第83話 サバイバル戦11
ターンとリバーはまだめくられていない!
「乱数支配」
俺のエーテルとシャーロットの魔力押し合いになる。そう踏んで裂帛の気合とともにスキルを発動する。そして俺のスキルは真ん中のめくられていないターンとリバーのコミュニティカードにあっさりと通った感触を得た。
「なぜ? 通用する?」
「遊都お前は幻視系スキルだ。確かにまやかしとはいえ、厄介だ。私のハンドなら耐性の指輪ではじけもしよう。だがコミュニティカードは何人限りも触れてはならぬ。どうしたものかと私も一考したが、何もしないこととしたのだ」
ターンのカードが魔法的な力で自動的に宙に傾く。シャーロットのハンドはクラブのKとハート3。Kは駄目だ。Kは出ては駄目だ。出た瞬間巴の負けが確定してしまう。シャーロットのアウツはいくつだ? アウツはハンドを完成するために必要なカードのことだ。このアウツが増えれば増えるほど有利になる確率が上がる。数え方はその枚数に2%をかけることで簡易的に算出できる。すでに出たフロップはハートのJ、ハートの2、ハートの4。だから23456のストレートの可能性もある。数字だけに注目すればK、それとないと思うがストレートのアウツ5、6、A。がシャーロットが有利になるカードだ。クラブの6は俺が1枚抱えている。Kはシャーロットが1枚抱えている。14枚。それがシャーロットのアウツの枚数だ。ターンでアウツがめくれる確率は残っている可能性のある枚数に2%を掛けた%だ。28%つまり72%の可能性で巴が有利になる。リバーまででアウツがめくれる可能性は14枚に4%を掛けた%だ。56%でシャーロットのハンドは少し良くなるかもしれない。その中に引かないで欲しいKがあるが、ターンかリバーでKが落ちる可能性はたった12%。しかしこれはフラッシュドローを想定していない。ターンのカードがハートであることを視認した。ハートの……ハートはやばい。数字は6が出た。ハートの6がターン。シャーロットのリバーのアウツが増える。
「乱数支配」
「なんでお前がスキルを使うのを静観しているかというとだな。そもそも対象が違うのだよ。お前のスキルはカードに作用するが、私のスキルは私自身に作用する。あとは単純な力比べだ。そして私はこの力比べで一度も負けたことがない」
リバーのカードが宙で静かに回転する。色は黒。ハートではない。だが数字、これは。
「私は死なぬのだ」
クラブの5がリバーで確定する。シャーロットのストレート。シャーロットの勝ちだ。
「あってたまるか。不死スキルだと? そんなものがあってたまるか。そんなのもはやテキサスホールデムではない」
巴の顔が青ざめる。俺も恐らく似たような顔をしているだろう。
「確率の女神様の横っ面をはたくようなことが平然とまかり通っている。読めねえんだ。これの怖さがわかるだろう?」
引退したセルゲイの顔が浮かんだ。
これはテキサスホールデムではない。
テキサスホールデムであってたまるか。
シャーロットが手を組み、祈るように言う。
「この世界ではこれがテキサスホールデムだ」
【21ハンド目 終了時点】
【ブラインドレベル4:50/100 アンティ:10】
BTN …… ザック (1095→1085)
SB …… ステラ (3440→3380)
BB …… ヘインツ (830→720)
UTG …… シャーロット (1545→3390)
MP1 …… アナスタシア (1805→1695)
HJ …… 遊都 (1500→1490)
CO …… 巴 (1785→240)
勝ち筋を探す。俺は巴に呼びかける。
「今から数えて4ハンド目ビッグブラインドで100取られる」
ブラインドタイマーを確認する。違うそうではない。
「今のは忘れろ。今から数えて3ハンド目でブラインドが上がる。4ハンド目で取られるのは120でアンティはそれぞれ……」
「……ごめん遊都、最後は私らしくさせて」
諦めるなよ……とは言えなかった。勝つ時は勝つし、負ける時は負ける。だがこのチップ差だ。
何もしないでいると230、220、205、80、15実質最後のオールイン。残りチップ考えるとチップが200はある4ハンドのどこかで勝負を仕掛けるしかなかった。
「ねっ?」
「4ハンドだ。残り4ハンドだ」
「何をそんな顔して。まだ諦めてないわよ。240。もう230か。倍にして460。次で920。簡単よ。やることが単純になっただけ。そうでしょ」
「ああ、そうだな」
巴はとびきりのはにかんだ笑顔を俺に送る。
やめてくれ。
「私、結構テキサスホールデム好きだったなあ。これからもうできるかわからないけど。ハンド、チップ、ポジション、プレイングスタイル、戦略、色々なことを学んだわ。あ、大規模のトーナメントは教えてもらってないかも……」
もう必要なさそうだけどねと巴は屈託ない笑顔で言う。
巴のポジションはHJ、MP1、UTG、そしてBBが4ハンド目のポジション。ポジションが悪い。HJで参加してもザック、ヘインツ、シャーロットが参加するだろう1対3だ。飛ばすために皆参加してくる。それがチップが尽きた者に対する宿命だ。ブラインドが上がった時が狙い目だと教えたことがあったっけ。純粋に3人でテキサスホールデムをああだこうだ言っていた時期だ。どうしてこうなってしまったのだろう。あの時は楽しかったなあ。ブラインドが上がる。深呼吸した巴がオールインを宣言した。ビッグブラインドで後がなくなって選ばされたハンドよりも、UTGで自分で最後のハンドを選んだんだ。それは、意志の強い巴らしい決断だった。敵が次々に参加してくる。チェックアラウンドで回してくるだろう。俺が参加してオールインしたところでそれは巴を救うことにはならない。俺の勝つ確率分巴の負ける確率が上がるだけだ。気がついたら俺たちはテーブルを見ていなかった。巴がすっきりした顔で上をみている。俺もステラも上をみて息をつく。俺たちは誰からともなく笑い合った。もう、こうすることも二度とないのだろう。最後を噛みしめるようにリバーのカードがひっくり返るのを眺めていた。
テキサスホールデムに奇跡はない。あるのは確率で、52枚のカードで全てが構成されている。
テキサスホールデムはギャンブルではない。頼るのは戦略でそこにスタイルというものが生まれる。
そしてこの世界のテキサスホールデムはそれらにあてはまらない。
テキサスホールデムに擬態した、何か別のものだ。
俺たちのテキサスホールデムはこの世界のテキサスホールデムに負けた。
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サバイバル戦 7位 敗退 徳川 巴
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巴が両手をくんで伸びをした。まるでそれが日常のように。




