第84話 大事な話
シャーロットが手を巴の方に伸ばす。巴の身体が強ばっていた。そのままその手が巴に向けられることなくシャーロットが1枚のカードを手に取った。無言でシャーロットがカードをくるくる回す。ハートのAがこちらに向けられ止められた。
「徳川巴、最後のチャンスをやろう。何をやってもいい。このカードを切れ、何私ごとでも構わん。真っ二つにしたら無罪放免だ」
動揺して、それでも落ちつかせようとしているそんな揺らぎを持った剣を巴は具現化した。
「本当に無罪になるのね?」
「嘘はいわん、それだけ重要なことなのだ。どうした? 振り下ろさないのか?」
巴の炎は感情に左右される。見るからに脆弱な炎の剣――その剣にはいつもの厚みも鋭さもない。
感情の乗っていないその剣は普段の戦闘で見る炎の剣とは見るも無惨なほど似ていないかった。
それでも巴は剣を振るう。腰も入っていない姿勢でカードを切り結んだ。
一縷の望みをかけて。
「あっ」
炎剣がカードを通過する時には火の粉となって宙に散った。
舞い散る火の粉が落ちきる前にシャーロットが無機質な眼で巴を見つめ、ザックとヘインツに「連れて行け」と命じた。
シャーロットがバロンに頷く。その様子を見たアナスタシアが「人民統制」をかけ、どこかで「虚栄の陽炎」の声が聞こえた。
突破口を開きたいかのように巴は周囲を見渡し2階の開いている窓を見やる。
だが、巴は俺たちを一瞬見て、腕をつかまれ大人しくザックとヘインツに「こっちだ」と連れ去られていく。
「ちょっと待てどこに連れて行くつもり……」
俺は追いすがろうと席を離れたが、後ろからシャーロットの声がかかった。
「待て遊都、ステラ。お前達には話がある。さて、とても大事な話をしようか。なぜこのようなことになっているかだが、興味はないか? 我々も心苦しいのだ。だがこの茶番に一つ付き合って欲しい」
俺はステラと眼を合わせた。どうやらステラも聞いた方が良いと判断したようだ。シャーロットは俺たちが席に着くまで話す気はないらしい。俺はさっきまで座っていた席に座りなおした。もったいつけた様相でシャーロットが口を開く。
「ダンジョン都市ギアスでは……というよりもむしろ王都の問題だな。ずっとある問題に面している。定期的に消えるのだよ地球人が……我々王家御都番は長らく調査してきた。すると、ある組織の存在が明らかになったのだ。お前も噂で聞いたことがあるだろう? スロア教だ。スロア教は地球人を地球人と呼称し始めてな、それが浸透してしまってるのが実情で情けないものだが、地球人を排撃しようとしている。それとは別に各地で起きる地球人の失踪問題。やつらが関係しているのかどうか……。今回このような大捕物をしたのはギアスでスロア教の活動が活発になってきてな、その関係だ」
シャーロットが口を閉ざして、視線を入り口に向けていた。振り返ると巴が両脇を護衛の様に固められ、建物の外に連れていかれていた。巴の姿が見えなくなった。
「それと俺らがどう関係ある?」
「……ハタゴの丘をしっているか?」
「いや、初耳だ」
「ギアスから王都に向かう途中の街道からちょっと外れたところにある。ちょっと小高い丘で双眸の花が咲き誇り、そこからは王都が一望できる。良い場所だ。そこでこの国の成り立ちと由来を私は教わった。この国は守らねばならぬ。それこそが私が生きる意味。我が使命だ」
「そうか……立派だな、それでどうして巴が連れ去られなければいけないんだ」
「……時間があれば行きたいものだ、初心に返るのも悪くない」
「…………本題を頼む」
「話は何だったか? スロア教か。やつらはなかなか尻尾を出さなくてな、やつらの集まる集会所であるホームと呼ばれる場所があるのだが、ギアスにあることまではつかめたがその後進展がなくてな。それに何やら不穏な動きをしているとの情報もある。大抵が偽情報だが」
テーブルに音が鳴り響く。
気がついたら殴っていた。
「まあ落ち着け。それとは別に聞いていかぬか。私のスキルのことなんだが、限定条件で力を発揮するタイプで制限がつきまとうんだ。その条件なんだがな……なんだ聞いていかないのか? せっかく私が手の内を晒け出すというのに……残念だ」
走って入り口まで行き通りを確認する。巴はどっちに行った? 右か? 左か? 目をこらして遠くを見るが蜃気楼のように通りが揺らいでいるのもあって分からない。追うことを諦めて会場に戻る。やっぱりシャーロットから聞き出すしか方法はない。根本の原因があるのなら、それが分からなければ対処しようがない。テーブルに両腕をつき「巴はなんで連れ去られたんだ? 本当に魔法陣の損傷が原因か? 大事な話って結局なんだ」と自分でも驚くぐらい声が荒げてでた。
心底馬鹿にするようにシャーロットが「大事な話?」と鼻をならす。
「巴は結局何の為に連れ去られたのかだと? まだ気づかないのか? 答えてやろうか」
「お姉様!」
アナスタシアがシャーロットを正すかのように叫び声をあげる。
シャーロットの口が開き間があいた。
口の形がゆっくりと変わっていった。だが噛み切るようにはっきりと確かに発声した。
「生き餌だよ」
不思議そうな眼で俺を見ている。殴っていいだろうか。
スロア教への生き餌だとシャーロットが再びつまびらやかにする。
「逆に聞くが……それ以外に何がある?」
くつくつとシャーロットが笑う。
「ふざけんな」
椅子を蹴りテーブルを蹴りシャーロットに躍りかかる。
トンっとシャーロットがその重装備からは重さを感じないかのように身軽に後ろに跳ね距離をとる。
「では後は頼んだぞアナスタシア」
心底呆れたような眼でアナスタシアが俺を見ていた。
「人民統制」
人垣がシャーロットとアナスタシアの射線を封じる。人の壁が押し寄せ俺たちは身動きがとれなくなっていた。
「待て! 待てよアナスタシアっ! シャーロットぉぉぉっっ!」
俺もステラも人に押しつぶされていた。
……解放された頃には、王家御都番の姿はどこにもいなかった。




