第71話 すれ違い
「また生き残った……これは私向き」
サバイバル戦でまた勝ったステラが確信するように言う。ただ、その表情は遠慮がちだ。その理由は巴と俺がぎくしゃくしているからだろう。
「そうだな、ステラには合ってそうだ」
あれから、大きいトーナメントを出ることはなく、かといってテキサスホールデムをやめることなく淡々とサバイバル戦を俺たちはこなしていた。何日かたいして大勝ちも大負けもしない日々が続く。サバイバル戦は参加者8人のチップ総額を勝者4人で山分けするので、大負けしないが大勝ちもしない儲けにくい形式のためだ。
「なあ……」
声をかけようとして無視をされる。
「ねえ……」
話しかけられて沈黙して無視をする。それでもお互いに示し合わしたようにサバイバル戦を俺たちはしていた。地球への帰還を目指すということにブレはない。ただ、大祓を目指してテキサスホールデムをすることに巴は不服なようだ。俺もまた、巴の暴走でとってきたクエストに付き合わされてきたことを不満に思っている。ぎこちなくブラインドレベルを待っているかのような日々が過ぎていく。
「シュイ元気かな?」
「どうでもいいだろ?」
「どうでもいいってことはないでしょ! 病気で大変なのに」
また、変な方向に行くと思った俺は話題をずらした。それがいけなかった。
「はっ、巴はいつもクエストして、お礼言われてへらへらしてるけどさ、それって単なる自己満足なんじゃないのか?」
「何よ。金金金のことしか考えていない遊都さんに言われたくないわ。遊都は人ともっと関わるべきよ」
「そうだよ、金は大事だ。巴が思っているよりずっとな。だから金が減っていくクエストなんか受けるものじゃない。魔物退治なんてもってのほかだ」
お金を減らすことが地球の帰還へ近づけるのか? 俺はそうは思わない。だが帰ってきた言葉は俺の心を抉った。
「それは遊都が役に立たないスキルを持っているからでしょ」
はっとしたように巴が表情を切り替える。
「何よ」
「何だよ」
「俺がすべて悪いってのか? もっと戦闘に有効なスキルがないのがいけないってのか? 人と関わらず化け物と関わりたい人は言うことが違うな」
「じゃあカード遊びで地球に帰れるっていうの?」
「カード遊びってこの国はそれが中心になってるだろ」
「頭おかしいのよ! 遊都もこの国も!」
巴がギルド中に聞こえるかのように叫んだ。
会場がざわつき俺たちに注目が集まる。
大抵の人は嫌悪感を示し巴を睨みつけている。敵意を隠そうともしない。会場の負の感情が巴に突きつけられる。が、影響を見せないように巴は、なおも気丈にふるまう。
「ねえ、次の勝負賭けない?」
まるで俺が逃げる道筋を塞ぐようにギャラリーに聞こえる声量で巴が宣言を突きつけた。ギャラリーが面白そうに期待に歓喜して騒がしくなる。
「私が勝ったら、テキサスホールデムはきっぱりやめる。クエストをやって地球に帰る情報を集める。私に負けるぐらいなら大祓で勝てないわよ。遊都が勝ったら大人しくテキサスホールデムでも何でも従うわよ!」
巴は本気だ。その眼に闘志が渦巻いているのを見た。
いいぞ! 姉ちゃんだの無責任に周りが囃し立てた。
ステラが心配そうにこっちをみた。
「後悔するなよ?」
――返事をしようとした時。
ギルドの扉が乱暴に開け放たれ、ファンタジーの騎士団とでもいうべき背格好の集団がなだれ込んできた、そこにはバロンと名乗っていた小男が陣頭指揮を取っていた。バロンの指示で騎士がそれぞれの持ち場で周囲を隙なく警戒する。その騎士団は一面の壁を取り囲むように。いや、まるで俺たちを囲むかのように半円状に配置についていた。
「アナスタシア様!」
バロンが叫ぶ。
「王家御都番両番格アナスタシア参る」
ギルド内に存在していたエーテルが指向性を持って魔力に変わっていく。その魔力が室内を覆う。動かしているのはアナスタシアと呼ばれた女性だ。
「人民統制」
アナスタシアが何かのスキルを使用した。体が動かない。顔が自然と誰もいない入り口にそれが当たり前のように向けられた。ギルドがその収容人数からは信じれないほどの静寂に包まれる。まるで、観劇を見せられているようにギルド中の人間が入り口を向いている。靴音が聞こえた。良く響き、それでいて軽い靴音は普段のギルドでは絶対に聞こえないだろう。靴音が近づいてくる。
アナスタシアとバロンが片膝をつき、まるで主君の登場をまっているかのようだ。
そこに気品を漂わせる女性が一人悠然と現れた。
眼が吸い寄せられる。眼が離せない。
王家御都番筆頭格シャーロット・フォン・ミリオンゴッドだ。名乗りをシャーロットが静かに上げる。誰も反応できない。シャーロットが静謐に告げた。
「この賭場は王家御都番が預かる」




