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第77話 サバイバル戦5

 ティルトそれは冷静な状態でない状態を指す。

 試合中に勝利を諦めて適当にプレイしたり、あり得ない行動をするプレイヤーに使われる言葉だ。

 俺は巴に呼びかけ続ける。上の空だ。ティルトはプレイヤー間で発生しやすい。煽り煽られて顔を真っ赤にしてオールインを連発する、または煽ってきたプレイヤーが参加する時に挑み続けるなどムキになっている状態や、ミスプレイで初心者(フィッシュ)や間抜け(ドンキー)呼ばわりされて激昂するなどわかりやすい場合が多い。また、チップを大量に失いどうでもいいと無気力になり乱雑にプレイするのもあてはまる場合もある。巴の状態は無気力な後者に限りなく近い。乱雑にこそプレイしていないが、その眼に闘志はなく、ぶつぶつと何かを呟いており平常心からはほど遠い状態だろう。なぜ気づかなかった。一方的に容疑を言い渡され巴こそ精神的に追い詰められている……だが。 


「お前はティルトを脱出出来るはずだろう?」



【8ハンド目 終了時点 ブラインドレベル2:20/40】


BTN …… ヘインツ  (1640) 

SB  …… シャーロット(1460→1440) 

BB  …… アナスタシア(1590→1550)

UTG …… 遊都    (1400)

MP1 …… バロン   (1640→1940)

MP2 …… 巴     (1415→1175)

HJ  …… ザック   (1455)

CO  …… ステラ   (1400)



::::::::::::::::::

9ハンド目 リミット:レベルアップ

レベル  ブラインド    アンティ

2    20/40     

↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 

3    25/50     

::::::::::::::::::

     

4    30/60    

5    40/80       5

6    50/100     10

7    60/120     15

8    75/150     20

9   100/200     25

10  125/250     30

11  150/300     40 


――ハンドはKトップ。

 さっさと確認して巴に視線を合わせようと巴に優しく呼びかけた。


「良いんだ、参加するな。分かってる。大丈夫だから。だから。参加するな」


 焦点の合わなかった巴の眼が俺をとらえる。コクンと巴が頷いた。

 自信はない。何が起こっているかも分からない。ただ、俺はどんなときも自信があるような立ち居振る舞いはいつでもできた。でないと負けているハンドで勝つなんてことは起こしようもない。テキサスホールデムをやっていて良かったな。


「フォールド」


 安心したように巴がその場を降りた。

 UTG(アンダーザガン)のバロンがむっとした。バロンのレイズを巴は受けなかったのだ。

 ザックが降りる。ステラが降りる。ヘインツ、シャーロット、アナスタシアも降りた。


 アナスタシアとシャーロットは前に出ない。闘っているのはむしろバロンとだ。ティルト。煽り煽られ、特定のプレイヤーとやり合う。むしろ俺がティルトすべきか。


 この場を荒らす!


 お前らがバロンを当ててくると言うなら、俺が食ってやる。


 各個撃破だ。


「コールだ、バロン」


 そのちょび髭むしりとってやるぜ。

 こんなにも危機的な状況なのに……スリルを楽しんでいる自分がここにいた。


「結局こうなりますか」


 バロンがため息をついた。


「バロン、お前のスキル効いてないな」


 アナスタシアがバロンに尋ねる。


「はっ、おそらく眼かと」

「上級者と……戦う時はいつもそうだ」


 シャーロットが右手の手袋をゆっくりと外してテーブルに置く。その手には人差し指から小指まで4色の指輪がはめられていた。


「まあこんなものがなくても私には耐性があるのだが」

「お姉様また手の内を明かさなくても」

「ん? 何をおかしなことを、どのみち勝つのだからいいだろう」

「そういうことを言っているのではありません」

「全員弛緩するなよ」

「ええ」

「わかっておりますとも」


 はっとしたようにバロンとアナスタシアが気を引き締めなおす。


 フロップのカードのトップにQが落ちる。

 俺もヒットしていないが、お前もだろうバロン。


「レイズ200」


 バロンと眼が交差する。

 髭をねじっていた。バロンの指がピンと離れる。


「コール」


 ターンが開かれる。ブランク。関係ないカードだ。スペードの4。

 髭をバロンがねじる。癖(テル)か? 考え事の癖でよくある仕草だが、そうなると交渉の余地ありだ。


「レイズ500」


 ぴたりと髭をいじる手を止めてこちらの眼を見てくる。沈黙が場を包んだ。ヒットしているのか? 俺を騙しているとしたらリレイズオールインが飛んでくる。そうしたら俺の負けだ。だが負けない。俺は勝っている。無表情を作りながらバロンを見つめ返す。何も情報は渡さない。情報もなく、迷い、時間の経過で訪れるものは不安だ。その手で勝っているか考えろ、考えろ、考えろ。そして疲弊するんだ。そうした相手は……。


「フォールドです」


ほっとした仕草は出さない、勝って当然という気持ちで次の勝負に迎え。態度は思考に現れ、思考が時間に反映する。間を取り込め、支配しろ。


「シャーロット様、アナスタシア様……私はいささか油断していた様です」

「ほう」


 ティルトしろ、静かにティルトしろ。

 バロンを倒せるのは俺しかいない。

 場も間もヘイトも俺が管理する。

 俺は手のひらを天井に向け指をくいっとした。


「バロン、プレスト(かかってこいよ)」

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