第95話 ギアスの大穴2
分厚い鉄製の扉にはピリピリした兵士が2人直立不動立っている。
時間交代で2人入れ替わるが常時2人はあの分厚い鉄製の扉の門番をしている。計ってみたら30分に一度入れ替わるみたいだ。扉には兵士詰め所につき関係者立ち入り禁止。と文字がある。
「詰め所だからだろ」
呆れた声でアレクが言う。
「だからこその不自然なんだろう、どう思うよステラ」
「獲物を狙うように炯々とした眼、ただの詰め所ならもっと弛緩した雰囲気になる」
「だそうだ」
「で、結局どう突破するんだ? いや突破してどうするんだって気がするが」
「よくぞ聞いてくれた遊都。ここで、ステラとマーガレット嬢の出番だ」
「まーわたくしですのー?」
「マーガレット嬢のスキルは鏡を通じて映像・音声の伝達に特化している。映像を映し出すこともできんだったろう」
「作戦はこうだ。ステラが霧を発生させる。それに俺らが居ない映像を投影。その隙に通り抜けちまおうって話だ。左右の兵士に違う映像をみせることになるができるか」
「わたくしおちゃのこさいさいですわー。暇つぶしに多重展開嗜んでますもの」
「兵士が女性ならレガリス連れてくりゃ一発だったんだが、そうもいかねえ」
「なあ脱出はどうするんだよ」
「アレク大丈夫だ。なんとかなる。何もなかったら、迷い込んでしまいましたっつって出ればいいだけだ。なんたってただの兵士詰め所だからな。冒険者の格好もいいカモフラージュだぜ」
なんか上手くのせられているだけな気がするけど。
「いざとなったら庇ってやるよ。なんたって俺はA級冒険者様だぜ。王族とは顔なじみだ」
「お宝の匂いがするニャ!」
「そうかスイが乗り気なら俺も」
「まあ、いい気分転換にはなるかもな」
「はっ、遊都が乗り気。私も頑張る」
「そうそう。まずはお嬢ちゃんに頑張って貰わねえとな。地下6階へと続く階段からめっちゃ濃いい霧を頼むぜ。マーガレットは兵士の頭上の死角で待機だ」
「ドキドキしますわ」
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「霧? こんなことが今まであったか?」
「いや、初めてだ」
「どうする? 上に報告するか?」
「いや、大丈夫だろうスタンピードでも最低限手を貸すだけと言われているからな」
「しかし、見えないな、いるか? お前の影しか見えなくなったぞ」
「ああ、こちらもだ、だが近づくやつがいたら分からないことはないな」
「あと20分。そうしたら交代だ。目がかすむが仕方ない」
「今何か音したか?」
「いや気のせいだろう扉は動いていないし」
「足音がしたんだがな」
「あんまり話すなよ、怒られるぞ」
「そうだったそうだった」
「いや、なんかきしんだ音がしたぞ」
「扉動いてねえぞ。寝不足なんじゃねえーか」
「そうか、そうだよな動いてないよな」
兵士は上空から風切る感覚を覚えたが気にしないことにした。
「マーガレット嬢もついて来てるな、小声で頼むぞ」
「ももももちろんですわ」
「それじゃあ行こうか」
忍び込んだ兵士詰め所は編み目状に通路が張り巡らしてあり、すぐに挟み込まれる心配はなさそうだった。奥は先が見えない。
「とりあえず突き当たりを目指すぞ」
アレク先導してくれ。
「聴覚100倍って、こんな使い方したことないんだがな」
「ご主人様盗人みたいでかっこいいニャ」
「そう、か。そうなのか前方から2人やってくるぞ、どうする」
「こっちの小部屋でやりすごそう」
「ナイスだ遊都」
「声、ひそめろよ。ん? ステラはどうした?」
「いる」
「うおっ、びびらすなよ」
「グレイソン、静かにしろよ、耳に響く」
「オーライ」
靴音がすぎていく。
「マーガレット映像はいけるか」
「グレイソンできますわー、ですが映している鏡が普通に見つかるのですわ。あと普通に霧もないのですと映像も透けてみえますわ」
「ステラの霧はどうだ」
「遊都そりゃあできるだろうが、霧で騒ぎになるのは避けたい。アレクの先導でさっきみたいに行くぞ。お宝に鼻がきくやつがいればいいんだが」
「そりゃあスイだな。む。俺の聴覚100倍にする必要なかったんじゃねーか」
「百獣の嗅覚ニャニャニャ怪しいのはこっちニャ」
「おいスイを追うぞ」
前方を走っていたスイが止まる。
「挟まれたニャ。終わりニャ。後ろの右通路からこちらに向かってくりゅのと前方の左通路だニャ。後ろの左に行く時間はないニャ」
「ステラ後ろのT字路に氷の壁を! 天井開けて」
「遊都わかった」
「マーガレットは天井から壁が続くよう映像うつせるか、やってみますわ」
「前方だが、遊都注意引け、俺がなんとかする」
カチカチカチジャラー。カチカチカチジャラー。
「おい、なんか音がしないか、そこの右通路から」
「確かにするな、不審者かもしれん行くぞ」
「なっ」
ディーラーの基礎スキルとしてチップハンドリングというものがある。テキサスホールデムは専用のチップを使うものであるが、素早く正確に扱えるようになる必要がある。ポーカーチップは1、5、25、100、500、1000、2500、5000、10000、25000……といった種類がある。このチップの枚数をカウントする時に重要なスキルのひとつにサイジングというものがある。重ねて置かれた5枚ないし4枚のチップを基準にして、同じ枚数のチップの山を作るスキルだ。
「お前っ! そこで何をしている!?」
ドロップカットだよ。俺は内心で答え、改めて右手で隠したチップを見せる。チップが20枚。床に片膝をつき、チップの山を床に立てる。目にもとまらぬ早さで人差し指の腹で5枚ずらし、親指を捻る。この間一秒にも満たない……ドロップカット。複数枚のチップから5枚のチップを取り出す技だ。これでチップの20枚から下に5枚の山が形成される。一度基準ができたら簡単だ。5枚の山を頼りに同じチップ量を計るサイジング、さらにもうひとつサイジング。最後にチップを広げて見せるスプレッド。これで20枚だ。チップを回収する。ドロップカットサイジングサイジングスプレット……。ドロップカットサイジングサイジングスプレット……。ドロップカットサイジングサイジングスプレット。
「お前は何……を……」
兵士に動揺が走る。
俺に兵士が怖じ気づきながら不用意に近づく。グレイソンが隠れている壁を通り過ぎた。
直後兵士が2人崩れ落ちた。背後に回ったグレイソンが手刀で落としたらしい。雷がばちばちいってるからスキルかな。
「気を引くにしたってもっとあるだろう」
「いや、テキサスホールデムが盛んなこの国なら注目するかなって思ってさ」
「まあいいか……確かに気は引けていたしな、お、そこに小部屋があるな押し込んでおくか、アレク氷の壁溶かしとけよ」
「人使い荒いな、水は放置しとくぞそこまでやると時間がかかる」
再び通路をしばらく進んでいくとスイがピタリと止まった。
この先の右が怪しいニャ。髭がピクピクしていた。
マーガレットが天井にあがり、本来の鏡の役割を果たしてくれる。
鏡が鉄の扉を映す。斜め上から王家のレリーフが見て気づいた。あれどこかで見たことあると思ってたけど、どう見てもスロットの機械だよな。趣味悪。そしていかにも重要なものを守っていますと言わんばかりの奥の扉の前に、はちきれんばかりの筋肉質な男がどこの世紀末だよという感じで2人立ち塞がっていた。
「さて、どうするか遊都なんかいいアイデアあるか?」
「よし、ここは俺のカードシャッフルの出番か。俺の魅惑的なカード捌きであるリフルシャッフルを披露する時が来た。また引きつけて魅せてやるよ」
リフルシャッフルとはカードの束であるデックを両手で半分に分けハの字に置く、そして角をつけ小指の腹を短辺に沿わせる形で添えて支える。親指でデックを1.5cm持ち上げ両手の親指からパラパラと一枚ずつ落とすことで角が重ねるのだ。そして小指で押し出し、人差し指で整え完成だ。ドヤ顔で綺麗にシャッフルしたカードを皆に見せる。
皆の反応が悪い。ステラは口に手をあて「遊都……可愛い」と眼を緩ませているが。
「遊都。いっちゃ悪いが誰でもできるからなそれ」
「なんで冒険者のスキルじゃなくてディーラーの小技なんだよ」
「じゃあアレク代わりになんかあるんだよな」
「いや、俺のは派手で音が出過ぎて人が集まってくるしな」
「大体身動きとれねえだろ、それじゃお前動けねーじゃねえか」
「フニャー」とあくびをスイがしてマーガレットが鏡の奥で「できましたわー」とシャッフルの練習をしていた。
カードシャッフルはテキサスホールデムプレイヤーなら何となくあれ格好良いなと眺めているディーラーのあれだ。俺はそれを長年の観察と普通に教えて貰って習得していた。……自慢じゃないが俺には自信がある。
「なら……ここは俺のストリッピングが火を噴く時だな。ストリッピングなら動くことも可能だ」
デックの上から10枚ほど左手でとり残ったデックをその上に置く。これを連続でやるのだ。くるくるくーる。くるくるくーる。くるくるくーる。歩きながら実演してみる。どうだっ?
「そりゃあお前ただのカード回しながら近づいてくる変質者だろう」
「なら、ボックスカットォ。ボックスカットはっ!」
「遊都……可愛い」
「それはもういいから、あと少しなんだがなー」
グレイソンが髪をかきむしる。
スッとステラが音もなく手をあげた。
「霧と人影で誘導する」




