第59話 【閑話】覚醒モード
私は気がつくと見知らぬ路地裏にいた。
少し気持ちの整理をしたかったのだ。
遊都とステラがなし崩し的に付き合い始めた。
私は別に遊都が好きではない。でももやもやが残っていた。
「……付き合うことは別にいいのよ。ただ、私たちには地球に戻るという目的があるわけで。そこがどうでもよくなると私としては困るわけであって……」
そうよ、困っているだけよ。
不安の原因がはっきりすると今度はいらいらが止まらなくなっていく。今や巴の頭はぐつぐつと煮えたぎっていた。今はこの怒りを本能のままぶつけたかった。
みじろぎ体をひねった。肩から腕。腕から手に力をためる。下半身に重心を落とした。ひねりをくわえて右拳を天に突き出す。
黒龍炎天破
《スキルが発生しました》
上空の魔法陣に向けて放つ。炎が躍った。うねり。力を凝縮するかのように停滞し、伸びる時には炎は生を宿し、龍の形を持っていた。黒龍が咆哮を立てる。
空に放った龍が消えることなくぐんぐん上昇する。
そのまま王都の上空に展開する巨大な魔法陣と接触した。紫電が奔る。断末魔とともに黒龍は消えた。
「なんかスキル覚えたわね」
徳川 巴
<ユニークスキル>
原初の炎(感情を炎に変える)
原初の炎Lv.2(感情の炎を収斂できる)
原初の炎Lv.3(対象範囲の感情の炎を受け取れる)
<アクティブスキル>
炎操作Lv.3
熱耐性Lv.3
new! 黒龍炎天破(フラストレーションが一定に達した場合スキル使用可。前方に黒い龍を模した炎をぶつける。スキル効果:スッキリする)
槍術Lv.1
剣術Lv.2
<パッシブスキル>
言語理解・時刻理解・スキル表
残高表示・送金
ステラを追うことになった原初の炎Lv.3のスキルを見て、せっかくスッキリした心に靄が発生する。あの日遊都とのヘッズアップの時に、テーブル周りの色んな人の感情が私に雪崩れ込み気分が悪くなった。特にとびきり強い感情を向けてきたステラが私に何かをしたのではなかった。私がテキサスホールデムをしている最中にスキルが成長し、振り回されたのだ。全て自分の勘違いだったことにうんざりする。それにしても感情を受け取るだけとか……ほんっと使えないスキルね。
誰かが騒ぎ駆けつける音がする。さっきの龍の犯人がどうとか言っている。
「やばっ」
そのまま逃げるように宿に帰った。
ボフンとベッドにもぐりこみステラから向けられた感情を思い出しながら寝つけずにいたが、私の意識はいつの間にか落ちていた。
朝起きると遊都とステラが話していた。
「巴、起きたか。昨日一時的に送金が使えなくなってたらしい。どうやら他国の工作じゃないかって噂だ。なんでも魔法陣に向かって飛んでいく龍がいたらしい」
「王都にいる人間ならまず魔法陣を狙うなんて愚行は犯さない。確定的」
まずっ。
「どうした巴青い顔して」
「いやー困るなーって」
「そうだよな、クリスタルオーガの時送金使えなかったら死んでたから青くなるのも当然か。あんまり信用しすぎるのも問題なのかもなあ」
「いやー、送金は問題なく使えると思うわよ」
「えっなんで?」
「どうして?」
「なんでって え? え? そりゃあ、え?」
どうしたらごまかせるだろう? 焦ってしどろもどろになりながら何とか一言だけ言えた。
「なんとなくよ」
遊都とステラは首をかしげた。
うん。あの技は封印。奥の手にしておこう。私は固く誓ったのだった。
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Cランク認定戦でセルゲイとした約束。エーテルというものを教えるということをセルゲイは覚えていた。俺達はセルゲイからエーテルというものがどういうことか改めて教わる為に空き地に集まっていた。
「なんでそんなだぼだぼな格好なんだ?」
「女房に怒られるからな。まあそれはいい。本題に入るぞ。いいか、地球から来たものは大気中のエーテルを上手く使えねえ。むしろ自分の中から湧き上がるエーテルの方が確信をもって使えるだろう」
「大気中のエーテルを魔力にしない? 一体何の話。魔力がなければスキルは使えるわけがない。大気中のエーテルを魔力に錬成して使うか、体内の魔力を使う以外にはないはず」
「地球人は魔力を使わねえんだ。いや、使うんだが大気中のエーテルを使うことに拒否感がでる。これは自分のものじゃないってな。ただ一旦大気中のエーテルも魔力にしちまえば普通に使えることも確かだ。現にその魔力で動いている貯金を初めとするパッシブスキルは普通に使える。冒険者登録で魔力を使っただろう? あれは正確には自分のエーテルだ。体から出たエーテルが魔力と誤認識されて通っちまっているのが現状だ。昔……気になって調べたからな」
「エーテルも魔力も一緒でいいじゃない」
「この世界の住人は大気中のエーテルから魔力にして使い、地球の住人はエーテルを直に発して使う。魔力にも圧があるがエーテルにも圧がある。地球人にとっては大気中のエーテルを使うより自前のを使った方が楽って話だ。すまん、お嬢ちゃん達にはきついかもしれんが」
セルゲイという存在が膨張する。イリアやグレイソンの時に感じた圧が自分たちでも出せるのか。セルゲイが身に纏ったエーテルを使ったのが分かった。エーテルが減少している。セルゲイの筋肉がパンプアップされていく。ぴちぴちの格好をしたマッチョがそこにいた。
「地球人のスキルは自前のエーテルを通して直に発動する。それがどういう理屈か分からないが、スキルを使う時も自前のエーテルを使うとスムーズに行くんだ」
拳を固めたセルゲイが手を広げるとストローが4本あった。
「土属性のスキルだ。こんな繊細な使い方は現地人には無理らしい。何かを生み出す時も自身のエーテルを使うことを意識すると精度があがる。エーテルから直に変化させているからな。まあこれが何の役に立つかって言われると困るんだがな」
その時、天啓が降りてきた。
俺のスキルはこの時の為にあったのではないか?
<ユニークスキル>
バッキー(金を力に換える)
神眼(見たいものだけを見れる)
神眼Lv.2(本当に見たいものの一部を具現化できる)
<アクティブスキル>
乱数支配<10分>
乱数確定
弓術Lv.2
射出Lv.1
<パッシブスキル>
言語理解・時刻理解・スキル表
残高表示・送金
「エーテルを纏えばいいんだな? 生成しやすくなるんだよなっ? セルゲイっ!!」
「こいつなんでテンション上がってんだ?」
「さあ、分からないわ」
両手を前に出し、重ね、一縷の望みを賭ける。
「神眼っっっっっ!」
エーテルが濃縮し、それは可視できる銀色のエフェクトを宿す。
「来いっ! 俺の見たいものっ! 本当に見たいもの!」
「来いっ○ン○ォ○○ァァァァァァっっっ!」
銀色の放光が収まる。
「○ン○ォ○○ァァァァァァっっっ!」
俺のスキルが覚醒するっ!
そうか射出はこの為にあったのか!
よくわからないハンドルの機構は射出というスキルが代替してくれているのを本能的に悟った。
パチンコは異世界にあったんだ。
夢にまで見た台がそこにあった。
震える手でハンドルを握る。
銀色の球が射出される。
その時無情なエラー音が鳴り響いた。
役物が少し動き、電源が落ちる。
「何故だ……何が起きた」
「そりゃあ」
「そりゃな」
電気がないからだと巴とセルゲイの声がハモる。
俺の慟哭が日本では考えられない高い空に消えた。




