第12話 歪な日常と来訪者
――ピピピ...ピピピ...ピピピ
「んぅ......もう朝か......」
俺はスマートフォンにセットしていた目覚まし機能のアラーム音で目が覚める。そして、目を覚ました後に見えたのは、いつもと変わらない自宅の自室だった。俺はベッドから身を起こし、身体を伸ばす。その後、自分の通う高校の制服に着替え、一階のダイニングへ向かった。
「お、起きたか寝坊助め。朝飯はもうできてるぞ」
俺がダイニングに着くと、そこにはすでに仕事着姿の父さんがテレビで朝のニュース番組の天気予報を見ながら座っていた。俺は父さんと朝の挨拶を交わす。
「ふわぁ......おはよう、父さん......」
「おう、おはようシュウ」
俺は朝食が用意されている席に着席し、朝食を食べながら、父さんと家族団欒の時間を過ごす。
「そういえば、今日も仕事で遅くなる?」
「いや、今日から七日間だけはリハビリ医の仕事だけだ。そこまで遅くはならない」
「え、珍しい。いつもだったら働き詰めなのに?」
「国分寺の奴が休め休めってうるさかったんだよ。今は一か月前の事件の後処理やらアストレイアの調整やらで忙しい時期だって言うのに、休んでる暇なんてあるかよ全く......」
「いや、流石にそれは国分寺さんが正しいと思うよ......このまま休まずに働いてたら、父さん絶対ぶっ倒れるって......」
俺は父さんのハードワーカーぶりに呆れながらも、朝食を食べ終え、『ごちそうさま』と言った後、自分の食器の使った食器を洗い、乾燥機に立てかける。
ちなみに、国分寺大佐を「国分寺さん」と呼んでいるのは、彼からは公式の場でなければ大佐と言わなくてもよいと言われたため、今はこうして非公式の場では国分寺さんと呼んでいる。
その後、歯を磨こうと洗面所に行こうとした時、父さんの手元に熱いコーヒーが入っている猫のイラストがプリントされたマグカップがあるのが目に入った。
「あれ?父さんそのマグカップ......」
「ん?ああこれか?実はな、ヒナタちゃんが昨日持ってきてくれたんだよ。『一か月くらい遅くなりましたが誕生日おめでとうございます!これ、シュウと私が一緒に選んだプレゼントです!』ってね。――そうか......そういえば、あの時は俺の誕生日だったな......」
それはあの時、混乱の中で無くしてしまった父さんの誕生日プレゼントと全く同じものだった。恐らく、ヒナタが騒動が落ち着いたころに買い直したんだろう。
(ヒナタのやつ、いつの間に......。全く、プレゼントを買い直すんだったら俺も一緒に連れてけよな......。後で半分の金額を返してやるか......)
「俺はこの後すぐに仕事だが、シュウはヒナタちゃんと一緒に登校するだろ?その時、俺の代わりに「良いプレゼントをありがとう。大切に使わせてもらうよ」ってヒナタちゃんに伝えておいてくれ。それと......」
父さんがこちらへ優しい顔を向ける。
「シュウ、お前もありがとうな。俺は本当にいい息子を持ったよ」
「や、やめてくれよ......なんか恥ずかしいって......」
俺は半ば逃げるように洗面所へ走り込んだ。その後、俺が去ったダイニングから父さんの笑い声が聞こえてきた。俺は最近の父さんはどこか意地悪だと思いながら、口を水ですすいでから歯を磨く。そして、歯を磨き終えたころ、父さんが「それじゃ、仕事に行ってくるぞ」と言い、俺が「いってらっしゃい」と返した後、玄関から外へ出ていった。
父さんが仕事に出てから、俺は教科書やノート、弁当を鞄に詰め、登校の準備を進めていく。そして、ちょうど俺が準備を終えたタイミングで、インターフォンが鳴った。
「お、来た来た。ちょっと待ってろ、すぐに行く!」
俺は用意していた鞄を背負い、玄関の扉を開く。
「おはよう、シュウ」
「ああ、おはようヒナタ」
開いた扉の先には共にあの事件を生き残ったヒナタがいた。あの時、俺はセイレーンたちにIDO軍の基地に連行されて結果的に約束した避難所で合流することはできなかったが、IDO軍がコロニーに侵入したクリーチャーを殲滅した後、無事に合流が叶い、今ではこうして、また一緒に朝を迎えられている。
俺はヒナタと挨拶を交わした後、玄関を施錠し、二人で学校へ向かって歩き、会話を交わす。
「そういえばヒナタ、お前昨日父さんに誕生日プレゼントを渡したんだって?父さんからヒナタに伝言をもらってるぞ。「良いプレゼントをありがとう。大切に使わせてもらうよ」だってさ。俺も今朝に使ってるところを見て驚いたよ」
「あ、おじさんあのマグカップ使ってくれてるんだ!あの事件からしばらくした後、あの雑貨屋さんで同じものがなんとか売ってたから良かったよぉ」
「それは良かったな。というかヒナタ、プレゼントを買い直しに行ったんだったら俺も誘ってくれよ。それだったらまた俺と折半で買えたのにさあ......」
「ごめんごめん、あの時のシュウなんか忙しそうにしてたし......」
あの時――ああ、国分寺さんといろいろと打ち合わせしてた時か。俺がアストレイアのパイロットとして戦うようになるにあたって、私生活をどうするか相談していたんだったな。あの時は確か......
――時は二日前に遡る......
「シュウ君、君がアストレイアのパイロットとして戦うことを了承してくれたのは感謝している。だが......」
国分寺さんは少し疲れた様子で大隊長室に呼び出された俺に言葉を投げかけた。
「ここ最近、上層部から君をIDOの管理下に置くべきだという声が絶え間なく来るのだ......」
「ああ......」
俺は、国分寺さんが疲れた様子をしていた理由を理解した。俺はこうなるくらいに上層部からしつこく言われている国分寺さんの姿を想像し、この人も父さんみたいに結構苦労人なんだなと思った。
「君は元はといえ、ただの一般人として生きてきた私生活があるだろう?それを簡単に君から奪ってしまうのは私個人としてはあまりしたくはない。そこでだ――」
国分寺さんは、先程の疲れたような雰囲気から一変し、真面目な顔で俺へと向き合う。
「君が私生活をいつも通り送ることができるよう、監視役をつけようと思うのだ」
「監視役?」
「ああ。だが、監視といっても、あってないようなものだがな。監視という名目でIDOの管理下に置いていると言えば、あのしつこい上層部を黙らせることができるというものだ......フフフ......」
そう言う国分寺さんからはどこか威圧感のあるような雰囲気を醸し出した笑いが出ていた。俺はなぜ笑っているのか気になり、彼の顔をよく見ると、額に薄っすらと青筋が立っているのが見えた。
(ああ......もしかしなくても、かなり上層部への鬱憤が溜まってんなこりゃ......)
その時、国分寺さんが「そういえば......」と、何かを思い出したのか、俺にあることを言ってくる。
「シュウ君、君がナチュラル・デモンズであることを絶対に口外しないようにしてくれ。君も知っているとは思うが、デモンズは世間からあまりよく思われていない。自然発生とはいえ、君がデモンズであることには変わりはないんだ。もしそれが露見してしまえば、君は間違いなく差別の対象になる。今後、注意してくれ」
デモンズ差別――過去に三英傑がその強さから人々から恐れられ、それがデモンズ全体の偏見へと繋がったことが始まりで、今でも根強く残っている社会問題だ。その影響は強く、現在ではデモンズに対するヘイトスピーチが世界中で横行しており、酷いときは殺人事件に発展したこともある。これまで普通の人間として生きていたために忘れていたが、俺もデモンズの一人。俺は国分寺さんの言葉を重く受け止める。
「分かりました。肝に銘じておきます」
こうして、国分寺さんの策略により、俺は、監視をつけられ、ナチュラル・デモンズを隠すが必要があるものの、アストレイアのパイロットとして活動しながら、これまで通りの生活を送ることができるようになった。
―――――――――――――
(そういえば、国分寺さんが言ってた監視役って一体誰なんだ?今のところはそんな感じの人影は見えないけども......)
俺が国分寺さんが派遣しているであろう監視役について考えていると、ヒナタが「あっ!」と声を出し、ある光景を指さす。
「見て見てシュウ、アレ!」
ヒナタが指し示す方向を見て見ると、そこには一か月前、クリーチャーが破壊したコロニーの外壁が多くの作業員によって修復されている光景が見えた。あの時、無残に崩れ落ちた壁は、今では約八割くらいまでに修復が進んでいる。
「凄いな......まだあの事件から一ヶ月しか経ってないのに、あそこまで修復が進んでいるのか」
「本当だね。まさに技術の進化の賜物って感じ?」
「だとしても進化しすぎに思えるけどな。まあ、外壁が早く直るに越したことはないが」
俺たちは、近年の技術の進歩を感じつつ、通学路を再び歩く。そうしてしばらく歩いていると、多くの建物が倒壊した場所で、いくつかの重機が瓦礫を撤去し、更地を作っている現場が近くに見えた。その現場からは重機が力強い駆動する音が鳴り、作業員たちの喧騒が響いていた。
「うはぁ......ここの瓦礫や壊れた建物を全部撤去しないといけないとか......こりゃ作業員の人たちも大変だなぁ......」
「それだけクリーチャーが残していった被害が大きかったって証拠だな。そのせいで家を失って、今は仮設住宅で住んでいる人たちも多くいるわけだし」
あの事件が残した爪痕は大きい。なんとか日常を取り戻すことができた俺たちがいると同時に、その日常をそのまま失った人たちも数多くいる。当然、クリーチャーの襲撃に巻き込まれて亡くなった人も。
俺はその光景を見て、こんな悲劇を二度と起こさないために、アストレイアに乗ってクリーチャーと戦わなければならないと、改めて思った。その時、ヒナタが俺の顔をどこか訝しげな表情でこちらを見てくる。
「シュウ、どうかしたの?なんかちょっと怖い顔になってるよ......?」
「え......いや、何でもないよ!気にしないでくれ」
「ふーん......ならいいや。ほら、早く学校行こ!」
ヒナタはそう言って足早に坂道を駆け上がる。俺はそんな呆れるほどに天真爛漫な彼女の後を追うように足を動かす。
――そして登校後、「都立東京第一高校」の教室にて......
「おい神崎、お前また朝倉さんと一緒に登校してきたのか?あの人と幼馴染って関係なだけでも妬ましいのに......マジで呪ってやろうか......」
「やめろ縁起でもない......」
学校に着き、教室の自分の席に座った俺に、隣の席の友人「山田タケル」に嫉妬にまみれた不吉な言葉を吐いてくる。こいつとは小学生の頃からの腐れ縁で、もうかれこれ7年くらい関係が続いている。余談だが、こいつは何度も女子にアタックしているが、その全てが玉砕に終わっていることから「玉砕の山田」なんて可哀そうな二つ名がついている。
「何度も言うけどな、俺とヒナタは幼馴染だけど、小さい頃から兄妹のように育ってきたから、あまりそんな感情は抱くことはないって......」
「ほんとかぁ?それにしては、遠目にお前を見つめてる朝倉さんが凄い膨れっ面になってるんだが......?」
「え?」
タケルにそう言われて俺はヒナタがいる方向を見る。そこには不機嫌そうに頬を膨らませながらこちらを見つめるヒナタが目に映った。あ、そっぽ向かれた。
「お前......朝倉さん、すっかり拗ねてんぞ......?どうすんだよ......?」
「......ああなったヒナタはなかなか厄介なんだよな......仕方ない、後であいつの好きなスイーツでも奢ってやるか......」
俺は放課後に中身が寂しくなるであろう財布を想像し、思わずため息が出る。その時、教室に担任の先生が入ってきた。
「はーいみんな、今から朝のSHRショートホームルームを始めるわよ。早く席に着きなさーい」
先生にそう言われて、席から離れていたクラスメイト達が一斉に席に戻り始める。そうして、全員が席に着き、それを確認した先生はSHRを開始する。
「えー、まずみんなにお知らせがあります。この度、我が校では先月のクリーチャーの襲撃の際に破壊された学校の生徒を受け入れることが決定しました。それにより、今日は各クラスにそれぞれ転校生が入ります。うちのクラスでは4人の転校生を受け持つになったから、みんな仲良くしてあげて」
転校生が4人。それを耳にしたクラスメイト達がざわめき始める。
『転校生が4人?多くない?』
『でもさっき先生がクリーチャーに壊された学校から生徒を受け入れたっていったよね?』
『あー......あのクリーチャーがコロニーに入ってきた事件か......大変だったもんなぁ......』
『でも、どんな転校生が来るか楽しみだよな!』
「はーいみんな、静かにしてちょうだい!どんな子が来るか楽しみな気持ちも分かるけど、今はSHR中よ」
クラスメイト達は、ざわざわと転校生についての話題に話していたが、先生の声がそれを半ば強引に終わらせる。
「それじゃあ、これから転校生を紹介するから、みんな歓迎してあげてね。転校生のみんな、入ってきてちょうだい!」
先生の呼びかけと共に教室の扉が開き、転校生たちが入ってくる。
『おおおおおおおおおおおっ!』
その瞬間、クラスメイト達――主に男子生徒――が興奮の声をあげる。
転校生は女子が三人、男子が一人だった。そして、女子は全員もれなく美少女と呼べる容姿で、残る男子生徒もイケメンと呼べる容姿をしていた。教室の生徒たちのテンションは転校生が全員もれなく美男美女で構成されているという事実に、最高潮を迎える。
――たった一人を除いて......
「は......................?」
俺は転校生たちの顔に静かに驚きの声をあげる。その理由は、その転校生は全て、自分が最近見知ったものだったからである。
「それじゃあ、水無月さんから順に自己紹介をしてちょうだい」
先生がそう言うと、左から一番目にいる水無月と呼ばれた黒髪ロングの女子生徒が「はい」と言って頷き、自己紹介を始める。
「今日から、都立東京第一高校へ転入した「水無月リン」と言います。よろしくお願いします」
続いて、その右隣にいる金髪ショートの女子生徒が自己紹介をする。
「どうも~!同じく今日から都立東京第一高校に転入してきた「風見ソラ」っす!よろしくっす!」
そして、その右隣で眠そうにしている銀髪ロングの女子生徒に順番が移る。
「左に同じく......名前は「蜂谷カリン」......よろし......zzzzz......あぅっ......!」
そして、自己紹介で居眠りをかました彼女を右隣りにいる短髪の男子生徒が容赦なくその頭にチョップを喰らわせる。
「お前はさっさとその居眠り癖を直しておけ。「不知火エンジ」だ。本日からここの世話になる」
俺は何度も目をこすり、彼らを見つめ直すが、それは幻覚でもなんでもなかった。あの特徴的なパイロットスーツではなく、この学校の制服を着ているが、あの顔は間違いない。
(な、なんで第13機動小隊の奴らがここにいるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?)
第13機動小隊。一か月前、アストレイアに偶然乗り込んだ俺を基地に連行したデモンズたち。そいつらが今、この学校の転校生として目の前にいる。そして、それと同時に俺は理解した。
(国分寺さんが言ってた監視役って......こいつらのことかよっ!!!?)
国分寺さんが二日前に派遣すると約束した監視役。それがまさか偽名を使って俺の通う高校に転入するという方法で姿を現すなんて思ってもいなかった。
これからどうなるの......?帰ってきた俺の日常...........
――To be continued......




