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魔核戦機アストレイア  作者: 秋紅葉リュウ
第一章 始動

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第11話 ナチュラル・デモンズ

「ナチュラル・デモンズ......」




 父さんの口から語られた俺の秘密。それは、この世界の根底を揺るがしかねないものだった。今のデモンズは人間をベースに全て人工的に生み出された存在だ。それが自然発生するというのは本来、絶対にあり得ない。だが、そのあり得ない存在が......俺、神崎シュウという形で姿を現している。




「人の手が加えられていない自然発生のデモンズか......ソウジロウ、詳しく話してくれないか」


「...............分かった」




 その話をじっと聞いていた国分寺大佐が、俺の秘密に興味を持ったようで、父さんへその詳細を話すように進言する。父さんは少しの時間沈黙した後、ナチュラル・デモンズである俺の出自について話し始める。




「それを語るにはまず、俺の妻――シュウ、お前の母親のシオリの話をしなければならない」


「――ッ!! 母さんが何か関係してるのか......!?」




 俺がナチュラルデモンズとして生まれた理由に、物心がつく前に亡くなった母さんが関係している。まさかこんなところで母さんの話が出てくるなんて思いもしなかった。


 父さんは俺の言葉に肯定の意を示すように静かに頷いた。




「シュウ、心して聞いてくれ。お前の母親のシオリはただの人間じゃない。――デモンズだ」


「母さんが......デモンズ......!?」


「そうだ。......そして、彼女は普通のデモンズじゃない。あの時代......クリーチャーが世界に姿を現し始めた時代、単機で数千規模のクリーチャーを屠り、戦場に立てば、群れが消えると言われた。――【グリムリーパー】。最も過酷な時代を戦った第一世代(ファーストチルドレン)......その中で別格と言われた三人のデモンズ、()()()の一人だ」




 父さんがそれを口にした途端、セイレーンを除くデモンズの三人が驚きの声をあげた。




「うええええええええッ!?三英傑って、あの伝説の三英傑っすかぁッ!!?」


「グリムリーパー......ファーストチルドレンの絶対的エースであり、三英傑の中でも最強格とされるデモンズ......!それが、こいつの母親だというのか......!?」


「これは......衝撃の事実......」


 


 三英傑――歴史の授業で聞いたことがある。かつてクリーチャーが出現し始めたころ、その圧倒的な強さで人類をクリーチャーから守り続けたデモンズであるともに、その強さのあまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()悲しき英雄たち。そして、父さんは母さんがそのうちの一人だと告げた。




 「そうか......君と特に関係が深かった彼女が......」




 俺たちが衝撃の事実に驚愕しているのを横目に、国分寺大佐はどこか納得したように呟いた。そして、彼は言葉を続ける。




「だがソウジロウ、彼女はあの時の戦いでMIA(戦闘中行方不明者)として処理され、捜索が打ち切られたはずだろう。それがなぜ君との間に息子であるシュウ君を残しているんだ。――まさか、君があの時に軍を抜けたのは、MIAとなった彼女を探すためだったというのか?」


「......そのまさかだよ。あいつを見つけるのに二年くらいの時間がかかったけどな」




 父の返答に、国分寺大佐は呆れたようにため息を吐き、眉間に皺を寄らせる。




「君が彼女のことを好いていたのは知っていたが、何もそこまでするか......?」


「やかましい。死体が見つかってなかった以上、大切な人の生存を信じるのは当然だろうが」


「......全く、君はあれから全く変わっていないな」




 国分寺大佐は若き日の父の並外れた行動力に苦笑する。だが、彼はどこか腑に落ちない様子で父へ言葉を投げかける。




「だが、それならなぜ17年前に危険を犯してまでここ東京コロニーへ出戻り、技術士官として復帰したんだ。それに、グリムリーパー――いや、今はシオリといった方がよいか。彼女ともこことは別のコロニーで家庭を築き、平和に暮らせたはずだろう。それに、君が軍に復帰する際に戸籍を確認させてもらったが、父子家庭とはどういうことだ?一体何があったんだ。」




 俺は国分寺大佐のその言葉から、彼はまだ母さんがすでに亡くなっていることを知らないことを察する。恐らく、父さんは彼に母さんが亡くなっていることを話していない――いや、話したくなかったんだと思う。無理もない、二年という歳月をかけて探し出した母さんが、俺を生んで半年でこの世を去ってしまったんだから......。




「............すまない、先の発言は忘れてくれ」




 どうやら、国分寺大佐は父さんの深い悲しみを背負った雰囲気を感じ取り、母さんがその後どうなったのかを大体の予想がついたようだった。彼は父さんに対する失言を言ったことを詫びた。




「いや、いいんだ。少しの間だけでも彼女と幸せに暮らせただけでも、俺は満たされていたさ......」


「ソウジロウ......」


「......俺がここへ戻って来たのは、シオリのようなデモンズが生命を削ってまで戦わないような世界を作るためというのが理由だ。俺がアストレイアを作ったのはそのためだ。......まあ、結果は失敗に終わってしまったがな......。それに――」




 父さんが俺の方へ顔を向ける。そして、それはどこか後悔を感じさせるような顔だった。




「シオリとの約束を、こんな形で破ってしまう結果になったのが、心残りだな......」


「父さん......母さんとの約束って......?」




 俺は、父さんが母さんとの間に交わした約束について聞く。その時、父さんはこちらへ歩み寄り、俺と目線が合うように身体を屈ませる。




「俺がシオリと交わした約束......それはなシュウ、お前についてのことなんだよ」


「俺の......?」


「シュウが生まれて一か月がたったころ、シオリがまだ赤ん坊だったお前に魔素の流れを感じ取ったみたいでな。それでシオリが身体に流れる魔素を頼りに調べてみたら、心臓に魔石があるのが判明して、お前がデモンズとして生まれたことが分かったんだ。シオリ曰く、何の淀みのない、驚くほど純粋で澄んだ魔石を持つ天然のデモンズとしてな」


 


 父さんはそう言うと、俺の胸にそっと優しく触れる。




「シオリが言うにはな、デモンズに埋め込まれる魔石には、本来の持ち主だったクリーチャーの遺伝子みたいなのが残っているそうなんだ。そして、それがデモンズの精神汚染を起こす原因となっているらしいんだ。だが、お前は生まれつきデモンズとして生まれてきた。つまり、その心臓にある魔石にはシュウ、お前自身の遺伝子が刻まれている。だからアストレイアに乗っても精神汚染を起こさない――いや、そもそも精神汚染を起こすことがないんだろう。だからなんだろうか――」




 父さんが俺の胸の上に置いた手を離し、哀愁の漂う雰囲気の醸し出す。




「シオリは、お前が自分たちと同じように、クリーチャーと戦うために軍事利用されることを恐れていた。今までに前例が無かった天然のデモンズだ。どんな目に遭わされるかもわからない。そして、シオリは自分の死期を悟ってから、俺との間にひとつの約束を交わした」




 その直後、俺の身体は父さんの腕に優しく包まれ、温かく抱きしめられた。そして、父さんはかつて母さんと交わした約束を俺に伝える。




――シュウを私たちのデモンズの宿命を背負わせたくない.........。だから、せめてこの子には、学校に行ったり、友達と一緒に遊んだり、優しい恋人と添い遂げたりする.........そんな戦いとは無縁の日常を過ごさせてあげてほしい........。




「それが、シュウのために俺がシオリと交わした約束だ」




 その場に、重い静寂が落ちた。誰も言葉を発しない。ただ、俺の身体を抱きしめる父さんの腕の温もりだけが、やけにはっきりと伝わってくる。 


 そして、俺は、自然と涙を流しているのに気付いた。父さんはずっと、俺が我儘を言った時も、俺が反抗期で荒れていた時も、嫌な顔をせず俺を一生懸命育ててくれた。それは、母さんと交わした約束を守るための、俺に幸せな日常を与えるための、そんな家族愛そのものということが、俺の胸にひしひしと伝わった。


 だが、母さんの残した願いは俺が偶然アストレイアに乗ってしまったことで、すでに叶わないものになってしまった。俺は、両親の確かな愛情に対する感謝と、俺を戦いに巻き込まないように守ってきた父さんと俺を思って死んでいった母さんに対する罪悪感で、嗚咽が止まらなかった。




――それから十数分ほどの時が流れた。




「どうやら落ち着いたようだな。シュウ君」


「はい、少し恥ずかしいところをお見せしました」


「そこまでかしこまらなくてもよい。ここは公式の場ではないのだからな。――しかし、不思議なものだな」




 国分寺大佐が俺を不思議な物を見るような目で見てくる。俺は彼のその視線が気になり、なぜそのように俺を見るのかを聞く。




「あの......俺をそんなまじまじと見つめて、どうしたんですか......?」


「ん?ああ、いや。君の出自について少し気になることがあるんだ」


「気になること?」


「うむ。私は大佐という立場である関係上、他国のIDO支部とコンタクトを取ることがあるのだ。そして、これはIDO南アフリカ支部のドラミニ大佐から聞いた話なのだが、かつてそこの研究施設でデモンズと非デモンズの人間の交配実験を行っていたらしいのだ」




 俺は【交配実験】という言葉を聞いた途端、得体のしれない寒気がした。俺の隣に立つ父さんも、大きく目を見開いて口をパクパクとさせている。




「我はこういった話はあまり好かないのだが、向こうがペラペラと喋ってくるものでな......」




 流石の国分寺大佐もこの手の話題は苦手らしい。




「で、その実験の結果というのが、これまた嫌な話でな。その実験の過程で芽生えた命は、そのほとんど全員が胎芽の段階で死んでしまったらしい」




 俺はその惨たらしい結果に強い嫌悪感を抱いた。そして、子供を実験材料にしたものだったからなのか、父さんから、背中に鬼神が宿っているような雰囲気が溢れ出していた。国分寺大佐はそんな父さんの雰囲気を感じて冷や汗をかきながらも話を続ける。




「し、しかし、かろうじて生まれた子供も、身体に何かしらの異常を持つか、奇形児とした生まれたが、もれなく全員が数日も持たずに亡くなったというのだ。実験自体は失敗に終わったが、デモンズの親の魔石適合率が高ければ高いほど、子供の生存時間が長いということが分かったらしい」




 国分寺大佐はそう言うと、その場から立ち上がり、背を向ける。




「その実験では、魔石適合率が90%を超えるデモンズの子だったとしても、生後七日まで生き延びるのが精一杯だったと聞く。シオリも魔石適合率が90%を超えていたデモンズだったが、彼女の子である君はこうしてなんの異常もなく、五体満足で生きている。君がどうやって無事に生まれ、こうして生きているのかは分からない」




 その後、数拍ほどの沈黙の時間が流れた後、彼は俺の方へ顔を向ける。




「だが、もしかすると、君をこうして生きているのは、親から子へと注がれた愛ゆえの物かもしれぬな」




 俺へそう言って向けられた国分寺大佐の顔は、不器用ながらも穏やかで優しさに満ちた笑顔だった。俺は不思議と胸が温かくなったように感じた。




「さて、シュウ君。ここからが本題だ。今ここで、君の意志を確かめさせてもらいたい」




 国分寺大佐は改めて俺の方へ向き直り、厳かな表情で語る。




「まず、今回の件で、君はアストレイアを暴走することなく運用することができる人間として、鳴神を通じて、すでにIDOに知られてしまっている。君はこの先、重要な戦力として戦いに駆り出されるのは避けられないだろう」


「はい」


「デモンズに戦闘を任せて後方から指示を出しているだけの我が言えたことではないが.........本来は君のような未来ある若者を戦場という死と隣り合わせの地獄に送り込みたくはない。だが、現実はそんな我の我儘を聞いてくれるようなものではない......」


「...............」


「君の父には申し訳ないが、この後、君にはCOAに乗り、クリーチャーを排除するために活動する義務が与えられる。君がどう言おうが、これを拒否することはできない。君は人類をクリーチャーから守る剣であり、盾となる。これは決定事項だ」




 国分寺大佐はそう言うと、一歩、また一歩と静かにこちらへ歩み寄ってくる。




「......ここから先は、君の父の友人として言わせてもらう。シュウ君、戦いは、君にはとても辛く、苦しいものになると思う。だが、君には愛する家族がいる。そして、かけがえのない日常がある。それらを守るために、今一度、私たちに力を貸してくれないか」




 正直、戦場になんて行きたくはない。いつ死ぬかも分からないうえに、大切な誰かを失うことだってあるかもしれない。だけど――




「分かりました。これからもよろしくお願いします。国分寺大佐」




 俺は父さんやヒナタのような大切な人たちを......学校で友人たちとバカやったり、ヒナタとの関わりが多いことが原因で同じクラスの男子たちに嫉妬されたり、父さんと家族の時間を過ごしたりした思い出のある日常を守りたい。そして俺にはそれを実現できるかもしれない力がある。ならば、俺は自分が持てる力の全てを守るために使う。




「シュウ君......ありがとう......そして、すまない......」




 俺と国分寺大佐は、互いの右手を差し出し、握手する。


 こうして、俺の戦いの日々は、今ここで始まりを迎えることになった。


 そして、俺は後に思い知ることになる。デモンズが抱える苦しみの数々と、彼らが戦場で失い続けてきたものを――


 

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