第58話 VSクリスタルオーガ危険度★★★
「いくら使った??」
「350」
「奮発したわね。ケチ遊都」
「助けに入って折れましたじゃ、締まらねえだろぉ」
両腕を使って押してオーガが半身ほど後退する、銀色の剣が光を失い消えた。こころなしか維持にも少し時間のゆとりがある気がする。金かけたからな。
「問い詰めたいけど、今するほど私は野暮じゃないわ」
「同感。追いかけられて思わず逃げた。でも、今は話す時間も惜しい」
俺がステラを助けに飛び込み、巴と挟撃する形になってはいるが、部屋の奥に俺とステラが取り残されただけとも言える。オーガの巨体さに気圧される。回り込んで逃げるのはためらわれる状態だ、逃げれはするかもしれないが、オーガからの追撃で負傷は避けられないだろう。
「残高表示」
(現在所持ライル:16383)
「優勝賞金15000ライルか」
戦闘の最中に所持金を確認している俺を見てステラが不安げな様相で尋ねてくる。
「遊都? 頭打ったりした? ひょっとして私のつららがあたっていたりした?」
「あたりそうだったが避けた。巴が避ける時に軌道を変えやがって、いやそれは今どうでもいい」
バッキーを宙に投げる。(300)と念じた。バッキーから銀色の剣が生まれる。銀色の光でできた柄を握るってオーガに斬りかかる。
「300、300、300、ああもう1500ライル」
連続してオーガを切り結ぶ。バッキーの重さがなく、切れ味だけあるので出来る芸当だった。1500ライルかけた斬撃で手応えを感じる。オーガが切り傷を負い、表情が変わった気がした。
「残高表示」
(現在所持ライル:13683)
「遊都優勝賞金使いなさいよ」
「使ってるわ!」
減りが早いな。考えてみればキャッシュをチップに変えているのと同じ感覚か?
オーガが両手を組み、力に任せて打ち付けてくる。
「250」
いやな予感がして剣を当てた反動で後ずさる。銀色の剣が折れ消失する。
違う。チップと違って勝手にこれは減っていく。金が消えていくんだ。これで正常を保つなんて……。
「お前らもなんかしてくれ」
「相性が悪いのよ」
巴の炎がオーガの体表を撫でる。
「私が動くと遊都の邪魔になる」
それに私も相性が悪い。ステラが隣でぼそりと言う。
「なら俺が突破口になるっ」
バッキーを右手の親指と人差し指でつまみ、中指で押し出す様にオーガに向けてはじく。
(2000)
バッキーが槍の形状を取る。勢いにまかせて突くだけならできるはずだ。
「追撃は任した」
地面を離れる。全力疾走しつつ右手から一直線にオーガに届くように、ぶれないように体をひねりながら、その巨体を……穿つ!
オーガの体表に自分の姿が映し出される。オーガが振り切った槍の間合いを外すように後ろに跳ねる。
(伸びろ。レイズ1000)
ぶっつけ本番だったが伸びた。伸びた槍の側面をオーガがなぐりその勢いで1回転した。伸びきった槍が何もしないまま消えた。30万ちょいだぞ? 30万ちょいが何もせずに燃え尽きた。早く倒さなければ、だが、いくら使って? 俺は倒せるのか?
巴がこちらに向かおうとして躊躇う。
「動き見られているみたいで気持ち悪いわ、こっち見えてないはずなのに」
「おそらくあのクリスタル全てが眼。霧でもまけない。どこかしらに映ると駄目かも」
「なるほどそういうこと」
無数の火が頭上に舞う。照らされてクリスタルオーガの表面は炎の画で赤く埋め尽くされている。
死角を埋めるようにステラが地面に氷を這わせる。オーガの足元を氷が固める。オーガは対応できていない。俺は走り出していた。
「足場ぁ!」
「はいっ」
何故か嬉しそうな声のステラがオーガの手前に氷の台座を生成する。
「「遊都」」
首を狙う。ここで終わらせる。首の軌道に剣が沿った。オーガの左手がとっさに首を守る。――2500ライル。オーガの左腕を跳ね飛ばし、その無防備な首を。
「氷の壁」
顎の下から衝撃が走る。強烈なアッパーをたたき込まれたみたいだ。攻撃を中断され、めまいでよろける。だが、今なら逃げれるはずだ。ふらりと氷の壁の側面に出ようとした。
「危ない遊都。氷の壁」
オーガの氷ノ礫弾が撃ち込まれる。ステラが1枚目が保たないと判断し2枚目を貼る。
最初の氷の壁が割れ、2枚目に衝撃が走る。ステラが貼った2枚目は厚いがそれも保たないだろう。ステラが全力で氷の壁をはる為、一筆書きで六芒星を描いていた。王都の上空に浮かぶ見慣れない六芒星だ。稲妻の軌跡が見え、それが六芒星で閉じられる。
「氷の壁」
ステラに袖をつかまれた。震えている。
「遊都」
氷の壁の外には叩きつける激しい音がしており、もはやスキルというより天候や災害を相手にしているようだった。
「残高表示」
(現在所持ライル:7933)
使うか全財産? あのパチンコの日々に戻る気がして無一文になることが嫌だった。それに使ったとして当たるのか? 氷の猛攻ごと、本体を攻撃する。7933で足りるのか? 剣の範囲を広げなければいけない。全て使ったとしてオーガは倒せたとしよう。だが剣の斬撃の先、オーガがいる直線上には巴がいる。巴を巻き込んでしまう。巴を巻き込まずオーガを避けさせない巨大な剣の物量で押しつぶす。できるのか? ベット額はいくらだ?
氷ノ礫弾の音が少し静かになった。
「なんだ?」
氷の壁とダンジョンの壁の間から巴が見えた。何をやっているんだ。巴がオーガをおちょくっているように見えた。
「遊都見えるとこにいてっ」
巴がオーガの左側面に走りこんでくる。オーガの直線上に巴はもういない。巴が狙いを定められないようにジグザグに動く。寸前いた場所に氷ノ礫弾が撃ち込まれていく。巴と俺の距離が近づく。なんだ? 何をするつもりだ。
巴が飛んだ。俺に向け右手を掲げる。
「送金」
巴と眼が合った。行きなさいよ、そう言われた気がした。
「大事に使いなさいよね」
そのまま巴が転がり視界から消えて、壁の陰から声が聞こえた。無事なようだ。
「人の金ならっ」
「え? やるわけないじゃない」
訂正。巴の声は聞こえない。
(10000ライル)
大上段に剣を構えた。天井すれすれまで剣を伸ばす。さらに振り下ろして伸びるイメージ。出来る。出来るはずだ。ステラの氷の壁に亀裂が入る。
「ゆくぞっ、オーガ」
破られるのを待ってられっか。
「これが、金の力だぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
振り下ろした銀色の剣が氷の壁を両断する。届いた気がした。部屋が銀色に包まれる。その斬撃は音も切り裂いた。静寂がオーガを倒したことを伝えていた。
オーガの巨体が左右で上下にずれ、崩れおちる。
俺はその場でへたりこんだ。
巴が近づいてきた。
「んっ」
巴が手を差し出してきた。
起き上がろうとした俺を助けようとしたのか。
その手を握る。
「重いっ」
巴が手を振りほどく。再び尻餅をついた。痛え。
「んっ」
巴が手を差し出してきた。
わけがわからず立って、巴とタッチした。
巴が白い眼をしていた。
「返しなさいよ、お金」
「んっ」
巴が手を差し出してきた。
「……はい。送金」
「賞金がぱあね。違うわね……貸借モード入ったからマイナスね」
俺は嘆いた。大金を使いオーガを倒してしまった。そのことを。両手で地面を叩き、悲しみをぶつける。
「あ、宝箱があらわれたわ。転移の迷宮はさくっと開けなきゃね。お宝来いっ。あれ何もない。あ、ちっちゃいのがある。きゃっ、なにこれ可愛い!」
「指輪。メジャーな高額アイテムです。おめでとうございます。特別な効果があることが多いです」
「あー、えっとステラこれの詳しい効果知っている?」
「水属性のダンジョンから生まれたもの。ダンジョンの属性から付与されているのは、おそらく火耐性の指輪です」
「火耐性? 火でも溶けないなんて私のためにあるようなものじゃない」
「いやそれはどっちかっていうと火が苦手な人が用いるもので……」
「あ、親指ならぴったり。あー来て良かった。テンション上がるっ」
「最初に……最初に10000ライルぶっ放してたらこんなことには。あああああっ!!」
「何? 何なのこのパーティ。とても不安定」
俺は巴が変なステップを刻んでいるのに気づいた。
「なんだ何が出たんだ?」
「火耐性の指輪です。非常に高価。助けて頂いたので私は当然遠慮します」
「売ったら元はなんとか取れるか」
「嫌よこれは売らない。デザインが気に入ったわ」
「でも俺の軍資金が」
「何よ。じゃあ私が半分貸したままにしてあげる。手元のライル残って良かったわね」
「あの……それなら私が全財産を」
「いや遠慮するよ。金は命の次に大事だ。それにステラはパーティでもない。何よりタダより高いものはない」
「どうやったら受け取ってもらえますか」
「なら貸し付けなら」
「それを元手にテキサスホールデムで増やして返すよ」
「わかりました貸し付けます。貸借モードにして送金」
優勝賞金がまるまる戻ってきたかのような錯覚を覚える。これ、利息の返済だけで詰むんじゃないか?
「これ金利は?」
「無金利です」
承諾ボタンを押そうとしていた手が止まる。
「俺はそんな怖い契約はしない……」
「なら金利を設定します」
「わかったそこまで言うならお金を借りるよ。それで金利はいくつなんだ」
そうですね……。
火照った顔でステラは笑って言った。
「わたしがあなたの金利です」




