第70話 現実
【17ハンド目 開始時点 ブラインドレベル3:25/50】
BTN…… 遊都 (1645)
SB …… 巴 (1335)
BB …… アンカノ(1215)
UTG …… 離席:グレイソン(3485)
MP1 …… バロン(1395)
MP2 …… ギネビィ( 835)
HJ …… ステラ(1395)
CO …… ワイール( 695)
「なんで遊都スキル使わなかったのよ」
「グレイソンがスキルなしでやりたかったからだろう、それは巴も知っているだろう?」
ギルド暗黙のルールとして、低レートでは現にスキルなしの交流の場となっている。いわゆる棲み分けというやつだ。低レートでやろうというのは言うなればスキルなしでやろうという呼びかけに等しい。まあ本当に持ち合わせがない場合もあるが。
「でも、一方的に負けてあんなこと言われるなんて」
グレイソンが抜けたテキサスホールデムでフォールドが半ば投げやりに飛び交う。この状態で、テーブルに座っているのが3人になったらその時点でゲームは終了し、グレイソンは大量のチップを持っているので、この場にいないまま勝者になる。グレイソンのチップを減らすにはSBとBBが回ってきた時に強制的にチップを取られるブラインドと、アンティによるものだけだ。アンティは全員から強制的に徴収するブラインドのようなもので、勝った人がそのチップを総取りする。いずれにしても時間経過でブラインドとアンティが上昇して順番をどんどん回さないとグレイソンのチップは削れないということだ。ゲームを台無しにして、と怒る気力は湧かない。よくあることなのだ。特にテキサスホールデムをネットでしている時には。
「テキサスホールデムは手強いと思わせることが大事なんだ……。こいつには勝てない……そう思わせるだけで相手はフォールドしていく。確かにスキルを使えば勝てるかもしれない……でもここではない気がした。どうしても勝ちたい認定戦や、俺たちの最終目標大祓で勝つような時には迷わず使うさ。わざわざ手持ちのカードを開示する必要はない」
消極的な姿勢に巴は不満気な顔を隠そうともしない。
沈黙の中ゲームが進む。アンティが始まりグレイソンのチップの減っていく量が加速度的に増え始める。
「まあ大祓ってのに参加できたら……勝ち上がっていけば、グレイソンとは上の方で当たるかもね。まずはBランクにならないと参加資格もなければ参加資金もまだないけど、そして参加したとしても運任せの優勝賞品に地球の帰還できるかもしれないってやっぱり非現実的じゃない?」
何を巴は言いたいんだ? このテーブルのサバイバルのゲームのように時間経過を待った。順番が一周する。巴がまた口を開いて俺に話しかける。その目は俺でなく、グレイソンの3000を切ったチップを見ている。
「冷静に考えてみて……グレイソンに手も足も出なかったのよ、あんなのが5000人以上参加してくる大会で優勝よ。そろそろ現実的に考えない? 地球への帰還について」
ステラがフラッシュで残り少ないチップのワイールを飛ばした。アンカノのチップものるかそるかを絶えず迫られるようなチップの量になった。ゲームは進みグレイソンのチップがいつの間にか半減していた。
「大祓で優勝する以外にあるのか?」
巴が親指と人差し指でそっとめくっていたカードを元に戻す。
「あるわよ! クエストをこなして名声をあげて、情報を求めて、なんとかして帰るのよ」
また、それか。と俺は思う。異世界転生もののファンタジーを読み過ぎだ。そんなものうまくいくはずがない。それどころか俺たちは死にかけた。そのことを忘れたのだろうか?
「そんな不確かなものにか」
アンカノを飛ばす。トップペアだがこっちはタイトなんだ。負ける気配がない以上こちらが勝つ。極めてローリスクだ。残る場は離席のグレイソンを含めて6人。巴がギネビィをねじ伏せて5人になった。グレイソンのチップがなくなれば完全勝利だ。
「不確かなのはどっちよ! テキサスホールデムは確かに楽しいわ……でも、所詮ギャンブルなのよ」
何を今更とちょっといらっとして語気を荒げる。
「テキサスホールデムはギャンブルじゃ……」
「そうね……ギャンブルじゃない。テキサスホールデムはギャンブルじゃない。ハンド。チップ量。プレイングスタイル。ポジション。ブラインドとアンティ。プリフロップ、フロップ、ターン、リバーで変わる最適な戦術が確かにあるわ。技術が必要で集中力が必要で……忍耐が必要な頭を使うスポーツだわ」
何が言いたいんだ? 次の1プレイでグレイソンのチップが空になることが確定している。ゲームは終わる。
「でもスキルありの、この世界ではギャンブルの方がまだ可能性があると思うのよ」
巴がグレイソンのチップから眼をまっすぐこちらに向けた。
「ねえ? やめない? テキサスホールデム」




