第9話 思わぬ再会
『サラマンダー、そのCOAの強制停止装置を作動させて』
『了解した』
俺を取り囲んだCOAの一機が、背後に回り、機体の背中を弄る。すると、コックピットのシステムが強制的に停止されていく。その後、システムは完全停止し、コックピットの中は完全に暗闇に包まれた。
しばらくすると、コックピットの上で誰かがいるのか、足音が聞こえる。その直後、俺の上部のハッチが開き、その隙間から日の光が入ってくる。やがて、ハッチが完全に開かれると、眩しくも温かい日の光を背に、全身のボディラインがくっきりと表れている青を基調としたパイロットスーツに身を包み、腰まで伸びた長い黒髪の俺と同世代くらいに見える少女が拳銃を片手に構えて立っていた。
「......見たことない顔ね。あんた、新入りのデモンズ?」
少女は俺の顔を見るなり、そんな言葉を投げかけてきた。
デモンズ――COAのパイロットとして戦うために幼いころに魔石を身体に埋め込まれた改造人間。どうやら彼女は俺をデモンズと思っているようだ。いや、COAを動かしていたなら当然だろう。だが、俺は違う。
「違う、俺はデモンズじゃない......偶然このCOAに乗り込んだ、ただの人間だ......」
俺はデモンズではなく人間だ。俺は少女の言葉にそう返す。だが、俺の答えに少女は不機嫌そうに眉をひそめる。
「ただの人間ですって......?嘘を言わないで!COAは私たちデモンズでなければ決して動かないのよ!ただの人間にCOAを動かせるわけがないでしょう!」
俺は少女の反論に何も言い返せなかった。事実、俺はこの機体を動かすことができてしまっている。だが、なぜ動かせたのか、理由は俺にも分からない。俺は言い訳もできず、ただ黙り込むしかなかった。
「......まあいいわ、とりあえず、あんたの身柄を拘束させてもらうわよ。話は後でいろいろ聞かせてもらうから。イーグル、ちょっと手伝って」
「はいっす!」
黒髪の少女に呼ばれ、コックピットの上にイーグルと呼ばれたもう一人の人物が顔を覗かせる。
「はえ~、この人がこの機体を使ってたんすか」
そう言って姿を現したのは、黄色を基調としているという違いはあるものの、黒髪の少女と同じようなパイロットスーツを着た、金髪ショートのこれまた俺と同世代くらいに見える少女だった。彼女はコックピットの外から身を乗り出して俺の顔をじっと見つめてくる。
「ん~......なんか、あまりパッとしないっすね」
「そんなことを言ってる暇があったら手を動かして。彼をコックピットから引っ張り上げるわよ」
「ご、ごめんなさいっす!」
その後、俺は二人にコックピットから引っ張り出され、縄で身体を縛り上げられた。少しきつく縛られたせいか、ちょっと苦しい。
「みんな、とりあえず彼を基地に連行するわよ。COAについては回収班に任せておきましょう」
「分かったっす」
『了解した』
『ん、分かった......』
黒髪の少女が仲間に指示した後、イーグルと呼ばれた少女が機体のコックピットに戻り、俺は彼女が乗っていたであろう青い機体に乗せられる。続いて、少女がコックピットのシートへ座り込み、機体のシステムを起動させ、上部のハッチが閉じられる。そして、機体が動き出し、基地のCOAがいくつも入りそうなほど巨大なエレベーターがある方角へ歩き出す。
基地に連行された後、一体どうなってしまうのだろうか。俺はコックピットのシートに座る黒髪の少女に話しかける。
「なあ、このまま基地に連れていかれた後、俺は一体どうなるんだ......」
俺のそんな素朴な疑問に彼女は淡々と答える。
「知らないわよ、そんなこと。そんなのは上が決めることよ。私たちデモンズはただの一兵士にしか過ぎないから」
「......そうか」
俺はその返答に静かに頷き、この先、何が起こるのか分からない不安が胸に募る。
そして、分かってはいたが、彼女たちはデモンズであることがその口から語られた。俺たち人間を守るために生物兵器として改造された人間。この前までは一生関わることなんてないと思っていた存在が今、目の前にいる。それは、俺に普通の日常が崩れ去ったことを改めて実感させる。俺は連行されながら、ふとヒナタと交わした約束を思い出す。
(あの時、後で避難所で合流するって言ったのに、これじゃもう果たせそうにないな......)
その後、俺を乗せたCOAが他の3機とともにエレベーターに乗り込み、地下へと運ばれていく。直後、黒髪の少女が思い出したように無線を起動する。
「セイレーンより鳴神指令、応答願います」
黒髪の少女――もとい、セイレーンがそのように言うと、モニターにどこか胡散臭い雰囲気を醸し出した30代かそこらの男の姿が映る。
『セ、セイレーン!?貴様、生きていたのか!?』
「ええ、この通り五体満足で生きていますよ」
鳴神指令と呼ばれた男はまるで幽霊でも見たかのように驚いた様子で問いかけ、セイレーンはそれに冷静にその問いに答える。そして、鳴神は何かを確認すると、さらに驚いた様子でさらにセイレーンへ言葉を投げかける。
『ま、待て、この無線は貴様のブルーメーアから来ているぞ!?セイレーン、私が用意した特別なCOAはどうした!!?』
「鳴神指令が言っていた特別なCOAですか?それなら私は乗っていませんよ。というより、乗れなかったというべきですね」
『乗れなかった......?一体どういうことだ!!』
その時、セイレーンが俺のいる方向を向き、俺とモニター越しの鳴神と目が合う。俺の姿を確認した鳴神は、『誰だ?』言わんばかりの怪訝な視線を向ける。
『セイレーン、貴様の後ろにいるその男はなんだ?なぜ縄で拘束されている状態で貴様とともにいる?見たところ普通の高校生のようだが......』
「私が例のCOAに乗れなかった理由です。乗っていたんですよ。そのCOAに彼が。しかも、コロニー内に侵入した飛竜種を倒しています」
『なんだとっ!?』
彼女の答えた言葉に、鳴神が驚愕の表情を浮かべる。まさか用意していたCOAに普通の人間が乗っていたうえに、あのドラゴンの姿をしたクリーチャー――飛竜種といったか――を倒しているなんて思わないだろうに。
『そんなことがあってたまるか!!貴様、私をバカにしているのか!!』
「残念ながら事実です。今は彼をCOAの無断搭乗の疑いで私たちがその身柄を拘束し、現在基地へ連行しています。どうしても私の話が信じられないなら、彼に直接話を聞きますか?」
セイレーンはどこかしてやったりといった風な表情で俺の方を指す。鳴神は悔しさが滲み出ている顔で、俺に質問をする。
『そこの小僧、貴様があのCOA......【アストレイア】に乗っていたのか?』
「......そのアストレイアっていうのが何か分からないが......偶然とはいえ、俺がCOAに乗っていたのは間違いない」
俺はその質問に正直に答える。あまりにもすんなり答えられたためか、鳴神は少し狼狽えている様子であったが、続いて新しい質問を投げかける。
『貴様がアレに乗っていたのは分かった......しかし小僧、貴様は一体何者だ?正直に答えろ。経緯はどうであろうと、貴様はCOAの無断搭乗の罪で拘束されている身だ。発言の拒否権はないと思え』
どう足掻こうが追及は免れないようだ。ここでだんまりを決めても答えを先延ばしにするだけなのは間違いないだろう。なら、今ここで正直に答えたほうがいいだろう。
「......名前は神崎シュウ。年齢は17歳、東京コロニー23区内の都立高校に通っている高校生だ」
俺は自分の素性を正直に話した。すると、俺の名前を聴いた途端、鳴神が何か考え込む口元に手を添える。
『神崎......神崎だと......?まさか......いや、そんなことがあるものなのか......?』
鳴神はしばらく何かを考え始めた。そして、考えていたことがまとまったのか、口元に添えた手を下げ、その口を開く。
『とりあえず貴様の素性は分かった。だが、貴様にはこの後、神雷大隊の大隊長である国分寺大佐に会ってもらう。詳しい話はその時に聞くことにする。セイレーン』
「はい、なんでしょうか」
鳴神は俺の前にいるセイレーンに対して話を振り始める。
『貴様も話を聞いていたであろう。貴様に加え、他のメンバーと共にその男を大佐の部屋に連れてくるのだ。話は私から大佐へつけておく。分かったな?』
「......了解しました」
『では、私はここで失礼させてもらう』
鳴神はそう伝えた後に通信を切り、コックピットのモニターから姿を消す。それと同時に、ズシンと機体越しに振動が伝わる。どうやらエレベーターが止まったようだ。
俺はモニターをちらっと確認する。そこには、格納庫のような場所が映っていた。そして、セイレーンは機体を格納庫へ歩かせ、機体を固定させた後、COAのシステムを順次停止させ、コックピットハッチを開く。
「神崎シュウといったかしら。今からあんたの拘束を解くわ」
一連の作業を終えた後、セイレーンが俺にそのように言った。だが、俺は少し疑問に持った。
「どうして俺の拘束を解くんだ?俺は連行されている身じゃないのか?」
俺はその疑問をセイレーンへ直接投げかける。
「勘違いしないで。ここはもうすでにIDOの管理区域だから拘束の必要が無くなっただけ。あと、逃げようとしても無駄よ。ここは人目が多い、逃げてもすぐに取り押さえられるだけよ」
セイレーンは淡々と、そして冷徹な視線を向けて、その疑問に答えた。人に向けるような視線じゃないだろう、それ。そして、セイレーンは俺の拘束を解いた後、身体を軽やかに動かし、上部のコックピットハッチから機体の外へ出る。
「さあ、あんたもさっさと出なさい」
「言われなくとも出るよ。あまり急かすな......!」
俺はコックピットハッチへと手を伸ばし、機体の外へとよじ登る。そして、俺はこの目に映る光景に圧倒される。巨大な空間に数多くのCOAが並んで固定され、そこに整備士が大人数でメンテナンス作業を行っている様子が見えた。
「何ボーっとしてるの。さっさとついてきなさい」
「あ、ああ......」
セイレーンの言われるがままに、俺は彼女の後をついていき、格納庫に備え付けられた昇降リフトに乗る。俺たちを乗せたリフトは、そのまま下へと降りていく。そして、地面が近づくと、その付近で先客がいるのが見えた。
「お、来たっすね。おーい、隊長~!」
「......ん、やっと来た......」
「あの男か......飛竜を倒したというのは」
そこには、先程顔を合わせたイーグルと、それとは別に黒を基調としたパイロットスーツを着たボサボサの長い銀髪の少女と赤を基調としたパイロットスーツを着た短髪の青年が立っていた。どちらの人物もセイレーンやイーグルと同じく俺と同世代に見える。
「イーグル、キラービー、サラマンダー、待たせてしまってごめんなさい」
「大丈夫っすよ。アタシたちもちょうど来たところだったすから」
「それなら良かった。それじゃあ、この男を大隊長の部屋まで連れていくわよ。ついてきて」
「分かったっす!ほらキラービーもサラマンダーも行くっすよ!」
「ん......」
「言われなくとも分かっている」
どうやら、銀髪の少女がキラービー、短髪の青年はサラマンダーというらしい。というか、この三人に対してのセイレーンの態度が明らかに柔らかい。
(仲間というのもあるんだろうが、あの上官らしき鳴神に対してはそっけない感じだった。相手によって態度が異なるのか......?)
俺がそんなことを考えていると、キラービーがこちらを見つめているのが気がついた。彼女はそのどこか眠そうな目で俺をじーっと不気味なくらい見つめてくる。
(な、なんだ......?俺の顔に何かついてるのか......?)
俺はその不気味な視線を向けるキラービーを見つめ返す。その時、彼女が静かに口を開いた。
「不思議......」
「え......えっと、何が......?」
「私たちデモンズとは違う何か......人間のような、クリーチャーのような......そんなどっちつかずな気配がする......不思議......」
「......あの、話が見えてこないんだが......」
「キラービー、何じっとしているの!それにあんたもよ!早くついてきなさい!」
キラービーの言葉に戸惑っていると、少し先に進んでいたセイレーンが不機嫌にそう言い放つ。それを聞いたキラービーは俺に「ん、ついてきて......」といって、俺の手を引く。というか、結構細身な体躯のわりに思ったより力強くない?ずるずると引きずられていくんだが......。
その後、俺はキラービーに手を放してもらい、先を行くセイレーンたちについていく。そうして歩いているうちに、やがて【大隊長室】と書かれたプレートがつけられた高級感のある木製の扉の前に辿り着き、先頭のセイレーンがその扉を三回ノックする。
「第13機動小隊、小隊長のセイレーンです。小隊員全員と共に例の男を連れて参りました」
『入れ』
「失礼いたします」
セイレーンが扉の前で挨拶と要件を伝え、扉の奥から貫禄のある声が聞こえた後、俺たちは扉を開き、部屋の中に入る。その内装は高級感のある雰囲気があり、いかにも偉い人が使うような部屋という印象を受ける。そして、その部屋の奥には高そうな椅子に腰かけ、黒光りする木製の机に肘をつき、手を胸の手前に組んだ40代後半ほどの男性が佇んでいた。
「セイレーン、ここまでご苦労だったな。先の任務に加え、君にはいろいろと苦労をかけた、すまなかったな」
「......いえ、大隊長が謝ることではありません。此度の件は私の不手際で起こしてしまったことです」
「そう自分を下げるでない。元はと言えば、我が君たちに無茶な任務を課してしまったことが原因だ。どうか謝罪を受け取ってくれ」
「......大隊長がそう仰るのなら......」
「謝罪の受け入れ、感謝する。さて......」
男性はセイレーンと会話を交わした後、その後ろに立っている俺の方を見る。
「君か、あのアストレイアに乗り、コロニー内に侵入した飛竜を討ったという少年というのは。」
「.........そうです」
「これはまた随分と警戒されているな。まあ、そうなるのも必然であるか。」
男性は自嘲するかのように静かに笑い、「ふう......」と息をついた後、俺にもう一度向き合う。
「まだ名乗っていなかった。IDO東京支部軍・神雷大隊、大隊長の国分寺ショウタロウだ。階級は大佐だ。神崎シュウ君、君を来訪を歓迎する」
男性改め、国分寺大佐は、俺に対して名を名乗り、俺の来訪――というよりは連行されたのだが――を歓迎してくれているのが伝わってくる。だが、挨拶を終えたその直後、彼の顔が厳かな顔に変わった。
「さて、ここから本題に入るが......単刀直入に言おう。......君は本当に普通の人間なのか?」
「......何が言いたいんですか」
「COAはデモンズにしか動かすことができない。君も知っているだろう」
「それは......もちろん......」
「だが、君はCOAを動かした。これは普通の人間ではあり得ないことだ。」
「............」
「そして、君が動かしていたCOA――アストレイアは少々特殊な機体でな、アレはある目的のもとで試作機として開発されたものなのだ」
「ある目的......?」
「うむ、その件に関してはアレの開発者に語ってもらうとしよう。もうそろそろ来る頃であろう」
国分寺大佐が誰かがこの部屋にやってくることを示唆するようなことを言った後、俺たちが通ってきた廊下から、誰かがここへ向かって走ってくる音が聞こえた。そして、その音は徐々に近づいていき、扉が『バァァァァァァンッ!!!』と大きな音を立てて開かれた。
「一体どういうつもりだ国分寺!なぜアストレイアを出したんだ!アレがどんな機体なのか、お前も分かっているはずだろう!!!」
部屋に入って来たのは国分寺大佐と同じ40代後半に見える男性だった。しかし、俺はその男性の姿を見て、驚愕した。彼は俺が幼いころから顔を知っている、最も身近な人物だった。
「――父さん?」
「なっ......!?シュウ、なぜお前がここにいるんだ!!?」
――神崎ソウジロウ。幼い俺を男手ひとつで育ててくれた父さんがそこに立っていた。




