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魔核戦機アストレイア  作者: 秋紅葉リュウ
第二章 闘争

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第18話 戦う覚悟を胸に

◆ ◆ ◆ side:水無月リン ◆ ◆ ◆




 ブルーメーアの刃を全て抜き身にした私は、ブースターを瞬間的に最大出力まで噴射し、ミノタウロスの四肢の腱を斬り裂こうと強襲する。




「まずは右手首.......!」




 これまでの動きを見る限り、奴は攻撃する際、必ず右手から攻撃を繰り出している。おそらく奴の利き手は右手だ。ならば、真っ先に利き手を潰すのが最優先。




「喰らいなさい!」




 私はブルーメーアのブースターと全身の姿勢制御バーニアを駆使し、機体を回転させながら奴の右手首へ無数の斬撃を浴びせる。そして、奴の右手首に深い裂傷が走り、大量の鮮血が噴き出した。ミノタウロスが苦悶の咆哮を上げた。だが、私は止まらない。




(奴の傷が再生する前に、四肢を封じる.......!)




 私は奴の右腕にコンバットナイフを突き立て、機体に乗った慣性を殺す。そして、機体の姿勢が安定した後、ミノタウロスの左手首へと一気に迫る。




「左.....手首ッ!!」




 ミノタウロスの左手首に慣性が乗った左手のコンバットナイフを突き刺し、至近距離で頭部バルカンの弾を叩き込む。60㎜口径の弾丸が左手首の肉を抉り、そこへフリーになっていた右腕部の高周波ブレードで追撃する。その後、コンバットナイフの柄から左手を放し、そのままミノタウロスの足元へと落下する。




「あぐっ.......!」




 だが、奴との戦闘で派手に動きすぎたせいか、私の身体が悲鳴を上げた。あまりの激痛に一度意識が飛びそうになるが、なんとか堪える。





「ブグォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」




 ミノタウロスが自らの足元へと落下する私を蹴り飛ばそうと、左足を振り上げる。喰らえば間違いなく死ぬ。だけど、奴と戦っているのは私だけじゃない。




――ダパァァァァァァンッ!!!




 遥か後方、キラービーが駆るハントスティンガーから放たれた音速の徹甲弾がミノタウロスの右膝の肉を抉り、骨を砕いた。そして、ミノタウロスは右膝を砕かれた痛みと衝撃で体勢を崩しかける。私はその隙に受け身の体勢を取り、地面へ着地する際の衝撃を和らげる。




「ありがとうキラービー。おかげで奴の右足を斬る手間を省けたわ」


『ん.......これくらいお安い御用.......』




 狙撃で援護をしてくれたキラービーに感謝を述べた後、私は残る左足のアキレス腱を狙って、ブースターを噴射し、突進する。そして、そのまま突進の慣性を乗せ、左腕部の高周波ブレードを振るう。小刻みに高速で振動する刃は肉を斬り裂き、ミノタウロスの腱を断つ。


 しかし、私は奴の足を斬った瞬間、普通の人間には気づかないほどの小さな違和感を感じた。




(斬った時の手ごたえが違う.......最初に奴の足を斬った時より硬くなってる.......?)




 何か嫌な予感を肌で感じつつも、私は四肢を使用不能にされ、仰向けに倒れたミノタウロスへ迫る。今度こそ息の根を止めるため、全身の刃を駆使してその首を跳ね飛ばそうとする。その時、奴の身体が赤黒く淡く光る。




「嘘でしょ、もう再生が始まったの!?」




  私は奴が完全に再生する前に息の根を止めようと、高周波ブレードの出力を最大まで引き上げ、身体が悲鳴を上げていることを気にもかけずに、ミノタウロスの首へと向かって強襲する。




「このまま振り出しに戻されてたまるかぁ!!」




 そして、その刃が奴の首へと迫り――






――バキィィィィィィィィッ!!!






 ――首を跳ね飛ばすことなく、首へ振り下ろした高周波ブレードは、届く寸前に再生した奴の腕によって受け止められた。それどころか、先程まで奴の身体を易々と斬り裂いていた高周波ブレードがまるでガラスのように砕け散ってしまった。




「なっ.......! そんな、高周波ブレードが――あうっ!?」




 高周波ブレードが無残に砕け散ったことに動揺した私は、刃を受け止めた腕で、まるでハエを払うかのように払い飛ばされてしまった。そうして払い飛ばされた機体は、上手く受け身を取ることができずに背部から地面に強く衝突した。




「あがっ.....! ああああああああああああああッ!!!!!」




 私は機体が地面に衝突した衝撃で、無茶な操縦によって限界寸前まで蓄積していたダメージが、壊れたダムのように一気に噴き出した。全身を焼かれるような激痛に、喉が裂けるかと思うほどの悲鳴がコックピット内に響き渡った。


 やがて、完全に再生したミノタウロスが立ち上がり、倒れたブルーメーアの右足をミシミシと軋む音を立てながら持ち上げる。




『セイレーン.......!! させない.....!!』




 その様子を見ていたキラービーが、私を救出しようとブルーメーアの右足を掴んでいる腕を狙撃する。しかし、激しい破裂音を鳴り響かせて放たれた弾丸は、そのまま奴の腕を撃ち抜くかと思われた。




――キィィィィィィィィィンッ!!!




『.......! 嘘.......弾かれた.......!?』




 キラービーが駆るハントスティンガーが放った弾丸は、奴の腕を撃ち抜くどころか、一切の傷をつけられずに弾かれてしまった。ミノタウロスは弾丸が飛んできた方向に目を向け、彼女の姿を視界に捉えると、その手に持ったブルーメーアを、キラービー目掛けて勢いよく投げつけた。




『まずい.....! 避けられ――』




 そして、投げつけられたブルーメーアと回避行動を取ろうとしていたハントスティンガーが大きな音を立てて衝突し、両機は共に中破する。




「うぅ............」


『きゅうぅ.......』




 機体がうまく起き上がらない。どうやら機体の姿勢制御装置がイカれたらしい。


 私は映像が乱れているモニターを見る。そこには、大地を揺らしながらこちらへ向かって来ているミノタウロスの姿が見えた。そして、その姿は変異直後と比べて、より筋肉が膨れ上がっていた。




(嫌な予感が当たってしまった.......こいつ、再生するたびに強くなってる.......!)




 先程から奴が再生するたびに何かしらの変化を起こしていることは感づいていた。だが、これほどまでに強くなるのは想定外だった。


 ミノタウロスが動けない私たちのすぐ傍まで近寄る。そして、奴は再生による身体強化で膨れ上がった右腕を握り、イーグルを再起不能にした時と同じように、赤黒い光が拳を包み込んだ。奴の赤黒い光で包まれた拳が振り上げられる。




「う......ぐ......この、化け物が.......!」




 そして、その拳がそのまま倒れる私とキラービーへと向けて振り下ろされる。








『――ぉぉぉおおおおおおおおおッ!!!』




 その時、空から高速で飛来した何かが、ミノタウロスの身体を刺し貫き、そのまま横に刃を薙ぎ、奴の上半身と下半身を両断した。そして、その衝撃で辺り一帯に砂塵が舞い上がる。




(な、何が起こったの.......?)




 突然の出来事に戸惑いつつも、私はミノタウロスを攻撃した存在の姿を探る。すると、舞い上がる砂塵の中に何かが立っている影が見えた。その時、無線が起動し、聞き覚えのある声がコックピット内に響き渡った。




『間に合ってよかった』


『むぅ.......遅い.......』




 声の主にキラービーが、弱々しいながらも、珍しく笑いながら愚痴を言う。




『遅くなったことは素直に謝る。すまん蜂谷。それに水無月も』




 砂塵が晴れていき、影の正体が露わになっていく。




『だが......』




 そこには、刀身が白く光り輝く光に包まれている太刀型の武器を構えたアストレイアが立っていた。




『ここから先は、俺に任せろ』





◆ ◆ ◆ side:神崎シュウ ◆ ◆ ◆





 時は水無月に厳しい言葉をかけられた直後まで遡る。俺は、彼女に足りないと言われた命をかける覚悟について考えていた。




「水無月の言う通りだな......所詮、俺は戦場を全く知らない素人だ。あいつが俺を見限るのも当たり前だ」




 俺は苦笑いをしながら、そのように自嘲する。


 あの時、大切なものを守るために戦うと言っておきながら、俺は命を奪うことに忌避感を覚えている。そんな調子では、戦う人間としては完全に失格と言えるだろう。


 俺は水無月たちデモンズのように生まれた時、幼い時から戦場にいるわけじゃない。だけど、生まれながらにしてデモンズとしてこの世に生を受けてしまった以上、あいつらと同じように戦わなければならない。たとえ、本当は命の奪い合いなんかしたくなくとも。




「これからどうすればいいんだろうな、俺は......」




 その時、遠くで何か赤黒い煙のようなものが上がっているのが見えた。




「......? なんだ、あれ......」




 直後、激しい音が鳴り響くと同時に、その中から巨大な牛頭の怪物が、その煙を突き破るように姿を現した。そして、その巨人が咆哮すると、遠く離れているはずなのに、まるですぐ近くにいるかのような音圧が俺を襲った。




「なっ.......!?」




 俺が巨人の出現に驚いていると、奴の拳が赤黒い光を纏い、何かへ向けて振り下ろされる。次の瞬間、激しい風切り音と破砕音が鳴り響き、砂が混じった粉塵が高く舞い上がった。




「ちょっと待て.......あの方角は......!」




 その時、俺は巨人が現れた方角に、水無月たちが向かっていたことを思い出した。俺は早く助けに行かなければとアストレイアを動かそうとする。しかし――




「な、なんだ.......? 身体が震えて、動かない......?」




 俺の身体は、まるで突然現れた巨人に怯えるように震えていた。目の前にある操縦桿に手を伸ばそうとしても、まるで身体がそれを拒否するかのように直前で止まってしまう。呼吸も妙に荒く、心臓はまるで破裂しそうなくらいに早く鼓動している。




「な、なんだよ......ただあいつらを助けに行くだけじゃないか......? どうして身体が動かないんだよ......!」




 助けに行かなければならないと、頭では分かっている。なのに、身体は恐怖で動かなかった。まるで「あんな化け物と勝てる保証はあるのか? あんなの戦うくらいなら、あいつらを捨てて逃げろ」と、生存本能が必死に叫んでいるようだった。




「動け......動けよッ! クソォッ!!」




 動けと何度も叫んでも、俺の身体は恐怖で動かず、ただ、叫び声が虚しく静かなコックピット内に響き渡る。そんな時、俺の頭に、水無月に言われた言葉が蘇る。




『情けないわね』


『クリーチャーと戦うと決めておいて、自分の手でクリーチャーを殺したことに不快感を催すなんて、情けないとしか言いようがないわ』


『私たちデモンズは命を奪われる覚悟をしたうえでクリーチャーを殺している。――でも、今のあんたにはその覚悟が圧倒的に足りていない。つまり、今のあんたはただの足手まといよ』




 大切なものを守るために戦うと覚悟を決めたはずなのに。それを成しえる力を持っているはずなのに。恐怖に震える今の俺は、ただただ無力で、情けない存在だった。




(あいつの言う通りだな......俺は......特別な力があると思いあがっていただけの.......ただの足手まといだ......)




 己の無力さを痛感し、俺は視界を滲ませながら俯く。ただでさえ荒い呼吸で苦しくなっていった胸が締め付けられ、さらに苦しくなる。




――ゴォォォォォォォォォ.......




 その時、巨人が現れた方角から、何かが近づいてきている音が聞こえた。


 俺は顔を上げて、音がする方向へ機体のメインカメラを回すと、その先に、蜂谷が乗る機体――確か、ハントスティンガーと言ったか。それが何かを抱えた状態でこちらへと高速移動しているのが見えた。




「蜂谷......?」


『ん.......アスカロン.......まだここにいたんだ.......』


「あ、ああ.......」


『でもちょうど良かった.......ちょっと頼みがある.......』




 蜂谷はそう言うと、抱えていた何かを手渡し、俺はそれに驚愕する。




「か、風見!?」


『ミノタウロスにやられた.......かなりの重傷.......』


「ミノタウロス.......さっき現れたあの巨人か.......」


『ん.......早くしないと死ぬ.......野営地で手当てしてほしい.......』


「わ、分かった」




 そうして瀕死の風見を引き受けると、蜂谷は『じゃあ.......私はセイレーンのところへ戻る.......』と言って、すぐにその場から去ってしまった。俺は風見の機体――ダガーホークを抱え、フライトユニットのバーニアを噴射し、野営地まで飛行して移動し、ダガーホークのコックピットハッチを開き、その中から全身が傷だらけの風見を救出する。




「大丈夫か風見! 待ってろ、すぐに手当てしてやる!」




 俺はアストレイアのコックピット内に備え付けられた救急キットを取り出し、風見の応急処置を始める。まずは全身の血を清潔な布で拭き取り、傷を滅菌ガーゼ、包帯の順で覆い、止血をする。続いて、骨折している左腕に副木を当て、包帯で固定する。その最中、風見はあまりの激痛に呻き声をあげた後、咳き込みながら吐血する。それに加えて、呼吸の様子もおかしい。おそらく肺が傷ついているのだろう。俺は応急処置を終えた風見を楽な姿勢で安静にさせる。




「とりあえず応急処置はこんなもんでいいか.......」


「アス.......いや、神崎クン.......ありがとうっす.......ゴホッゴホッ.......」


「肺が傷ついているみたいだから、あまり喋らない方がいい。今はしばらく安静にしててくれ」


「そ、そうするっす.......」




 その時、ミノタウロスが現れた方角から再び何かが近づいてきている音が聞こえてきた。それに気づいた俺は、急いでアストレイアのコックピットへと乗り込み、風見を守るように臨戦態勢を取り、こちらへ接近する物の正体を見る。




(あれは.......不知火のインフェルノか? なんかちょっとスリムになったか.......?)




 アストレイアのカメラアイに映ったのは、随分と貧相な姿になったインフェルノだった。俺は臨戦態勢を解き、インフェルノへと向けて無線通信を行う。




「こちらアスカロン、不知火.......サラマンダーなのか?」


『こちらサラマンダー。その問いの答えはYESだ』


「そうか、安心したよ。それにしても、機体が随分とスリムな姿になったな」


『弾が切れたうえに増加装甲が駄目になってしまったからな。すべてパージした』


「なるほど、それでか.......」




 不知火は俺と会話した後、安静にしている風見の方を見る。




『どうやらイーグルの処置は終えているようだな』


「ああ、今は安静にしてもらってる。.......そういえば、水無月はどうしたんだ?」


『セイレーンはまだミノタウロスと交戦中だ。今頃キラービーもあいつと合流しているだろう』


「あんなやつを蜂谷と二人で? そんな無茶な.......」


『――なら、お前も加勢しに行けばいい』




 不知火の口から出たその言葉を聞いた瞬間、身体が一瞬硬直する。


 ミノタウロスと戦う――つまり、風見をあんな状態にまで追い込んだあの化け物を相手にするということ。俺は思わず自分が風見と同じような重傷を負う姿を想像し、その恐怖で身体が震え始めた。怖い。死にたくない。そんな感情が身体を蝕む毒のように俺の心を支配していく。




『どうした、まさか怖いとでも言いたいか?』


「..............」


『――図星か』


「.......お前は、俺が加勢したら勝てると思うか?」




 俺は自嘲しながら不知火へ問う。


 当の俺は水無月に失望されて不貞腐れているうえに恐怖で動けないという有様だ。どうせ不知火も水無月と同じように失望するだろう。




『――少なくとも、俺は勝てると考えている』


「.......は?」




 だが、不知火は貶すことなく、むしろ肯定的な答えを出してきた。




『お前には、それを成すだけの力がある。その証拠がアストレイアの持つビーム兵器だ』


「クサナギとグングニールのことか.......?」


『それらのビーム兵器は、理論上では俺のような通常のデモンズでも使用できる。だが、お前のようにリスクを気にすることなく運用することは不可能だ』


「.......どういうことだ?」


『俺は記録を見ただけだが、かつてアメリカの基地でビーム兵器の実用化に関する実験が行われていた。だが、その実験は死人が出る結果になった。被験者となったデモンズの死因は、過剰な魔素負荷によるショック死だ。ここまで言えば、お前でも分かるだろう』


「――ビーム兵器は、致死レベルの魔素負荷を発生する.......ということか?」




 俺の答えに、不知火は静かに頷く。




『そういうことだ。だが、お前は先日あのようなビーム攻撃を放っても、今もこうして生きている。恐らく、ナチュラル・デモンズであるお前には、ビーム兵器の運用を可能にするほどの魔素負荷耐性が備わっている。つまり、お前は第13機動小隊の最大火力ということだ』


「最大.......火力.......」


『ミノタウロスに対して実弾兵器は効かないに等しかった。だが、お前のビーム兵器ならどうだ? 一撃でグラトニーローカストの大群を壊滅させ、廃墟に巨大な風穴を開けるほどの威力。それを放つことができるお前ならば、ミノタウロスなど敵ではないだろう』




 確かに、クサナギやグングニールの威力があればミノタウロスを倒せるかもしれない。だが、ビーム兵器はあらゆるものを破壊しうる危険な代物であることも、昨日の戦闘で知った。そんな物を、クリーチャーを自らの手で殺したことに不快感を催すような戦いの素人が気軽に撃っていい物なのか? 下手をすれば、味方を巻き込むことだって――




「うぅ.......ぐっ.......」




 その時、痛みに苦しむ風見の姿が目に映った。その瞬間、水無月に失望の声を浴びせられた際に彼女にかけられた言葉が蘇った。




『隊長はああ言ってるっすけど、アタシはそんなことはないと思うっすよ。アタシも最初はアンタみたいにクリーチャーを殺すたびに吐いてたっすから......。でも、今のアタシは昔のアタシとは違うっす。だから、アンタもじきにアタシみたいに慣れていけるはずっす!』




 風見もかつて、俺と同じように命を奪うことに抵抗があった。だが、彼女はそれに慣れざるを得ない環境で何度もクリーチャーを殺してきた。それまで、ずっと苦しい思いをしてきたことは容易に想像できる。そんなやつが、こんな姿になってまでミノタウロスと戦っていたのに、俺は――――――




(そうだ、何も俺だけが苦しい思いをしている訳じゃない。風見みたいに、殺すという手段に抵抗を持っていたとしても、クリーチャーを殺さなければならない環境にいたデモンズだっていたはずだ.......!)




 俺は目の前にあるアストレイアの操縦桿に手を伸ばす。すると、先程まで操縦桿を握ることに抵抗を感じていた俺の手は、不思議なほど容易に操縦桿を握り込んだ。




「俺はもう――――――逃げない」




 フライトユニットのブースターを起動し、ミノタウロスが現れた方角へ向けて離陸体勢を取る。コックピットの外から、ブースターの出力がだんだんと上昇していく音が響く。




『どうやら行く気になったようだな』


「ああ、お前が俺を焚き付けてくれたおかげでな」


『ふん、お前のような強力な戦力が戦意を無くしているのは宝の持ち腐れだからな』


「さいですか.......」




 そんなやり取りをしているうちに、フライトユニットが飛行可能な出力まで上昇した。俺はブースターを点火し、機体を離陸させる。




「間に合ってくれよ、アストレイア.......!」




 直後、フライトユニットのブースターが轟音を立てながら火を噴き、アストレイアは殺人的な加速で空を駆け抜けた。

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