第86話 金と感情
「ごめん遊都私が追いかけるべきだった」
「いや、話を聞く判断をしたのは俺の責任だ」
「でも」
「それよりもこれからどうするか、だ。どうやって巴を探す? アイディアだ。なんでもいい、考えが欲しい」
俺は巴の消息が掴めず焦っていた。
「人手がいる。この広いギアスで2人だけでは絶対に間に合わない。ここに手元の資金があるあいつらへの供託を免れた資金だ。これを元手になんとかするしかない。そうだヘッズアップでとりあえず2倍にして」
「遊都!」
「そうだなヘッズアップはギャンブルだな。ラウンズ戦で2人で回せば効率いいな、そうだそうしよう」
「違う」
「そうだなそんな額ではないよな、分かってる分かってる大きなトーナメントに参加してなんとかファイナルテーブルに残ってそれでそれで」
乾いた音がした。ステラが俺の頬を叩いていた。
「違う」
「そうだな違うよな、違う」
あとずさりをして、柱にもたれかかった。
「今は時間が惜しい……分かってるんだ。この金を元手に人に依頼してすぐ動き始めるべきなんだ。そうだそうなんだ、金の力で……だが足りない……足りないんだ。どう計算しても足りない。金額じゃない時間が、ギルドに依頼して手続きに3時間、張り出されるのは最低でも明日の朝。駄目だ。何が金の力だ。金がなんだってんだ。金が……金……」
いつも金に対して効率の悪いことをしていた巴の姿が思い浮かんだ。
こんな時巴なら……。
――巴との思い出がフラッシュバックする。
ドガッ。思ったより鈍い音がした。俺の鼓膜だけに聞こえた音かも知れない。
何度も柱に額を打ち付けた。その度に頭がスッキリした気がした。
「遊都」
ステラが動揺して呼びかける。
「遊都血が……」
「いいんだ、血が上っていたし、この方が注目してくれるかもしれない」
「遊都どこへ?」
血が出ている。冷ややかだ。でも、しなければならない。
「助けて下さいっ! 仲間がっ! 巴が危ないんです!」
「助けて下さい! お願いです! 何でもします」
「仲間の命が危ないんです」
うるせえよ馬鹿と蹴たぐられた。
心臓を射貫く冷たい視線。
「反逆者だろ?」という侮蔑
それでも
「お願いします、お願いします」
また押し倒される。仰向けの姿勢を直し、見知らぬ足元に縋り付く。
「お願いします、助けて下さい」
感情の赴くまま、懇願し続ける。
「お願いします、お願いします。話だけでも」
忙しいんだ、うっとうしい
何度蹴られただろう。何度腕をはらわれ、何度嘲笑されたのか。
もう無理だ。心が悲鳴を上げ始めていた。あれから何時間たったのか。
それでも、巴に比べたら、こんなの。
「……お願いします。助けて下さい」
「いいぜ」
耳を疑った。空耳かと思った。
「まだ、何も言ってませんよ」
「いや、ただ事でないことだけは分かる」
「そんな……なんで?」
「そりゃあ。お前が信頼できるからだよ、遊都」
「……あっ」
そこにはあの日、気まぐれを起こして引っ越しを手伝った……レジオルが立っていた。
「大変だったんだろう。これからは俺も力になる」
「なんで……なんで……」
何故か涙が止まらない。
「何困っている時はお互い様だ。それが人間ってものだろう?」
笑ってそういうレジオルの顔は涙でうまく見れなかった。
涙声になりながら事情を説明した。はじめは笑っていたレジオルの顔が真剣な顔つきに変わっていく。
「それはちょっと厄介だな。スロア教か。巴を助けるかどうかを決める為に聞いておきたいことがある。なぜ遊都はそこまでして助けたいんだ? 巴は遊都にとってなんだんだ?」
昔の俺なら迷っていただろう。でも、俺の気持ちが感情に乗って自然と出る。
「大事な人だ。巴は俺に大切なことを教えてくれた……大事な人だ。だから助ける」
「そうか……大事な人か……」
大丈夫だ。肩を叩きながら、まあいいだろうとレジオルは言った。
「巴を助けたい人はたくさんいるはずだ」
疑問に思った俺に付け加えるようにレジオルは含みを持たせて言った。
「……何せ有名人だからな」




