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魔核戦機アストレイア  作者: 秋紅葉リュウ
第二章 闘争

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第17話 牛頭の巨人

◆ ◆ ◆ side:水無月リン ◆ ◆ ◆




 これは以前に聞いたことがある話。


 過去にクリーチャーに襲撃され、消息を絶ったデモンズ部隊がいた。そして、捜索の末に、彼らは無残な姿で発見された。COAのコックピットは無理やりこじ開けられたかのようにひしゃげており、その中にいたパイロットは胸元を噛みちぎられたような捕食痕を残し、肉を貪られた激痛で叫んでいたことが分かる状態で死んでいた。なぜ、胸元だけが捕食されていたのか。当時はその原因を誰も知ることがなかった。


 だが、その原因が今、思わぬ形で判明することとなった。




「なによあれ......」




 私は目の前で起きたことに理解が追いつかなかった。


 ツイスターホーンブルが死んだ仲間の遺骸を喰らい、その体内にあった魔石を取り込んだ。しかし、それだけに留まらず、奴の身体が突然変質を始め、赤黒い蒸気に包まれた後、あのような二足歩行の牛の怪物に変貌した。




『クリーチャーが魔石を喰らうことで変異するだと......?こんな事例、聞いたことがないぞ......!?』


『牛が......二足歩行で立ってる......?』


『こ、こんなの......完全におとぎ話に出てくるあの怪物じゃないすか......!』




 先程までツイスターホーンブルだった怪物がこちらを見る。その目から放たれる殺気は凄まじく、身体が無意識に「逃げろ」と警鐘を鳴らすほどだった。直後、奴が咆哮する。




「ブグォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」




 激しい音圧がコックピットを貫き、肌がビリビリと痺れるような感覚が私たちを襲った。




「あぁもうッ!!先月の飛竜との遭遇に続いて、なんでこんな目にばっかり遭うのよ!!!」




 私はここ最近の己の不幸を呪うように愚痴を叫ぶ。だが、クリーチャーは悠長に待ってはくれない。私は小隊員全員へと指示を飛ばす。




「セイレーンより各機!これよりツイスターホーンブルの変異体――暫定クリーチャー名、ミノタウロスとの交戦を開始する!未確認のクリーチャーのため、奴の様子を伺いつつ戦いなさい!」


『了解!』


『ん......了解......』


『りょ、了解っすぅぅぅぅぅぅぅ!!』




 私たちが武装を構えると同時に、ミノタウロスが血走った眼で荒い鼻息を立て、その巨体から考えられない素早さで私たちへと接近し、拳を振りかぶった。一見すると、ただの打撃を繰り出そうとしているように見える。だが、私はその拳にうっすらと何かが収束していくのが見えた。嫌な予感がした私は全員に回避行動を取るように指示をする。




「総員、回避行動を――」




 しかし、その指示は伝えるにはあまりにも遅すぎた。私が指示を終える直前に、奴の拳が赤熱化したかのように赤く光り輝き、激しく発火しながら私の隣へと向けて振るわれた。直後、金属が破砕される音が響いた。




『がはっ........!!!』




 ミノタウロスの拳が振りぬかれた後、私は隣を見る。そこには本来そこにいた者の姿はなく、「シュゥゥゥ......」と音を立てて蒸気を吹き出している奴の腕があった。嫌な予感がした私は後方を振り向く。




「イ、イーグル!!!」




 そこには、先程まで私の隣にいたイーグルのダガーホークが大破し、黒煙を上げながら横たわっている姿が見えた。




『あ......ぐぅ......! がはぁ......!!』


(生きてる......!)




 イーグルの生存を確認した私はモニターでコックピット内のイーグルの様子を確認する。砂嵐交じりに見えた彼女は、左腕を右手で押さえながら吐血していた。その様子を見る限り、おそらく左腕と肋骨の何本かが骨折している。呼吸の様子もおかしい。折れた肋骨が肺を傷つけたのかもしれない。




(このままではイーグルは確実に死ぬ.......!でも、奴を放っておけば私もただじゃすまない......!!考えないと......今の状況で必要な最適解を――)




 私は突然のことに焦り、この状況を打破するための方法を必死に考える。


 その時、無線を通じてサラマンダーが私へ向けて叫んだ。




『セイレーン、何かを考えている暇はない!イーグルの回収はキラービーに任せて、お前は攻撃に専念しろ!』




 サラマンダーのその言葉に、私はハッと思い出したようにイーグルのいる方向を見る。そこには、キラービーの駆るハントスティンガーが大破したダガーホークを抱えて移動している姿があった。それを見て安心した私は、ミノタウロスの方へ向き直り、改めて奴の姿をこの目で見る。




(体躯はだいたいCOAと同じ15mほどで、あの時の飛竜よりは大きくはない。でも――)




 ミノタウロスの巨体の威圧感をビリビリと感じながらも、私はすでに高周波ブレードを展開したブルーメーアの両腕部を構える。




(この威圧感.......飛竜と同等か、それ以上かもしれない......!)




 身体の震えが止まらない。心臓が恐怖で休む暇もなく脈動する。私はそれらの緊張をほぐすように長く息を吐く。




「――これより攻撃を行う!サラマンダー、援護をお願い!」


『無論だ!』




 私はブルーメーアの持ち前の機動力を活かし、奴の周囲を高速で駆け抜ける。Gを気にする暇はない。ただ奴を翻弄しつつ有効打を与えられればそれで良い。


 ミノタウロスは高速で動き回る私をうまく視界に捉えられず、何度も私を狙ってひたすら拳を突き出す。だが、その全てが空振りに終わる。そして、その隙を突き、サラマンダーがガトリングガンをミノタウロスへと向けて集中射撃する。




――ズガガガガガガガガガガッ!




 鈍い射撃音と共に撃ち出された無数の90㎜口径弾がミノタウロスへと襲い掛かる。




「グォォォォォォォォォォッ!!?」




 ミノタウロスの背中に大粒の鉛の雨が突き刺さり、奴が大地へ膝を突いた。


 私はその瞬間を見逃さず、高速で駆け回る機体を急旋回させ、奴のアキレス腱へ向かって強襲する。




「ガフッ.......!」




 急旋回をした際のGで、口から血が吐き出される。


 だが、私は加速を一切緩めずに、目標へ急接近する。




「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」




 そして、展開した両腕部の高周波ブレードで奴のアキレス腱へと振るう。




――ズバシュッ!!!




 振るわれた高周波ブレードはすり抜けるかのようにアキレス腱を斬り裂く。そして一拍遅れて、斬り裂いたアキレス腱から鮮血が扇状に強く噴き出した。




「ブガァッ!?」




 アキレス腱を斬り裂かれたミノタウロスは完全に体勢を崩し、その場に両手を着く。それを好機と見た私は、サラマンダーに指示を飛ばす。




「サラマンダー、残弾の限り撃ちまくりなさい!無駄を気にせずありったけよ!」


『本来は、残弾を気にせず射撃するのは好かんのだがな.......。 ――セーフティ全解除、全武装展開。目標、ミノタウロス。ターゲット・ロック.......さあ、遠慮なく持っていけ!!』




 インフェルノの豊富な射撃武装が全てミノタウロスへと向けられた後、背部と脚部に搭載されたミサイルランチャーのカバーが展開し、無数の弾頭が姿を現す。そして、サラマンダーが叫ぶ。




『フルバースト!!!』




 直後、多種多様な実弾兵装が辺り一帯に激しい射撃音を鳴り響かせながら、インフェルノから一斉に放たれた。その圧倒的な密度の弾幕は、もはや実弾の雨ではなく、どこにも逃げ場のない実弾の波であった。そして――




――バリバリバリバリバリバリッ!


――ズガガガガガガガガガガッ!


――ドガァァァァァァァッ!!!


――ドゴォォォォォォォォ!!!




 バルカンとガトリングの弾が、ロケット弾と二種のミサイルの爆炎が、黒煙と舞い上がった砂埃と共にミノタウロスを包み込んだ。




「グオァァァァァァァァァァァァ――――――――――――!!!」




 ミノタウロスの絶叫が響く。そして、絶叫はだんだんと小さくなっていき、やがて大地を揺らしながら静かに途絶えた。


 奴を包み込んでいた黒煙と砂埃が晴れていく。すると、その中から身体のいたるところに風穴が空き、焼け焦げたミノタウロスが倒れ伏していた。


 


『――終わったようだな』


「.......そのようね」




 安心したからなのか、身体から一気に力が抜ける。


 私はコックピットのシートに背をもたれる。直後、全身に鈍痛が巡る。




(今回は無理をしすぎたわね.......さっきの急旋回でかなりのダメージを負ったわ.......)




 私は口から流れている血を腕で拭い、任務完了の意を司令部に連絡しようと、通信を繋げようとする。




(とりあえず、クリーチャーが魔石を取り込むことで変異する不可解な現象のことを最優先に報告。そして次は今回の任務の損害――)




 ――ブゥン.......




 通信が繋がる音が聞こえた。どうやら繋がったようだ。私は早速今回の任務についての報告をしようと口を開く。




「セイレーンより報告。任務の――」


『セイレーン、早く伏せろ!!』




 しかし、通信が繋がったのは司令部ではなくサラマンダーの乗るインフェルノのコックピットだった。そして、彼は慌てたように私へ向けて、そのように叫ぶ。


 直後、私の背後から嫌な気配を感じた。私はサラマンダーに言われた通りにその場で伏せる。その瞬間、ブルーメーアの頭上で何かが激しい風圧を伴って通り過ぎた。


 危なかった。もし反応が遅れていたら、良くて瀕死、悪ければ即死だったと思う。私はその場から素早く飛び退き、先程まで自分がいた場所を見る。




「.......嘘、冗談でしょ.......?」




 そして、私は襲撃者の正体に驚愕した。




「な、なんで.......間違いなく仕留めたはずなのに......!?」




 そこには、全身が赤黒い光に包まれ、焦げ跡が剥がれ、傷が蠢くように塞がっているミノタウロスの姿があった。




(信じられない......なんなのよあの再生能力......!?)




 昔の話になるが、私は一度だけ再生能力持ちのクリーチャーと戦ったことがある。その時に相手にしたのは【イモータルワーム】という大型のミミズ型のクリーチャーで、斬っても斬っても時間が立てばすぐに身体が再生する厄介な奴だったのを覚えている。だが、ミノタウロスの再生速度は、奴とは比較にならないほどに早かった。まるで、傷ついた箇所から身体自体をそのまま作り変えているかのように。




「ブグォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」




 ミノタウロスが大気が激しく揺らすほどの咆哮を上げる。


 私はまだ痛む身体を無理やり起こし、臨戦態勢を取る。だが、次の瞬間、私は目を疑った。




「い、いない......? 奴は一体どこに......?」




 先程まで目の前にいたミノタウロスの姿が消えていた。私は辺りを見回し、消えたミノタウロスを必死に探す。その時、無線を通じて金属が破砕する音が鳴り響いた。




『ぐっ!!』


「サラマンダー!?」




 サラマンダーがいた場所に目を向ける。そして、そこには消えたミノタウロスがサラマンダーが駆るインフェルノに一撃を与えている姿が見えた。




(い、いつの間にあんなところまで!? それより、サラマンダーは......!?)




 私はミノタウロスが一瞬で少し遠く離れた位置にいるサラマンダーの元へ移動していたことに驚きながらも、彼の安否を確認する。




「サラマンダー、無事なの!? 生きているなら返事をしなさい!!」


『大丈夫だ、生きている』




 どうやら無事に生きていたようだ。私はサラマンダーが生存していることに安堵する。




『だが、さっきの一撃で増加装甲が全て使い物にならなくなってしまった。残弾もさっきのフルバーストでもうゼロだ』


「分かったわ。なら、ミノタウロスをこっちへ引き寄せた後、あんたは後方に下がっていなさい。 ――そいつは私が相手する......!」


『了解した』




 その後、サラマンダーはスクラップも同然となったインフェルノの増加装甲と残弾が無くなった火器類を全てパージし、身軽になった機体でこちらへ向かってくる。ミノタウロスもその後を追うように走り出す。その時、奴の動きに何か違和感を感じた。




(あいつ、再生する前より俊敏になってる......?)




 ミノタウロスの動きが、明らかに再生する以前より俊敏になっていた。私はそれに気づいた時、ひとつの嫌な考えが頭によぎった。




(まさか......いや、そんな有り得ないことが......)




 なにか様子がおかしいミノタウロスは、身軽になり、全力でスラスターを吹かしているインフェルノとの距離をみるみると縮めていく。


 やがて、インフェルノとの距離がほとんどなくなったミノタウロスは、イーグルを戦闘不能にしたときと同じように拳に赤熱化し、発火させ始めた。




『ちっ......!化け物かこいつは......!』




 ミノタウロスの燃え盛る炎に包まれた拳がインフェルノへ向けて突き出される。


 そして、奴の拳が必死に退避するインフェルノを捉えようとした次の瞬間。




――ダパァァァァァァンッ!!!




 遠くから重い炸裂音が鳴り響くと同時に、ミノタウロスの右足が撃ち抜かれた。足を撃ち抜かれたミノタウロスは姿勢を崩し、その場に倒れ伏した。




「この正確な狙撃は......」




思わず笑みが零れる。私が知る限り、この正確な狙撃を可能とするのは彼女だけだ。




「全く、随分と遅かったじゃない」


『ん.......ちょっと遅くなった.......』




 重い炸裂音――20㎝口径の狙撃銃の銃声が聞こえた方向を見る。


 そこには銃口から硝煙が吹き出している狙撃銃を構えているキラービーのハントスティンガーがいた。どうやら重傷を負ったイーグルを安全な場所まで無事に運ぶことができたようだ。




『すまないキラービー、助かった』


『ん.......無事なら良かった......とりあえず.......イーグルは野営地に置いてきた.......あそこならひとまずは安全.......』


「分かったわ。なら、こいつを始末した後に迎えにいくとしましょう」


『ん.......了解.......』


「サラマンダー、あんたは野営地に戻ってイーグルの護衛をお願い。万が一に備えてね」


『ああ、すぐに向かう』




 二人にそのように指示した後、サラマンダーは野営地に向けて後退し、私とキラービーは倒れ伏しているミノタウロスに目を向ける。




「ブォォォ.......」




 ミノタウロスの身体が復活したときと同じように再び赤黒い光に包まれ、キラービーによって撃ち貫かれた足が一瞬で再生する。




「ブグオァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」




 足が再生したミノタウロスはゆらりと立ち上がった後、怒りの咆哮を上げた。




「ちっ.......やっぱりすぐに再生させられるわね.......!」


『ん.......これはかなり苦戦を強いられるかも.......』


「そうね.......でも、殺らなきゃ殺られるだけ.......キラービー、狙撃で援護して。私はこいつを――」




 私は腰部のコンバットナイフを抜き、元々展開していた腕部に加えて、脚部の高周波ブレードも展開する。




――斬り裂(ジャック・)き魔(ザ・リッパー)




 ブルーメーアの全身の刃を全て抜き身にした戦闘形態――そして、私の本気。


 私はミノタウロスの目前に立ち、刃を向ける。




「――死に絶えるまで斬り刻んでやるわ」

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