第88話 フィアエクイティ
結論から言うと巴は見つからなかった。だがある建物をひっそり包囲している王家御都番は見つけることができた。そしてアナスタシアがいないタイミングを狙い、その建物に俺たちは突っ込んだのだった。タイミングをはかり突入するのに時間がかかったぐらいだ。巴がいなくなってからもう3日が経っていた。
「ドアン本当に謝礼はいいのか?」
「いいっていってんだろ! 何度もいわせんな」
手伝ってくれる初めて出会った冒険者が51人いた。それは冒険者と言われないと分からないような老若男女様々だった。
――つながりだ。
ここにいる人は皆、巴のクエストに関係する人たちだった。巴がクエストを解決し、巴に感謝している人たちの集まり。
「それより遭遇したら気をつけろ悪名高いスロア教だ。魔力欠乏患者を盾にしてくるかもしれねぇ。殺す気でいけ、でないと殺されるぞ。お前が殺されたら嬢ちゃんを助けられねえ、そんな気持ちで行け」
「ありがとうキュバール」
「俺はお嬢ちゃんに世話になったんだ。ここで恩を返せないと男がすたる」
そう言うのは、巴が愚痴を3日3晩聞いてくれたとぼやいていたスカラルドだ。自暴自棄でクエストを張り出したら受理されてしまったのだという。
「あら、男だけじゃないのよ」
「ニャオばあは後方から援護だけしてろ」
「はいはいお言葉に甘えますよ、素直じゃないのね」
ニャオばあは錬金術師を名乗っている。秘蔵の爆弾をたんまりもってきたと笑っていた。
「――突入する」
先陣を切るのは、コンヴリー元衛士だ。いいか巴の救出以外、目もくれるなと念を押す。
既に偵察部隊が衝突していた。盗賊のペネムが俺たちの導線を確保しようと敵を引きつけていた。
「気にするな、先に行け! 牢屋は地下と相場は決まっている階段を探せ」
建物を挟んで向かい側からアナスタシアの洗われるような声が聞こえてくる。
「魔力を張るのよ、気を抜かないで、心を許しちゃだめ」
リアマーナが薄く広げた魔力のベールを前方に展開する。魔道士のリアマーナはアナスタシアの影響下にとらわれないように魔力を練り続ける必要があった。集中するためリアマーナは足をとめる。護衛の為にミアガラッハがリアマーナの前に陣取る。
「あったぞ、階段だ」
階段から武器を手に持った教徒が襲いかかってくる。
ミアガラッハとコンヴリーが弾いて道を切り開く。
「御都番が来た! 時間がないぞ。先に行け!」
「すまないっ」
階段を駆ける。飛び込むように踊り場に着地する。
まだ下がある。薄暗い。もう一つ階段を降りる。
上の声が遠くなる。駆ける。奥へ奥へ。
「巴っ! どこだ? どこにいる?」
呼吸が荒い。敵地だと言うのに叫ばずにはいられない。
内装もしていない洞窟のような廊下を走る。角をまがる。
シッ!
半身を捻る。
「バッキー」
金属音が反響した。
間をとろうとした法衣の男を逃がすものかと躍りかかる、上空から全身の重さと一緒に大上段から銀の剣を振り下ろす。所持ライルの半分をかけた。銀色の火花が散る。それでも錫杖は壊れない。
「遊都だな」
空中で体勢が一瞬硬直し、俺はバッキーを解いて錫杖の下をくぐった。
俺の肩とスロア教の男の肩が勢いよくぶつかった。
「なっ、馬鹿な……こんなところで」
魔法の武器でもない。スキルでもない。普通の鈍色の短剣が腹に刺さっていることに、男がうめく。
「バッキー」
男の首を刎ねた。
短剣に血がついていた。短剣を振り血を飛ばす。
「……殺す覚悟」
刎ねられた男の頭部の口がかすかに動いた気がした。
「巴! いるなら返事しろ! 助けに来たぞ!」
駆け出して、さっきの男が立派な身なりだと思い返し、所持品を漁る。束ねられた鍵を見つけた。
「お約束ってあるもんだな」
巴を探して駆けだした。見知らぬ男はすんなり殺せた。
よくある物語のように普通躊躇ったり、葛藤するものだと思っていた。
――幸か不幸か俺には覚悟がすでにあった。




