第97話 ギアスの大穴4
「ぶらいんどあっぷ ぶらいんどあっぷ」
小部屋は小物で雑然としていた。その溢れかえっていた小物というのが、所狭しと並べられた壁一面のボタンゴーレム。目の前の見本市のように展示してあるボタンゴーレムには、普通のボタンゴーレムだけでなく、ターバインの傘がついた限定版や、王家御都番が使っていた金のボタンゴーレム。まだ、見たこともない赤いボタンゴーレムなど様々なボタンゴーレムがコレクションのように大事に区分けされ置かれていた。奥には作業机とポーカーテーブルがあり、幅広く取られた作業机にはさながら製図板が備え付けられており、ボタンゴーレムの設計図と思わしき紙束が机に積み重なっている。向こうに見えるポーカーテーブルには9体のボタンゴーレムがそれぞれ同期した動きでプレイヤーのボタンの配置を変える為に動いていた。
「壮観」とステラが感想を述べる。
はしゃぎながら「お宝ニャ」とスイが喜んでた。
「なんだこれは」
グレイソンが想像と違ったのかうろたえていた。
「まあ確かにテキサスホールデムに狂ったギャンブル国家らしいな」
疲れた俺は奥の壁を背にして座って嘆く。
「なるほど機密だな」
アレクがボタンゴーレムの数を無謀にも数えようとしているマーガレットを眺めながら俺に同調して言う。
「まあ、なんだ。つまんねえ。帰るか」
心底つまらなくなった真顔でグレイソンが言った言葉に俺はぎょっとした。
「ちょっと待ってくれさっきの即死罠くぐりぬけるので、必死だったんだ。もう一回戻れる気がしねえ。
とにかくちょっと休ませてくれ」
腰を落ち着けて座っていた身体を慌てて起こす。奥の壁紙に体重を預けるように起き上がろうとして、足がもつれた。目の前の壁に掛けてある書きかけのボタンゴーレムの製図に全体重をかけた。製図が破け壁がめり込む。あっ、これひょっとしなくても結構やばいやつ? 俺も巴みたいに捕まる? やばい? 冷や汗が流れ。思考が真っ白になる。土埃が舞った。元々王家に対する恨みなんてものはない。ただ、ちょっと鼻を明かしてやれればという気持ちが少しはあった。巴が結果として片腕を失うことになった原因。それに対して好意的な目で見ることなんて出来やしない。だからグレイソンの企みに少しわくわくしたのだ。王家が隠したがっていることなんて碌な物なんかがあるわけないと。だが、あったのはまっとうな物で、それで罪悪感を感じている。そして製図を壊してしまった今、俺も軽はずみで魔法陣を攻撃してしまった巴と何も変わらない訳で。どうどう巡りしている頭の言い訳に対応していると、誰かの影が差したのが分かり顔を上げる。
目の前を腕を組んだグレイソンが仁王立ちしていた。
「いや、違うわざとじゃないんだ。いや、わざとじゃなくてもまずいよな、やばい」
バンっと両肩をグレイソンに叩かれる。目が血走っていた。
「よくやった、遊都」
「はあ?」
聞き間違いかと思い変な声が出た。
「はっはっはっ。よくやったぞ遊都」
グレイソンがまた俺を褒めた。
ステラがへこんだ壁からこぼれた土塊を手でさらさらとした砂に変える。
「もろい……これは土魔法」
「そうだ。ここが終わりじゃねえ」
「土に強いのは風だ」
グレイソンとアレクが風のエフェクトに包まれる。
「掘るぞアレク」
「本当人使い荒いなグレイソン」
そこから、グレイソンとアレクの穴掘りタイムが始まった。
その途中で「まあわたくし魔物、魔物でしたの?」と大捕物の結果が明らかになっていたりした。
30分ぐらい経って「どっりゃああああああ」とハイになっていたグレイソンが繋がったぞォと穴の奥で叫んだ。
不格好に掘り進められた穴をくぐって、自動車が2台すれ違えそうな通路に出る。ここはどこだ。天然の洞窟にも見える。だがほんのり明かるいからこれは自然の洞窟ではない。普通の洞窟なら真っ暗だろう。
「これは迷宮だな。ギアスの大穴だ。なんでこの区画が封じられていたかまではわからねえが」
スライムが元気に2匹跳ねて通りすぎている。
魔物がいたのを見て俺は呟いた。
「5階ってセーフティエリアだって話だよな」




