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第91話 英雄~ヒーロー~

 階段を上がった。戦いは終わったようだった。こちらに気づいたコンヴリーとミアガラッハが駆け寄り、俺と背中におぶった巴の進む先を空けた。


 コンヴリーが敬礼する。ミアガラッハが剣を床に突き立てる。


「コンヴリーが感謝していたよ。月下草だっけ? お子さんの病気を治すのにちょうど足りなかったんだろう? それを闇夜に森の奥地まで探しにいったそうじゃないか? 俺にはできない。ミアガラッハの剣を治すために鋼材もとりにいったんだって。昔のパーティで使った思い入れのある剣だけど壊れて、剣がなくて困っていたところを代わりに行ったんだっけ? クエストってお使いイベント多いよな。感謝してたよミアガラッハも」


 出口に向け、歩く。


 自分の情けなさと巴のやってきたことに凄さを感じながら巴に感情をぶつけた。

 巴に肘から先がなくなっていることに気づいた人がうめく。


 出口に向け、歩く。


 人が二手にわかれ道を作ってくれた。

 誰も巴には声をかけない。


「巴はすごいなあ。こんなに人が集まってくれたんだ。これみんな巴を助けようとしてくれた人だよ。みんな助けられたんだ。巴に。その点俺は金、金、金ばっかで、駄目だおれ。俺が間違っていた。全て間違っていた。大事なのは金なんかじゃない。本当は分かっていたのに、分かっていたつもりになっていた。巴はすごいんだよ」


 魔道士のリアマーナと盗賊のペネムが背を合わせて座り込んでいるのが見えた。


「足抜けを手伝ったんだって? 俺の知らないとこで何をやっているんだよ。魔道書を探すのはもう書店員にまかせておけよ。……ほんっとう世話焼き好きだな。それがいいところなんだけど」


 スカラルドが手を上げた。こっちも手を上げかえす。


「ほら巴、3日3晩話を聞いてくれたとぼやいていたスカラルドだ。また失恋したんだってよ。また話聞いてやれよ」


 出口に向け、歩く。


 出口にはドアンとキュバールが立っていた。  


「魔物に襲われていたドアンとキュバールを助けたんだって。本当何やってんだよ。……ドアンもキュバールも恩返しがしたいってさ」


 建物の外には王家御都番の相手をしていたステラとニャオばあの姿も見える。


「ニャオばあの爆弾製造話はちょっとな。何に使われているかわかったもんじゃない。もうちょっと善悪は分かるようになろうな」


 ぴくりと巴が反応した。


「……っさい。少しなら分かるわよ」

「巴?」


 重さが軽くなった。

 片腕になった巴を降ろす。


「本当に間に合わなくてすまなかった」

「…………届いていたわ。ありがとう……それに何を謝ることがあるの?」 


 そこに本来あるべき左手に視線を動かす。巴が右手で、顔と顔を向かい合わせにした。

 視線が合うと巴は一点の曇りのなく、笑って言った。


「間に合ったじゃない?」


 その瞳に力があることに驚く。


「じゃあ帰りましょう、出口はあっちね、あ、皆がいる。やっほーい」


 右手を巴はぶんぶんふっていた。

 複雑そうなそれでも明るい歓声が上がる。

 その光景を見てやっぱり巴が正しかったと再認識した。


「俺が間違っていた。巴の言うとおり金が大事なんかじゃない。大事なのは感情だ」

「違うのよ、あなたが正しかった。大事なのは感情じゃない。お金よ」

「え? それはどういう?」

「じゃ、あとは任せるわよ」


 言うだけ言って、巴は気を緩めたのか気を失った。

 思わず両手で抱え込む。

 その顔立ちは整っている。だけど、こいつは守られるだけのお姫様じゃない。

 こいつは英雄(ヒーロー)だ。

 逞しくて、慕われて。決して道を間違えない。


 腕の中の軽い英雄(ヒーロー)を再び背負って、俺は歩く。


 ――光の射す方向へ。

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