第16話 命をかける覚悟
――ピピピ、ピピピ、ピピピ
コックピット内に鳴り響く無機質な電子音で目が覚める。大きく欠伸をした後、音の鳴る方向を見てみると、コックピットのモニターに水無月から無線通信の着信表示が映っていた。
「――ああそうか、昨日はあのイナゴの化け物と戦った後に野営したんだったな......」
俺は身体に残る眠気に抗いながら、その無線通信に応じる。
『おはよう寝坊助。戦場で一夜を明かした気分はどうかしら?』
「......お前、開口一番でそれを言うか......? まあ、眠れはしたんだが、寝ている間に襲われるかもしれないって思うと気が気じゃなかったな......」
『戦場じゃそれが普通よ。ま、頑張って慣れることね』
「お前なあ......」
相変わらず棘のある態度で接する水無月に呆れていると、彼女は無線を小隊全体に繋ぎ、点呼を開始する。
『セイレーンより各機、これより点呼を行う。呼ばれた者から返答しろ。まずはサラマンダー』
『サラマンダー、健康状態に異常なし。いつでもいける』
不知火の返答を聞いた水無月は、続いて『次、イーグル』と言って、風見へ点呼を回す。
『ふわぁ......イーグル、特に問題ないっすよ......』
モニターには、寝ぼけた様子の風見が映り、大きな欠伸をしながら返答している。そして、次は蜂谷の番が回ってくる。
『次、キラービー』
『......』
しかし、水無月が呼んでも蜂谷は返事を返さなかった。俺は何かあったのかと少し心配した。だが、その直後――
『......zzz』
(.......って寝てるだけかよ! 心配して損したわ!)
『.......戦場で二度寝をするなんて、本当に斬り起こされたいのかしら? キラービー』
水無月は笑顔になりながら蜂谷に対してそんなことを言う。それに、顔は笑っているのに、その目は全然笑ってない。マジでやりかねないなこれは。
そんな水無月の物騒な気配を感じ取ったのか、蜂谷は『ひうっ......!?』と青ざめた顔で飛び起きる。
『キ、キラービー......いたって健康......問題なし......』
(いや、めっちゃ震えてんだが.......)
水無月と蜂谷のやりとりの様子から、普段もこんなふうにやらかしているのだなと思った。そして、最後に俺の番がやってくる。
『次、アスカロン』
「アスカロン、特に問題なし」
俺が淡々と点呼に応じた後、水無月は『全員の点呼を確認』と言い、手元で何かを操作する。すると、コックピットのモニターに周辺の地図が表示された。
『それじゃあ、今日の作戦について話し合うとしましょう。まず、私たちの現在地と目標地点はここ』
モニターの地図に、東京コロニーから北西の方向に青い点、その先に赤い点が表示される。
『目標地点までの距離は地図を確認する限り、ここからおよそ2.2㎞といったところかしら』
『ほえぇ.......結構進んだっすねぇ.......』
『ええ、そうね。そしてここからだけど、まずは目標地点まで残り1㎞の地点へ前進する』
水無月が『その後――』と言って俺がいる方を向く。
『アスカロン、あんたが偵察してきなさい』
「.......え、俺が偵察?」
名指しで偵察役に指名され、俺は思わず呆気にとられた。そんな様子の俺を見た水無月は『それはそうでしょ』と言ってその理由を明かす。
『あんたのアストレイア、その背中のフライトユニットで飛べるんでしょ? だったらその機能を存分に活かしなさい。いわゆる適材適所ってやつよ』
「いやまあ、飛べるには飛べるんだけどさ.......」
『うだうだ言ってないでやるのよ。これは決定事項だから』
結局、俺はそのまま水無月の勢いに押されて、偵察役を引き受けることになってしまった。
その後、俺たちは周囲を警戒しつつ前進し、特にアクシデントが起こることなく、目標地点まで残り1㎞の位置に辿り着いた。
『よし、全員いるわね。それじゃあ、当初の予定通り、アスカロンの偵察の後に作戦を決めるわよ。ほら、あんたの出番よアスカロン。さっさと行ってきなさい』
「あのさ.......いくら俺のことを嫌いだからって、扱いが雑すぎねえか.......?」
『無駄口を叩いてないで、さっさと行きなさい』
「はいはい.......」
俺は半ば諦めたように水無月たちと距離をとり、フライトユニットのスラスターを点火する。背後から「キィィィィィィィ.......」という音が鳴る。そして、飛行体勢に入った後、スラスターから火が吹き出し、機体が勢いよく大地から離れる。
フライトユニットによる圧倒的な加速で、カタパルトで射出された時にも感じた、身体が押し潰されそうな感覚が俺を襲う。俺は身体がシートに張り付きそうになりながらも、フライトユニットの出力を安定して飛行できる程度までに落とす。
『おお、本当にCOAが飛んだっす!』
『飛んだよりかは.......吹っ飛んだ.......』
『あの巨体を飛行させるとは、一体どれほどの推進剤を使用しているのか.......』
『どうやら無事に飛行はできたみたいね。アスカロン、そのまま目標地点の上空に移動して。移動できたらこっちに無線を寄こしなさい』
「分かってるよ.......」
俺はフライトユニットのフレキシブルバインダーの角度を調整し、機体を前方に加速させる。そして、「ゴォォォォォォ.......」と背後から響いているスラスターの噴射音を背景に、俺は目標地点の上空へと移動していくと、やがて地上に複数の黒い点が見え始める。
俺は機体を急制動させ、その場でホバリングさせる。そして、メインカメラの映像をズームアップし、黒い点の正体を確認する。
「こいつがツイスターホーンブルか......」
モニターには、一ヵ月前にコロニーに侵入したものと同種の牛型クリーチャーの姿が映っていた。俺はズームアップした映像を元に戻し、ツイスターホーンブルの数を数えていく。
「28......29......30。約30体といったところか」
計数を終えた俺は水無月に無線を繋げる。
「こちらアスカロン。セイレーン、応答頼む」
『こちらセイレーン。偵察の結果はどうだったかしら?』
「目標のツイスターホーンブルが30体ほどいた。周囲をうろついてる奴もいないし、今は特に目立った動きはない」
『分かった。あんたはしばらくそこで待機してなさい。私たちもすぐに向かう』
水無月はそう言ってすぐに無線を切った。この先、本当にこいつと仲間としてやっていけるのか俺は......
そうして言われた通りに、しばらく上空でホバリングして待機していると、視界の端に4つの機影が目に映った。その時、水無月からの無線が着信する。
『セイレーンよりアスカロン、もういいわよ、さっさと降りてきなさい』
俺は「分かった」と返事を返し、フライトユニットの出力を少しずつ落としながら水無月たちの元へ緩やかに降下していく。そして、地表が近くなったあたりで逆噴射をかけ、ズシンと重い音を立てて大地へ降り立つ。
『無事に合流できたわね。それじゃあ、作戦会議をするとしましょう』
俺が合流したのを確認した水無月は、この後の戦闘に向けて作戦会議を行う。
『まずはサラマンダー。いつも通り、マイクロミサイルでの制圧射撃で先制攻撃をしてちょうだい。その後はできるだけ仲間の援護に回って』
『了解した』
『次にイーグル。あんたは確か先日の戦闘でアサルトライフルの残弾が半分ほどになっていたわよね』
『そうっすね......無我夢中で撃っているうちにマガジンを2つ消費しちゃったっす......』
『なら、今回は近接戦闘で立ち回るようにしなさい。ライフルはできるだけ援護射撃をするときに使いなさい』
『了解っす!』
『次はキラービー。あんたは狙撃ポイントを変えながら狙撃しなさい。サブマシンガンが使えない以上、敵に接近されたら危険よ』
『ん......了解......』
水無月は各メンバーの機体の状況を踏まえ、それぞれに最適な戦法を次々と指示していく。そして、間もないうちに水無月が『次にアスカロン』と俺へ向かって声をかける。
『先日撃ったあのビームライフルは私が許可を出すまで絶対に使わないで。あれは確かに強力だけど、その威力が強すぎるのよ。うっかり味方に誤射なんかしたら一発でアウトよ。だから、あんたはその刀のような武器を使って、私と一緒に白兵戦で戦いなさい。あと、私の手が届かないところまで離れたら援護はないものと思いなさい。いいわね?』
「わ、分かった」
俺は「手厳しいな......」と思いながらも、その理由に納得する。
特にグングニールの使用制限は昨日、あれを実際に撃ったからこそわかる。あんな強力すぎる物を乱戦中に無暗に撃てば確実に味方の誰かを巻き込んでしまう。その点、クサナギならば、同じビーム兵器でも、こちらは近接戦闘用の武器だ。よほどのことがなければ味方を誤って攻撃することはない。
「そして、私はこれまで通り、小隊全体の指揮及び白兵戦による前線の維持を担当する。以上をもって作戦会議を終了。総員、各々の配置に着きなさい」
『『『『「了解」』』』』
こうして、当初の目的であるツイスターホーンブルの殲滅作戦が幕を開けた。
俺は水無月と風見と共にツイスターホーンブルの群れに気づかれない程度の距離まで近寄る。そして、全員が配置に着いたことを確認した後、水無月は不知火へ指示を飛ばす。
『全員の配置を確認したわ。サラマンダー、やってしまって』
『了解した』
俺たちから少し遠く離れた場所にいる不知火の機体が、バックパックのマイクロミサイルランチャーをアームで可動させ、その砲門をツイスターホーンブルの群れに向けて構える。
『マイクロミサイルランチャー、セーフティ解除、マルチロックオンシステム・アクティベート......ターゲット・ロック――マイクロミサイル、発射』
直後、機体のランチャーから大量のマイクロミサイルが発射され、群れへと向かって一直線に飛来していく。そして、マイクロミサイルが着弾し、「ドガァァァァァァァッ!!!」という轟音を立てて大爆発を起こした。
『着弾を確認。だが、半数ほどミサイルの発射音に気づいたのか避けられてしまった』
『いえ、むしろ半数まで減らしてくれたなら、先制攻撃としては上出来よサラマンダー』
水無月はそう言って、機体の両腕部に設けられた高周波ブレードを展開する。
『さあ、敵地に飛び込むわよ。イーグル、アスカロン、私に続きなさい』
『了解っす!』
「わ、分かった!」
俺は腰部に装備しているクサナギを抜刀し、刀身が展開した後、そこからビーム刃が形成される。そして、隣の風見は機体の両手に二本のコンバットナイフを握らせる。
『行くわよ――突撃ッ!』
水無月の放ったその一声と同時に、俺たちは群れへと向かって駆けだす。不知火の先制攻撃から逃れたツイスターホーンブルたちがこちらに気づき、鼻息を荒く吐き、地面を蹴り砕きながらこちらへ突進してくる。その直後、奴らの身体が緑色の光に包まれ、急速に加速していく。
『奴らの突進が来るわよ!必ず避けなさい!当たったら死ぬわよ!』
水無月は俺と風見にそう叫びながら、ツイスターホーンブルの突進を避けつつ、すれ違いざまにその首筋を斬り裂いていく。首筋を切り裂かれたツイスターホーンブルは激しく鮮血をまき散らしながら、「ズザァァァァァァッ!」という音と共に地を滑るように転倒し、絶命する。
しかし、他のツイスターホーンブルたちは、仲間をやられたことに臆せず、血走った目をしながらこちらへ突進してくる。
『さあ、来るっすよ!攻撃する時は、できるだけ弱点の首筋を狙うっす!』
「く、首筋だな、分かった!」
俺はクサナギを構え、ツイスターホーンブルの攻撃に備える。
奴らがだんだんと突進で近づいてくる。そして、ある程度の距離まで引き付けた時、風見が『今っす!』と言って横へ飛び退き、コンバットナイフですれ違った個体の首筋を鋭く突き刺す。俺も同じように横へ飛び退いた直後、クサナギを振り上げ、首筋へと向かって一閃する。クサナギのビーム刃によって斬り裂かれたツイスターホーンブルの首が血飛沫をあげながら宙を舞う。その直後、吹き出した血がメインカメラに降りかかり、モニターにはおびただしい数の血痕に塗れた。
「うっ......!?やっぱり生き物を自分の手で殺すと嫌な感覚がする......!!やべ、吐きそう......」
『わぁぁぁぁぁぁッ!今は我慢するっす!戦闘中っすよぉッ!?』
風見が慌てて俺にそう言った後、メインカメラのワイパーが作動する。付着した血痕が拭き取られ、視界はクリアになったものの、その先に見える光景は全くクリアではなかった。
「うっぷ......! あたり一面が血だらけ......」
『気持ちは分かるっすけど、今は戦闘に集中するっす!もう次が来るっすよ!』
そう言われてモニターに映る映像の先を見ると、4体のツイスターホーンブルがこちらへ向かって来ているのが見えた。
『ダウンしてないで早く次に備えるっす!でないと死ぬっすよ!』
その時、こちらへ突進しているツイスターホーンブルたちの背後に青い機影が映った。水無月のCOAだ。彼女は背部の大出力ブースターで一気に奴らの真上へと到達し、機体の四肢の高周波ブレードを振るい、一瞬で4体すべての首筋を刈り取る。そして、大量の血飛沫を背後に、機体が目の前で着地する。
『情けないわね』
水無月が冷めた雰囲気の声で俺へと向かってそう言い放った。
『クリーチャーと戦うと決めておいて、自分の手でクリーチャーを殺したことに不快感を催すなんて、情けないとしか言いようがないわ』
「な、何を――」
『私たちデモンズは命を奪われる覚悟をしたうえでクリーチャーを殺している。――でも、今のあんたにはその覚悟が圧倒的に足りていない。つまり、今のあんたはただの足手まといよ』
俺は何も言い返せなかった。確かに俺は大切なものを守るために戦うと覚悟を決めた。だが、実際はクリーチャーを殺した感覚に吐き気を催すというザマだ。このままじゃ、いつか俺は何かが壊れてしまう。そんな予感を感じずにはいられなかった。
『――行くわよイーグル』
『え、でもアスカロンが......』
『放っておきなさい。こんな命をかける覚悟の足りない奴は』
水無月はそう言って次の標的へと向かって駆け出していく。
『あ、待ってくださいっす隊長! ――ええと......』
風見が水無月を追って走り出そうとした時、彼女はその場で立ち止まって俺に言葉を投げかける。
『隊長はああ言ってるっすけど、アタシはそんなことはないと思うっすよ。アタシも最初はアンタみたいにクリーチャーを殺すたびに吐いてたっすから......。でも、今のアタシは昔のアタシとは違うっす。だから、アンタもじきにアタシみたいに慣れていけるはずっす!』
風見はそう言い残して、『ちょっと隊長!アタシを置いて行かないでほしいっす~!』と言いながら水無月の後を急いで追いかけていった。
(――命をかける覚悟か......)
◆ ◆ ◆ side:風見ソラ ◆ ◆ ◆
アタシはアスカロンに慰めの言葉をかけた後、彼を置いて次の標的へと向かった隊長を急いで追いかけた。
(それにしても、あれは流石に隊長も言い過ぎだと思うっす......。アスカロン、めっちゃ落ち込んでたし......)
一ヵ月前のあの事件以来、隊長がアスカロン――神崎シュウを嫌っているのは前々から分かっていたっす。その証拠に、隊長が妙にピリピリするようになって怖くなっちゃったし......。
でも、隊長の気持ちも分からなくもないっす。だって、本来だったらあのアストレイアに乗るのは隊長だったっす。だけど、それはアタシたちデモンズが乗ると暴走し、周囲を破壊し尽くすような曰くつきのもので、それをあの時に偶然乗ったアスカロンがなんのトラブルを起こすことなく動かし、アタシたちが取り逃がした飛竜を討伐した。
あの後、隊長は使い捨てにされようとした事実と、精神汚染などのデモンズの制約を受けないナチュラル・デモンズというこれまでのデモンズの存在意義を揺るがしかねない存在が現れた理不尽で荒れに荒れまくったっす。
(今の隊長は、まるで鬱憤を晴らすかのように無茶な戦いをするようになってしまって、見てるこっちがヒヤヒヤするっす......!)
そう思っているうちに、アタシは先行してツイスターホーンブルと戦闘を開始している隊長に合流し、その戦闘に加わる。
「隊長、お待たせしたっす!」
『遅いわよイーグル。一体に何をしていたの』
「いやぁ、恥ずかしながら、ちょっと考え事をしてたっす......」
『――そう、ならいいわ。だけど、あまり戦闘中に考え事はしないで。油断している証拠よ』
「あはは......ごめんなさいっす......」
隊長に少し叱られた後、アタシはコンバットナイフを両手に構える。しかしその時、アタシは大変なことに気づいてしまった。
「ってああああああ!ナイフにヒビが入ってるっすぅぅぅぅぅぅッ!!」
なんとコンバットナイフにヒビが入っていた。しかも二本両方っす。
「これじゃあもう使い物にならないっすよぉ......。あ、ライフルを使えばいいじゃないっすか!――ってこれは援護用に残しとけって隊長に言われてるっすぅぅぅぅぅぅッ!」
想定外のアクシデントにアタシが嘆いていると、隊長が呆れたように言葉を零す。
『なら、敵を引き付ける囮役でもやってみたら......?』
「隊長!それナイスアイディアっす!」
早速アタシはツイスターホーンブルの注意を引くように動き回る。
「ほーら、こっちすよ~!鬼さ~んお~いで~!――いや、この場合、鬼じゃなくて牛っすね」
挑発的に動くアタシに反応したのか、ツイスターホーンブルたちはこちらを目掛けて元から速かった突進のスピードをさらに上げて向かってくる。
「うひゃぁぁぁぁぁぁ!? さらに速くなるなんて聞いてないっすぅぅぅぅぅぅッ!! みんな、あとはお任せするっすぅぅぅぅぅぅッ!!!」
『冗談で言ったつもりだったのだけど......まあいいわ。サラマンダー、キラービー。イーグルが引き付けているツイスターホーンブルを攻撃して。できる限り迅速にお願い』
『『了解』』
その後、アタシが引き付けている奴らを一体、また一体と、サラマンダーがガトリングで、キラービーが狙撃で、隊長が素早く斬撃で仕留めていき、ついにはあと一体だけになった。
『こいつでもう最後のようね』
「ひえぇ......何度も追いつかれそうになって、本当に死ぬかと思ったっす......」
『ん......でもそのおかげで狙いやすかった......』
『そうね、私たちはただイーグルを追いかけてる奴らを攻撃すればよかっただけだから』
「え、そうすか?そんなに褒めてもらえると、なんか照れるっす......」
隊長とキラービーからそのように褒めてもらって、嬉しいようで恥ずかしい気持ちになりながら頭を搔いていると、サラマンダーから厳しい声が出てきた。
『おい、残り一体とはいえ敵の前だぞ』
「あ、ごめんっすサラマンダー」
『そうだったわね。さあ、早いところ片付けてしまいましょう』
アタシたちは、早いところこの任務を終わらせようと、武器を構える。そんな時だった。
『......待って、何か様子が変......』
キラービーが何か違和感を感じている。アタシは残ったツイスターホーンブルの方を見てみると、奴は無残に倒れた仲間の遺骸の傍で何かをしていた。
「あいつ、一体何を――」
アタシがそう言いかけた、その直後だった。
――グチャ......グチャ......ブチィッ!!!
生き残りのツイスターホーンブルが、仲間の遺骸を喰らい始めた。
「ひえぇッ!? こいつ、急に共食いを始めたっすよ!?」
『なぜ......どうしていきなり......』
『そんなことを気にしてる暇はないわよ!何か面倒なことになる前に対処を――』
――バキィッ! ゴリッ......ゴリッ......ゴリッ......
隊長が対処を急ごうとしたとき、ツイスターホーンブルの方から石が砕け、すり潰されているような音が聞こえた。その方向を見ると、奴が口の中に何かを含んでいるのが見えた。
『――!? 今の音は何!!』
『......一瞬だが、奴が口に咥えていたものが見えた』
サラマンダーは冷や汗をかきながらツイスターホーンブルが咀嚼している物の正体を告げる。
『奴は......死んだ仲間の魔石を喰っている......!』
――ゴクンッ......
直後、仲間の魔石を取り込んだツイスターホーンブルの身体から、魔石と同じ赤黒い色をした蒸気が溢れ出した。そして、奴の身体から血管が浮き出て、不気味な脈動し、身体が急激に肥大化し、肉と骨がミシミシと軋みながら変異し始めた。
「ブモォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」
ツイスターホーンブルが激痛による苦しみや仲間を殺したアタシたちへの怒りを表すかのように激しい咆哮をあげ、その身は赤黒い蒸気で包まれる。ツイスターホーンブルを包んだ赤黒い蒸気はどんどんその規模を広げていき、COAと同じくらいの高さまで大きくなった。
「な、なんすか......一体、何が起こってるんすかぁぁぁぁぁッ!!?」
アタシが目の前の光景を見て、そのように叫ぶ。その後、「ドクンッ!」という重い脈動音と共に凄まじい衝撃波が発生し、赤黒い蒸気を一瞬にして吹き飛ばした。そして、アタシたちはその蒸気の中から露わになったものを見て、強い衝撃を受けた。
『なによあれ......』
『クリーチャーが魔石を喰らうことで変異するだと......?こんな事例、聞いたことがないぞ......!?』
『牛が......二足歩行で立ってる......?』
「こ、こんなの......完全におとぎ話に出てくるあの怪物じゃないすか......!」
アタシは変異したツイスターホーンブルの姿を見て、孤児院で見たことがある物語に出てきた牛の頭を持つ巨大な怪物を思い浮かべる。
「ブグォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」
その牛の怪物の名は―――――ミノタウロス




