機体を動かす機能が手動での操縦と合わさったからなのか、生身の身体であるかのように機体が軽やかに動く。




(これ、さっきの操縦方法が頭の中に流れ込んできたからなのか......?)




 操縦方法も分からないような俺でも動かせるようになるこの不可思議な現象。俺は凄いと思う反面、底が知れない恐怖を感じた。まるで、自分がCOAのパイロットとして戦うために勝手に作り変えられる。そんな、自分が普通の人間では無くなるような恐怖を。




「俺は一体......どうなっちまったんだ......?」




 得体のしれない恐怖で震える手を見つめていると、繰り出した攻撃を回避されたクリーチャーが怒りの咆哮をあげた。その耳が壊れてしまいそうなほどの大音量を聞いて、俺の意識は一瞬で現実に引き戻された。




「いや、そんなことを気にしてる暇はない......とりあえず今はこの状況をどう切り抜けるのか考えるんだ......!」




 俺は機体を立ち上がらせ、クリーチャーのいる方向を見る。奴は獲物を未だに目の前の獲物――俺を仕留められない苛立ちからか、口から何か赤い怪しげな光を出しながらこちらを睨みつけていた。俺は、その口から漏れだしている光に命の危険を感じるような嫌な予感を感じた。




「そ、そうだ......!武器、何か武器は無いのか......!」




 俺が武器が無いのか探そうとすると、モニターの右側に【WEAPON】という文字と共に機体の全体像を模したインターフェースが現れ、この機体に装備されている武器が表示される。


だがしかし――




「ちょっと待て、二つしか武器が無いのかよ!?」




 インターフェースに表示された武器はたった二つ。


 この機体の頭部に二つ取り付けられている【頭部60㎜バルカン】。そして、【MBW-01 クサナギ】という刀のような武器しか装備されていなかった。少ない。あまりにも武器が少なすぎる。これだけの武器でどうやって戦えというのか。だが、やらなければやられる。俺は頭の中に流れ込んだ操作方法に従い、唯一の遠距離武器である頭部バルカンの安全装置を解除する。そして、その銃口をクリーチャーへ向け、操縦レバーにあるトリガーを引く。




「これでもくらえッ!」




 直後、機関砲の激しい射撃音が響き、薬莢の火薬が炸裂した反動で機体が小刻みに振動しながら、頭部から弾丸が次々と高速で撃ち出される。しかし――




「き、効いてない!?」




 撃ち出され弾丸はクリーチャーの身体を覆う鱗によって金属がぶつかり合うような音を出しながら全て弾かれてしまった。俺はそのあまりにも予想外な光景に驚愕する。


 その結果、攻撃されたクリーチャーはさらに怒り出し、口を大きく開き、その喉の奥から怪しく光る赤い光を覗かせる。




「おいおい......なんか明らかにヤバそうな気配がするんだが……!?」




 俺のそんな言葉を肯定するかのように、その光はだんだんと強くなっていき、挙句には炎まで吹き出し始めていた。




「は、早く......!早く何とかしねぇと......!」




 頭部バルカンはあり得ないほどに硬い鱗で弾かれ、傷すら与えられない。ならば、この機体に装備されているもう一つ装備を使うしかない。俺は機体の腰部に携行されている刀の形をした武器【クサナギ】を抜刀し、それを構える。その時、クサナギの刀身が淡く光りだした。




「なんだ、急に光りだしたぞ......!?」




 俺がクサナギに起きた異変に驚く。そして、刀身の光はその勢いを増していき、やがて機体の背の丈よりも長い白銀に輝く光の刃が形成された。だがその後、何かが勢いよく流れていくような感覚が身体中を駆け巡り、全身の感覚が冴えわたっていくのを感じる。


 俺はそんな不思議な感覚に戸惑いにながらも、クリーチャーの方へ機体のカメラアイを向け、奴を視界の中に捉える。奴の口から発せられている怪しい光はすでに何かを吐き出そうと言わんばかりに強く発光し、炎だけでなく、スパークが生じていた。そして――




――ギュォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!




 クリーチャーの口から激しい熱気と衝撃を伴った極太の光線が放たれた。その勢いは凄まじく、気づいたときには光線が俺のすぐ目の前にまで迫っていた。




「――ッ!!」




 その瞬間、俺は咄嗟に構えていたクサナギを振るった。




――ズバァァァァァッ!!




 白銀に輝く光の刃が、迫り来る極太の光線へと真正面から叩き込まれる。そして次の瞬間、俺はあり得ない光景を目にした。




「なっ――!?」




 クリーチャーの口から放たれた極太の光線が、クサナギの光の刃に触れた瞬間、真っ二つに斬り裂かれ、Y字状に枝分かれした後、機体の左右を掠めながら後方へと突き抜けていったのだ。斬り裂かれた光線はそのまま地面を抉りながら、その勢いを弱めていく。


 俺は機体のマニピュレーターに握られたクサナギを見つめる。




「ハ、ハハッ......あんないかにも喰らったら終わりみたいな光線をぶった斬るとか......なんて切れ味してんだよこいつ......」




 光線を放ったクリーチャーも、俺が無傷で立っていることに明らかに動揺しているようだった。無理もない、斬った俺だって信じられない。


 必殺の一撃を目の前で防がれたクリーチャーは、俺を本格的に敵として認識したのか、暴風を起こしながらその場から上空へ飛翔する。




「こいつ、また空から急降下してくるつもりか!!」




 俺は、奴の攻撃に備え、再びクサナギを構える。


 そして、上空へ飛翔したクリーチャーは、今度こそ仕留めるというように、そのまま俺へと向かって急降下し、その速度を徐々に加速させて突進してくる。




(来るッ......!)




 俺の緊張に反応したのか、機体がその手に持つクサナギの柄を強く握りしめる。俺はこちらへ向かって突進し、徐々にその距離を縮めるクリーチャーを見つめる。避けなければ死ぬ。避けたとしてもまた空へ逃げられる可能性が高い。ならば、俺が取る行動はただひとつ――




(奴と激突する寸前に、このクサナギを叩き込む......!)




 俺はクサナギを抜刀したときに研ぎ澄まされた感覚を集中させる。クリーチャーとの距離を視覚を頼りに判断し、クサナギを叩き込むタイミングを見極めていく。




 クリーチャーとの距離が縮む。だが、遠い。


 さらにクリーチャーとの距離が縮む。だが、まだ遠い。


 さらにまたクリーチャーとの距離が縮む。だが、まだその時じゃない。


 やがて、突進するクリーチャーの巨体が、機体と激突する寸前まで接近する。




(今だッ!)




 俺は機体の姿勢を低くし、機体の頭上を通り過ぎようとするクリーチャーの胴体に狙いを定めてクサナギを叩き込む。白銀に輝く刃がクリーチャーの身体に触れる。




――スゥゥゥ...............




 その時、刃がクリーチャーの身体をすり抜けた。手ごたえなんて物はなかった。まるで、刃が空を切ったかのようだった。直後、クリーチャーが何事も無かったかのように俺の背後で着地した。




「畜生......!やっぱりダメなのかよ......!」




 俺は着地したクリーチャーがいる方向を向く。俺はまた奴の攻撃に備えようとクサナギを構える。しかし、俺は何か違和感を感じた。




「あれ......なんで動かないんだ......?」




 クリーチャーがその場に立ったままピタリと動かなくなっていた。一体何が起こっているのか、俺が戸惑っていた次の瞬間――




――ザシュッ! ブシャァァァァァ.........!




 突然クリーチャーの身体が胴体から真っ二つに断ち斬られ、鮮血が勢いよく吹き出し、機体へと降りかかる。そして、切れ目から上の身体が地に落ち、下の身体が倒れ、そこから池のように血がどくどくと広がっていく。


 俺は突然の出来事にその場で立ちすくむ。そして――




「俺が......俺がやったのか......?」




機体のカメラアイ越しに見えるその光景に、俺は呟いた。




「俺が......この手で......?」




俺の視界には、胴体から一刀両断にされた怪物......クリーチャーの骸が目の前に横たわっている光景が映っていた。


俺はふとその手で操る機体のマニピュレーターを見る。


その鋼鉄の手指はその手に握った一振りの刃とともに、黒みがかった紅色に染まっており、俺がクリーチャーを自らの手で殺めたことを物語っていた。




「うっ.........!」




猛烈な吐き気が俺に襲う。


俺はこの手で殺めたクリーチャーに襲われた。俺はその凶暴な爪牙に引き裂かれて殺されると思った。


俺は死にたくなかった。だから殺される前に殺した。自分の命を守るために。




だが、俺はこの手で生命を殺めた。たとえそれが防衛のためにやったことだとしても。


その非常で残酷な現実が、俺に重くのしかかる。




俺はただ平和に暮らしていたかっただけなのに。


ただ父さんやヒナタたちと笑って暮らせるような日常を過ごしたかっただけなのに。












――一体なぜ、どうしてこんなことになったんだろう。










『そこを動かないで!!』




 俺がクリーチャーというひとつの生命をこの手で奪った現実に苦しんでいた時、突然コックピットのスピーカーか女性の声が聞こえた。モニターには【SOUND ONLY】という文字が表示されたインターフェースが展開され、いつの間にか4機のCOAに囲まれているのが見えた。そして、そのCOAが手に持つ武器は俺へと向けられている。




『あんた、一体何者なの!なぜ私が乗るはずだった機体に乗っているの!』




 俺はその言葉を聞いて、思い出した。俺が乗っているのはCOA......ならば、本来こいつに乗るはずのパイロットがいるはず。俺はそれに不本意とはいえ、勝手に乗り込んで、クリーチャーと戦ってしまった。


 そして理解した。俺は今、このCOAの本来のパイロットに、無断で機体を使っている不届き者として取り押さえられようとしていることを。




『貴様をその機体の無断搭乗の疑いで拘束させてもらうわよ。言っておくけど、抵抗しようとしても無駄よ。私たち第13機動小隊から逃げられると思わないことね」




 その後、機体から強制的に降ろされ、身柄を拘束される。そして、俺はそのまま基地の中へと連行されることになってしまった。

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