第76話 サバイバル戦4
【8ハンド目】
【ブラインドレベル2:20/40 アンティなし】
BTN …… ヘインツ (1640)
SB …… シャーロット (1460)
BB …… アナスタシア (1590)
UTG …… 遊都 (1400)
MP1 …… バロン (1640)
MP2 …… 巴 (1415)
HJ …… ザック (1455)
CO …… ステラ (1400)
7ハンド目はアナスタシアがレイズして王家御都番側がフォールドしてチップが移動しただけだった。ぱっと見なんてことない。よくある終わり方だ。……よくある? UTGがレイズして、そのままチップをかっさらう。本来COやBTNの位置から行うブラインド盗みをUTGで? その間に誰も参加しなかった? 俺はどうだ? 俺のハンドはどうだった? ハンドは良かった。参加しないほどではない。普段の俺なら参加していたハンド範囲だ。これはどういうことだ。流れがいいように操作されているのを感じる。俺のハンド参加率は高めか……これ自体はそんなにおかしいことではない。ブラインドレベルが低い段階では大きく勝てる可能性の高いハンドで様子見るのも普通だ。必然的に参加率は上がっていく。これまでのハンドの参加状況を思い返す。1ハンド目リンプイン、2ハンド目SBからコール参加。3ハンド目は降りている。4ハンド目不参加。5ハンド目不参加。6ハンド目参加した。参加しなければならない気がした。バロンが参加しているというだけで。その印象に引きづられてハンド参加率が上昇しているように感じたのだ。ハンド参加率か……。突拍子もない……だけど違和感から俺は反応を見ようと思う。なにせ言うのは無料だ。
アナスタシアを見据えて言った。
「ハンド参加率操作か……」
「ほう」
「この序盤で見破られるなんていつぶりだアナスタシア。ぬかったな」
「お姉様、これだけ使えば馬鹿でもわかるかと、それに違います正確にはハンド参加率操作ではありません……あっ」
アナスタシアが真っ赤になって俯く。やがて、顔を上げきりっとした面持ちで異様な興奮に包まれた衆人をアナスタシアが見渡した。
「ですが……そんな極端な操作にはならないはずで、見破られることもそうそうないものなのですが」
「とすると……私の能力も検討がついたか? ん?」
楽しそうにシャーロットが言い。アナスタシアが「お姉様」と咎めた。
「なに。なにも変わらない、予定どおりだ。全てな。だろうアナスタシア?」
「はい。お姉様」
バロン、ヘインツ、ザックが主君の様子を緊張した面持ちで窺っていたが、その言葉で身体のこわばりがとけていた。
テキサスホールデムで目立たないことは重要だ。参加率が高く目立てばどんなハンドでも参加してくる初心者の可能性が上がり狙われるし、逆に参加率が低ければハンドを絞っているから参加してくる時は良いハンドであることがわかる。ヘイト・コントロール。難しく考えすぎていたのかもしれない。字面だけとれば単純に対抗意識みたいなものを操作するぐらいなのだろう。確かにバロンのハンド参加に対して必要以上に意識して、本来なら参加しないようなハンドと位置で参加した。戦わせたいのかバロン、ヘインツ、ザックと。あるいは仲間内で潰し合わせるような……。たしかにこの形式なら可能だ。消極的だが理にかなっている。サバイバル戦を指定したのは、ここがサバイバル戦が盛んなこととは関係ないのだろう……おそらく、敵はやりこんでいる。
8ハンド目はUTGの俺から始まる。次のバロンをなるほど確かに意識している。参加したい衝動が芽ばえていた。エーテルをアナスタシアに対抗するようにバロンを意識しないように全身に巡らす。飛び出そうとしていた衝動が抑えられた。なるほどネタがわかれば対抗もできるのか。
「フォールド」
俺は伏せたハンドを前にそっとずらした。
バロンがコールで参加する。
巴が目に焦点があっていないような様相でコールした。
「巴?」
呼びかけに反応しない。嫌な予感が脳裏によぎった。
フロップを見てまるで規定事項のように巴のチップがバロンに移る。
「おい巴、なんか反応しろ!」
巴がなにか呟いている。この状態は低レートでよく見かけた。耐性のないものがバフをかけられ感情がかき乱される。攻撃的になったり内省的になったり、普段の状態ではない精神状態に強制的に移行させられたものが見せる挙動だ。じんわりと嫌な汗が流れるような錯覚をする。
まさか……感情操作系に強いはずの巴がティルトしている?
「巴!」




