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第82話 サバイバル戦10


 19ハンド目。ステラが降り、ヘインツが考えてコール、シャーロットも少し悩んでコールしたザックまで全員フォールドし、敵陣営が敵陣営同士で潰し合う構図となる。チェックしあって流したがヘインツがAKでAのワンペア。シャーロットがハンドにJのペアを持っていてフロップにJが落ちスリーオブアカインドになる。シャーロットがチップの移動を無言で見ていた。

 20ハンド目。最も有利なポジションBTN(ボタン)に巴が来た。


「もうこのまま倒してしまうのも一興か」


 降りたヘインツの次にシャーロットがそういいコールで参加する。アナスタシアが降りる。ダイヤの3と5である俺も降りた。


「オールインよ」


 弱いアクションに対してオールイン。それは正しい。だが勝てるのか。心臓が高鳴りながら行く末を見届ける。残る全員が降り、巴とシャーロットの一騎打ちになった。


「大丈夫。私はそう思っている」


 右手の握りこぶしを胸にあてながら巴が言う。


「まあ、どちらでもいいのだが」


 まるで平時といわんばかりにシャーロットがあっさりカードをめくる。


ダイヤの6 クラブの6


「引く。私なら引ける」


クラブのT(10) クラブのQを巴がオープンする。


フロップが開かれる。


【フロップ】

クラブの8 ダイヤの2 ハートのK


「なんだもう少し粘ってもよかったのだぞ」


【ターン】

ダイヤの8


 巴の顔色が悪くなる。そんなに悪い手ではなかった。むしろ焚きつけた俺が悪い。


【リバー】

スペードのQ


「っっっっぉっし!」


 胸のこぶしで小さくガッツポーズを巴はした。そしてゆっくりと天井をみて弛緩した。何を巴は考えているのだろう。「……勝てるかも」と巴が呟くのが聞こえた。その様子にシャーロットは楽しげに笑っていた。



【20ハンド目 終了時点】

【ブラインドレベル4:40/80 アンティ:5】


BTN   …… 巴      (820→1785)

SB    …… ザック    (1140→1095) 

BB    …… ステラ    (3525→3440)

UTG   …… ヘインツ   (835→830)

MP1   …… シャーロット (2365→1545)

HJ    …… アナスタシア (1810→1805)

CO    …… 遊都     (1505→1500)



「ぶらいんどあっぷ ぶらいんどあっぷ」


::::::::::::::::::

21ハンド目 リミット:レベルアップ

レベル  ブラインド    アンティ

5    40/80     5     

↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 

6    50/100   10

:::::::::::::::::: 


7    60/120     15

8    75/150     20

9   100/200     25

10  125/250     30

11  150/300     40 


 シャーロットの純白な白手袋が悠然とチップを100動かした。あの白手袋は恐らく、社交界という為というよりはテキサスホールデムの為、その手に嵌められた4種類の属性の指輪を隠す為に使用しているのだろう。テキサスホールデムが跋扈するこの世界で貴人が同テーブルでプレイする。テキサスホールデムは平等だそこには国境はない。人種もない。老いも若いもない。勝つこともあれば負けることもある。今まで動かなかった麗人が3ハンドに渡って動き出す。


「人民統制(ヘイト・コントロール)」


 アナスタシアもコールで参加する。美しいその姉妹はこれが1枚の切り取った絵画であるような気さえしている。俺は見とれている。この場のこの一瞬の美しい瞬間に。もうシャーロットとアナスタシアしか見えない。下品な喧噪をまきちらす民衆と対比されるように静寂のベールに包まれた2人の世界は劇場のスポットライトを当てられたかのような印象を受ける。今までギャラリーをかき回していたアナスタシアの魔力の奔流が2人に還元する。流麗なコールやスキルの一言一句ですら歓喜に震わせられる。そうかこれがカリスマというやつか。登場人物のような2人の眼が俺を見据える。なんで2人は俺を見ているのだろう? その眼とずっと見つめ合っていたいという誘惑に後ろ髪を引かれながら視界の端に映るスターティングハンドをめくる。スペードの7とクラブの6だ。どうしようもない。心が洗われていく感じがする。アナスタシアはきっと水属性なんだなとこのハンドみたいなしょうもないことを考える。


「フォールドです」


 独壇場のオペラのような場にもう1人現れる。徳川巴だ。西洋風の絵画タッチだと場にそぐわない異質性を孕んでいるが、巴の東洋然とした精悍な容姿も見劣りしない。必然的にシャーロット、アナスタシアとの対比のように感じ胸がときめく。歴史に刻まれる1ページに立ち会っているようなこの場に居ないようなふわふわとした感動が胸をしめる。巴はコールで参加していた。その他脇役はそれが役割かのように舞台袖に引っ込んでいく。フロップがめくられるハートのJ、ハートの2、スペードの4。シャーロットが貴族のスカート袖をつかんでそっと頭を下げる会釈のようなお伺いをたてるベット額を提示する。アナスタシアがスキルをかけなおした瞬間、光源が変わりアナスタシアがそっと役割を終えたかのように退場する。劇場に観客の息づかいが途絶え深海に囲われたかのような静寂が訪れる。まずい。何かわからないけどまずいことが起きている。出ない声を張り上げ、触れもしない壇上に向かって腕を伸ばす。行くな、巴。


 上気した英雄にも見える凜とした姿勢で勇者(巴)がこれから始まる剣劇を思わせる仕草でかまえから動き出す。やめろ。俺の声は届かない。


「オールインよ」

「オールインコール」


 場がなった。シャーロットのハンドが白日の下に晒される。クラブのKとハート3。巴が「勝った」と思わずこぼす。巴がクラブのJとクラブのT(10)で斬りつける。追い詰めているはずだ。だがその斬撃に直撃したはずのシャーロットは平然として微動だにしない。傷があるか? とまるで無傷でほこりを落とす様相で、シャーロットがさも当然のように起死回生のスキル(フレーズ)を謳(うた)うように口ずさむ。


「アンエン(王)ディン(族)グ・ブ(は)ラッド(死)・リレ(な)ーショ(な)ンシッ(い)プ」


 一瞬のうちに砂塵の竜巻が、幕も……天井も……劇場全てをもってどこか遠い空に飛ばした。

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