第90話 回想EPISODE.巴
私は金が嫌いだ。
正確には金に関することが嫌いだ。
金に関するものなんて全部なくなって、いっそのこと物々交換時代に戻ればせいせいするのかもしれない。
なんでこんなに金について考えることが嫌になったのか。
そう、あれは物心ついた誕生日の日だ。
誕生祝いにお金をもらってショッピングモールに行った。
「何でも買っていいんだよ」
そう、お父さんは笑っていった。
しばらく色んな商品を見て迷っていた。ふとレジの横にある箱が眼についた。そこには私とおんなじくらいの子が痩せ細って写真に写っていた。優しそうなお姉さんが釣り銭を投げ入れていた。なぜか私はそれがすごく大人びた行為に見えた。褒めてもらえるかもと思って、私は募金箱にもらった誕生日祝いを全額入れ込んだ。
生まれて初めてお父さんに殴られた。
その時鬼の形相だったのを覚えている。
「この金はお前の、お前のためにあげたんだ」
私はその意味がわからなかった。募金の意味を理解したあとであっても。
高校時代ボランティアで募金活動をした。
クラスの廊下にたっていると私のことを話す声が聞こえてきた。
「徳川? ちょっと頭おかしいよな? あんな真剣に募金活動するなっての、どうせ誰かが儲けてるだけだってのに? あいつ真性の馬鹿だぜ? 中抜きって言葉誰か教えてやれよ」
「いやよ、面倒くさい。そんなにお金を寄付したいってなら身体でも売って稼げば良いのにね」
「言うねー、やっぱ女子えぐいわ」
なんで? 人のために何かをするのってそんなにいけないことなの?
「正しいことをする。自分が正しいと思ったことをする。それのどこが悪いの? いいことでしょ?」
私は私に言い聞かす。
暗い誰も居ないところで私は闇にうずくまっていた。
寒い。寒い寒い寒い……寒い。
「大人になってもだ」
成人式の日見知らぬ地に飛ばされた。そこでも金。金。金は必要で。私は遊都に全部まかせていた。
「遊都?」
遊都はどんなやつだ? 法衣をかぶったやつが私の爪と指の間に鉄の針を突き刺す。
やめて。やめて。やめて。痛い。痛い。痛い。
私は叫んだ。それでも遊都の情報は売らなかった。
爪を剥がされた。ひとしきり私が苦しんだ顔を見た。あの教祖は満足そうに出て行って。私はすぐに指を焼いた。なかなか上手く焼けなくて。それでまた泣いた。
指が1本、2本と落とされていく。私は謝っていたと思う。家族に。何について謝っていたのかは分からない。人気がなくなったことを確認して怪我を焼いて塞いだ。手が落とされた。たまらずすぐ焼いて塞いだ。平気を装い教祖を睨んだ瞬間流れ込んだ感情に私は悲鳴を上げた。「……これ以上流し込まないで」教祖の反応は「面白い」だった。腕がそぎ落とされていく。私はそれを事務的に塞いでいった。作業。作業だ。なにかが可笑しかった。笑わないとやっていけなかった。壊れた? 私は壊れたのだろうか? すべてが可笑しい。はははははははははっはっははっはっはははっはあっっははっはっははっはっはっはっは。
身体が軽くなるのを感じた。今度は殺してくれるのだろうか。
どこかに運ばれている。
私を呼ぶ声がする。
これは暖かい?
謝る声がする。何度も何度も謝っている。
この声は暖かい。心地良い。なんだろう暖かい気持ちが流れ込んでくる。
これは私を思ってくれる気持ちだ。
お父さんからもらったもの、お母さんからもらったもの。おじいちゃんからもらったもの。おばあちゃんからもらったもの。
そうか、あれは私を守ってくれてたのか。
募金の時殴られたのは、私を嫌いになったからではなかったのか。
私を守ってくれていた?
金のお金の使い方を考えない私を?
そうか……そうだったんだ……嫌われてなかったんだわたし。




