第72話 罪状
「そこに座れ、私の正面だ」
俺はシャーロットの正面に向かって歩いた。
「ヘインツ、ゴーレムだ」
甲冑に包まれた金ぴかのボタンゴーレムがシャーロットの胸の前に厳かに置かれた。
こちらを向いたシャーロットの片眉があがる。
「何をやっている?」
「伏見遊都お前はそこだ。BBに座れ」
「なら一体誰が……」
「ゴブリンを滅ぼそうとしたらしいな」
びくりと巴が身を震わせた。何事か言おうとした巴がしゃべる前にシャーロットが片手で制止する。黙れと眼が言っていた。
「徳川巴、MP1に座れ」
巴が席について、息を深くつく。
「アンダーツリーのフランカの報告からお前は要注意人物として名が挙がっている。魔物の殲滅。聞こえは良いが、それは国民のスキルを磨く機会を失わせ、国力の衰退を意味する。これは、国力を削ぐ行為にあたる。そしてお前にはそれ以上に国家に対する叛逆の嫌疑がかかっている」
シャーロットが右腕を前に構えた。
「皆のもの! トランスファーが一時的に使えなくなったことがなかったか!」
そうだ、送金だ。送金の時によくするポーズを解き、シャーロットが腕を下ろした。
「この徳川巴は王都全体にかかる魔法陣を破壊しようとした嫌疑がある。許せぬ! 私はこれを断じて許せぬ!」
睨み殺せそうにシャーロットが巴に敵意をむき出しにする。握りこぶしをテーブルにシャーロットが叩きつけた。ボタンゴーレムが宙を舞う。
「そんなことするわけがない! する意味もない。なんかの誤解だ」
「あんな上空にあるものを破壊しようとするなんて無理」
巴が黙っている。黙っている巴をみる。言え、何か言え。それでも巴は押し黙っていた。不快な汗がふつふつと湧き出る。
「まさか……やったのか?」
巴はそれにも答えない。
「否定はしない。見事なものだ。沈黙は肯定ととるぞ。あれだけ派手にやったんだ証言者の一人や二人我らが確保できないとでも思ったか? 皆の者! 龍を象った炎を見たことがないか? その炎の使い手が徳川巴……おまえだ。アナスタシア罪状を読み上げろ」
アナスタシアが罪状の根拠文を淡々と読み上げる。
「……汝、徳川巴。そなたを罰金及び無期懲役刑に処す」
読み終えたアナスタシアにシャーロットが頷く。
「然るに。まずは全財産の没収だ。だが我らは御都番。ここは王都ロスチップ。それを決めるのは我々ではない。テキサスホールデムだ」
そうだろ! 皆の者!
過激な見世物に観客の興奮した歓声で包まれる。
「全財産を供託させろ。もちろんパーティ全員だ」
まず王家御都番がステラに供託を促した。周囲の視線がステラに向いた。ステラが水晶に向かってしぶしぶ送金する。
俺は「バッキー」と小声で圧し殺してスキルを発動する。限りなく光らなくしたバッキーを見つからないように隠し持った。
ザックと呼ばれた騎士が水晶のようなものを俺の目の前においた。
「さあ、全財産を送金するんだ」
俺は言われるがまま《《全財産》》を送金した。貯金で所持金がなくなったことを確認したザックが満足そうに頷く。
巴が青ざめた顔で送金した。
水晶がシャーロットの元に置かれる。中身を確認しているようだった。
「ふん、これだけか。聞いていたよりも少ないな。所詮冒険者ということか。まあいい」
シャーロットがあたりを仰々しく見渡す。
「皆の者! これから処罰を行う! 処罰には賭場が必要であるが、奇しくもここはちょうど賭場である!」
よく言うぜ。いいぞもっとやれ。
野次馬が騒ぎたてる。騒ぎが止まらず騎士団に睨まれ騒いだ男たちが口を慌てて閉じる。
「ルールを説明しよう。形式はサバイバル戦。人数は8人で行うものとする。BTNシャーロット・フォン・ミリオンゴッド。SBアナスタシア。BB伏見遊都。UTGヘインツ」
一拍置き、周囲の反応を窺うように告げる。
「MP1徳川巴!」
下卑た叫び声が、様々な悪意の棘が巴に向かう。巴はスキルを使わずじっと耐えていた。
「MP2ザック。HJステラ。COバロン。以上8名を参加者とする」
シャーロットが剣を抜き虚空に光らす。その剣先を巴に向けた。
「刮目せよ! 徳川巴らパーティが全員が生き残れたらこの件は不問とする。ライルに誓おう! 皆の者が証人となる!」
様々な殺意の乗った視線が巴に向けられていた。
シャーロットが宣告する。
「徳川巴、断罪の時だ」
会場中の喧噪が最高潮に達した。
ボタンゴーレムが静かに動き出す。




